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パッション、粘り強さ、そして驕りとの闘い。いずれもが忘れかけていた大切なことでは?

(c)Visinema Pictures /ココロヲ・動かす・映画社 ○

毎年、春夏の東京ファッションウイークが終わった翌週の展示会ラッシュの時期から東京国際映画祭が始まる。映画からも今のファッション業界が学ぶべきヒントが沢山あると、多くの良作を紹介してきたつもりだが、この時期の繁忙さには正直参ってしまう。だが映画祭にはなかなか普段観ることのできないレアな秀作が集まり、何とか時間を作って観に行っている。
さて、今年注目したのが、「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #03 カラフル! インドネシア」のシリーズからアンガ・ドゥイマス・サソンコ監督『珈琲哲學−恋と人生の味わい方−(仮題)、Filosofi Kopi』だ。主演はリオ・デワントとチコ・ジェリコ。バリやスマトラなどコーヒーの名産地として知られるインドネシアを舞台に、コーヒーとともにある豊かな時間と人間関係を描いた作品だ。
カフェ「フィロソフィ・コピ(珈琲哲学)」の経営者ジョディは借金に頭を悩ませ、バリスタのベンは質の高いコーヒーを提供することに余念がない。ふたりは幼馴染の親友だが、ベンの理想とジョディの現実の間で対立がある。ある日、店の評判を聞きつけた実業家から「完璧なコーヒー」を作れば1億ルピーの賞金を出すとの申し出があり、コーヒー批評家のフランス人女性、エルも交え、3人は店の存亡をかけて完璧なコーヒーを追求する。もともと貧しいコーヒー農園の子息だったベンは、幼少時代に苦難を逃れて、ジョディの父親に引き取られて育った。仲の良い二人は喧嘩をしながらも、ともにコーヒーショップを立ち上げたのだが。
一方、彼ら二人を陰ながら支えるエルも幼少期に仕事で留守がちな父親との間にわだかまりを感じながら育つ。ともに父親へのトラウマを抱えるベンとエル、エルに好意を寄せるジョディ。3人の若者たちの過去と今が交錯して、温かいラストストーリーへと展開していく。
ジョディのコーヒーにかける情熱、パッション、粘り強さは時として頑固で我儘にすら見える。驕りのようにも見えるジョディの態度にエルが一番美味しいコーヒーを作る夫婦と農園に案内し、ジョディに対する優しい答えを提示してくれる。だがそれはジョディが突き詰めたからこそ、新境地を見いだせる力も備えたという事なのだろう。
それ位しないと他社を圧倒するほどの仕事はできないという事を分かりやすく教えてくれる。そんな挫けない不屈の情熱をファッション業界は忘れかけていないか。もちろん計数管理や需要予測、MD計画などの科学的管理を不要とは言わないが、何はともあれ、一番はファッション対するほとばしるほどの情熱ではないのか。そんな単純だが、原点を考えさせてくれる映画だった。
本作は来年、日本での商業公開も決まり、また撮影された店が「フィロソフィ・コピ」として実際にジャカルタに存在し、主演のふたりがオーナーを務めて繁盛しているらしい。



 2016/12/11 13:12  この記事のURL  / 


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名前:久保 雅裕
Masahiro KUBO

アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアなども実施し、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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