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オンラインレンタル、レント・ザ・ランウェイの新事業モデル
ハーバード大学卒業の女性2人が2009年に起業した「レント・ザ・ランウェイ(RtR)」。1回着たら何度も着て人前に出られないフォーマルドレス及び関連アクセサリーのオンライン・レンタルサービスで急成長し、タイム、フォーブス、フォーチュン、CNBC局等数多くのメディアから事業の革新性や働きたい企業として表彰されてきた。2013年のフォーチュン紙推定年商は28億ドルだったが、今年度の推定年商は7000万-1億ドルと見られている。

日本以上に社交や基金活動のパーティが多いアメリカ、特に大都市圏では、安っぽいドレスは着たくないが、ブランドのドレスをしょっちゅう買う訳にもいかず、というレンタルへのニーズが高い。ドレスレンタルビジネスは昔から存在していたが、RtRはテクノロジーを駆使し、高度な在庫管理やロジスティクス管理システムを構築。また試着しなくてもサイズやフィット感がつかめるオンラインやアプリ上の借りた人やスタイリストのリアルなコメント、無料でもう1サイズを貸出、借りたい日時に応じた在庫情報の提供、無料返品等、借りる側の利便性を高め、口コミで成長していった。

そのRtRが、1年以上かけてテストマーケティングした「アンリミテッド」というサブスクリプションサービスの開始を先週発表した。毎月139ドルの会員費で、好きなだけ仕事用、プライベート用の服を借りることができる。市場ターゲットを特殊なフォーマルから日常生活へと移した内容だ。オリジナルサービス同様、会費にはレンタルフィー以外に送料、保険、ドライクリーニング代金が含まれている。

このサービスを思いついた背景には、「フェイスブックやインスタグラムで自撮り写真を公開するのが当たり前になり、低コストでいつも違う洋服で写真を撮りたい」というニーズの広がりがある。しかし、20か月前にテスト開始したこのサービスの前身は月額75ドルで、商品展開数も多くなかった。その後商品数を増やし、月額99ドルに増加、そして今回135ドルで正式開業となった。ジェニファー・ハイマンCEOのコメントによると「75ドルで提供できる範囲では、事業に必要なマスマーケット顧客の関心を十分に惹きつけることができなかった」そうで、会員費を上げてもよりラグジュアリーブランドを着たい層に特化してのスタートということだろう。

RtRはこのアンリミテッドが近い将来全社売上高の20%を占めると期待している。同社は開業時から投資家を説得して資金を集める卓越した能力を持ち、現在企業価値は5億ドルとも言われている。しかし、今回のサブスクリプション・モデルは果たして成功するだろうか。

フォーマルウェアと異なり、仕事着やちょっとしたお出かけ着がいつも違うことが重要で、それに投資をする女性、と言うと案外市場は細かく分散しているように見える。例としては、@学生の中でも特別ファッションに興味がある層、A独身あるいは子供のいない既婚者の社会人で、仕事柄いつも異なる服装をすることが重要な層、B高所得者でいつも異なる服装をすることが重要な層。

@はファストファッションが独占してきた層だ。アンリミテッドの商品は彼女たちには年齢が高い印象を受けるし、なにより月額139ドル投資するならもっと品揃えの広いファストファッションで良いのでは?という気がする。それに、最近はアメリカでは急速に広がっている、買ってきれいに着てオンラインコンサインメントで再販、という手もあるし。

Aはぴたりはまるように思えるが、この層のうちファッション業界勤務の場合は社員割引等の特典があるので、どうか。むしろこの層がレンタルに走り始めると、メーカーや小売業者は非常に困るのでは?そしてAこそ、オンラインコンサインメント市場を支える層だ。

Bこういう人々は好きなものをオンラインで購入するので、必然性が低いだろう。

つまりは、企画書の上ではいかにも需要が多そうだが、実際の人の生活の中で考えた場合、ずばり狙い撃ちできる市場が大きくはなさそうに見える。

過去にしつこく書いてきたアスレジャーのタウンウェア化だが、RtRの新戦略との対比で改めてアスレジャーの強み、「運動着はなかなかレンタルしないでしょう」、という部分も見えてくる。また、世の中、まだまだ知らない人が手を通したものを着ることにためらいがある人や、いくらおしゃれでも365日違うファッションである必要はないという人は多い。なにより自分が好きなブランド(サイズやフィット感を含む)がある人はレンタルなどには向いていない。

RtRのアンリミテッドは、改めて服装とは何か、を考えるきっかけを与えてくれる。そしてこの新事業の行方は?平山的にはう〜ん、ですが、外れたらゴメンナサイ。


 2016/03/31 06:07  この記事のURL  / 

快進撃のティーンズディスカウンター、ファイブ・ビロウ
2014年10月ブログでご紹介したプレティーンズ(小・中学生)からティーンエイジャーをターゲットとし、全て5ドル以下のディスカウンター「ファイブ・ビロウ」の2015年度業績が発表となった。2014年のナスダック上場時には向こう20年間で2000店オープンも可能、というアナリストの試算に対し、いくら何でもそこまではいかないという議論もあったが、その後も順調に店舗数と業績を伸ばしている。2015年度売上高8億3,200万ドル、前年比122.3%、既存比3.4%。店舗数も5年前の142店舗から437店舗へ増加し、売上・店舗数共に全米大手チェーンストアの仲間入りだ。

同社は平均店舗面積7,500スクエアフィート、子供たちがお小遣いで買える5ドル以下の商品を販売し、「スタイル」(ファッション雑貨)、「ルーム」(生活雑貨)、「スポーツ」、「テック」(スマートフォンやビデオゲーム等のアクセサリー)、「クラフト」、「パーティ」、「キャンディ」(菓子類)、「ナウ」(ハロウィーンやクリスマス等の季節商品)のカテゴリー部門から構成されている。

1年半前に書いたように、オムニチャネルの今時、クレジットカードを持てない子供相手ゆえオンラインストアは提供せず、店舗のみで事業展開している。このため、長期的企業成長を疑問視する声もある一方で「こんなに業績内容の健全な企業を見逃す訳にはいかない」というのが投資家の言い分だ。ちなみに3月24日時点の株価は40ドル、同じティーンエイジャー対象のアメカジ御三家、アバクロ31ドル、アメリカンイーグル16ドル、とうとう今月売却の可能性が報道されたエアロポスタルはわずか21セントだ。ウォルマート68ドル、ナイキ65ドル、アップル105ドルと比較しても企業規模やブランド認知度等を考慮すれば遜色はない。

この店を訪れると感じるのは、昔の駄菓子屋さんに行く時のワクワク感だ。あるいは、100円ショップの子供版と言うべきか。5ドル以下のスターウォーズのキャラクター商品、PEZの新旧キャラクター・コレクション、可愛い生活雑貨やキャラクター付きお菓子、玩具、ファッション小物がずらりと並び、この店で買い物する子供たち(そして大人も多いが)はソーシャルメディアで自分の本日の「お宝探し」の様子を報告したりするようだ。彼らはここではスマホで価格比較をしたり、ショールーミングをする必要がない。目の前の商品を見て触って楽しんで買う。

小売市場の調査をする人間は私を含めてオムニチャネル戦略が全てであるかのように語っている昨今だが、オムニチャネル発祥のアメリカで、こういう店舗だけ業態が「健全に業績伸長」しているのを見るのは、心のどこかでホッとするものがある。

(写真)店内の様子(ファイブ・ビロウ社)
(図表)ファイブ・ビロウ社アニュアルレポートより

 2016/03/28 05:58  この記事のURL  / 

大学と小売業(2)
アマゾンが大学キャンパス内の出店を加速している。今月はテキサス大学、アクロン大学、ジョージア工科大学と3か所に出店し、2015年の大学キャンパス内出店1号店から8か所出店済み。2016年内に少なくともあと2か所が決定している。既に出店した大学の中にはカリフォルニア大学バークリー校やデイビス校など著名大学も含まれている。

店舗、正確には「アマゾン@(大学名)」ロケーションは約2500スクエアフィート(70坪)でアマゾンスチューデント会員*やプライム会員が正午までにオーダーすれば即日ピックアップ。夜10時までのオーダーは翌日ピックアップが可能だ(無料)。もちろん返品も受け付ける。

同大学は学生数25,000人強。。大学側はこの出店について「我々の学生はバリューと利便性を重んじる賢い消費者であり、アマゾンのテクノロジーを創造的に活用した新たなサービスを喜んでいます。」と歓迎のコメントを寄せている。

アメリカの大学寮や近隣の学生用のマンションでは、郵便物の受け渡しルールが厳しいかったり面倒なケースが多く、このようなピックアップサービスがキャンパス内にあることは確かに大変便利が良い。しかもアマゾン側にとっては最低限の投資で大きな宣伝効果を得、これからの消費を担うミレニアル世代をがっちり青田買いできる。「店」と言ってもここでモノを販売する訳ではないので、在庫投資もPOSレジも不要、人も最低限で済む。学生たちは皆PCを持ち歩いているので、店内にあるちょっと座れるカウンターで、自分のPCや携帯からオンラインで購入すれば事足りる。何とシンプルかつ合理的なビジネスだろう。

一方で、アマゾンの「競争相手だった」書店チェーンのバーンズ&ノーブルは、全米で大学ブックストアを748店**出店している。ところがこの業績が悪化しており、直近の第3四半期では既存比▲4.1%マイナスとなった。苦戦の原因は春学期開始が遅かったことで教科書購入のタイミングが暦ズレを起こしたこと、就職難の関係で短大入学者が減り、ここの売上が落ち込んだことだ。短大店を除くと既存比▲2.2%で、それでも全体的に業績は良くないことがわかる。

実は先週、私のアメリカでの母校のブックストアに久々に買い物に行った。必要があって昔の教科書を購入するつもりだったが、今や多くの科目はオンライン上で資料やマテリアルを見るようになっているため、教科書の種類が激減していた。若い先生たちの教授方法も変化し、より「今現在のビジネスを教える」という立場から、紙の教科書など使わない人が増えているそうだ。ここもバーンズ&ノーブル経営のブックストアだが、そういう訳で教科書よりステーショナリーや大学グッズの方が多く、店員もぎりぎり2人で全てを回しているため、高価な教科書は盗まれないように、教科書売場全体をまるで殺人現場のようにテープで囲ってある。これをくぐって中に入ろうとしたら販売員に止められ、「私が取ってきてあげよう。教授の名前は?」と尋ねられた。昔の商店街の本屋さんを尋ねているような錯覚に陥る。一応ゆっくり座って本を見る場所もあったが、そもそも目的の本がなかったため、何も買わずに帰宅し、迷わずアマゾンで購入した。

本屋の話ではあるが、これがファッションの世界でも起きていないと誰も断言できないだろう。既にアマゾンはアメリカ8大学のキャンパス内に拠点を構えているのだから、近隣のショッピングモールはアマゾンに客を取られているに違いない。しかも大学生は将来の消費を担う人々なのである。

*年会費49ドル、プライム会員費の半額で、同様の無料2日配送、無料TV番組やビデオ・ストリーミング、プライムミュージック、無料キンドルブック・レンタルサービスを受けることができる。

**昨年8月時点

(写真)アマゾンのカリフォルニア州バークレー校キャンパス・スペースより。

 2016/03/22 12:15  この記事のURL  / 

大学と小売業(1)
規模の面で全米第5位、クリスチャン系大学としては世界最大のリバティ大学(ヴァージニア州リンチバーグ)が18日地元のショッピングモール、リバーリッジを買収した。同大学は既にモールの一部、シアーズの跡地を買収し、大学のオンライン通信教育のオペレーションセンターとして活用していた。当初、モールを所有するCBL&アソシエーツプロパティ社より、大学が所有するシアーズ跡地を売却しないかという打診があったことをきっかけに、逆にモール全体の買収に踏み切った。

リバーリッジ・モールはリンチバーグで唯一のエンクローズ型モールで1980年開業。当初はJCペニーやシアーズをアンカーとし、近隣のSCからも客を奪うほど集客力の高いモールだったが、施設の老朽化や、モール全体が集客力を失う中で過去数年は収益力低下が目立っていた。現在はペニーやシアーズは撤退し、南部の有力リージョナル百貨店ベルク、全米最大のオフプライスチェーンTJマックス、全米2位のクラフト専門店ジョアン他80店舗以上の専門店とレストラン、フィットネスクラブ等が入店している。

リバティ大学はモール株式の75%を所有するが残り25%はCBLが保有し、モールのオペレーションを継続する。両者はモールの一部、導入口にあたるエリアをオープン型モールに改装し、モール全体を再活性化する計画を立てている。これにより、モールの収益力回復と地元コミュニティの活性化を実現する予定だ。

全米ショッピングセンターは消費者のオンラインショッピング化が高まる中で集客力が落ちており、将来が案じられている。しかし全体像とは別に個別にモールを見ると、立地条件、魅力あるテナント揃え等々で独自強みを発揮し、十分にサバイバルの余地があるモールが存在する。今回の事例の場合、大学というコミュニティの利便性や魅力を向上させ、しかも小売ビジネスの収益を大学経営に活用する、という2度3度おいしいビジネスモデルだ。

下記のグラフに見られるように、中央集権型のチェーンストアやショッピングセンターは以前ほどパワフルでなくなり、オンラインショッピングが優勢となりつつある。消費者のニーズや買い物の選択肢が多様化する中、仮に全国均一ネットワークが崩壊する日が訪れるとしても、こうした地元に根付いたコミュニティ主導による個別生き残り戦略で小売業は活性化できるのではないだろうか。その意味で、消費の今後のカギを握る若い世代が集まる大学コミュニティは注目される。

(写真)リバティ大学(出所:大学提供)
(図表1)2010年から13年までの来店客数(ショッパートラック社データをウォールストリートジャーナル編集、2014年1月16日掲載)
(図表2)US、Eコマース売上高(10億ドル、フォレスター社調査)



 2016/03/21 04:49  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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