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アメリカ小売業界に広がる「架空価格」集団訴訟とオムニチャネル戦略
最近、大手チェーンストアによる虚偽の価格をめぐる集団訴訟が急増している。始まったのは2014年のニーマン・マーカス、ノードストローム・アウトレット部門への集団訴訟のあたりからで、その後マイケル・コース、2015年にはジョスAバンク(5月)、バーリントン・コートファクトリー(7月)、TJマックス(7月)、シアーズ(8月)、コロンビア・スポーツウェア(10月)ケート・スペード(11月)など。直近では12月末にメーシーズとブルーミングデールズの百貨店部門が同様の集団訴訟を起こされている。

問題とされるのは、例えば40%オフという販促時の値札に「オリジナル100ドル(もしくはcompare at=比較価格)、現在60ドル(多くの場合40%オフも連記)」という表示があるのに、その商品は実際には一度も100ドルで販売されたことはなかった、という状況だ。英語ではfalse pricing, imaginary pricing(架空価格)と呼ばれる。当該商品がその価格で売られたことがないのであれば、40%オフには根拠がなく、消費者を惑わし、実際の価値とは異なった商品を販売している点が問題だ。

マイケル・コースの場合は、アウトレットで販売している商品の一部が、実はアウトレット店専用に製造された商品であり、一度もマイケル・コースの定価店舗で販売されていないのに「オリジナル価格」を謳った点が争点となった。

このような訴訟が増えた背景には、アメリカ大手チェーンストア全体、特にファッションを売る百貨店やアウトレットがあまりに頻繁かつ継続的に価格プロモーションを行う結果、価格に対する信頼性が下がったこと。そのまた背景には「ファッション(特にアパレル)が売れにくくなり、値引きに頼らざるを得ない」という厳しい現実がある。

集団訴訟がこの1,2年で増えたもう1つの理由は、被告側のリテーラーが無罪を立証するより原告側と早期に和解する方が手っ取り早いためすぐに示談に持ち込む、その結果「お金を取りやすい」として訴訟ターゲットとなってしまうことだ。

マイケル・コースは総額487.5万ドルで和解した。確かにアウトレット専用商品を定価で販売するということはしなかっただろう。その他はまだ係争中が多いが、一方でノードストローム社は勝訴した。原告側の実証能力が低く、本当に当該もしくは類似商品をノードストローム社がアウトレット部門に回す前に一度も販売及び広告しなかった、という点を実証することができなかったからだ。

しかし、ノードストロームの勝訴は単純に原告側が準備不十分だったお蔭ではない。まず同社は@オムニチャネル戦略拡大の結果、店舗側での定価販売の実績だけでなくオンライン側での定価販売実績を立証することができた、A同社は行き過ぎた価格プロモーションを反省し、昨年、年間のセール・カレンダーを改変、値引き期間や回数を減らして整理、このような、先を読んだ戦略が思わぬところで役にたったようだ。

2016年、アメリカのファッション業界は、6日発表されたメーシーズ百貨店の業績不振と3000人の解雇を含む4億ドルのコストカットに象徴されるように、各社とも厳しい市場環境を予測している。しかしそれ故に、新たな革新や魅力的なショッピング経験が出てくることも期待できるだろう。

(写真)classactionnews.comより
 2016/01/11 07:25  この記事のURL  / 


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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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