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ウォルマートのボノボス買収とアマゾン
6月16日、アマゾンがホールフーヅ買収を発表した直後にウォルマートがオンラインアパレル専門店、ボノボスの買収を発表した。日本のファッション業界人がアメリカ視察時に必ず訪れるボノボスをウォルマートが買収!?本来ならもっと大きなニュースになり、株価も上がったはずだが、アマゾンの爆撃に株価は一時下がり、さぞかしIRチームは悔しかったに違いない。

ウォルマートは10年ほど前、ファッション領域には若い感覚のPBやマイリ−・サイラス等有名人との提携エクスクルーシブブランドの導入で拡大を図った。しかし結局アパレル部門の売上拡大にはつながらず、近年はアマゾンとの攻防もあり、食品とオンラインビジネス拡大に力を注いできた。

昨年8月にJet.comを買収し、同社のCEOマーク・ロア氏をウォルマート本体のオンライン事業トップに迎え入れてから、ウォルマートは再びファッション事業に投資を始めている。今年1月には靴のShoeBuy.com、2月にアウトドアのMoosejaw.com、3月に独特なヴィンテージ感覚のレディスファッションModCloth.comを買収しており、選定から実際の買収主としても全てJet.comが主導している。今回のボノボスもこの流れだ。

ボノボス買収の真の目的は創業者のアンディ・ダン氏の獲得が目的のようで、ウォルマート広報担当は「ダン氏は我々のEコマース部門のブランド事業において新たな、より大きな役割を果たしていただく。」「レディスのModClothとメンズのBonobosという強力なブランドを獲得した。今後はアンディが両方を掌握し、この業界の切り込みに本格的な力を発揮していく」と発表している。

要するに、餅屋は餅屋ということで、(ファッション専門家をチームに入れる)+(オンライン専業ブランドを導入)=(ファッションとオンラインの両方で勝てる)という図式ではないだろうか。
マーク・ロア氏はもともとは2011年にアマゾンに買収されたQuidsi.comの創業者だ。彼はおむつやベビー用品専門のDiaper.com、日用品のSoap.comを立ち上げ成功させ、アマゾンの傘下に入った。しかし2年ほどアマゾンでベゾスに仕えた後、2014年にJet.comをネート・ファウスト氏、マイク・ハンラハン氏と共に創業し、創業当時からアマゾンの本格的対抗馬として注目されていた。

ロア氏がアマゾンに残したQuidsi部門、Diaper.comをアマゾンは今年3月に解散した。表向きの理由は価格競争の激しい日用品の世界で、同部門の業績(キャッシュフロー)が2017年度中に改善できなかったから、というものだが、業界では「君たちのビジネスがうまくいくはずがないよ、というベゾス氏のウォルマート(ロア氏)へのメッセージ」といううがった見方もある。

我が家のアーさん(アマゾンエコー、アレクサのニックネーム)にマーク・ロア氏って誰?と聞いてみた。彼女は短く「ウォルマート社Eコマース部門CEOで起業家です」とのみ答えた。

(画像)Bonobos.comトップページより
 2017/06/30 23:33  この記事のURL  / 

アディダス vs アンダーアーマー
アンダーアーマーの第3四半期業績が発表された。第2四半期時点で2年間守った2位の座をアディダス奪い返された。まだアディダスの業績が発表されていないが、成長率が落ちているのが気になる。

アディダスは全社売上規模の割にはアメリカ市場が弱く、同社がヨーロッパやアジアに目が向いている間に、新興勢力のアンダーアーマーが売上規模を拡大し、市場シェアを拡大してきた。しかし2014年6月に北米事業部トップに任命されたマーク・キング氏は、北米市場特性によりフォーカスした戦略を採用。スポーツ選手だけでなく、ミュージシャンのカニエ・ウェスト、音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスとコラボ・スニーカーを販売し、アメリカ人の好みのド派手で話題性のある商品開発を行う一方で、クラシックなルックのスタン・スミスのバリエーションを増やしたり、NMDモデルを8月に3回、9月に6回アップデートする等、商品鮮度を向上した。一方でモデルごとの在庫量を減らすことで限定性を高め、定価販売を増やしたことが成功の理由と報道されている。

おもしろいのは、中古市場でもアディダスが力を発揮していることだ。10月27日付のHighsnobiety.comによると、アディダスの頻繁なデザインアップデートと小在庫政策の影響で中古市場に出回る数量も減っており、プレミアム価格がどんどん上昇しているという。StockX社の調べでは同社の今年第3四半期中の売上で、「最も高い価格で販売された10点の靴」ランキングを見ると、トップ10にアディダス社から7点ランク入りし、平均で希望小売販売価格の280%で販売されたそうだが、ナイキ社からはエアジョーダンIVオブシディアンしかランク入りせず、価格は小売価格の39%だったという。

アンダーアーマーだが、規模が大きくなったことで自然と厳しい価格競争にもさらされ、また最近、最高商品責任者(CMO)と最高デジタル責任者(CDO)が同社を去る等経営の曲がり角に来ている。今回の業績を見て、ジェフリーズ社やコーウェン社の証券アナリストたちはアンダーアーマーは今後売上減少のリスクにさらされている、と懸念を示している。一方で、同社は直営のオンラインストア販売に力を入れており、卸売販売構成比の高い上位2社とは異なる、チェーンストアに頼らないチャネル戦略で力を見せていくかもしれない。

さて、1位のナイキと2位のアディダスの間には5倍もの売上高の差が存在する。NPD社アナリストのマット・パウェル氏によると、ナイキは6−8月の3か月間に、1秒間に25足販売ししたそうだ。当期利益もアディダスの2倍。アディダス社のキング氏は順位逆転に関する取材に対して「今は順位は問題ではない」とコメントしている。

(出所)図表:各社業績報告書より、グラフ:highsnobiety.com, StockXより

 2016/10/29 07:12  この記事のURL  / 

トーリー・バーチはアメリカのシャネル?
ウィメンズ・ウエア・デイリー紙が例年開催するCEOサミットの記事の中で、トーリー・バーチと共同CEOのロジャー・ファラ氏の対談に目が留まった。ファラ氏はラルフ・ローレン社の副社長まで上り詰め、いったんは引退したが、昨年トーリーが口説き落として現職についた業界の重鎮の一人だ。

トーリーのデザインは「プレッピー・ボホ(ボヘミアンの略)」と呼ばれ、気楽に着られ応用が利くスタイルだ。彼女を有名にしたのは頭文字のTをモチーフにしたロゴのメダリオン。日本でもこれがついたバレエ・フラッツ(靴)やバッグを持っている人は多いだろう。確かに彼女のデザインには独自な世界があるが、ブランドの急成長を下支えしたのは、彼女自身のライフスタイルやパーソナリティ、投資家の父と女優の母は結婚前にはそれぞれグレース・ケリーやスティヴ・マックィーンとデートしていた等の話題性に基づくマーケティングの力も大きかったようだ。

2度目の結婚相手で投資家だったクリストファー・バーチから200万ドル(2億円)を提供してもらい2004年にブランドを立ち上げ、翌2005年にはTV界に多大な影響力を持つオプラ・ウィンフリーがブランドを賞賛したことで人気急上昇。2006年に同社の急成長の原動力となったロゴ付きリーヴァ・フラッツを発売し、2008年には25万足を販売、2013年には500万足以上販売したという。現在推定年商は10億ドル、企業市場価額は35億ドルといわれており、全米に49店舗、海外24店舗、百貨店や専門店1,000箇所以上に卸売販売を行っている。

さて、ファラ氏は対談の中で「トーリーはアメリカのシャネルになれる」と語った。その根拠は魅力的な商品だけでなく、美貌も含めて人をひきつけるパーソナリティ、ファッション業界やセレブリティとの広範囲なネットワーク、その結果、業界からの受賞、TV出演、新商品デビュー・キャンペーンへの協力確保などあらゆる段階で「バズ・メイキング=評判を盛り立てる支援」を勝ち取るパワー、そして、へこたれずに働き続けるエネルギー、のようだ。

トーリー・ブランドは、アメリカ市場ではあまりにもロゴが普及してしまったので、ある日急落下もあり得るのではという懸念の声もある。ブリッジの価格帯だけに、商品の品質もお世辞にも最高級とは言えない。靴やバッグ、サングラスなどアクセサリーは好調のようだが、衣料品はどうだろうか。今年夏には「トーリー・スポーツ」というアクティヴウェア市場にも参入したが、
特に市場で人気という話は聞かない。

トーリー自身も急成長の10年間に続く「次の10年が大切」と語っていたが、確かにこれからが正念場のようだ。しかしブリッジという難しいカテゴリーの中でどう駒を動かしていくのか、興味深いファッション・ブランドだ。

(写真)トーリー・バーチ・スポーツのマンハッタンにあるポップアップストア。来年にはマンハッタンに直営1号店を出店する計画だ。(出所:トーリー・バーチ社)
 2015/10/30 22:54  この記事のURL  / 

初のニューヨーク・ファッションウィーク・メンズ版
アメリカではメンズファッションが注目されている。アパレル市場が飽和状態の中、アスレチックウェアやメンズには、まだ伸びしろがある、というのが大きな理由だろう。他にもITなど業種によってはスーツを着ないことが新たな服装基準となっていることも市場を活性化させてりる。

こういったニーズを背景に、初のニューヨーク・ファッションウィークのメンズ版が今月13日から17日までダウンタウンで開催された。ラルフ・ローレン、トミー・ヒルフィガー等のアメリカのメインストリームのブランドから、若手まで54のデザイナーが参加。レディス中心のファッションウィークから独立した初めてのショーということで注目されていたが、一言でまとめると「見るべきものはあったがショーとしてはこれから」というだ。

会場の様子を伝える報道の中からいくつかを紹介したい。
■ランウェイをモデルが歩いて見せるファッションショーよりも、より商談につながりやすいプレゼンテーションのほうが多かった。
■ショーでは最前列の席に誰が座っているかが注目されるが、通常のショーに比べて必ずしもスターや著名なプレス関係者で埋まっているわけではなかった。
■バックステージも同様。取材にいったプレス関係者の印象では、基本的にはどのショーもバックステージは静かでメークアップ中のモデルに向けてカメラのフラッシュが飛び交うということはなく、現場のPR関係者やスタイリストたちからは「chill(凍りついた=人が少ない、静か)」という言葉が頻繁に聞かれたと言う。
■モデルはレディスに比べて多様化が進んでいて、人種だけでなくタトゥーやピアスをつけたままのモデル、顔ひげがあるモデル、マッチョタイプから性別不明なモデルと、非常に多様でレディスよりリアルなモデルが多かった。
■百貨店バイヤー達は概ね好印象を持ったようだ。サックス・フィフス・アベニューのメンズファッション・ディレクターは「見たいものが見られた」し、買い付けも行ったとのこと。ブルーミングデールズのメンズファッション・ディレクターは、実際にはショーよりプレゼンテーションの方が多かったことについて、逆に服をよく見られてよかった、新人デザイナーについてもよく見ることができた、とコメントした
■フォーチュン誌は実際にオフィスに着ていけそうなルックを10スタイル紹介した。取り上げられたデザイナーは以下のとおり。
Nick Graham, Michael Bastian, Zachary Prell, Loris Diran, Billy Reid, Thom Browne, Jeffrey Rudes, Todd Snyder

「ああいう服を着たい」という憧れが重要な女性と違って、男性はよりプラクティカル、「自分が何を着ればいいか」という現実的な視点でファッションを見るのだろう。フォーチュンの記事には紹介したルック全てに「このスタイルからパンツは普通のに変えて」「サンダルではなく靴を履け」と細かいご指南がついていたのが大変に親切だった。

○情報ソース:ファッション専門情報サイト、ファッショニスタ、ウィメンズ・ウェア・デイリー、フォーチュン他)
○写真:フォーチュン誌が選んだルックからNick Grahamのプレゼンテーション, Michael Bastianのショーより(出所:ゲッティ・イメージ)



 2015/07/30 05:22  この記事のURL  / 

起死回生した小売業者たち
景気の悪い話が続いてしまったが、一方で業績回復を果たした企業もある。

◆ベスト・バイ
いきなり家電の話で恐縮だが、アメリカの小売業界では誰もが引き合いに出す話なのでしばしおつきあいを。家電業界は、アマゾンの低価格・スピーディな無料配送サービスのおかげで近年大手チェーンストアは廃業に追い込まれた。サーキット・シティはいまや伝説の名で、ラジオシャックは現在チャプター11だ。

ベスト・バイも業績はがた落ちで社員の士気も下がり買い物が苦痛な店ともいわれていたが、2012年にホスピタリティ業界からCEOを迎え、不採算店舗を整理するだけでなく、「販売員による専門度の高いサービス」、「価格マッチング」、「店舗でのピックアップ」を切り口に業績回復を果たした。特に、オンラインと店舗のヴィジュアルを重視し、すっきりとしたデザインのスクリーンや店内デザインに変更。また、サムソンやマイクロソフト・ウィンドウズのインショップを導入することでメリハリのある店舗として、アマゾンができない「実際にモノを見て触ることの楽しさ」を提供した点は、店舗事業の原点への回帰と言える。

◆JCペニー
2011年に鳴り物入りでCEOに迎え入れた元アップル店舗事業の幹部のとんちんかんなディレクションにより、クーポンや40%オフで日常生活品を買う店から、クーポンとバーゲン完全撤廃のトレンディでチープシックなインショップ集合体に変えてしまった結果、既存比が▲25.1%も下がってしまったJCペニー。結局、2013年に前のCEOウルマン氏が戻ってきて、昔通りにクーポンとバーゲンの店に戻し、2年かかってやっと業績が回復した。

昔通りと言っても、決して古いものに戻った訳ではない。元アップル幹部の号令で多くの店舗がインショップに向けて店舗改装を行ったため、結果的にリフレッシュした店内、広くて歩くやすくなった通路などは残り、ここに「以前よりちょっと陳列をきれいに」したり、「以前よりちょっと価格などの表示を見やすく」したり、「以前よりちょっと販売員がぶっきらぼうでなくなったり」と言う少しずつの改革を行った結果でもある。元アップル幹部は最後たたき出された形だったが、「以前よりちょっと」の多くは彼の大変革の落とし子だ。反面教師という意味で彼の役割は大きかったと思う。まもなく救済に戻ってきたウルマン氏は2回目の引退に入るので、次のCEOが「現状復帰」以上の業績伸長を果たせるのか、見ものだ。

◆ターゲット
ターゲットは2013年クリスマス商戦時にクレジットカード・顧客データ流出事件にあい、当然のように業績が下がった。これの回復策として決め手になったのが、ジェイソン・ウーや直近ではリリー・ピューリッツアー等「デザイナー・コラボレーション」プロジェクトだった。次回はジュエリー・デザイナーのエディ・ボルゴだそうだ。

このコラボはデザイナー商品をターゲット価格で買えるだけでなく、「期間限定商品」という点が魅力だ。リリーPの時にはオンラインがクラッシュするほどの人気で、ミッソーニの時も即日完売でクレームが出たほどだ。自分が着用しなくても「限定品」ということでeベイ等で再販するとプレミアムがつくのも魅力とのこと。顧客の間で「今度は私が好きなあのデザイナーにして!」というソーシャルメディア上の会話も、企業にとっては価値のあるフィードバックだ。

◆アメリカン・イーグル
本ブログでアメカジ3兄弟と呼んでいた次男坊、アメリカン・イーグルが業績という数字上復活した。さすが次男坊はたくましい。店頭を見ていても確実に言えることは、同社は「品揃えを絞り込むという犠牲をおかしてでも、セール乱打から足を洗い、コア顧客の目を覚まさせた」という点だろう。品揃えの幅を狭めるのは勇気の要ることだ。ちょっとのさじ加減で「つまらなくなった」と思われてしまう。しかしアメカジのようにクラシックなカテゴリのファッションなら、1球1球のクオリティをあげることで頑張れる、と踏んだのではないだろうか。

長男のアバクロは昨年秋にロゴを廃止と宣言し、最近ではセクシー路線も中止したばかりだが、今週「ロゴをちょっぴり戻す」とまた路線修正を行った。アメリカン・イーグルは客足が減っても、利益が改善するまで自社ブランドのフィット感やディテールのクオリティ、テーストを信じて2年間じっと我慢した。

ちなみに三男坊のエアロポスタル4日前の四半期業績発表で、既存比▲11%。前年同期の▲13%よりはましなものの、予測を下回り、投資家系のオンライン・ジャーナルには「終焉の始まりか?」という見出しまでついている。もしこれが実現してしまったら、価格帯の少し上のイーグルにはディフュージョンラインで市場シェアを取るという選択肢も出てくる。もちろん、それまでにコアブランドが本格的に強くなっていればの話だが。

(図表出所)各社決算報告書より

 2015/05/31 01:11  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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