ショールーミング退治方法をアマゾンが特許登録
ショールーミングとは、実際の商品を店舗で確認し、価格をスマートフォンで比較して結果的に一番安いオンラインストア(多くの場合アマゾン)で購入することだ。この言葉が一般用語になって久しい。しかし被害の大きかったベストバイ(家電)を始め、多くの企業が競争相手のマークダウンを分単位で認識し、自社の価格を自動的に下げるシステムに投資し、プライスマッチ戦略を強化したため、最近ではショールミングの話は聞かなくなっていた。

ところが6月半ば、アメリカの多くのメディアがアマゾンがショールーミング対策の特許を5月に登録したことを報道した。ホールフーヅ買収でいよいよアマゾンが本格的に実店舗経営に乗り出した、というニュースの一貫で噴出した感じだ。

アマゾンが登録した特許内容では、店舗にいる顧客が店舗提供のwifiを介してオンライン検索をする場合、探しているurl経由で比較している価格その他の情報を認識することができる。
それだけではなく、アマゾンがその顧客にクーポンや類似商品情報などを提供できる。
応用として考えられるのは、店舗スタッフがその情報をキャッチした段階で、直接顧客に人的接客を提供することだ。

報道したメディアは口々に「ショールーミングを起こしたのは自分達だろう」というコメントを添えていた。それはそうかもしれないが、言ってしまうと負け犬の遠吠えに聞こえてしまう。

特許取得には時間がかかる。恐らく自社ブックストアを出店した2015年11月の頃には既にここまで考えが及んでいたのだろう。小売業界としては、アマゾンゴーなどで驚いていてはいけないのだと改めて考えさせられた。
 2017/07/07 12:39  この記事のURL  / 


ウォルマートのボノボス買収とアマゾン
6月16日、アマゾンがホールフーヅ買収を発表した直後にウォルマートがオンラインアパレル専門店、ボノボスの買収を発表した。日本のファッション業界人がアメリカ視察時に必ず訪れるボノボスをウォルマートが買収!?本来ならもっと大きなニュースになり、株価も上がったはずだが、アマゾンの爆撃に株価は一時下がり、さぞかしIRチームは悔しかったに違いない。

ウォルマートは10年ほど前、ファッション領域には若い感覚のPBやマイリ−・サイラス等有名人との提携エクスクルーシブブランドの導入で拡大を図った。しかし結局アパレル部門の売上拡大にはつながらず、近年はアマゾンとの攻防もあり、食品とオンラインビジネス拡大に力を注いできた。

昨年8月にJet.comを買収し、同社のCEOマーク・ロア氏をウォルマート本体のオンライン事業トップに迎え入れてから、ウォルマートは再びファッション事業に投資を始めている。今年1月には靴のShoeBuy.com、2月にアウトドアのMoosejaw.com、3月に独特なヴィンテージ感覚のレディスファッションModCloth.comを買収しており、選定から実際の買収主としても全てJet.comが主導している。今回のボノボスもこの流れだ。

ボノボス買収の真の目的は創業者のアンディ・ダン氏の獲得が目的のようで、ウォルマート広報担当は「ダン氏は我々のEコマース部門のブランド事業において新たな、より大きな役割を果たしていただく。」「レディスのModClothとメンズのBonobosという強力なブランドを獲得した。今後はアンディが両方を掌握し、この業界の切り込みに本格的な力を発揮していく」と発表している。

要するに、餅屋は餅屋ということで、(ファッション専門家をチームに入れる)+(オンライン専業ブランドを導入)=(ファッションとオンラインの両方で勝てる)という図式ではないだろうか。
マーク・ロア氏はもともとは2011年にアマゾンに買収されたQuidsi.comの創業者だ。彼はおむつやベビー用品専門のDiaper.com、日用品のSoap.comを立ち上げ成功させ、アマゾンの傘下に入った。しかし2年ほどアマゾンでベゾスに仕えた後、2014年にJet.comをネート・ファウスト氏、マイク・ハンラハン氏と共に創業し、創業当時からアマゾンの本格的対抗馬として注目されていた。

ロア氏がアマゾンに残したQuidsi部門、Diaper.comをアマゾンは今年3月に解散した。表向きの理由は価格競争の激しい日用品の世界で、同部門の業績(キャッシュフロー)が2017年度中に改善できなかったから、というものだが、業界では「君たちのビジネスがうまくいくはずがないよ、というベゾス氏のウォルマート(ロア氏)へのメッセージ」といううがった見方もある。

我が家のアーさん(アマゾンエコー、アレクサのニックネーム)にマーク・ロア氏って誰?と聞いてみた。彼女は短く「ウォルマート社Eコマース部門CEOで起業家です」とのみ答えた。

(画像)Bonobos.comトップページより
 2017/06/30 23:33  この記事のURL  / 


アマゾンがホールフーヅマーケットを買収
アマゾンがホールフーヅマーケットを買収した。今朝のニュースを聞いた時は思わずエッ!?と声に出たが、137億ドルで460店舗以上の高級自然スーパーマーケットチェーンを手に入れた。アメリカの小売業界では突然市内に爆弾を落とされたかのありさまだ。

全米TVネットのCNBC局では、コメンテイターが「この買収はゲームチェンジャーだ!これからはアマゾンの力で食料品価格がデフレに向かう!ジョン・マッキーCEOは株主との闘いに疲れきって、こんなことをしたんだ!全てが変わる!」と最後の方は声を荒げて大興奮、今にも卒倒しそうな報道だった。

ホールフーヅは近年、業績が頭打ちで7期連続既存比割れ、アクティビスト投資グループ、ジェイナパートナーズから現在の経営者退陣をもちらつかされていた。創始者でありCEOのジョン・マッキーは、我が子と公言するホールフーヅを守るためにアマゾンに身売りした、という話だ。

ウォルマートはCNBCの取材に対して「我々は全米に4500店以上を持ち、オンラインビジネスも急成長中であり、競合環境についても自信がある」と答えた。

ホールフーヅはオンライングローサリービジネスでは遅れを取っているが、彼らの店舗は大都市圏の高額所得者居住地区に立地するため、アマゾンフレッシュやプライムナウの商圏と重なる。アマゾンに取っては自社が顧客情報をたっぷり持っている商圏内に店舗を手に入れることができた。

一方で、高品質だが高価格で知られているホールフーヅと、価格破壊をリードしたアマゾンが戦略的に相いれるのか、という課題を指摘するアナリストもいる。

実はアマゾンは昨年秋からホールフーヅ取得に動いていたそうだが、その時は話が進まなかった。しかし、前述のアクティビスト投資家の強引な動きの中で再度アマゾン側から話を持ち掛け、買収が成立した。

このことは、「アマゾンがいかに食料品店チェーンを手に入れたがっているか、いかに実店舗のメリットを信じていることを物語っている」、とウェッドブッシュ証券アナリスト、マイケル・パクター氏は述べている。これによって「理論的には、5分配送なども可能になる」という解説だが、実際にはこれ以上の配送スピード短縮以外に目的があるに違いない。

アマゾンゴーでは、RFIDやセンサーを張り巡らし、詳細に買い物客の行動をモニターしようとしていた。ブックストアではそこまでのセンサー類は無いように見えるが(実際に什器を調べてみたが)、何かこれはいかにもテックパーソンの知恵であり、チェーンストア経営の知恵とテクノロジー専門家がそれぞれの角度から意見交換したら、もっと合理的で現実的な方法が出てくるに違いない。

当面は大きな変化は無く、マッキーCEOはそのままホールフーヅの経営に携わる。しかし、あのベゾス氏が、ホールフーヅという美味しそうな新素材を前にいかなる戦略を生み出すだろうか。既に「ホールフーヅではいずれロボットがオーガニック野菜の鮮度をチェックするのか?」とか「店中ハイテク什器に置き換わる」「ますますオンラインで食品を買うから店舗がいらなくなるかも?」などなど、根拠のあるなしに関わらず、あれこれ、おもしろい憶測が飛び始めている。これは、頓挫中のアマゾンゴーや今一つ意図不明なアマゾンブックストアなどよりも数十倍おもしろい展開になりそうだ。これだから、アメリカ小売業界研究はやめられない。
 
(写真)ホールフーヅマーケット店内のフードコート。
 2017/06/17 07:46  この記事のURL  / 


オムニチャネル戦略人事に広がるアジア系移民(メーシーズ編)
既存比割れが続く百貨店メーシーズが先週、攻めの人事を発表した。新CEOジェフ・ジェネット氏に交代して初めてのメジャーな動きだ。

まず、オムニチャネル戦略をテクノロジー面から支えるヤサール・アンワール氏のCTO(チーフテクノロジーオフィサー)からEVP(エグゼクティブバイスプレジデント)&CTOへの昇格だ。アンワール氏はもともウォルマートの出身で、サムズクラブやウォルマートのウェブサイトの設計リーダーからスタートし、ウォルマートラボで同社グローバルEコマースの次世代プラットフォーム開発の指揮を取った。その後2012年5月にメーシーズに転職してオンラインのエンジニアリング・バイスプレジデントに着任、2014年4月にはシニアVP、デジタルテクノロジーに昇格し、2017年2月にCTOに昇格した。つまりはアメリカの小売業界テクノロジーのトップクラスのキャリアを持つ人材だ。

次に、メーシーズEコマース部門のEVPデジタルテクノロジー・カスタマーエクスペリエンス&サイト・マーチャンダイジングだったマイク・ロビンソン氏をEVPプロダクトマネジメント&カスタマーエクスペリエンスとしてデジタル部門から切り離した。マーチャンダイジングと顧客経験に特化し、デジタルテクノロジー部門はアンワール氏に任せる形だ。

ジェネットCEOは「テクノロジーの力を最大化し、デジタル&モバイルプラットフォームの成長を続けていくことはメーシーズにとって最高のトッププライオリティだ。我々はこれを支えるためにテクノロジーチームを再構築する」とコメントしている。また「メーシーズのテクノロジーチームをヤサールの指導下に集めることで、より迅速に事業トランスフォメ―ションのためのプラットフォームを確立する」とも述べている。

ロビンソン氏はビジネススクールを卒業後、IBMなどを経て2005年10月にギャップに入社しIT戦略&事業計画のVPを務め、メーシーズには2010年2月にSVPテクノロジーとして転職している。5年後の2015年2月には同社EVPに昇格し、今回の人事に至った。ビジネススクールを卒業後、5年ごとに転職と昇格を果たし、いかにも模範的なアメリカのキャリアアップの道を歩んできた人材である。しかし今回の人事では、メーシーズに2年後に入社したアジア系移民のアンワール氏に追い越されたかっこうだ。もともとプロダクトマネジメントやカスタマーエクスペリエンスのキャリアがある訳ではないようなので、この分野に強い若い人材(特に女性)の競争相手が出てきたら、を想定すると、ロビンソン氏はそろそろ次の5年計画を考える時かもしれない。

今回の人事発表は、いかにアメリカのテクノロジー分野で移民が力を発揮しているか、の典型的な事例でもある。特に小売業界を見渡すと、南アジア系移民が多い。セフォラ、ノードストロームやアマゾンなど、筆者が毎年参加している全米小売業協会年次総会でも一目瞭然だ。これは「アメリカ人は理数系が不得意なのね」などというナイーブな話ではない。「アメリカのチェーンストアの死活問題がかかっているオムニチャネル戦略の要所で多くの移民が鍵を持っている」ということだ。移民の才能と大統領の話になると横道にそれるので避けるとして、メーシーズの新CEOが適切な能力を持つであろう人材に重任を預け環境を整えた点については評価し、今後百貨店の業績改善なるかを注目したい。

それにしても、オムニチャネル戦略を唱える日本のチェーンストアが、外から有能な人材を連れてきてでも目の前の目標に挑戦する事例があるのだろうか。勉強不足ゆえ、調べてみようと思った。
 2017/06/12 01:45  この記事のURL  / 


アスレジャーと新興オンライン勢とJクルー「前」CEO
昨日、ミッキー・ドレクスラーCEOが辞任を表明、ウィリアムズソノマ傘下のコンテンポラリー家具チェーンのウェストエルム部門トップのジェームス・ブレット氏を後任に任命したことを発表した。

ドレクスラーはギャップ時代にオールドネイビーを作り、同社の売上の柱にまで育てCEOとなったもののギャップを追放され(注:当人の公式見解)、2003年にJクルーにCEOとして着任して以来、保守的なプレッピースタイルにコンテンポラリーな要素を加え、素材にこだわり、一時期はデザイナーブランドより手ごろで長く着られるとして成功を収めた。オバマ大統領一期目の就任式に娘たちが同社のジャケットを着用したり、ミッシェル夫人も公式の場のあちこちでドレスやカーディガンを着て登場したことでさらに人気を高めた。

しかし下図の通り、2013年頃から旗艦ブランドのJクルーが伸び悩み、カジュアルな姉妹ブランドのメイドウェルが健闘したが既存比は10四半期連続でマイナスが続いている。ちょうどこの頃からアスレジャーが台頭し始め、一方で今までには無い新たなビジネスフォーマットを持った新興オンラインアパレルが市場を形成し始めていた。例えば圧倒的に履き心地の良いメンズボトムスからスタートしたボノボスや過激な価格透明性のエバーレーン、オンラインレンタルのレントザランウェイなどだ。

Jクルーはもともとカタログ出身なのでオンライン売上比率は37.7%(eMarketer社調査)と高い。しかし残念ながらオムニチャネル戦略や、デジタルマーケティング強化など、今の時代にふさわしい売りの革新に遅れていた。ドレクスラー氏があまりにもモノづくりに長けていたマーチャントだったからだろうか。

彼自身がドレクスラー時代の終焉をにおわせていたいくつかのコメントがある、2015年から「今はアパレルを売るのが難しい時代」という発言を公の場やプレスインタビューで繰り返していた。また、成長市場として無視しえないアスレジャーについては「我々はやらない」と断言したにも関わらず、現在店頭やオンラインではJクルー・スポートと呼ばれるヨガパンツやタンクトップなどが売られている。

販売革新6月号に書かせていただいた「ネットがもたらす米国大量閉店の今」の通り、アメリカではチェーンストアがどんどん閉店・倒産に追い込まれている。一方で前述の新興オンラインストア組はonline to offline(オンラインからオフライン=店舗へ)という流れを作って出店を加速している。成功している新興組は、商品にも工夫はあるが、どちらかと言うと「斬新な売り方」が決め手となり、人気を集めている。アメリカのファッションの歴史にきっと名前が残るであろうミッキー・ドレクスラーだが、ここを押さえることができなかったのはやはり引退の時、ということだったのだろうか。

しかしドレクスラー氏は2013年からワービー・パーカーの取締役をつとめている。同社に出店を強く進め指導したのも彼だった。WWDの独占取材にも「フルタイムで仕事をしないのには慣れていない」とあり、「新たなことへの挑戦」も示唆しているので、もしかしたら若い起業家たちのバッカーとして第三幕を既に準備しているのかもしれない。

(図表)Jクルー社アニュアルレポートより筆者作成 (画像)jcrew.comのスクリーンショット



 2017/06/07 03:23  この記事のURL  / 

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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

アメリカ小売業コンサルタント

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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