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ワービー・パーカー出店拡大の向こうに見える壁
アメリカで革新的リテーラーとして一躍有名となったワービー・パーカー。300ドルはしていた度つき眼鏡を95ドルでオンライン販売するという価格破壊と、無料で自宅で試着できる卓越したサービスで急成長した。売上高は公表されていないが企業価値は10億ドル(約1,000万円)以上と言われている。同社は2013年から店舗事業に進出し、先週土曜日にフィラデルフィアに初出店を果たし、現在アメリカ国内45店舗、カナダ2店舗を運営。2017年中にマイアミ、ロサンジェルス等にも進出、全70店舗体制となると発表した。

もともとオンラインストアだった同社の出店戦略、最初はショールーム機能を重視し、商店街、ストリップモールへの路面店が中心だった。しかし徐々にショッピングモールにも出店を始めており、SC内店舗は10店に近づいている。全米のショッピングモールは現在空き店舗化が深刻になっており、数日前に書いたようにモールベースの専門店はどんどん倒産・店舗縮小、モールのアンカーだった百貨店も業績が振るわず、高級でテナント鮮度の高いプレミアムモールは頑張っているが、それ以外のモールは経営が苦しくなっている。そんな中、ワービーパーカーのようなオンライン系小売業者が実店舗数を増やしてくれるのは、本当にありがたいことだろう。同社以外にもメンズウェアのボノボスやアパレルレンタルのレント・ザ・ランウェイ等もともとオンライン組からの出店は全般的に加速している。

これだけ店舗数が増えていくと、逆に初めてワービーの店を訪れる人は、本業はオンラインストアとは思わないかもしれない。マンハッタン内だけでも既に6店舗もあり、特に私も頻繁に前を通るグランドセントラル駅構内店はいつでも店内が混み合い、試着、購入、質問等々、忙しそうだ。同社のストアコンセプトのもともとは、図書館のようなたたずまいで、店舗毎に異なるヴィジュアルテーマを持ち、メガネ以外の商品構成も異なり、ショッピングの場ではなく「空間経験」を楽しめるものだった。しかしこんなに大繁盛で、カスタマーサービスは大丈夫なのだろうか、とふと思った。

早速同社のカスタマーサービスについて評価を調べてみた。85万人以上の会員を抱えるオンラインレビューサイト、SiteJabberによると、同社の評価は中くらい。ネガティブな評価で一番多いのは「着荷までに時間がかかり過ぎる」ことだ。オーダーしてから通常7-10営業日で届くはずだが、「2週間たっても届かない」、「出荷状況に関する途中経過報告が無い」、などが多かった。逆にカスタマーサービスが良いというコメントを見てみると「他社の3分の1以下の価格」を称賛する声が最も多く、カスタマーサービスについては「(電話からライブチャットで)丁寧な対応だった」が目立った。例えば「届かないのでカスタマーサービスに連絡したら一緒にトラッキングしてくれた」「手違いで商品がワービーに送り戻されてしまったが追加料金なしでエクスプレスで再出荷してくれた」など。

どうやら自社でコントロールできない配送がアキレス腱のようだ。それならばストアピックアップはできるのだろうか?ストアピックアップならもっと早く入手できるのだろうか?私が店舗で確認したところ、ストアピックアップはできるが、自宅に配送しても店舗ピックアップでも日数は変わらない、エクスプレスでも同じ、とのことだった。他にもっと早く手に入れる方法は無いのか尋ねても、上記の返答を繰り返すのみだった。

ワービーのカスタマーサービスは、オンラインリテーラーとしてはレベルが高いだろう。店舗での接客も、もともとショールームから始まっているので丁寧ではあった。しかし店舗数が増えればワービーが経験していない店舗事業の難しさに直面するのではないか。カスタマーサービスだけでなく、不動産コスト、人件費などコスト構造にも影響が出てくる。

過去に「オンラインからの出店組は、既に膨大な顧客データを持っているがゆえに、有利に店舗経営ができる」という論説を読んだ。それは確かにそうだろう。しかし、彼らが遭遇する壁とは顧客ではなく、むしろ店舗従業員教育訓練とかオンラインとのシームレスな経験提供など、今のチェーンストアの前にたちはだかっているのと同じ壁ではないだろうか。とは言え、せっかく非店舗のDNAを持ってうまれたリテーラーだ。ぜひ無料自宅試着などに匹敵する革新的なサービスや経験を、店舗事業側でも創り出して欲しい。

(写真)グーグル検索で出てくるワービー・パーカーの店舗写真。
 2017/01/31 07:38  この記事のURL  / 

デモとトランプとボイコット運動
トランプ氏が大統領に就任してからと言うもの、毎朝起床したら「今日はデモがないか、あるならどこか」を確認するのが日課となった。1週間前の21日土曜日は「ウーマンマーチ」で全米主要都市では50万人とも60万人ともいわれるデモが行われた。マンハッタン内も見たこともないほど5番街や主要道路に人があふれ、私の家族はそれぞれ仕事や所用で外出していたので全員帰宅するまで不安な半日を過ごした。

昨日は金曜日に発令された大統領令、イスラム7か国からの移民・難民入国制限により、9人のイスラム系入国者がケネディ空港で拘束された。デモ参加者の数はまたたく間に2,000人を超え、全米では100-200人が入国制限の影響を受けたとのこと。ケネディ空港で拘束された人たちには正規の入国ビザを持ち、マサチューセッツ工科大学、イエール大学、スタンフォード大学等の名門大学での研究者や、米国陸軍に通訳として勤務歴のある人も含まれていた。
ニューヨーク連邦裁判所の即日命令により、難民認定者、有効なビザ保有者に対する強制送還中止令が出て事態はいったん収束したが、これからどうなるのだろう。イスラム人ではないとは言え私も移民、うっかり出張などで海外に出てアメリカに再入国できなくなったら子供はどうなる、などという余計な心配が結構現実味を持って迫ってくる。

ところで、それ以上に現実的な課題が浮上している。こういった大統領に対する国民の反感や社会不安が購買意欲を下げ、小売販売にも影響するのではないか、という心配だ。特に反感を持つ層は都市部の比較的可処分所得が高い地域の人々で、小売市場への影響力も高い。既にオバマケア(健康保険)制度撤廃に向けて動き始め、国民の医療費負担の上昇が懸念されている。

まだ大統領選が終わっていない昨年10月に「GrabYourWallet(サイフを握りしめ)」という反トランプ運動家による「ボイコット対象小売業者リスト」が発表された。当時32社、現在は70以上に及ぶ。対象となっているのはドナルド・トランプ氏およびその娘のイヴァンカのブランド商品を販売する小売業者、及びトランプ一家と何かしらの利害関係を共有する小売業者だ。メーシーズ、ニーマン・マーカス、ノードストローム等主要百貨店はほとんどが対象となっており、他にはアマゾン、ベッド・バス&ビヨンド、靴のアウトレットチェーンDSW、ザッポスなど。メーシーズは2015年、トランプ氏がメキシコ移民は皆性的虐待者だ、という差別的な発言をしたのをきっかけに、ドナルド・トランプ・ブランドのメンズコレクションを販売停止にしたが、今でもイヴァンカの服や靴、ハンドバッグ等は販売している。(下表参照)

ノードストローム社ピート・ノードストローム共同社長は11月21日、社員にあてたメールの中で「わが社が販売している全てのブランドは売上結果に基づいて評価されている。もし人々が買わなければ我々も販売しない。」とつづったそうだ。これを報道したフォーチュン誌は、同社顧客はイヴァンカ・ブランド商品を買い続けているので同社も販売を中止しないのだろうとコメントしている。

マーケティング調査会社、ブランド・キーズ社はドナルド・トランプ・ブランド商品の価値について非トランプ・ブランド商品との比較で調査している(注)。これによると、トランプ・ブランドは立候補前は25%非トランプ・ブランドより高かったが、立候補し選挙戦で様々な問題発言の結果20%下がった。10月に女性蔑視発言時にはさらに8%低下した。しかし当選直後には35%上がったと言う。同調査を手掛けたロバート・パシコフ氏は「(食品安全などとは異なり)イデオロギーによるボイコット運動はあまり実際の購買には影響しない」という見解を示している。

しかしブランド調査もノードストロームの見解もまだ大統領就任前の話。19日の就任から10日間の間に、これほど全米で大きなデモが何度も繰り広げられているのは異常な事態だ。トランプ政権が今後、公約を具体化していく中で、国民の気持ちがどのように変化するのか予想がつかない部分もあるが、反トランプ運動が与える消費の変化にも注意していく必要がある。

(注)マーケティング調査会社「ブランド・キーズ」社調べ。全米で毎回1,800人をランダムサンプリングし、トランプ・ブランド商品および非トランプ・ブランド商品の両方について価値をアンケート調査。同社代表ロバート・パシコフ氏。

(写真)Justin Lane, European Pressより(2017年1月28日ニューヨークタイムズ紙掲載より)


(表)「Grab Your Wallet」反トランプ・ボイコット運動のリストより
 2017/01/30 03:23  この記事のURL  / 

涙の1月、米国アパレルチェーン沈没ニュースに学ぶ
2017年1月、アパレル専門店チェーンでは、これでもか、というほど店舗閉鎖・倒産ニュースに明け暮れた。

◆ The Limited
1月4日にThe Limitedが250店舗全店閉鎖と4,000人解雇を発表、17日に会社更生法チャプター11を申請し、オンラインストアも閉鎖した。唯一の光はシカモアパートナーズがThe Limitedのブランドとオンラインストア資産を購入したので、ブランド名とオンラインビジネスは生き残る可能性があることか。

◆ West Seal
同日、ティーンエイジャーブランド、Wet Sealも全店の3分の2にあたる338店舗の閉鎖と3,700人の解雇を発表。その後20日に全社員の解雇と残りの店舗全店の閉鎖を発表した。同社は2015年1月にチャプター11を申請し、建て直しを図ったものの、試合終了の様子だ。

◆ American Apparel
昨年11月、2度目のチャプター11申請をした同社は今月、2,400人の従業員を解雇した。申請後、カナダのアパレルメーカー、ギルダン社が8,800万ドルでブランド名を買収したが、110の店舗には関心を示していない。同社の存在理由でもあったアメリカ国内生産工場はガーデングローヴ社が購入仮契約を結び、これが最終化すればここの社員300名は命拾いし、工場は編み及び染色工場として蘇る。が、店舗はこのままバイヤーが現れなければ閉鎖となる。

◆ BCBG
18日、BCBGマックス・アズリアは店舗撤退を発表した。ヴィクトリア・ベッカム、ミリー・サイラス、ジェシカ・シンプソンなどセレブご用達のブランドとして人気上昇し、女性高校生のプロム(卒業式謝恩会)用ドレスの定番ブランドでもあった同ブランドだが、近年業績が思わしくなく、昨年末には123人を解雇。今回の店舗閉鎖ではまだ具体的な数字は出ていないが、全米で175店、全世界570店舗の一部から撤退し、オンラインストアに経営努力を集中するという。

今月、メーシーズは1万人の解雇を発表し、シアーズ、コールズも昨年発表した閉店を開始している。何とも寂しい新年のスタートではあるが、彼らから学び、生き残りを目指せ、という天の声でもある。以下は今月私が聞いた天の声だ。

*オンライン、オンライン、オンライン
店舗事業では立地が一番重要、という意味で「ロケーション、ロケーション、ロケーション」という英語がある。しかし消費者は今や検索もショッピングもオンライン(モバイルを含む)にシフトしている。店舗が不要な訳ではないが、店舗をやるなら発想を変える必要がある。

*危険な中価格帯
ことファッションの世界でこの数年間にチャプター11、倒産したブランドは皆、デザイナーブランドとファストファッションの中間的な価格帯だ。昔で言えば「お手頃」「アフォ―ダブル」と言う価値を提供していたが、価格のヒエラルキーが崩壊しつつある中、お手頃であるより、商品の本当の価値で売上を作る時代に入ったのではないか。

*ブランドの適正な規模
店舗をチェーン化する時の理由の1つは、店舗の大量生産による出店コスト低減だった。そういう時代も、ファッションの世界では終焉しつつある。

本日で多くのアメリカ小売業者は2016年度を締める。店舗撤退話も今日までにして、明日からは前向きなニュースが聞けますように。

 2017/01/29 07:05  この記事のURL  / 

2017全米小売業協会年次総会・早わかり
15日日曜日から3日間に渡って全米小売業協会(NRF)年次総会がニューヨークで開催された。小売業界の今後を占う上で重視されている総会に、今年は3万5,000人が参加、同時に開催されたエクスポには業界関連サービス企業(コンピュータハードウェア、ソフトウェア、システム開発、ロボット等々)500社以上が出展した。
さて今年もいろいろ面白い話が聞けた。押さえておきたいアメリカ小売業の流れを拾ってみた。

@タイトルから消えたオムニチャネルやモバイルコマース
80を超えるセッションのタイトルからオムニチャネルやモバイルが激減した。重要度が減ったのではない。「やっているのが当たり前」になったからである。どのオムニチャネルリテーラーの事例でも、オンラインの売上シェアは上昇している。
一方で、オムニチャネル戦略はシステムや専門スタッフへの投資負担が重いことから、いかに早く収益に結び付けるかが重視され始めている。効率よく実施し、迅速に効果をあげるための投資先の絞り込みも始まっている様子だ。

@イン・ストア・エクスペリエンス(店舗経験)
どの講演でも「店舗経験の向上」の必要性が繰り返し説かれた。一昨年あたりは「店舗の将来はエンターテインメントかフルフィルメントか」という議論が多かったが、今年はエンターテイメント、わくわくする店舗、と言った漠然とした話ではなく、ニューテクノロジーを活用した店舗ショッピングの利便性の向上(試着時に背中側も見えるメモリーミラー、別のサイズや商品を試着室からリクエストしたり購入もできるスマートミラー、セルフチェックアウトなど)にフォーカスした話が多かった。
ハイテク活用の店舗経験というと昨年まではヴァーチャルリアリティが注目を浴びていて、VRゴーグルを顔面に装着して様々な可視的経験を楽しんでもらう、というストーリーだったが、今年はトーンダウンが見えた。ホリディ商戦中グーグル、フェイスブックを始め多くの企業がショッピングモール等でデモ・イベントを開催した結果、新鮮味が薄れた、ということもあるし、ゴーグルがかっこ悪い、という意見もある。何より、おもしろさという主観的な価値の提供よりも、もっと具体的な結果を出しやすい領域にIT投資を集中させる傾向にある。全般的に、アマゾンの利便性を店舗でも提供できないか、という流れが見え始めている。

@マスパーソナライゼーション
商品からマーケティングまで、3Dプリンター等テクノロジーを活用したパーソナライゼーションの話が随所で聞かれた。商品分野では今更のように島精機の編み機がNRFラボで最新パーソナライゼーションマシーンとしてフィーチャーされていた。日本が誇るモノ作りの先端性が、実はアメリカの小売業界で全然知られていなかったという事実を改めて見せつけられた思いであった。

@ヒトのレベルアップ
NRFは総会初日に「ライズアップ (RISE UP=Retail Industry Skills & Education)プログラム」の開設を発表した。新人教育研修プログラムで、職場で15分程度の短い時間でも実施できるような内容だ。終了証書の発行も行い、業界の最前線の人材レベルアップを図る。立ち上げ時には21社が参加、ウォルマート、クロ―ガ―、ホームデポ等小売業界最大手だけでなく、メーシーズ、ニーマン・マーカス、ブルックスブラザーズ、アンダーアーマー、ヴェラ・ブラッドリー等ファッション業界も多く参加している。アメリカの店舗スタッフのレベルの低さには定評があるが、彼らがオムニチャネル戦略のボトルネックになる場合も多く、ここへのテコ入れだ。

@ディスラプション(破壊・混乱)とトランスフォーメーション(変換)、イノベーション(革新)
どれもすべてのセッションの講師が1回以上口にした言葉ではないだろうか。総会中毎日8時間、丸3日間この言葉を聞いていると、ついつい日々の売上や在庫に一喜一憂してしまう小売業者も、否応が無しに変換を考させられるのではないだろうか。

(写真)「小売マーケターにとっての新たな通貨とは」セッションより。左からザ・ストア社グウェン・モリソン氏、ニーマンマーカス社ジェル・ローゼンフェルド氏、ホームデポ社デイヴィッド・アボット氏
 2017/01/24 01:05  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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