« 前へ | Main | 次へ »
ギャップ社の好業績を支える「アクト・スモール」
ここの所、マーチャンダイジングの改善で業績が改善しているG社のデザインおよびマーケティングのクリエイティブ人材育成について紹介したい。6月マンハッタンで開催された「ファッション・テック・フォーラム」(カレン・ハーヴィ・コンサルティング・グループ主催)のディスカッションで、G社グローバル・マーケティング・オフィサー、セス・ファーブマンとEVPクリエイティブ・ディレクター、レベッカ・ベイ氏が発言した内容だ。(情報ソース:ウィメンズ・ウエア・デイリー紙)

ファッション企業の心臓部、デザイン・チームと、大動脈のマーケティング・チームでの「才能ある人材」の育成は、クリエイティブおよびマーケティング・マネジャーがコモンスペースを共有し、信頼関係を育む、「ブティック的な環境」で行われている。ファーブマン氏によると、「こうやって物理的な壁を取り払うことによって、デザインスクールに戻り、白いキャンヴァスの上に創作を始めるような雰囲気を作った」。また、会議の回数を減らし、現場での実際の活動の方に重きを置いているという。

社内には「チャッター」(おしゃべり)と呼ばれる社内ソーシャル・プラットフォームがあり、デザインをプロセスするチームが常に同じコミュニケーションの輪に入っていられるようにしている。大企業にはコミュニケーションの壁が常に存在するが、「個人が参加しやすい小さい環境を作り、アクト・スモール=小さなことから行動できるようにすれば、それも克服できる」とのこと。

なお、どんな人材を採用するかについて、ベイ氏(クリエイティブ)は、「ちょっとだけ私を怖がらせ、デザイナーとしては私より優秀な人材。私にピッチングを仕掛けられる人。そして、チームの一員になりたいと思ってくれる人」と述べている。ファーブマン氏(マーケティング)は、「好奇心がまず第一。何か自分の印を刻みたいという気持ちと態度がある人材」と答えている。

ファッションはエモーションの高揚を売るビジネスだ。ギャップと言えども、決してコモディティを安く売るだけで、あの巨体を支えている訳ではない。161.5億ドル(1兆6,454億円)相当の「わくわく、素敵」を、信頼できる仲間と小さなことを1つ1つ大切にしながら生み出そう、という発想は、なかなかクリエイションの原点をついているのではないか。

(イメージはギャップ社ウェブサイトより)
 2014/07/30 06:43  この記事のURL  / 

アンダー・アーマーの快進撃
アンダー・アーマーはコンプレッション・ウェアの製造・販売を主軸とするスポーツ用品メーカーだ。1996年に当時23歳だった創業者、ケヴィン・プランクはメリーランド大学フットボール選手としての経験から、吸湿作用の高い素材を用いて、ハードなスポーツで大汗をかいてもドライで体温上昇をコントロールするTシャツを開発。映画の重要なシーンに採用されたのをきっかけに、2003年には同ブランドの将来を決めたTV広告「このチームを守れ」が評判を呼び10年足らずで売上高2億8,100万ドルを達成。2005年にはNY株式市場に上場し、現在売上高23億3,200万ドル(2013年度)、今年4月にS&P500に仲間入りした急成長企業だ。そして、売上が伸び悩むアメリカのアパレル業界で数少ない2桁伸長を続ける企業である。

NY株式市場ではS&P 500指数が上昇を続けており、7月24日も史上最高値を更新したが、この日、株価上昇率トップを占めたのが同社だ。上昇率は13%、次いでフェイスブック社が7%。両社ともに好調な決算報告がその理由だ。

フェイスブックはともかく、スポーツ用品のアンダー・アーマーが!?と思われる方も多いに違いない。スポーツ用品市場のリーダーと言えば、ナイキやアディダスだが、同社は着実に市場での地位を固めている。その理由は何か。

まず、TV広告の成功に見られるように、スポーツへの情熱、その精神を全面的に押し出すことで消費者の熱い共感を得るモノづくりとマーケティングだろう。商品開発については革新性、高パフォーマンスを休み無く追い続けている。直近の例では、ソチ・オリンピックのスピードスケート用スーツを防衛・航空技術開発を専門とするロックヒード・マーティン社と共同開発した。また、同社にとって重要なアイテムであり2014年度第2四半期売上高の19%を占める靴も同様だ。ベストセラーであるSpeedForm Apolloを手に取ればわかるように、見るからに早く走れそうなデザイン、そして説得力のある機能性は、アンダー・アーマーというブランドの精神をわかりやすく具現化している。

ターゲット戦略にもフォーカスがある。2003年に導入されたレディス部門は現在、同社売上の3分の1を占めるが、当初は女性らしく、ピンクやソフトなデザインを提供していた。しかし、同社製品のような高機能性を求める女性が必ずしもスポーツウェアに女性らしさを求めている訳ではないことに気がつき、アメリカン・バレエ・シアターで2番目にソリストとなったアフリカ系アメリカ人バレリーナ、ミスティ・コープランドを広告に採用。留まることのない心身の鍛錬の上に咲く女性の美、というメッセージをストレートに伝えている。

好調な決算報告時にも、プランクCEOは10年から20年後の成長戦略の1つとしてグローバル・フットボール市場でのリーダーを目指すと語っており、同社の挑戦は益々勢いを増しそうだ。

 2014/07/26 19:34  この記事のURL  / 

アメリカ百貨店の「エマージング・タレント」戦略
ロード&テイラー百貨店が今秋、ニューヨーク旗艦店に2つの新コンセプト・ショップをオープンする。Birdcage(バードケージ)、およびBrand Assembly(ブランド・アッセンブリ)は共にエマージング・タレント、すなわち、新鋭のデザイナーやブランドをフィーチャーするセレクトショップだ。

Birdcage(約43坪)は「高度に編集された、選りすぐりのセレクトショップ」で、アクセサリーが中心だがおしゃれな生活雑貨や食品、化粧品、アパレルも扱う。スタイル数1,000点以上、ベンダー数30以上。具体的にはAlex WooやTaiのジュエリー、Marie Turnorのハンドブック、Flower Girlの生花、Joyaキャンドル等。

Brand Assembly(約28坪)は「20名のキューレーターが交替で選ぶ、これからが期待されるコンテンポラリー・ファッションデザイナー・ブランドのコンセプト・ショップ」で、Torn by Ronny Kobo、Sachin & Babi、Priory of Ten等が予定されている。価格帯は60ドルから3,000ドル。

このようにエマージング・タレント戦略はメジャーなトレンドとなりつつある。アメリカでも百貨店は安定的に売上の取れる大手ブランドが売場を占めており、「他社とあまり変わり映えのない品揃え」が悩みだ。その差別化戦略として大いに期待されている訳だ。ブルーミングデールズでも今年2月に就任したトニー・スプリングCEOが新人デザイナーの導入を検討中と発表しているし、ロード&テイラーと同じ親会社ハドソンズ・ベイの傘下であるサックス・フィフス・アベニューもヨーロッパの若手デザイナー導入計画を進行中だ。ノードストロームは昨年10月から、期間限定で鮮度の高いブランドを編集したポップアップ・ショップ、POP-IN@Nordstromを展開している。

しかし筆者が注目したいのは、百貨店側にも新たなタレントを用意していることだ。サックス・フィフス・アベニューは前・英国ハロッズ百貨店のチーフ・マーチャントのマリゲイ・マッキー氏を、ノードストロームは前オープニング・セレモニーのクリエイティヴ・バイス・プレジデントをトップに据えている。共に前職での実績を背景に、新天地で腕を鳴らす用意がある。ロード&テイラーのリズ・ロドベル氏は同社内からのたたき上げだが、親会社のハドソンズ・ベイの経営陣には香港レーン・クロフォードのプレジデントとして世界レベルでのラグジュアリー・ビジネスに携わったボニー・ブルックス氏や前述のマッキー氏がいる。ただ新味のあるブランドを誘致するだけではなく、様々な経験を積んだ持った老練なタレントたちが最高の料理の腕をふるう − ここにアメリカン・リテーリングの強みが見える。

(写真)ロード&テイラー・ニューヨーク旗艦店、今秋新コンセプト・ショップが予定されている2F、 同フロアではコンテポンラリー・ブランド以外に、「デザイン・ラボ」として新たな試みが既に開始している


 2014/07/24 10:21  この記事のURL  / 

ウォルマート・ラボの13番目の買収
ウォルマートと言えばディスカウンター、今までファッション領域の強化を、著名デザイナーやセレブとのコラボで試みてきたが結果は芳しくなかった。やはりディスカウンターのDNAはファッションとはそぐはない、というが業界の印象だった。

ところが先月半ば、ウォルマートは、子会社ウォルマート・ラボを通じて、Stylrという、顧客の近くにある衣料品店情報を検索できるアプリ制作会社を買収した。全米でモバイル・ショッピングが拡がっているため、強力なモバイル・アプリやモバイル対応のEコマースを買収し、そのノウハウを得れば、短期間で売上拡大が期待できる。

実は、ウォルマートは過去にラボを通じて他にもInkiru, OneOps, TastyLabs等の12社の買収を行っている。同社は買収を通じて、最新のリテール・プラットフォームを構築する戦略を採用している。例えば2011年のKosmix買収によって、様々なソーシャルメディアをトピックス別にふるいにかけ、ターゲットとする消費者が興味を持つ情報提供を可能とした。またGrabble買収では、eレシート・ソリューションを入手、消費者がモバイルでEレシートを簡単に受け取れる機能を付加した。その一ヶ月後のSmall Society買収では小売業向けのモバイル・アプリ制作ノウハウを獲得した。

このように、ウォルマートは現在の目まぐるしく進化を遂げるオムニチャネル環境の中で、必要な機能を最新IT技術やデジタルマーケティングの起業を買収することで、短期間に必要なツールを得ている。これが全世界最大規模のリテーラーでなければ、オムニチャネルの先駆者の動向、で話は終るかもしれない。いかし、ウォルマートがこのような動きをとっているとなると、話は別だ。同社が必要な機能を買収で揃えた暁には、小売業界は大きな地殻変動を目の当たりにするのかもしれない。


 2014/07/13 22:06  この記事のURL  / 

« 前へ | Main | 次へ »

プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


2014年07月
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリアーカイブ