« 2017年02月 | Main | 2017年04月 »
《かたち、あや、あるいはすがた》作曲ノート





――「歌」「詠」の字は、古来「うたふ」「ながむる」と訓じられて来たが、宣長の訓詁によれば、「うたふ」も「ながむる」も、もともと声を長く引くという同義の言葉である。「あしわけ小舟」にあるこの考えは、「石上私淑言」になると、更にくわしくなり、これに「なげく」が加わる。「なげく」も「長息」を意味する「なげき」の活用形であり、「うたう」「ながむる」と元来同義なのである。
「ああ、はれ―あはれ」という生まの感動の声は、この声を「なげく」「ながむる」事によって、歌になる。……
……たへがたきときは、おぼえずしらず、声をささげて、あらかなしや、なふなふと、長くよばはりて、むねにせまるかなしさをはらす、其時の詞は、をのづから、ほどよく文ありて、其声長くうたふに似たる事ある物なり。これすなはち歌のかたち也。ただの詞とは、必異なる物にして、かくのごとく、物のあはれに、たへぬところより、ほころび出て、をのずから文ある辞が、歌の根本にして、真の歌也……
……歌とは、先ず何を措いても「かたち」なのだ。或は、「文」とも「姿」とも呼ばれている瞭然たる表現性なのだ。歌は、そういう「物」として誕生したという宣長の考えは、まことにはっきりしているのである。
小林秀雄「本居宣長」(『小林秀雄全作品27 本居宣長(上)』、新潮社、2012年、pp. 258-259)


悲しい事や堪え難い事があったとき、私達は自身の内部に感じられる混乱を整えようとして、思わず知らず長くため息をつきます。そのような、ひとが極めて自然に取る動作から「ほころび出」たものが、言語というものの最初の姿である、と本居宣長は言っています。私達が生きて行く必要上、われ知らず取る動作、態度、体制などが言葉の生れ出る母体であり、そこから「ほころび出」るものが言葉の原始的な形態であるとすれば、それは音楽の原始的な形態でもあるのではないか。言葉と音楽とは、一卵性双生児のようなものではないか。そのような問いを下地として、「語る言葉、歌う言葉、奏でる言葉」の三者の関係性について考えるためにこの作品を書きました。語る言葉=役者の声、歌う言葉=テノール、奏でる言葉=チェロとして、「ああ、はれ―あはれ」という「ほころび出」た声が、次第に歌となり音楽となっていくさまを書きとめること、つまり、言葉から音へのグラデーションで音楽を書くことを試みました。


「ああ」→「ああ、われ」→「あわれ」と、「ほころび出」た声が変容していく過程を描くため、テキストには以下の3つを用いました。


-----

――おおいとしきオフィーリアよ、われ詩をつくるすべを知らず。わが恋の悲しみは限りなけれど、われそを詩歌に託するすべもなし。されど、ああ、われひたすらに汝を愛す。おおわがいとしき人よ、そを信じ給え、いざさらば
シェイクスピア『ハムレット』第二幕 第二場 より
大山俊一(訳), 旺文社, 1966年, p. 80


あゝわれは おぼれたるかな
  物音は しづみてゆきて
燈火は いよ明るくて
あゝわれは おぼれたるかな
中原中也「 (あゝわれは おぼれたるかな) (草稿詩篇(1933年-1936年)/未発表詩篇)」より
『新編 中原中也全集 第二巻 本文篇』, 佐々木幹郎(編), 角川書店, 2001年, p. 356



 空よ。愛よ。自由よ。ああ、あわれな狂女よ。この夢はなにごと!
火にとけてゆく雪のように、君は、我と我をとかした。
君の大きな幻影が、君の言葉をくびり殺した。
――怖るべき無限は、君の青い瞳をどんなにおどろかすことか。
アルチュール・ランボオ「オフェリヤ (拾遺 第一部)」より
『イリュミナシオン ランボオ詩集』, 金子光晴(訳), 角川文庫, 1999年, p. 207

-----


作曲の際には、3つの引用から太字の部分のみをさまざまに組み合わせて使用しました。3つの引用のすべては、シェイクスピア作品と何らかの関係性があるテキストです。中原中也はランボーの詩を翻訳していて、3つめの「オフェリア」の訳もあるので、シェイクスピアに関連するとみなしました。また「おぼれたる」という言葉から、「十二夜」冒頭の難破事故や恋に溺れるという表現を勝手に連想しました。

もしかしたら、何の情報もなく、この曲を初めて聴いた方は、三者の即興による音楽のように聴こえるかもしれません。しかし、楽譜の画像をご覧いただくとわかる通り、役者の言葉のパートもしっかりと記譜されています。「緊張して」「夢見るように」など、どのような表情で発声するかの指示も、ひとつひとつのフレーズに書き込みました。声とテノールとチェロとの綿密なアンサンブルが要求されていますが、楽譜通りにきっちりと演奏できるようになったあとには、もう一度テキストの言葉に還り、記譜されている内容と適度な距離を保ちながら、その言葉の在るべき自然なイントネーションで発声できるようにすること、そして、三者が係わり合いながら音楽ができあがっていくことを望んでいます。

役者の柴田くんは、vol.1の《間違いの喜劇》を演じるまで楽譜を読む経験はほぼなかったようですが、《間違いの喜劇》も、朗読パートとチェロとのアンサンブルが成立するようすべて楽譜に記したため、練習しているうちに楽譜を追えるようになっていました。楽譜を読むことが当たり前で、瞬時に音に変換する訓練がされている私たちとは違い、絵のように見て追っているようで「チェロパートの『pizz.』で音色が変わるから、これは重要な目印なんだよね」などと言っていました。先入観のない目で楽譜と対峙したときに、どのように情報を受け取り、理解しようとするのか、そういう話を聞けるのがとても面白いです。今回はさらに難しいアンサンブルになっているので、とても苦労しつつ、頑張ってくれています。

冒頭からフェルマータ付きの休符があります。テノールの市川くんが「休符で始まる曲なんて初めてだ」と言っていました。私自身は必要性があってそうしているので、ごく自然なことだと思っていたのですが、確かに、休符で始まる曲は珍しいのかもしれません。冒頭のフェルマータのあとも、言葉と言葉の間に何度も休符が挟まれますが、これは感情をつくり、体制を整え、まるで「ほころび出」るように「ああ」を発してもらうための時間なのです。

なかなかシュールでヘンテコな曲にできあがりました。自分で変な曲だなあと思う作品ができあがることはそうそう無いので、とても嬉しく思っています。ぜひ多くの方に聴いていただきたいです!



"げん"結び ー音楽と文学ー
Vol.2「十二夜、あるいは、お好きなように 〜Twelfth Night, or, What You Will〜」


◆東京公演V
3/19(日) 17:00開演/16:30開場

◆場所
安養院・講堂 (東京都板橋区東新町2丁目30-23)
東武東上線 上板橋駅より徒歩15分
国際興業バス 東山町より徒歩6分

◆プログラム
作者不詳 (詩: W.シェイクスピア) / 桑原 ゆう (編曲) : おいらが小さな子供の頃
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ : チェロ組曲第2番ニ短調 BWV1008
ラッシュ / 桑原 ゆう (編曲) : ホケトゥス風ライムライト (2016/初演)
桑原 ゆう : かたち、あや、あるいはすがた (2017/初演)
佐藤 敏直 : バンドリの唄 (1974)
田口 和行 (作曲) / 大石 泰 (台本) : 「十二夜」 〜テノールを伴うチェロと語り手のための〜 (2017/初演)

◆ホームページ
http://genmusubi.weebly.com

◆チケット
前売: 一般¥3,000、学生¥2,000
当日: 一般¥3,500、学生¥2,500

◆演奏
佐藤翔 / チェロ ("げん”結び代表)
市川泰明 / テノール (ゲスト出演)
柴田友樹 / 語り (ゲスト出演)

◆ご予約・お問い合わせ
“げん”結び実行委員会
Tel: 090-3520-8534(佐藤)
E-Mail: genmusubi.m.w.l@gmail.com


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

Yu Kuwabara web site: *click*
作品一覧 / works: *click*
今後の作品発表予定 / concert schedule: *click*
 2017/03/18 23:15  この記事のURL  /  コメント(0)

法隆寺、東大寺修二会(日中〜日没)
2017年3月14日(火)
法隆寺




中門は工事中。(110年ぶりのことだからちゃんと写真を撮っておいてね、ってお坊さまに言われました。)




金堂




大講堂




五重塔




夢殿




東大寺二月堂修二会 日中〜日没










*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

Yu Kuwabara web site: *click*
作品一覧 / works: *click*
今後の作品発表予定 / concert schedule: *click*
 2017/03/16 04:35  この記事のURL  /  コメント(0)

西大寺、東大寺修二会(初夜〜晨朝)
2015年3月13日(月)
西大寺




本堂






愛染堂




四王堂




東大寺




二月堂修二会 お松明〜晨朝 (19時頃〜25時過ぎまで)








*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

Yu Kuwabara web site: *click*
作品一覧 / works: *click*
今後の作品発表予定 / concert schedule: *click*
 2017/03/16 04:14  この記事のURL  /  コメント(0)

安養院でのリハーサル模様

ご予約まだまだお待ちしております!


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

Yu Kuwabara web site: *click*
作品一覧 / works: *click*
今後の作品発表予定 / concert schedule: *click*
 2017/03/15 06:14  この記事のURL  /  コメント(0)

常楽会
2017年3月9日(木)
迦陵頻伽聲明研究会 (真言宗豊山派)
遺教会・常楽会 (舎利講)
@善養寺 (東京都江戸川区東小岩)





*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

Yu Kuwabara web site: *click*
作品一覧 / works: *click*
今後の作品発表予定 / concert schedule: *click*
 2017/03/11 21:22  この記事のURL  /  コメント(0)

Profile
桑原ゆう (くわばら・ゆう)
桑原ゆう, Yu Kuwabara

作曲家。1984年12月7日生まれ。
2007年東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、2009年同大学大学院音楽研究科(修士課程)修了。在学中より国内外の音楽祭、セミナー等に参加し作品発表を始め、Akademie Schloss Solitude (ドイツ)、武生国際音楽祭、impuls (オーストリア)、ミラノ国際博覧会、ロワイヨモン作曲講習会 “Voix nouvelles” (フランス)、ルツェルン音楽祭 (スイス)などで作品が取り上げられている。第74、75、78回日本音楽コンクール作曲部門入選。一部の作品は Edition Wunn (ドイツ)より出版されている。2009年度トーキョーワンダーサイト国内クリエーター制作交流プログラムに選抜され、トーキョーワンダーサイト青山クリエーター・イン・レジデンスに滞在して活動。
近年は声明や民俗芸能等の取材を重ね、それらを扱う作品を精力的に発表、また、同世代の演奏家と立ち上げた「淡座」で古今亭志ん輔氏との公演を重ねるなど、日本の音と言葉を源流から探り、文化の古今と東西をつなぐことを主なテーマに創作を展開している。他、NHKラジオドラマ、ファッションブランドのランウェイショーなどの音楽を作曲し、様々な分野と交流して創作活動を行う。池田雅延、茂木健一郎の両氏による、小林秀雄を学ぶ『池田塾』1期生。

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

随筆「音楽の起りと歌の起り」
小林秀雄に学ぶ塾 同人誌「好・信・楽」創刊号 (2017年6月号) 掲載

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

<今後の作品発表予定>
2017.07.07-16, Bobbio (Piacenza), Italy
Divertimento Ensemble International Workshop for Young Composers V edizione

2017.07.15 (Sat) 21:00-22:30, Auditorium Santa Chiara, Bobbio (Piacenza), Italy
十の聲 (2017) 世界初演
I concerti dell’International Workshop for Young Composers
Divertimento Ensemble, Sandro Gorli (cond)
詳細はこちら

2017.07.24 (月) 19:30開演 @六本木クラップス (東京都港区六本木3-16-33 青葉六本木ビルB1)
Bill Evans《Waltz for Debby》/ Jimi Hendrix《Purple Haze》(2017) 委嘱編曲・世界初演
音和座
演奏 / 邦楽ゾリスデン [吉澤延隆 (箏)、福田智久山 (尺八)、本條秀慈郎 (三味線)、前川智世 (箏)]

2017.08.12-28, Luzern, Switzerland
LUCERNE FESTIVAL ACADEMY Composer Seminar

2017.08.19 (土) 19:00開演 @東京アートミュージアム (調布市仙川町1-25-1)
二つの聲 (2017) 委嘱新作・世界初演
うつろひの花 / ソプラノトランペットと笙のバージョンによる (2014)
東野珠実・曽我部清典デュオ「真夏の夜の星筐」
演奏 / 東野珠実 (笙)、曽我部清典 (トランペット、ゼフュロス)
詳細はこちら

2017.07.26 (Sat) 15:00-16:30, KKL Luzern, Lucerne Hall, Luzern, Switzerland
影も溜らず (2017) 世界初演
Identities 5 | Ensemble of Lucerne Festival Alumni
Lucerne Festival Academy Composer Seminar Performance
Ensemble of LUCERNE FESTIVAL ALUMNI, Yutaka Shimoda (solo vn), Johanna Malangre (cond)
詳細はこちら

2017.08.30 (Wed) 21:00-, RADIO SRF 2 Kultur NEUE MUSIK IM KONZERT
《影も溜らず》ラジオ放送
Werkschau des《Composer Seminar》
詳細はこちら

2017.09.16 (土) 17:00開演 @市田邸 (東京都台東区上野桜木1-6-2)
セレナード (2017) 世界初演
かたち、あや、あるいはすがた (2017)
Rush《ホケトゥス風ライムライト》(2016) 編曲
作曲者不詳《おいらが、小っちゃな餓鬼の頃》(2017) 編曲
〜新秋の市田邸で、『“げん”結び―音楽と文学―』を愉しむ!〜「十二夜、あるいは、タイムトラベル!?」
演奏 / 柴田友樹 (朗読)、市川泰明 (テノール)、佐藤翔 (チェロ)
主催 / NPO法人たいとう歴史都市研究会
詳細はこちら

2017.09.25 (月) 18:00-19:00, NHK-FM横浜放送局
NHKFM横浜放送局「横浜サウンド☆クルーズ」出演
バックステージツアー〜音楽堂・県民ホール〜
FM横浜81.9MHz、小田原83.5MHz
詳細はこちら

2017.09.39 (土) 14:30開演 @公演通りクラシックス (東京都渋谷区宇田川町19-5 東京山手教会B1F)
George Gershwin《I Got Rhythm》(2017) 委嘱編曲・世界初演
眞美子とゆかいな仲間達 vol.3『Trioでおくる 紺碧のとき』
演奏 / 寺井真美子 (ピアノ)、佐藤翔 (チェロ)、齋藤綾乃 (打楽器)
詳細はこちら

2017.11.02 (Sat) 19:30-21:00, French Parlor, Founders Hall, USD: University of San Diego, U.S.
Mystische Miniature (2017) 委嘱新作・世界初演
New Musical Geographies II
Christopher Adler (khaen)
詳細はこちら

2017.11.04 (土) 15:00開演、14:30よりプレトーク @神奈川県立音楽堂 (神奈川県横浜市西区紅葉ヶ丘9-2)
月の光言 (2017) 委嘱新作・世界初演
神奈川県立音楽堂・伝統音楽シリーズ 聲明「月の光言(こうごん)」
出演 / 声明の会・千年の聲 (迦陵頻伽聲明研究会と七聲会による)
構成・演出 / 田村博巳
詳細はこちら

2017.11.05 (日) 15:00開演 @ノワ・アコルデ音楽アートサロン (大阪府豊中市服部本町2-5-24)
三つの聲 (2016) 関西初演
ルツェルン音楽祭アカデミーメンバーの演奏で聴く 〜スウェーデンと日本の未来のクラシック音楽〜
演奏 / レン・アンサンブル | Paula Hedvall (ヴァイオリン)、桑原香矢 (ヴィオラ)、大西泰徳 (チェロ)
詳細はこちら

2017.11.18 (土) 13:30開演 @東京国立博物館内応挙館 (東京都台東区上野公園13-9)
もみぢつゝ (2017) 委嘱新作・世界初演
音和座「もみじして」
演奏 / 宮田まゆみ (笙)、本條秀慈郎 (三味線)
詳細はこちら

2017.11.18 (土) 15:00開演 @京都市立芸術大学 大学会館ホール (京都市西京区大枝沓掛町13-6)
三つの聲 (2016)
パウラ・ヘドヴァル 北欧の作曲家とヴァイオリン現代奏法レクチャー&コンサート
演奏 / レン・アンサンブル | Paula Hedvall (ヴァイオリン)、桑原香矢 (ヴィオラ)、西村まなみ (チェロ)
詳細はこちら

2017.12.22 (金) 19:00開演 @新宿FACE (東京都新宿区歌舞伎町1-20-1 ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町7F)
Moon Spell (2017) 委嘱新作・世界初演
アンサンブル室町 in 歌舞伎町!ー祝10周年ー
演奏 / アンサンブル室町
詳細はこちら



Link
New Post
Category Archive
Monthly Archive