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新たな視点と視野を広げる映画の効能 東京国際映画祭

(c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

毎年そうなのだが、東京国際映画祭と春夏物の展示会シーズンが重なって、なかなか観に行けずに悔しい思いをする。そんな中でも合間を縫って、六本木ヒルズのTOHOシネマズを中心に観て回るのだが、今年は2つの映画を観て知見の広げ方について考えさせられた。



1本目は日本映画で「勝手にふるえてろ」。本作は、芥川賞作家、綿矢りさの同名小説が原作で、松岡茉優扮する恋愛ド素人のOL、ヨシカが、突然告白され付き合うことになった会社の同期「ニ」(渡辺大知)とのリアルな恋愛と中学時代から片思いしている「イチ」(北村匠海)との妄想の恋の狭間で揺れ動く切ない様子がコミカルに描かれる。ヨシカは、絶滅した生物に想いを馳せ、普段すれ違う人々との妄想の会話を繋いでいくという脳内暴露型のリズミカルで可笑しげな会話が飛び交う演出で、観るものを引き込んでいく。ある種の女子目線の解釈が怒涛の如く、オジサンの脳内に飛び込んでくる感じがするのだ。2人の男とのラブストーリーは果たして?。それは観てのお楽しみ。12月23日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。


(c)2017 Dongchun Films Co., Ltd.

もう1本は中国映画の「老いた野獣(原題:Old Beast)」。内モンゴルのオルドスが舞台で、監督のいとこの家に起こった話から着想を得たそうだ。因みにオルドスは2005年から経済発展の波が押し寄せ、この10年間で農村から都会へと大きく変貌を遂げるが、周知の如く、不動産バブルの崩壊に借金漬けの人々など中国社会が抱える発展の歪の闇が垣間見える。ストーリーはというと、60代の荒くれ親父、ヤンが事業に手を出しては失敗し、ギャンブルを繰り返す懲りない日々を送っている。3人の息子は父に似ず堅気の生活だが、決して豊かではない。遊び歩いて愛人宅で戯れているヤンだが、そんな時に病弱な妻が倒れてしまう。携帯のバッテリー切れでヤンには連絡がつかない。子供たちは手術代を工面するも、なんとヤンは、それを持ち逃げしてしまう。必死に育ててきた子供たちとの心の葛藤、妻への懐かしい恋慕、そんな感情がない交ぜになったラストシーンも切な過ぎる。経済発展の歪の中に埋もれていく市井の人々の苦闘が描かれる本作は、台頭する内モンゴル映画界期待の新鋭チョウ・ズーヤンのデビュー作だ。



さて、全く繋がりようのないこの2つの映画たが、前者は現代女性の中に潜む心の声を拾い上げて、未知なる思考形態を提示してくれたという点で、新たな視点をもたらしてくれた。そして後者は言わずもがな、なかなか知る由もない内モンゴルのリアリティー溢れる生活を伝えてくれたという点で視界が広がった気分だった。新しい視点を持ち込むことと視野を広げて知見を増やすこと。映画というほんの短い時間のもたらす大きな魅力に改めて感謝する気持ちになった次第だ。



 2017/11/10 13:56  この記事のURL  / 

愛と誕生と死の意味を求める映画『エタニティ 永遠の花たちへ』

(c)Nord-Ouest

映画『エタニティ 永遠の花たちへ』(原題:Eternite) は、子孫へと続く系譜が何を意味し、どんな想いを綴っていくのかという問い掛けに答えを出そうとした作品だ。



『アメリ』で一躍有名になったオドレイ・トトゥ演じるヴァランティーヌは、19世紀末フランスのブルジョワ家庭に育ち、一度は断った縁談の相手の誠実な求婚に応え、子供に恵まれ家庭を築いていく。しかし戦争や病で失う命もある。かくして、3世代に渡る系譜の有り様がクラシック音楽と美しい映像、ナレーションとほんの僅かな台詞によってのみ構成される。そう、セリフは殆どといって良いほど無いのだ。淀みのない女性のナレーションが、静かに語り掛けるだけだ。まるで細やかな叙事詩を映像美と共に辿っているかのような感覚。なんと精緻な感情表現。唇、頬の筋肉、肩の震え。役者にとってのミニマルな表現手法しか許さないトラン・アン・ユン監督の凄みが伝わってくる。



人は決して死から免れない。だから、あらゆる哲学、小説、そして神話や寓話も、このテーマを追い続けているものが多い。誰かの死に接しては、自身の死と死後のことを考えさせられ、生の意味を探ろうとする。若いうちは、それがあまりにも身近でないが故に、深く洞察する事もなく、或いは潜在的に避けるように心の奥底に仕舞い込んでしまう。だが、いつの間にか人は老い、死を意識し始める。死してすべてが終わると寂寥感にかられるより、その命が連綿と繋がっていく未来に想いを馳せることで、幾ばくか救われるものがあるのかもしれぬ。それを確実にするための手段が性愛だったのだと気付くはずだ。9月30日よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。



またアッシュペーフランスは、結婚や誕生により受け継がれるエタニティ(永遠)を描いたこの映画の世界観に共感し、記念日に寄り添えるエタニティとの出会いが生まれることを願って、「H.P.FRANCE BIJOUX」でフェアを開催している。展開店舗は、同店銀座(GINZA SIX)、表参道(表参道ヒルズ)、大阪、丸の内、新宿、、梅田、名古屋、福岡の各店。期間中エタニティリングを成約するとペア鑑賞券がプレゼントされる。



LOQUET LONDONより新作エタニティーリングも登場


 2017/09/23 16:00  この記事のURL  / 

芸術家二人の人生から見える友情の複雑さ 映画『セザンヌと過ごした時間』

(c) 2016 - G FILMS - PATHE - ORANGE STUDIO - FRANCE 2 CINEMA - UMEDIA - ALTER FILMS

かつて暮らしたパリのアパルトモンは結構便利なところで、3つほどのメトロの駅が使えた。そのひとつに10番線のエミール・ゾラ駅があった。アベニュー・エミール・ゾラに面しているため、その駅名になったようだが、お恥ずかしいことに、この時初めて、小説家のエミール・ゾラを知った。皮肉なことに、生前名誉に恵まれたゾラと、生前認められず没後誰もが知る画家となったポール・セザンヌが幼馴染みで、その二人の間に在った葛藤が映画『セザンヌと過ごした時間』の焦点だ。



1852年南仏エクサンプロヴァンス。イタリア人で貧しい母子家庭のゾラがいじめられているところを裕福な銀行家の息子セザンヌが、助けて二人の友情がスタートする。パリに出て以降、小説家として成功を収めるゾラは、少年時代に支えてもらった恩もあり、セザンヌを物心両面で支える。ゾラの小説『居酒屋』『ナナ』のベストセラーの後、『制作』の発表が転機となる。そのモチーフがセザンヌを思わせ、セザンヌを酷く傷つけることとなる。二人の間に徐々に亀裂が生まれ、パリと南仏の距離のように離れていくことになる。
印象派が台頭する時期でもあり、画壇では認められず、くすぶっていた新たな潮流が勃興する時期だけに勢いのある若き天才たちの鼓動が垣間見え、有名な印象派の面々の登場も楽しめる作品だ。



セザンヌ役は、『イヴ・サンローラン』でピエール・ベルジェ役を演じたギョーム・カリエンヌが、ゾラ役は近年監督もこなすギョーム・カネが務めた。監督は、『シェフと素顔と、おいしい時間』などのダニエル・トンプソン。
以前エクサンプロヴァンスのセザンヌのアトリエを訪ねたことがあるが、映画のシーンでも見事に再現されていた。そして何よりもあの美しい「サント・ビクトワール山」の風景こそが、セザンヌの激しい気性を癒してくれる友だったのかもしれない。
9月2日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。


 2017/07/09 03:07  この記事のURL  / 

フランス映画祭にカトリーヌ・ドヌーヴが来日

『The Midwife(英題)』(c) photo Michael Crotto (c) Patrick Swirc / modds

今年もフランス映画祭が執り行われる。25年の節目となる今年度は、団長としてカトリーヌ・ドヌーヴが「フランス映画祭2017親善大使」として来日する。会期は6月22〜25日の4日間、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ、日劇で開催される。


『Raw』(c)DR

全12作品で、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されるジャック・ドワイヨン最新作『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』や、今年でデビュー60年を迎えるアラン・ドロンの大特集「アラン・ドロンがいっぱい」(スターチャンネル)の協賛で、70年代の代表作『チェイサー』を上映する。さらに、各地の映画祭で失神者が続出したと言われる新世代の女性監督が描くフレンチ・カニバリズム・ホラー『Raw(英題)』も上映決定。


『ELLE』(c)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

また本年度アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『エル ELLE』のイザベル・ユペールと監督 ポール・ヴァーホーヴェン(『氷の微笑』)、『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』の監督ジャック・ドワイヨン(『ポネット』)、新作『エタニティ 永遠の花たちへ』を携えた『ノルウェイの森』の監督トラン・アン・ユンなど13名の豪華ゲストがフランスから来日予定だ。


『ロダン カミーユと永遠のアトリエ(Rodin)』(c)Les Films du Lendemain / Shanna Besson

『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』は、天才彫刻家ロダン没後100年を記念して作られた彼の知られざる半生の物語。「考える人」「地獄の門」で名高い彫刻の巨匠、オーギュスト・ロダン。パリ・ロダン美術館の全面協力のもと、カミーユ・クローデルと出会ってからの愛と苦悩に満ちた彼の半生を描く。演技派ヴァンサン・ランドンがロダンを演じる為に8ヶ月間、彫刻とデッサンに没頭し、ロダンの魂までも演じきり、イジア・イジュランがカミーユを好演。2017年11月、新宿ピカデリーほか全国ロードショー予定。


Star Channel Presents 『チェイサー』(c)1977 - PATHE RENN PRODUCTION

『チェイサー』は、アラン・ドロン演じるグザヴィエが親友フィリップから、セラノという議員を殺してしまったことを打ち明けられ、アリバイ工作に協力することを承諾する。セラノ議員殺害の背景に、政界を揺るがす「セラノ文書」が関わっていることを知ったグザヴィエにも魔の手が忍び寄る。アラン・ドロンが友情のために政治腐敗という巨悪に挑む男を演じたハードボイルドサスペンスだ。

来日ゲストは以下の通り。『The Midwife (英題) 』カトリーヌ・ドヌーヴ、マルタン・プロヴォ監督、『セザンヌと過ごした時間』ダニエル・トンプソン監督、『エル ELLE』イザベル・ユペール、ポール・ヴァーホーヴェン監督、『エタニティ 永遠の花たちへ』トラン・アン・ユン監督、『夜明けの祈り』アンヌ・フォンテーヌ監督、『愛を綴る女』ニコール・ガルシア監督、『パリは今夜も開演中』エドゥアール・ベール監督、『ポリーナ、私を踊る』ヴァレリー・ミュラー監督、アンジュラン・プレルジョカージュ監督、『あさがくるまえに』カテル・キレヴェレ監督、『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』ジャック・ドワイヨン監督。

フレンチのエスプリを感じられる映画の数々にひと時、身を任せてみては、いかがだろうか。
 2017/05/18 22:51  この記事のURL  / 

巨大な宣伝装置と美術館の資金集めでウィンウィンの関係

(c)2016 MB Productions, LLC

2015年5月2日に開かれたNYメトロポリタン美術館(メット)のファッション・イベント「メットガラ」の裏側からその日までを追いかけたドキュメンタリー映画『メットガラ〜ドレスをまとった美術館(原題; THE FIRST MONDAY IN MAY)』が公開される。主催は『プラダを着た悪魔』のモデルとなった米国版『ヴォーグ』編集長のアナ・ウィンターと企画展示を担当するキュレーターのアンドリュー・ボルトン。芸術監督にはウォン・カーウァイを起用し、テーマは「China」。中国メディアの政治性を帯びた執拗なインタビューに辟易したり、値が張るポップスターのリアーナには、アナ本人から電話を入れて、やんわりとプッシュするなど生々しい舞台裏が明かされる。



招待されるのは、アカデミー賞の常連たちやミュージシャン、ビッグメゾンのデザイナーなど各界のセレブリティーばかり。ジョージ・クルーニー、レディー・ガガ、アン・ハサウェイ、マドンナ、ジャスティン・ビーバー、サラ・ジェシカ・パーカー、ビヨンセ、クロエ・セヴィニー、ジェニファー・ロペス、カニエ・ウエスト、ビル・カニンガムなど錚々たる面々。 



そもそもメットがファッション部門を持ち、膨大なドレスやコスチュームを保管している点もファッション界からすれば有り難いことだが、やはりそこには、「ファッションはアートなのか?」との問いかけが付きまとう。それに対してジョン・ガリアーノやカール・ラガーフェルドらの発言が面白い。またその資金集めの策としての意味を持つメットガラというイベントの本質も観る者に新たな知見と鬱屈とした感覚を与えることになるだろう。
まるで結婚式の席次を決めるように、いやもっと身近なのはショーのフロントロウの配置を決める時のようかもしれない。誰と誰は仲が悪いとか、どっちが格上とか。下々から皮肉たっぷりに仰ぎ見ることもできる作品でもある。それはある種、滑稽な姿かもしれない。
別の視点から言えば、ビッグメゾンが座席を何席も買い取り、自らのドレスを提供したセレブリティーを招待し、大きな宣伝効果を狙う。その巨大な宣伝装置をプラットフォームにして、メットの資金集めを行う。ウィンウィンのプラットフォームを作り上げて、マスコミが喧伝して効果抜群。この記事も一端を担っているのか。いや、ちっぽけ過ぎて担っているとは言えないな。
4月15日からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開。

さて、本作とのコラボアイテムがアッシュペーフランスから発売される。「ジャマン・ピュエッシュ」のバッグ(75000円)、「ルパート・サンダーソン」のパンプス(82000円)、「セルジュ・トラバル」のリング(38000円)、「イオッセリアーニ」のネックレス(45000円)など8ブランドから1アイテムずつ登場する。店頭でのコラボイベントも開催される予定だ。

ジャマン・ピュエッシュ、ルパート・サンダーソン
セルジュ・トラバル、イオッセリアーニ



 2017/03/01 00:01  この記事のURL  / 

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名前:久保 雅裕
Masahiro KUBO

アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアなども実施し、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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