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ナイキvsアンダーアーマー
今年はオリンピック・イヤーということで、アスレジャーウェアの拡大もあり、アスレチックウェア業界が注目されている。トップのナイキは相変わらずトップであるだけでなく、着実に売上を拡大している。12月に発表された四半期でも売上前年比4%、為替差損要因を除くと12%の伸長だった。特に北米市場で非常に力強い伸びを示しており、前年比10%アップ、今後の受注は14%増を予定している。

ナイキは主力ブランドのジョーダン、ランニング、トレーニング等で着実な伸びを見せるだけでなく、オンライン販売の成長も大きく貢献している。また、中国市場での成長も同社を支えており、昨年「シングルの日」には爆発的な売上を記録、ここでもオンラインが成長の柱となっている。同社は2020年までに年商500億ドルを達成する目標だ。

一方でアンダー・アーマーは、まだ規模はナイキの10分の1だが、毎期25%以上の伸長を続けている。同社は2018年度に75億ドル(現在の2倍)を目標とし、昨年1月にはアディダスを抜いた。今後成長ドライバーとして、男女別の細かいニーズへの対応、オンライン販売、靴、そして海外市場開拓を進めていく。

年間32億ドル、ほぼアンダーアーマーの年商と同じ額をブランド戦略に投下しているナイキに対抗するのは並大抵ではないだろうが、オリンピック、アスレジャーの追い風がびゅんびゅんと吹いている間に一層の成長をしたいところだろう。同社は2016年中に200店舗追加出店を計画している。

アンダーアーマーの創始者兼CEOケヴィン・プランク氏は全米小売業協会年次総会にもゲストスピーカーとして登場したが、見るからに筋肉もりもりのスポーツマン、戦いこそ彼の人生なのだろう。同社のコンプレッションウェアを開発するに至ったエピソード(汗でびしょびしょになるTシャツをどうにかしたかった)は有名だ。

同社は昨年夏にConnected Fitnessというデジタルテクノロジーを駆使したトレーニング&パフォーマンス向上アプリを開始し、今年1月コンシューマーエレクトロニクスショーではこれをさらにレベルアップして、「ヘルスボックス」という心拍数や走ったり体を動かした時に歩幅やスピード等を全て記録、分析するデバイスを発表した。年次総会の会場での「もっとスポーツをする人の役に立ちたい」の言葉には、単なるスローガンを超えた真実味が感じられた。つい、巨人ナイキを倒せ!と応援したくなるのも、カリスマのなせる業か。

(図表)各社業績報告書より



 2016/01/31 09:34  この記事のURL  / 

アスレジャーがデイウェアを駆逐し始めている
1月26日、ウィメンズウェアデイリー紙がアスレジャーについて、全米主要都市の個人経営セレクトショップオーナーに取材した。

1000字以上の内容を一言で言うならタイトルの通り。より具体的には

*影響を受け始めているのは、昼間着るファッション全体。デザイナーブランドにも影響が出ている。(夜間社交用のドレス等には影響なし)

*Tシャツにヨガパンツ、スニーカーの上に羽織ってもピシッときまるジャケットやセーターは逆に良く売れる。ミシガン州バーミンガムのブティックのトップセラーは、RtA, Unravel, Awake, Public School, Comme des Garcons, Yohji Yamamoto, Junya Watanabeなど。アメリカーナ・マンハセット・モールのブティック、ハーシュライファーでは、同様にアクティブウェアにも合わせられるLucien Pellat Finet, Pronza SchoulerのセーターやTシャツ、Nilly Loten, Rosie Assoulinのボトムズがよく動くとのこと。ニューヨーク州ライのグィタールではVeronica BeardジャケットとDickiesやRtAスキニースウェットパンツのコンビネーションが大ヒット
(注)アメリカの郊外の高所得者はショッピングモールのマス・ファッションや人混みを嫌い、このような個人経営のデザイナーブランドを扱うブティックを好む

*シャネルやイヴ・サンローラン、プッチ、クロエなどが動かなくなった訳ではないが、単品としてしか売れなくなった

*このような高級デザイナーブランドを買い物に来る時にも、顧客は以前はドレスやスーツ姿だったが、最近はルルレモンやアスリータを着て来店するそうだ

市場調査会社NPDグループは、アスレジャー市場は350億ドルに達したと試算する。WWD紙では1990年代のジューシークチュールの動きにも似て、女性のファッションの在り方を変えたとしている。

そう言えば筆者のアスレジャー化も甚だしく、仕事のアポ以外は自宅内外運動着状態だ。以前は自宅で一日執筆の日もジュエリーをつけない日はなかったが、スポーティな恰好に似合わないという理由で、最近はピアスがせいぜい。友人の一人はヨガのために髪を長くして束ねる結果、ヘアカットに行く回数が激減。外反母趾の友人は一度スニーカーを履いたらもうパンプスには戻れないと言う。

WWD紙の取材では、日本人デザイナーがアスレジャー・トレンドの波に乗っているようだ。このトレンドが日本のアパレル業界の神風となるだろうか?

(写真)左 Nordstrom.com よりVeronica Beard、右 saksfifthavenue.com よりRtA
 2016/01/31 03:34  この記事のURL  / 

全米小売業協会年次総会・早わかり!?
今週日曜日から4日間に渡って全米小売業協会(NRF)年次総会がニューヨークで開催された。小売業界の今後を占う上で重視されている総会では朝8時30分から夕方4時30分まで、130以上のパネルディスカッションや講演会が開催された。また最新のシステムやデバイス・サプライヤーのエキスポも同時開催された。
細かいデータや事例で面白いものもたくさんあったが、キーワードもしくはキーコンセプトとして頻出度の高かったものをまとめてみた。

◎モバイル
モバイル=スマートフォンとタブレット、ウェラブル・ウォッチ等、携帯デバイスによる検索、ショッピングが当たり前となっており、モバイル・チャネルによる売上シェアが大小を問わずどの小売業者の間でも拡大している。このため、アプリ開発が顧客獲得の重要な入口となっている。

◎フィジカルかデジタルか?(オムニチャネル)
正解は「両方!」というものだが、どの講演者も「店舗販売をする者でオンラインやモバイルをしない、という選択肢は無い時代」とはっきりと言い切っていた。そう言えば、オムニチャネルという言葉がタイトルになっているセッションが昨年よりめっきり減った。鮮度がちょっと落ちてしまったということか?

◎カスタマー・エンゲージメント
訳すのにいつも困る言葉の1つだが、実はアメリカでは最も重要とされているコンセプトの1つだ。エンゲージメントだけなら婚約、すなわち結婚への合意、という意味なので、「顧客があるブランドに惚れ込み、買うなりブランドを口コミ宣伝するなり、ブランドに共感して行動を起こすこと」だろう。この言葉も頻出し、「カスタマー・エンゲージメントを獲得するためにマーケティングを戦略化する」というような発言がどこでも聞かれた。

◎IoT(Internet of Things=インタネット・オヴ・シングズ)
この言葉が総会で皆が使い始めたのは比較的新しいかもしれない。データ集積・交換を行うエレクトロニクス、ソフトウェア、センサー、ネットワーク等を搭載するデバイス、乗り物、ビル等のこと(米国ウィキペディアより)だそうだ。しかし実際にこの言葉を使う人によって、もっと大雑把な意味でもあるようだ。

◎カスタマー・エクスペリエンスもしくはストア・エクスペリエンス
本来「経験」と言ったら良きにせよ悪しきにせよニュートラルなものだと思うが、NRFでは「店舗のこれからの重要な役割は顧客を惹きつける経験を与えること」の文脈でどのセッションでも絶対に・必ず使用されていた。講演の中にディズニーストアの責任者による話もあり、それはそれで面白くなくはなかったが、全てのブランドがああいう娯楽性を提供できる訳ではない。いずれにせよ、「店舗はモノを買う場所」だけでは生きていけない、ということだろう。

◎パーソナライゼーションとビッグデータ
ここ数年の流行り言葉だが、未だに重視されている。私が消費者として感じるのは、アメリカ大手チェーンストアはもうかなり高度なレベルでビッグデータを活用したパーソナライゼーションを行っており、むしろ今から課題になるのは個人情報保護の問題、スパム(迷惑)としてシャットダウンされてしまう可能性への対応、等ではないだろうか?

番外で、アメリカ小売業界で仕事をする人間としてブラボー!と叫びたかったのは、「死を招く値引き販促の悪循環」ネタだった。日本ではまだこの国ほどひどくはないだろう。しかし、アメリカでのご商売をお手伝いしていると、毎日止まることのない値引き合戦は利益だけでなく精神的にも疲弊してしまう。前回ご紹介したように、定価に不信を持った消費者からの価格集団訴訟が増えているのだが、まったくウェルカムな自浄作用だとつくづく思う。

(写真)左よりNBCレポーター、コートニー・リーガン、ウェストフィールド社スティーヴン・ローウィ、ジョン・ルイス社チャーリー・メイフィールド、アンダー・アーマー、ケヴィン・プランク(敬称略)

 2016/01/24 07:35  この記事のURL  / 

アメリカ小売業界に広がる「架空価格」集団訴訟とオムニチャネル戦略
最近、大手チェーンストアによる虚偽の価格をめぐる集団訴訟が急増している。始まったのは2014年のニーマン・マーカス、ノードストローム・アウトレット部門への集団訴訟のあたりからで、その後マイケル・コース、2015年にはジョスAバンク(5月)、バーリントン・コートファクトリー(7月)、TJマックス(7月)、シアーズ(8月)、コロンビア・スポーツウェア(10月)ケート・スペード(11月)など。直近では12月末にメーシーズとブルーミングデールズの百貨店部門が同様の集団訴訟を起こされている。

問題とされるのは、例えば40%オフという販促時の値札に「オリジナル100ドル(もしくはcompare at=比較価格)、現在60ドル(多くの場合40%オフも連記)」という表示があるのに、その商品は実際には一度も100ドルで販売されたことはなかった、という状況だ。英語ではfalse pricing, imaginary pricing(架空価格)と呼ばれる。当該商品がその価格で売られたことがないのであれば、40%オフには根拠がなく、消費者を惑わし、実際の価値とは異なった商品を販売している点が問題だ。

マイケル・コースの場合は、アウトレットで販売している商品の一部が、実はアウトレット店専用に製造された商品であり、一度もマイケル・コースの定価店舗で販売されていないのに「オリジナル価格」を謳った点が争点となった。

このような訴訟が増えた背景には、アメリカ大手チェーンストア全体、特にファッションを売る百貨店やアウトレットがあまりに頻繁かつ継続的に価格プロモーションを行う結果、価格に対する信頼性が下がったこと。そのまた背景には「ファッション(特にアパレル)が売れにくくなり、値引きに頼らざるを得ない」という厳しい現実がある。

集団訴訟がこの1,2年で増えたもう1つの理由は、被告側のリテーラーが無罪を立証するより原告側と早期に和解する方が手っ取り早いためすぐに示談に持ち込む、その結果「お金を取りやすい」として訴訟ターゲットとなってしまうことだ。

マイケル・コースは総額487.5万ドルで和解した。確かにアウトレット専用商品を定価で販売するということはしなかっただろう。その他はまだ係争中が多いが、一方でノードストローム社は勝訴した。原告側の実証能力が低く、本当に当該もしくは類似商品をノードストローム社がアウトレット部門に回す前に一度も販売及び広告しなかった、という点を実証することができなかったからだ。

しかし、ノードストロームの勝訴は単純に原告側が準備不十分だったお蔭ではない。まず同社は@オムニチャネル戦略拡大の結果、店舗側での定価販売の実績だけでなくオンライン側での定価販売実績を立証することができた、A同社は行き過ぎた価格プロモーションを反省し、昨年、年間のセール・カレンダーを改変、値引き期間や回数を減らして整理、このような、先を読んだ戦略が思わぬところで役にたったようだ。

2016年、アメリカのファッション業界は、6日発表されたメーシーズ百貨店の業績不振と3000人の解雇を含む4億ドルのコストカットに象徴されるように、各社とも厳しい市場環境を予測している。しかしそれ故に、新たな革新や魅力的なショッピング経験が出てくることも期待できるだろう。

(写真)classactionnews.comより
 2016/01/11 07:25  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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