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世界一スタイリッシュなホームレスから学ぶこと

(c)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

なんとも軽妙でユーモアあふれる会話術、その巧みな声掛けでニューヨークの街ゆくモデルやファッショニスタたちをカメラに収めるファッション・フォトグラファーのマーク・レイが本作『ホームレス ニューヨークと寝た男』の主人公だ。元モデルで、ハンサムかつスマートな身のこなしの彼は、一見誰もが羨む「勝ち組」に見える。しかし、華やかなパーティー会場を後に向かった寝床は、マンハッタンのペントハウスではなく、雑居ビル街のアパートメントの屋上。マークはもう6年近くも屋上で寝袋にくるまる生活を送っている。ある日この秘密を打ち明けられ驚いた、旧知のモデル仲間で、ピエール・カルダンなどの企業PVを手掛けるオーストリア出身ディレクター、トーマス・ヴィルテンゾーンが3年間にわたり密着した。




荷物はスポーツ・ジムのロッカー4つ分。エクササイズで体を鍛え、身だしなみはジムのシャワールームや公園のトイレで整え、いざ出勤。ファッションショーのバックステージでの撮影など現場の仕事を終えるとカフェをハシゴしながらパソコンをチェック。出来の良い写真を雑誌社に送り付ける。それは、どこにチャンスが転がっているか分からないからだ。時にはエキストラ俳優の仕事で臨時収入。友人と飲みに行き、マンハッタンの花火を眺める。



確かに世界一スタイリッシュなホームレスかもしれない。これがフィクションならオモシロ可笑しく観ることができたろう。だが、この映画はノンフィクションだ。隠れ家であるマンハッタンのビルの屋上へと帰る瞬間のスリリング、撮影者である監督に語る心模様、時折り真顔で我々(オーディエンス)に語りかける懇願ともつかぬメッセージ。そこにこの映画の本質が垣間見える。終盤には、パーティーの愉悦も、ビーチでのはしゃぎっぷりも全ては本質的部分の裏返しだったと悟る。



現実(リアル)には必ず裏表がある。人間の表現にも当然ながらムラがある。あれは強がりだったとか、饒舌さは寂しさの裏返しとか。そして必ずその裏側の存在を忘れてはいけない。
あらゆる角度から捉え直してみる事で、本質と全体像が見えてくる。
厳しさが続くファッション業界だが、マクロとミクロの視点、ある事象に対する多角的な分析、あらゆる角度からの検証を緻密に行う事で先が見えてくるのではなかろうか。簡単な事ではないかもしれないが、その積み重ね無しに未来を拓く事はできないと年の瀬に思った。
と同時に、マークが普通に暮らせる世の中をどうクリエイトしていくかについても考えていきたいと心に留めた。
2017年1月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。



 2016/12/24 16:44  この記事のURL  / 


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名前:久保 雅裕
Masahiro KUBO

アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアなども実施し、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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