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大学と小売業(2)
アマゾンが大学キャンパス内の出店を加速している。今月はテキサス大学、アクロン大学、ジョージア工科大学と3か所に出店し、2015年の大学キャンパス内出店1号店から8か所出店済み。2016年内に少なくともあと2か所が決定している。既に出店した大学の中にはカリフォルニア大学バークリー校やデイビス校など著名大学も含まれている。

店舗、正確には「アマゾン@(大学名)」ロケーションは約2500スクエアフィート(70坪)でアマゾンスチューデント会員*やプライム会員が正午までにオーダーすれば即日ピックアップ。夜10時までのオーダーは翌日ピックアップが可能だ(無料)。もちろん返品も受け付ける。

同大学は学生数25,000人強。。大学側はこの出店について「我々の学生はバリューと利便性を重んじる賢い消費者であり、アマゾンのテクノロジーを創造的に活用した新たなサービスを喜んでいます。」と歓迎のコメントを寄せている。

アメリカの大学寮や近隣の学生用のマンションでは、郵便物の受け渡しルールが厳しいかったり面倒なケースが多く、このようなピックアップサービスがキャンパス内にあることは確かに大変便利が良い。しかもアマゾン側にとっては最低限の投資で大きな宣伝効果を得、これからの消費を担うミレニアル世代をがっちり青田買いできる。「店」と言ってもここでモノを販売する訳ではないので、在庫投資もPOSレジも不要、人も最低限で済む。学生たちは皆PCを持ち歩いているので、店内にあるちょっと座れるカウンターで、自分のPCや携帯からオンラインで購入すれば事足りる。何とシンプルかつ合理的なビジネスだろう。

一方で、アマゾンの「競争相手だった」書店チェーンのバーンズ&ノーブルは、全米で大学ブックストアを748店**出店している。ところがこの業績が悪化しており、直近の第3四半期では既存比▲4.1%マイナスとなった。苦戦の原因は春学期開始が遅かったことで教科書購入のタイミングが暦ズレを起こしたこと、就職難の関係で短大入学者が減り、ここの売上が落ち込んだことだ。短大店を除くと既存比▲2.2%で、それでも全体的に業績は良くないことがわかる。

実は先週、私のアメリカでの母校のブックストアに久々に買い物に行った。必要があって昔の教科書を購入するつもりだったが、今や多くの科目はオンライン上で資料やマテリアルを見るようになっているため、教科書の種類が激減していた。若い先生たちの教授方法も変化し、より「今現在のビジネスを教える」という立場から、紙の教科書など使わない人が増えているそうだ。ここもバーンズ&ノーブル経営のブックストアだが、そういう訳で教科書よりステーショナリーや大学グッズの方が多く、店員もぎりぎり2人で全てを回しているため、高価な教科書は盗まれないように、教科書売場全体をまるで殺人現場のようにテープで囲ってある。これをくぐって中に入ろうとしたら販売員に止められ、「私が取ってきてあげよう。教授の名前は?」と尋ねられた。昔の商店街の本屋さんを尋ねているような錯覚に陥る。一応ゆっくり座って本を見る場所もあったが、そもそも目的の本がなかったため、何も買わずに帰宅し、迷わずアマゾンで購入した。

本屋の話ではあるが、これがファッションの世界でも起きていないと誰も断言できないだろう。既にアマゾンはアメリカ8大学のキャンパス内に拠点を構えているのだから、近隣のショッピングモールはアマゾンに客を取られているに違いない。しかも大学生は将来の消費を担う人々なのである。

*年会費49ドル、プライム会員費の半額で、同様の無料2日配送、無料TV番組やビデオ・ストリーミング、プライムミュージック、無料キンドルブック・レンタルサービスを受けることができる。

**昨年8月時点

(写真)アマゾンのカリフォルニア州バークレー校キャンパス・スペースより。

 2016/03/22 12:15  この記事のURL  / 


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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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