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デモとトランプとボイコット運動
トランプ氏が大統領に就任してからと言うもの、毎朝起床したら「今日はデモがないか、あるならどこか」を確認するのが日課となった。1週間前の21日土曜日は「ウーマンマーチ」で全米主要都市では50万人とも60万人ともいわれるデモが行われた。マンハッタン内も見たこともないほど5番街や主要道路に人があふれ、私の家族はそれぞれ仕事や所用で外出していたので全員帰宅するまで不安な半日を過ごした。

昨日は金曜日に発令された大統領令、イスラム7か国からの移民・難民入国制限により、9人のイスラム系入国者がケネディ空港で拘束された。デモ参加者の数はまたたく間に2,000人を超え、全米では100-200人が入国制限の影響を受けたとのこと。ケネディ空港で拘束された人たちには正規の入国ビザを持ち、マサチューセッツ工科大学、イエール大学、スタンフォード大学等の名門大学での研究者や、米国陸軍に通訳として勤務歴のある人も含まれていた。
ニューヨーク連邦裁判所の即日命令により、難民認定者、有効なビザ保有者に対する強制送還中止令が出て事態はいったん収束したが、これからどうなるのだろう。イスラム人ではないとは言え私も移民、うっかり出張などで海外に出てアメリカに再入国できなくなったら子供はどうなる、などという余計な心配が結構現実味を持って迫ってくる。

ところで、それ以上に現実的な課題が浮上している。こういった大統領に対する国民の反感や社会不安が購買意欲を下げ、小売販売にも影響するのではないか、という心配だ。特に反感を持つ層は都市部の比較的可処分所得が高い地域の人々で、小売市場への影響力も高い。既にオバマケア(健康保険)制度撤廃に向けて動き始め、国民の医療費負担の上昇が懸念されている。

まだ大統領選が終わっていない昨年10月に「GrabYourWallet(サイフを握りしめ)」という反トランプ運動家による「ボイコット対象小売業者リスト」が発表された。当時32社、現在は70以上に及ぶ。対象となっているのはドナルド・トランプ氏およびその娘のイヴァンカのブランド商品を販売する小売業者、及びトランプ一家と何かしらの利害関係を共有する小売業者だ。メーシーズ、ニーマン・マーカス、ノードストローム等主要百貨店はほとんどが対象となっており、他にはアマゾン、ベッド・バス&ビヨンド、靴のアウトレットチェーンDSW、ザッポスなど。メーシーズは2015年、トランプ氏がメキシコ移民は皆性的虐待者だ、という差別的な発言をしたのをきっかけに、ドナルド・トランプ・ブランドのメンズコレクションを販売停止にしたが、今でもイヴァンカの服や靴、ハンドバッグ等は販売している。(下表参照)

ノードストローム社ピート・ノードストローム共同社長は11月21日、社員にあてたメールの中で「わが社が販売している全てのブランドは売上結果に基づいて評価されている。もし人々が買わなければ我々も販売しない。」とつづったそうだ。これを報道したフォーチュン誌は、同社顧客はイヴァンカ・ブランド商品を買い続けているので同社も販売を中止しないのだろうとコメントしている。

マーケティング調査会社、ブランド・キーズ社はドナルド・トランプ・ブランド商品の価値について非トランプ・ブランド商品との比較で調査している(注)。これによると、トランプ・ブランドは立候補前は25%非トランプ・ブランドより高かったが、立候補し選挙戦で様々な問題発言の結果20%下がった。10月に女性蔑視発言時にはさらに8%低下した。しかし当選直後には35%上がったと言う。同調査を手掛けたロバート・パシコフ氏は「(食品安全などとは異なり)イデオロギーによるボイコット運動はあまり実際の購買には影響しない」という見解を示している。

しかしブランド調査もノードストロームの見解もまだ大統領就任前の話。19日の就任から10日間の間に、これほど全米で大きなデモが何度も繰り広げられているのは異常な事態だ。トランプ政権が今後、公約を具体化していく中で、国民の気持ちがどのように変化するのか予想がつかない部分もあるが、反トランプ運動が与える消費の変化にも注意していく必要がある。

(注)マーケティング調査会社「ブランド・キーズ」社調べ。全米で毎回1,800人をランダムサンプリングし、トランプ・ブランド商品および非トランプ・ブランド商品の両方について価値をアンケート調査。同社代表ロバート・パシコフ氏。

(写真)Justin Lane, European Pressより(2017年1月28日ニューヨークタイムズ紙掲載より)


(表)「Grab Your Wallet」反トランプ・ボイコット運動のリストより
 2017/01/30 03:23  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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