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ユニクロのエアリズム下着と10兆円への道
近年ニューヨークも日本の夏と変わらず蒸し暑い。5,6年前までは酷暑の日本からJFケネディ空港に降り立つ度、からりとした気候に感謝したが、最近は「全然変わらないじゃない」とがっかりする。この数日間アメリカ人が大嫌いな蒸し蒸し猛暑日が続くため、ウォールストリートジャーナルでは「メンズのクールウェア」を特集。ヨーロッパ・ブランドやJクルーが再生紙とシルク、綿を混合した新素材や細番手糸使用により25−30%軽量な生地を投入してサマー仕様のメンズウェアを販売していることを紹介した。

この中で、「涼しいメンズ下着」としてユニクロのエアリズム・メッシュ下着が取り上げられた。短いながら同社の広報担当者はきっとこのパブリシティを喜んでおられるだろう。下着についてはユニクロしか取り上げられていない。「ライフウェア」を標榜する同社としてはヒートテック、ウルトラ・ライトウェイト・ダウン、エアリズムと着実にニッチ市場を確立しつつある、ということか。

アメリカでの売上高や細かい財務数値は公表されていないが、消費者の間にはユニクロの認知度は確実に広がっている。ファッション関係のサイトや信頼性の高いブログを見ると、上記エアリズムについても詳細情報、各方面からのレビューが掲載されていて、下着については「素材が軽くて涼しいのは確か。フィットもよい。ただし胸毛が透けて見えるのはどうにかできないものか?」「Vネックが少々深すぎる(ので胸毛が見える)」等々、女性や体毛の薄い日本人では想像つかないコメントがたくさん寄せられている。ユニクロは近年の取材では「商品についてはフィットやカラーパレットを始め、改善を重ねている」ことを強調しているが、商品開発担当がこのようなレビューを見逃すはずがない。NY五番街の旗艦店を見ていても、マーチャンダイジングの改良努力は実を結びつつあるように見える。

さて、ユニクロは2020年までに全世界売上5兆円の目標を持っており、そのうち1兆円を北米市場からたたき出す計画だ。直近の出店計画では、今年秋までにシアトル、ワシントンDC、ボストン、デンバー、シカゴに出店し44店舗体制になり、来年はトロントに2店舗出店が決まっている。北米では200店舗を狙っているので、残り4年間で154店出店する計算で、これ自体は達成可能なようだ。ただし、1店舗平均5,000万ドル(62億円)を生むのは現実味があるのだろうか?仮に1スクエアフィート当たり600ドル稼ぐ(Jクルー等モール系専門店として高い水準)として、1店舗のサイズは83,333スクエアフィート(2,342坪)でなければならず、これはNY五番街店舗(89,000スクエアフィート)級だ。今回出店予定の店舗サイズは10,000-22,000スクエアフィート、その中で最大のシカゴ店でも66,000スクエアフィートだ。いくらアメリカの人口が多くても、これだけの大型店を出店できるロケーションは限られている。もっともオンライン売上が拡大すれば多少はバーは低くなるが。

USAのラリー・マイヤーズCEOは各所で「本当に達成できるのか?」という質問に「我々は自分たちの仕事をやっている」と答えている。イエス、ノーが明快なアメリカ人経営者の返答としては、「目標は大きいのでどうだか…」と読み替えるのが妥当だろう。しかし、エアリズム下着の動向を見るにつけ、まるで勝算がない訳ではない、いや、惜しいところまではいくのではないか、と感じる。

(写真)エアリズム立ち上げ時の広告と今年春の広告。当初はメンズ下着はクルーネックだったが、現在はVネックに変わっている(出所:ユニクロ)
 2015/07/30 22:57  この記事のURL  / 

初のニューヨーク・ファッションウィーク・メンズ版
アメリカではメンズファッションが注目されている。アパレル市場が飽和状態の中、アスレチックウェアやメンズには、まだ伸びしろがある、というのが大きな理由だろう。他にもITなど業種によってはスーツを着ないことが新たな服装基準となっていることも市場を活性化させてりる。

こういったニーズを背景に、初のニューヨーク・ファッションウィークのメンズ版が今月13日から17日までダウンタウンで開催された。ラルフ・ローレン、トミー・ヒルフィガー等のアメリカのメインストリームのブランドから、若手まで54のデザイナーが参加。レディス中心のファッションウィークから独立した初めてのショーということで注目されていたが、一言でまとめると「見るべきものはあったがショーとしてはこれから」というだ。

会場の様子を伝える報道の中からいくつかを紹介したい。
■ランウェイをモデルが歩いて見せるファッションショーよりも、より商談につながりやすいプレゼンテーションのほうが多かった。
■ショーでは最前列の席に誰が座っているかが注目されるが、通常のショーに比べて必ずしもスターや著名なプレス関係者で埋まっているわけではなかった。
■バックステージも同様。取材にいったプレス関係者の印象では、基本的にはどのショーもバックステージは静かでメークアップ中のモデルに向けてカメラのフラッシュが飛び交うということはなく、現場のPR関係者やスタイリストたちからは「chill(凍りついた=人が少ない、静か)」という言葉が頻繁に聞かれたと言う。
■モデルはレディスに比べて多様化が進んでいて、人種だけでなくタトゥーやピアスをつけたままのモデル、顔ひげがあるモデル、マッチョタイプから性別不明なモデルと、非常に多様でレディスよりリアルなモデルが多かった。
■百貨店バイヤー達は概ね好印象を持ったようだ。サックス・フィフス・アベニューのメンズファッション・ディレクターは「見たいものが見られた」し、買い付けも行ったとのこと。ブルーミングデールズのメンズファッション・ディレクターは、実際にはショーよりプレゼンテーションの方が多かったことについて、逆に服をよく見られてよかった、新人デザイナーについてもよく見ることができた、とコメントした
■フォーチュン誌は実際にオフィスに着ていけそうなルックを10スタイル紹介した。取り上げられたデザイナーは以下のとおり。
Nick Graham, Michael Bastian, Zachary Prell, Loris Diran, Billy Reid, Thom Browne, Jeffrey Rudes, Todd Snyder

「ああいう服を着たい」という憧れが重要な女性と違って、男性はよりプラクティカル、「自分が何を着ればいいか」という現実的な視点でファッションを見るのだろう。フォーチュンの記事には紹介したルック全てに「このスタイルからパンツは普通のに変えて」「サンダルではなく靴を履け」と細かいご指南がついていたのが大変に親切だった。

○情報ソース:ファッション専門情報サイト、ファッショニスタ、ウィメンズ・ウェア・デイリー、フォーチュン他)
○写真:フォーチュン誌が選んだルックからNick Grahamのプレゼンテーション, Michael Bastianのショーより(出所:ゲッティ・イメージ)



 2015/07/30 05:22  この記事のURL  / 

オムニチャネル戦略優等生のノードストロームとインショップ戦略
今月、都内のある証券会社がアメリカ小売業界の勉強会講師として招いてくださった折、鋭いご質問を数多く受け、大変に勉強になった。その1つが「なぜノードストロームはアメリカのオムニチャネルの優等生なのか」というものだった。

アメリカの小売業界でオムニチャネル戦略の優等生と言えば、ノードストロームは絶対欠かせない。Eコマースも業界を先んじて立ち上げ、常にアップグレードの投資を続け、オンライン小売業のリーダー、アマゾンの顧客サービスにも匹敵するサービスを提供し、一方で店舗事業にも「より優れた店舗経験」のために継続的にチャレンジを仕掛けている。ご興味があれば、同社のアニュアルレポート(html版)の冒頭のまとめをご覧いただきたい。縦軸が価格(定価かオフプライスか)、横軸が業態(店舗かオンラインか)の図表(下図)があり、顧客を中心に同社が4つの全領域にわたって等しく、そしてシームレスに事業展開していることが一目できる。

直近のニュースで、今年3月同社が導入したJクルーの「Madewell(メイドウェル)」ブランドのインショップ及びオンラインショップが好調で、現在の15店舗に追加し近く30店舗体制になるとのこと。同ブランドは全体的に不調なJクルー社の中では今後の成長を担う好調部門で、現在85店舗だが100店舗体制を目指し出店を加速化している。なお、メイドウェルは2月にNet-a-Portertでもオンラインショップを開業している。

主語をノードストロームに戻し、同社は2012年にイギリスのトップショップのインショップ化でも話題を呼んだ。同ブランドはロンドン発ファストファッションで、ノードストロームの10-20代顧客の活性化に貢献している。今回のメイドウェルではもう少し上の年齢層のカジュアル&デニム領域の足場を作っている。どちらも、セグメントが明解なターゲット顧客を持ち、ノードストローム社が自力のマーチャンダイジングでは力不足の部分をきちんと補っている。しかしより重要なことは、ノードストロームが誇るオンライン・ビジネスでも戦略的に活用されているだ。簡単な例ではグーグル検索でトップショップと入れると、本家本元のサイト以外にノードストロームのトップショップが出てくる。百貨店など寄りつかないティーンエイジャーも新たな情報をゲットすることには意欲的なので、「ノードストロームって何?」「え、トップショップがここにもあるの?」とクリックインする可能性は大きい。

「インショップで百貨店の活性化」などというフレーズは何十年も前から聞き続けているが、「オムニチャネル上で」という枕詞がつくと、新たにやれる戦略が増えてくるようだ。

ノードストローム社2014年度アニュアルレポート(html版)より


 2015/07/27 20:54  この記事のURL  / 

アマゾンがファッションで収益回復!?
昨夕、アマゾンの第2四半期決算が発表された。アマゾンは、「収益を出すより、先行投資のために赤字をいとわない」企業として知られており、証券業界では「今期の売上高は伸び悩み一株利益▲14セント(トンプソン・フィナンシャル)だろう」と予測されていた。ところが、売上高は20%増、当期利益も9,200万ドル(一株利益19セント)という、意外な結果となった。この結果、アマゾンの株価は17%上昇し、時価総額は2,620億ドルに上昇、初めてウォルマート(2,330億ドル)、を超えるという小売業の歴史的瞬間を迎えた。今日も朝からアマゾンのニュースであふれている。ちなみに時価総額ではアリババ(2,130億ドル)の例も挙げられており、改めて中国パワーに驚かされる。

さて、この意外な好決算だが、物販やクラウド・ベースのウェブサービスの頑張りの結果とは言え、ウィメンズ・ウェア・デイリーでは、アマゾンが同社には難しいとされてきたファッション・ビジネス拡大努力が実を結びつつあるのではと報道している。

アマゾンは2009年に靴のオンライン専門店、ザッポスを購入し、それ以降、ベゾスCEOのファッションへの関心は高まっていった。その動機はもちろんハイ・ファッションの購買金額や収益性の高さだ。2012年からはマイケル・コースやヴィヴィアン・ウェストウッドのようなデザイナー・ブランドの販売を開始し、ニューヨーク、メトロポリタン美術館での展示会を後援。2013年にはニューヨーク、ブルックリンに4万スクエアフィート、直近ではロンドンにヨーロッパでも最大規模のフォト・スタジオを開設した。また今月開催されたニューヨーク・ファッションウィークのメンズ・ショーをスポンサーしたこともアマゾンのファッションへの関心の高さを裏付ける例として話題を呼んだところだ。

コーウェン社のアナリストは、アマゾンのアパレル販売額が2017年までに現在全米最大の百貨店、メーシーズの売上高を超えるのではないかと予測している。同社推定では現在アマゾンのアパレルおよびアクセサリー販売額は160億ドル、物販の70%を占めている。一方メーシーズの昨年度の売上高は281億ドル、このうち84%がアパレルおよびアクセサリー販売だ。

安さと配送の利便性が売りのアマゾンとファッション・ビジネスはそぐわない、とするアメリカの業界識者、アナリストは多い。しかし、どこで何を買うかを決めるのは消費者だ。ソーシャル・メディアやモバイル・ショッピングが消費行動を変化させている今、過去の傾向で予測はできない。

米国Amazon.comでのプライム・ディ、トップページ



 2015/07/24 23:12  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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