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10万足のバックオーダーを持つLLビーンのオムニチャネル戦略
LLビーンは日本でもお馴染みの、1912年創業のアメリカの老舗アウトドア用品ブランドだ。このブランドを代表するビーン・ブーツが今またブレークしている。昨年ホリディ商戦ではなんと10万足がバックオーダー(入荷待ち)だったそうで、現在でも、今日オーダーして自宅に届くのは6月18日頃だそうだ。(下記写真参考) このブーツは昨年1年間で45万足販売、前年比12.5%伸長した。

同社はブーツや靴の他にもアウトドア・ウェアや用品を幅広く販売している。家族経営で年商は16億1,000万ドル、過去6年間売上は伸び続けている。商品の75%は海外生産だが、このブーツだけはいまだにメイン州の工場で手作業で製造されている。その品質管理の様子や、ホリディ商戦に向けた製造のピーク時(8月)には、引退した人々を中心に雇用し、シニアへの雇用拡大に貢献していること、社員の健康管理を重視し、工場やオフィス、すべてにジムがあり、糖尿病や肥満等の病気を持つ社員には専門のトレーナーまで用意していること、など、ユニークかつ魅力的な同社について書き始めればキリがないので残念ながら割愛する。ご興味のある方はフォーブス4月13日号か、2006年創業者の孫、レオン・ゴーマン氏著書「LLビーン:アメリカのアイコンを作る(The Making of an American Icon)」(日本語版があるか不明)をご覧ください。

さて、同社は3月11日、「現在26店舗、アウトレット11店舗を2020年までに100店舗体制にする」と発表した。主な出店ロケーションはライフスタイル・モールで、現在メイン州本社お膝元で展開している「アウトドア・ディスカバリー」プログラム(アウトドア・スポーツのトレーニング)も各所で展開する。アメリカではジーンズよりアスレチックウェアの方が元気が良い状況なので、この動きも当然かと思われるが、長年カタログ販売を中心としてきた同社が「自社の素晴らしい商品を3Dで見てもらいたい」として店舗投資を拡大するのは、世の中の流れの最先端をいく、と言える。今後開発される店舗には、様々な新しい要素が入ってくるだろうから、期待したい。

それにしても、このブログで取り上げてきたアパレル専門店チェーンが軒並み不振であることを考えると、同社のように毎年・毎シーズン、変わりばえのしないベーシックな衣類とまったく変わらないブーツだけで売上拡大しているLLビーンには学びがありそうだ。ファストファッションが巷にあふれているからこそ、ベーシックが新鮮なのかもしれない。何よりLLビーン自体がベーシックでいることの価値を信じているからこそ、人を魅惑するのだろう。

 2015/03/31 11:38  この記事のURL  / 

アメリカン・アパレル、工場と前CEO
昨年12月に解雇された前CEOであり創業者のダヴ・チャーニー氏が27日にABC テレビ番組「20/20」で、解雇後初めて公の場で語った。

アメリカン・アパレルは企画・生産から小売販売までを「アメリカ国内で」行う垂直統合モデルのカジュアルウェア・ブランドだ。チャーニー氏は@2000年代前半にはまだ珍しかったメイド・イン・USAを標榜し、,A自社社員を採用した「リアルなモデル」によるセクシーな広告戦略、B不法移民にも分け隔てなく業界でも高い水準の時給支給、で一般消費者、従業員から絶大な支持を受けていたが、セクシー広告(注1)の行き過ぎで世論の批判や社員からのセクシャルハラスメント訴訟を受けたり、私用経費を社費で落としたり、そして何よりも近年ブランドの評判と会社の業績が落ちたために昨年6月に職務停止、12月に解雇された。

(注1)チャーニー氏によると「セクシーであることを狙ったのではなく、生の若い人々の生活に迫っただけ」とのこと。現在は下の写真のように色気の抜けた写真を採用。

チャーニー氏の番組での発言内容には、特に新たな事実は無く、創業当時から貫いてきた事業モデルおよびアメリカン・アパレルのカルチャーを築いてきた広告アートの弁護だったが、彼のマスコミへの登場により、新たにもう一面のアメリカン・アパレルが注目されている。同社の工場だ。

「スウェットショップ・フリー(低賃金・悪条件の労働搾取工場では無い)」を会社のタッグラインに掲げる同社は現在、国内直営工場に4,000人以上の従業員を抱えると言われている。多くは中南米からの移民だ。スウェットショップでは時給5ドル程度を支給するのに対し、アメリカン・アパレルでは13−14ドル支給している。それでも垂直統合モデルのお蔭で、業績好調時には粗利率は70%程度にも達していた。(下の図表を参照) そしてこの人道的なイメージもチャーニー人気の1つの根拠だった。

しかし過去5四半期連続で既存比マイナスが続き、しかも前CEO関連費(訴訟等)で赤字決算も続く中、新経営陣は工場にメスを入れた。ウィメンズ・ウェア・デイリー紙によると、同社は現在4100スタイル程度を販売しているが、そのうち半分は不必要な商品だという。しかし、前CEO経営では、工場のラインを継続するため(そして恐らく製造コストを合理化するために)スタイル数の削減に踏み切れずにきたのだろう。

新経営陣体制化、工場従業員たちは労働時間短縮=収入減に見舞われ連合を組み、活動を開始している。連合は「少数の株主たちのいざこざが、自動的に自分たちの生活を圧迫する」としている。チャーニー氏はテレビ出演によって、復帰に向けて工場従業員からの支援を煽ろうという意図があったかどうかは私の憶測に過ぎない。このテレビ放映後、新CEOは改めて「彼が戻ってくることは無い」とコメントしている。

一昨日、やはり業績不振の続くサーフィン・ブランド大手のクィックシルバーもCEOがキックアウトされた。大手アパレル専門店では、業績を悪化させたCEOを追い出して経営改善の話は多いが、新たなワクワクする話を聞かない。チャーニー氏も「自分がいなくて何ができるか!」的な発言をしているようだ。カリスマ・リーダーを孤立させない大番頭の不在が不運だったようだ。

(写真左)昨年の広告  (写真右)現在のウェウサイト 共にアメリカン・アパレル社

 2015/03/30 04:38  この記事のURL  / 

ブルーミングデールズがマンハッタンにアウトレット出店
アメリカの高級百貨店の1社、ブルーミングデールズがマンハッタン・アッパーウェストサイド、ブロードウェイと72丁目にこの秋アウトレット店の出店を発表した。レキシントン街59丁目の本店から2キロと離れていない場所だ。周辺にはアーバンアウトフィッターズ、ノースフェース、バーニーズ・コープ等専門店があるが、高級食品スーパーが立ち並ぶ住宅街でもある。旅行客がわざわざ足を運ぶ商業地区ではない。

住人としては、「なぜこんなところに!?」というのが正直な印象だ。しかしトニー・スプリングCEOは「我々の顧客のさまざまな価格ニーズに応えるための戦略的出店」とのコメント。その戦略の腹の内を探ってみることにした。

アウトレットと言えば郊外に出店するもの、というのが過去の常識だった。今でも多くのブランドは、アウトレット・モールにオフプライス業態を出店している。その結果、郊外のアウトレット市場はどんどん拡大し、最大手のTJマックスだけでも全米に2,100店舗(注1)も展開している。都心まで行かなくても、手軽に安くブランド品が買えるようになってしまった。その上、オンライン・ショッピングの拡大だ。高級百貨店は高級ブランドのブティックと郊外アウトレット、そしてオンラインのハザマで難しい経営を余儀なくされている。(注1:TJマックス店とマーシャルズ店合算)

この結果、実は大手高級百貨店では、アウトレット店舗の数の方が定価店舗より多い(下の図表を参照のこと)。ニーマン・マーカスにおいては、「ラスト・コール・スタジオ」という都心商圏での小型アウトレットまで開発している。ブルーミングデールズだけが、アウトレット出店レースに出遅れている。そこで今回の「戦略的出店」と相成った次第だ。

とは言え、いきなりニューヨークの本店お膝元への出店にどんな戦略的な意味があるのだろうか?

ここでもう1つアメリカ小売業の最近のトレンドをおさらいしたい。アメリカでは人口の都心商圏への移動、今後消費をリードしていく1980年代から2000年代初めに生まれたミレニアム世代の郊外のモール離れ、などの影響で、ウォルマートのような農村地域にスーパーセンターを出店していたような業態までもが「アーバン商圏」(都心)に小型店を出店するになった。

となると、高級百貨店なのにアウトレットの数が少ないブルーミングデールズがマンハッタンのにアウトレットを出すのは理屈が通る。とは言え、徒歩でも30分しか離れていない場所に、いくら古いシーズン商品とは言え、マイケル・コースやコーチ、トゥルー・リリージョンと言った人気ブランドが35-70%オフで売られている、という状況に本店は影響受けずにいられるのだろうか?

ノードストロームは2010年にマンハッタンにラックを出店し、ニーマン・マーカスは昨年11月スタジオをブルックリンに出店した。共に2018年に定価販売の旗艦店がマンハッタンに初上陸する予定で、そのための顧客データ蓄積やテスト・マーケティングの目的がある。

ブルーミングデールズの場合は、逆に出遅れているアウトレットを急いでアーバン商圏に出すためのプロトタイプ店作りを本店のお膝元で行うのが真の目的かもしれない。何となくきわどい戦略のようだが、秋の開店を楽しみに。

 2015/03/28 04:38  この記事のURL  / 

不調なアメリカン・カジュアルの商品改善策
アメリカン・カジュアル全体が停滞していることは過去に何度も書いてきたが、第4四半期の業績結果は価格帯の高い順に、「アバクロ=未だスランプ」、「アメリカン・イーグル=ようやく売上回復」、「エアロポスタル=下り坂にやっとブレーキ」という結果となった。ただし当期利益を見ると一番苦しいのはエアロポスタルだ。アメリカン・イーグルは当期利益も3社の中で最も高かった。

アメリカン・イーグルの業績回復は1)不採算店舗からの撤退、2)商品改善、3)オムニチャネル戦略の推進、と言われている。1と3はともかく、一番難しい商品改善が進んだことは喜ばしいことだ。その商品改善とは、@アソートメントを見直し、スタイル数を削減、Aディスカウントの削減、B商品のディテールや素材、機能性等に焦点を当て、定価でも売れる魅力度を向上させたことだ。実際に店頭もすっきりし、販売員の対応にもフォーカスが出てきた。ただ、スタイル数を減らした結果、選択肢が明らかに減った印象はぬぐえない。イーグルの強みは既存比13%増の女性ティーンエイジャーブランド、エアリだ。ストリング付のソフトなパンツやパジャマが特に好調だったそうだ。

一方、エアロポスタルが商品改善案を発表した。「14歳から17歳のflirty tomboy(恋をもてあそぶ浮気なおてんばな女の子)をターゲットにする」とのこと。具体的には、同社のポロシャツやフリースのようなベーシックなスタイルの中に、今流行りのもっとセクシーなグラフィックTシャツやヨガパンツ(具体的にはTokyo Darling、Live Love Dreamなど)を着るティーンエイジャーだそうだ。

エアロポスタルでは昨年CEO交代劇があり、1996年から2010年までエアロのトップだったジュリアン・ガイガー氏がCEOに戻っている。ガイガー氏によると、エアロの不調原因は、市場シェアを奪っていったファストファッションを意識し過ぎたマーチャンダイジングだ。そこで、同社が強いベーシックアイテムに戻り、今流行の他ブランドの上に着る商品を作りましょう、という考えだ。新商品は今年の夏、同社にとって非常に重要な「新学期コレクション」からスタートするそうだ。

この商品改善案は、期待より不安を持って見守られている。恐らくこれを読んでおられる方々も同じ印象を受けたのではないだろうか。イーグルのわかりやすい原点帰りに対して、「新たなおてんば娘」をターゲットにする、と言われても、現実味が感じられない。以前ブランドを成功に導いたCEOだから、今度も必ずしもそうとは限らない。

ちなみに、昨年秋にカリスマCEOを追い出して、未だCEO席が空いたまま営業しているアバクロは、まだ無策である。

ちょっと前までは飛ぶ鳥を落とす勢いだったアメカジ、Jクルーも最近は不調だ。ドレクスラーCEOは2014年度の業績不振の原因となったレディスについて「我々の顧客は、Jクルーらしくアレンジされた、クールなクラシックなスタイルを求めている」とコメントした。そして手直しをした2015年度春のコレクションには、@より多くのカラー、A「存在感のある」パンツ、Bクラシックへの回帰をあげている。

アメリカン・カジュアルはやはりベーシックなアイテムの原点が重要であり、そこにどれだけブランドらしい鮮度を加えるかがポイントなようだ。エアロとアバクロは大丈夫だろうか?

 2015/03/25 08:23  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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