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ウォルマートのモバイル決済導入の意義
今月10日、ウォルマートは「ウォルマート・ペイ」と呼ばれるモバイル決済システムの導入を発表した。ウォルマート?ファッションと関係ないじゃない!と思わずに続きを読んでいただきたい。

モバイル決済システムはアメリカの小売業界では主要な話題の1つだ。グーグル・ウォレットが2011年秋に市場に出た時はまだ誰もがお手並み拝見、の状況だった。しかし昨年10月にアップル・ペイが登場した段階で、モバイル決済システムはぐんと日常生活に近づいた。Iフォンという多くの人にとって親しみのあるデバイス上で使えること、ホールフーヅマーケットやナイキ、スターバックス、メーシーズ、マクドナルド等身近なチェーンストアで利用できること、が普及を速めたのではないだろうか。インフォスカウト社の調べでは、昨年ブラックフライデー時期に、アップル・ペイ受付チェーンストアのレジ通過数の4.9%がアップル・ペイで支払ったと言う。

危機感を持ったグーグルは、グーグル・ウォレットの機能をより消費者寄りに仕切り直しを行い、携帯電話のアンドロイドと絡めてアンドロイド・ペイ、を今年夏からサービス開始。グーグル・ウォレット自体は「ピア・トゥ・ピア決済」(携帯からメールやテキストメッセージ添付で送金)に移行した。
ちなみに同じく今年、サムソンがサムソン・ペイを開始した。ギャラクシーS6、S6エッジ等高級機種にしか現在は使えないが、専用読み取り機だけでなく従来のクレジットカード読み取り機にもかざすだけで使える点(注1)で、取扱小売業者の参加を容易にするかもしれない。

さてウォルマート・ペイに戻るが、これを導入することで同社が得るのは、顧客に簡単で便利な支払い手段を提供するだけではない。アップル・ペイ、アンドロイド・ペイもそうだが、モバイル決済システムでは参加小売業者のロイヤリティプログラムやギフトカードを統合することができる。ディスカウンターのウォルマートは今まで顧客の囲い込み、ロイヤリティプログラムを持ったことはなかった。しかし今の世の中、「パーソナライゼーション」が重要であるため、いつまでも顔の見えない顧客相手に商売を続ける訳にはいかない。とは言え、ロイヤリティプログラムはコストがかかるので、同社のような薄利多売の企業には導入が難しかった。しかし、モバイル決済システムという新機軸で切り込むことで一挙に顧客情報を入手するチャンスが出てくる(注2)。

ウォルマートが既に重点戦略化しているモバイルアプリには約2,200万人の利用者がいるという。あの強力なアマゾン・プライム会員数は公表されていないがアメリカ国内で5,000-6,000万人と推定されている。もしウォルマートのアプリ利用者がそのままモバイル決済をしてくれれば、オンライン販売額では大きな差のあるライバルにぐっと近づく道が開けるのかもしれない。

そしてこの戦略からのもう1つの学びは、小売業やファッション業界も、最新テクノロジーに鈍感では今後の商売は発展しないかもしれない、ということだろう。

(注1)クレジットカードを入れたままにして使用するタイプの読み取り機やタイプによって使用できない。
(注2)参考文献:Mr. Barry Levine, writer of MarketingLand.com, Mr. Chris Bryson, CEO of Unataのレポート
 2015/12/30 10:12  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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