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ワールドトレードセンター地区に開業したウェストフィールドモール
8月16日に開業したウェストフィールドモールをレポートする人は皆、この言葉を思い浮かべることだろう。あれから15年。まもなく9.11がやってくる。

被災後数年たっても、多くのニューヨーカーは家族や知人が犠牲になった場所にショッピングモールを作ることに批判的だった。2001年のあの日、私もワートレ(在ニューヨーク日本人の間の省略語)の下を地下鉄でくぐってブルックリンの取引先と会う予定だった。事件が起きて、頭が空白なまま取引先に電話すると、ブルックリン側ワートレの対岸のスタジオにいた彼女は「人がビルから大勢落ちているの。今日のミーティングは延期しましょう」と泣きながら答えた。結局その後彼女は精神的ショックとテロ後の不景気の影響で長い間仕事ができなくなり、ミーティングは自然消滅した。

とは言え、いつまでもローワーマンハッタンがガランとしたままではテロに屈したことになる。既に同地区西側にブルックフィールドSCが2015年から開業していたが、ウェストフィールドモールの方が規模も大きく、またその開業に合わせてニュージャージー州とマンハッタンをつなぐ通勤路線パストレインの駅が新装オープン、ニューヨークの地下鉄13路線とパストレインがモールで結ばれ、毎日30万人の通勤人口がこのモールを通過するため、ウェストフィールドの開業こそがワートレ地区の再出発、というコンセンサスがあった。

ウェストフィールド社はこの場所の特別な意味をよく理解し、ただ買い物する空間ではなく、自然に人が過去や未来に想いをはせたくなるような巨大なオキュラスをショッピングモールにかぶせた。米紙では「スターウォーズの宇宙船のような」と書いてあったが、私はナウシカのオームを連想した(ちょっと角が長いが)。開業1週間後の日曜日だったが、国内外からの観光客、地元市民で大賑わいだった。ただし買い物というより見学、自撮り目的が多かった。オキュラスの巨大空間を見渡しながら「すごいね〜」と言った後しばし沈黙している人を多くみかけた。

商業ゾーンはオキュラス内3層で、主なテナントはアップルストア、ボーズ(オーディオ)、ヒューゴボス、H&M及びコス、&アザーストーリーズ、ケイトスペード、ジョンヴァルヴァトス、ラコステ、バナナリパブリック、アンダーアーマー、コールハーン、ヴィンスカミュ―ト、セフォラ、キールズ、マック等。グッチやフェラガモのような欧系ラグジュアリーブランドはハイエンドモールを謳うブルックフィールドプレースに入店し、ウェストフィールドはブリッジから下の価格帯だ。

ブルックフィールドプレースは開業後1年以上たつが、まだアンカーのサックスフィフスアベニューが開店していないこともあり、今一つインパクトに欠けている。物販部門はラグジュアリー過ぎて、いくらトライベッカ等高所得者居住地区を商圏に持つとは言え、地元客が頻繁に買い物できる店が少ないという声もある。ウェストフィールドはこれに対して、一日2万人近くの来店客を持つ人気のイタリアンフード店イータリーやショッピングモールに出店を加速している高級キャンディストア、シュガーフィナ、地元ニューヨーカーに人気のレディMやアーヴィングコーヒー、日本からは源吉兆庵など誰もが興味を持ちそうな食の物販も充実させており、地元客の定着も期待できる。

ただし視察時、まだ約100店舗のテナントのうち6割強しか開業していなかったこともあり、観光として様子を見に来た人であふれており、ショッピングバッグを持っている客は人出の多さに比べて少なかった。

テナントが出揃い、ホリディシーズンに入れば、集客力を背景に本領を発揮してくるだろう。来月にはブルックフィールドプレースのアンカー、サックスフィフスアベニューも開業予定なので、これで両モールがフル稼働し、本格的に新生ワールドトレードセンター地区がスタートする。月日がたてば、ここも日常的な風景になるだろうが、それでも、しばし沈黙し、オキュラスの天井のガラス越しにかつてビルが2本あった空を見上げたくなるような雰囲気は消えないで欲しいと思う。

(写真)ウェストフィールドモールより筆者撮影


 2016/08/27 22:42  この記事のURL  / 

大学と小売業(1)
規模の面で全米第5位、クリスチャン系大学としては世界最大のリバティ大学(ヴァージニア州リンチバーグ)が18日地元のショッピングモール、リバーリッジを買収した。同大学は既にモールの一部、シアーズの跡地を買収し、大学のオンライン通信教育のオペレーションセンターとして活用していた。当初、モールを所有するCBL&アソシエーツプロパティ社より、大学が所有するシアーズ跡地を売却しないかという打診があったことをきっかけに、逆にモール全体の買収に踏み切った。

リバーリッジ・モールはリンチバーグで唯一のエンクローズ型モールで1980年開業。当初はJCペニーやシアーズをアンカーとし、近隣のSCからも客を奪うほど集客力の高いモールだったが、施設の老朽化や、モール全体が集客力を失う中で過去数年は収益力低下が目立っていた。現在はペニーやシアーズは撤退し、南部の有力リージョナル百貨店ベルク、全米最大のオフプライスチェーンTJマックス、全米2位のクラフト専門店ジョアン他80店舗以上の専門店とレストラン、フィットネスクラブ等が入店している。

リバティ大学はモール株式の75%を所有するが残り25%はCBLが保有し、モールのオペレーションを継続する。両者はモールの一部、導入口にあたるエリアをオープン型モールに改装し、モール全体を再活性化する計画を立てている。これにより、モールの収益力回復と地元コミュニティの活性化を実現する予定だ。

全米ショッピングセンターは消費者のオンラインショッピング化が高まる中で集客力が落ちており、将来が案じられている。しかし全体像とは別に個別にモールを見ると、立地条件、魅力あるテナント揃え等々で独自強みを発揮し、十分にサバイバルの余地があるモールが存在する。今回の事例の場合、大学というコミュニティの利便性や魅力を向上させ、しかも小売ビジネスの収益を大学経営に活用する、という2度3度おいしいビジネスモデルだ。

下記のグラフに見られるように、中央集権型のチェーンストアやショッピングセンターは以前ほどパワフルでなくなり、オンラインショッピングが優勢となりつつある。消費者のニーズや買い物の選択肢が多様化する中、仮に全国均一ネットワークが崩壊する日が訪れるとしても、こうした地元に根付いたコミュニティ主導による個別生き残り戦略で小売業は活性化できるのではないだろうか。その意味で、消費の今後のカギを握る若い世代が集まる大学コミュニティは注目される。

(写真)リバティ大学(出所:大学提供)
(図表1)2010年から13年までの来店客数(ショッパートラック社データをウォールストリートジャーナル編集、2014年1月16日掲載)
(図表2)US、Eコマース売上高(10億ドル、フォレスター社調査)



 2016/03/21 04:49  この記事のURL  / 

マンハッタンに新たなラグジュアリー・ショッピングの波
フリーダム・タワーが年内開業を目指して内装工事を急ぐローワー・マンハッタン。足元の商業ゾーンもブランド獲得競争が熱気を帯びている。

同地区には小売スペース1万2600坪を持つウェストフィールド・ワールド・トレード・センター(WWTC)と旧ワールド・ファイナンシャル・センター、現在ブルックフィールド・プレース(BP、7,025坪)が姿を現しつつある。

そのBPにサックス・フィフス・アベニューの出店が決まりそうだ。フルライン店舗でBPのアンカーとなる。他にエルメス、フェラガモ、ゼニア、セオリー、スクープ、マイケル・コース、ボノボス、ダイアン・フォン・ファステンバーグ、カリプソ、ジュディス&チャールズにお声がかかっているようだ。

一方WWTCではアルマーニ、トム・フォード、ティファニーの名前が挙がっている様子。こちらはアンカーをもたないと推測されている。サックスのアウトレット部門、オフ・フィフスはこちらに出店する計画で、マンハッタン初出店だ。場所はNYローカルのアウトレット・チェーン、センチュリー21の近くだ。

共に詳細は明らかにされていないが、BPは来年の開業を予定している。

永らくマンハッタンには新規のラグジュアリー・ショッピング街開発が行われなかった。最も最近の開発は2003年開業のコロンバス・サークル(アッパーウェストサイドとミッドタウンの境界)のタイム・ワーナーセンターだろう。ただし、開業当時は「マジソン街に近過ぎる」という理由で、なかなかラグジュアリー系のブランドが入店しなかった。1F中央入り口の角地ベストロケーションを、聞いたこともない葉巻とネイティブ・インディアンの飾り物等を売っている店が入居し、10年リースが切れてようやくマイケル・コースが現在工事中である。

マジソン街もかつての勢いが衰え、一時期の空き店舗は埋まってきたものの、新規出店はコンテンポラリー系ブランドが目立つ。フィフス・アベニューは20世紀の終わりには既にファストファッションやショッピングモール系ブランドの通りとなってしまった。

今まで観光客はもとより、地元の人間も寄り付かなかった34丁目ハドソン川沿いに、ハドソン・ヤードという一大プロジェクトが進行中だ。ここもアップスケールな開発を予定していて、ニーマン・マーカスが検討中とのこと。

ニューヨークは長いこと、パリ、ロンドン等と比べてラグジュアリー・ショッピングでは随分見劣りがしていたが、久々の景気のいいニュースである。
(写真:ブルックフィールド・プレースのウェブサイト、brookfieldplaceny.comより)


 2014/04/27 06:10  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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