志を同じくする者たちと共に

11月2日に開かれた記者会見の際にトークセッションが行われた。左から「コトハヨコザワ」デザイナー・横澤琴葉さん、スプリング・オブ・ファッション代表・保坂忠伸さん、伊勢丹新宿本店バイヤー・寺澤真理さん、ローランド・ベルガー・プリンシパル・福田稔さん

11月初旬からスタートしたインターネットによるデザイナーブランド予約販売サイト「SOF DESIGNERS(ソフ・デザイナーズ)」というサービスがある。運営するのはスプリング・オブ・ファッションの代表で、若手起業家の保坂忠伸さん。彼とは、人材紹介サービス業の前職時代からの付き合いだが、今回のサービスローンチに当たっては少しだけ相談に乗ってきた経緯がある。それは、筆者が立ち上げた「SOLEIL TOKYO(ソレイユトーキョー)」という小さな合同展と理念の面で相通ずるところがあったからだ。
ソフ・デザイナーズは、小さなデザイナーのフレンズデーをまとめて、拡大したようなサービスで、まず手はじめに東京・渋谷で18年春夏の合同受注会「ソフ・ブランドエキシビション」を開催した。初回限定で20〜40%割引(ブランドにより異なる)となるファーストチケットを発行し、ファストファッションなどを購買する層に対して、ひと頑張りしてデザイナーズブランドに挑戦してもらおうという発想だ。参加デザイナーは、9ブランドで、「AUXTE.」「ELEMANE」「ELZA WINKLER」「evaloren」「e.m.a.」「HIDAKA」「kotohayokozawa」「ko haction」「Ventriloquist」。
さて、その根本にあるのは、近年の既存トレードショーにおける投資効果に対する厳しい見方だ。なかなかバイイングまで繋がらないなら、直接、消費者と繋がり、ファーストチケットでハードルを下げて、まずは袖を通して感動してもらう。デザイナーが直接話して、想いを伝え、購買体験をより高めたものにしようというものだ。
将来的には、得られたビッグデータを小売業に提供し、購入者をそのブランドを導入している店舗に送客するなど小売りとの連携も視野に入れている。
ソレイユトーキョーも、志は同じだ。国内外ともに既存のトレードショーが費用対効果の面で厳しくなっている中で、コストを抑えて出会いのチャンスを広げるという考え方で2015年にスタートした。次は2018年3月27〜29日にエビス303に会場をスケールアップして開催する。主催はJTBコミュニケーションデザインに移管されたが、新しい機軸の流通タイアップなど新企画を始動させている。ソフ・デザイナーズとのコラボレーションも近日発表予定だ。これからも志を同じくする人たちと共に、セレクトショップの活性化や小さなブランドの成長促進策を推し進めていきたい。


右は先日、杉野服飾大学のゼミで話をしてもらったのだが、スタートアップに至るまでの経歴や苦労話など学生には大変貴重な講演となった。


 2017/11/23 18:41  この記事のURL  / 


お菓子業界では珍しいらしい

左・鎌田氏、右・松本氏/機械に入れると袋に包装される

カルビーが10月28日、ルミネエスト新宿の地下1階に約54坪の直営店「Yesterday’s tomorrow(イェスタディズ・トゥモロー)」をオープンした。同店は、日本のお菓子メーカー約120社のロングセラー商品や限定品、地元のお菓子を集めて販売するお菓子のセレクトショップだ。またその場でイートインが可能な「出来立てキッチン」では、季節ごとにコラボメーカーやメニューが変わる予定。最初は、森永製菓の一口アイス「pino(ピノ)」とカップアイス「MOW(モウ)」のスペシャルメニューとギンビス「たべっ子動物」の大きいバージョンが登場した。この売り場で年商3億6千万円を目指す。



鎌田由美子上席執行役員・事業開発本部長は、「3兆2400億円という市場規模は、日本のお菓子に魅力があることを表している。最近口にしなくなったロングセラーと地方独自のお菓子を紹介する場として買取で800アイテムを展開する」という。また松本晃代表取締役会長兼CEOは、「失敗したら、そこから学べば良い、面白い楽しいワクワクする日本を作りたい」と抱負を語った。




さて、お菓子業界のカリバー、カルビーが他社製品をセレクトして仕入れし、オリジナル商品と合わせて販売する小売事業を展開するという事は珍しいことのようだ。ファッション業界に置き換えれば、卸しかしていない大手アパレルが直営小売を出店して、そこに他のアパレルメーカーの商品も仕入販売するという図式になるのだろうが、すでに大手アパレル各社とも小売事業は展開しており、一部ではあるが、他社製品を仕入れ販売するケースも間々ある訳だから、それほど珍しい事ではない。だが、アパレル業界は菓子業界程の寡占化が進んでおらず、多くのブランドや小さなアパレルメーカーが無数にある点が特徴的な違いなのだろう。
とは言え、垂直統合の進んだ直営小売の中に、雑貨は別として小さなアパレルブランドをいくつも仕入れて販売するケースはほとんど見受けられない。つまりイェスタディズ・トゥモローにおける地方独自のお菓子の導入がアパレル業界では、実施されていないという事なのだ。そんな大胆な小売事業をどこかやってのけるような度量は無い物だろうか?
「松本会長のような大局的な観点が、もう少しこの業界に合っても良いのでは」と感想を持った次第である。




 2017/11/11 20:00  この記事のURL  / 


新たな視点と視野を広げる映画の効能 東京国際映画祭

(c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

毎年そうなのだが、東京国際映画祭と春夏物の展示会シーズンが重なって、なかなか観に行けずに悔しい思いをする。そんな中でも合間を縫って、六本木ヒルズのTOHOシネマズを中心に観て回るのだが、今年は2つの映画を観て知見の広げ方について考えさせられた。



1本目は日本映画で「勝手にふるえてろ」。本作は、芥川賞作家、綿矢りさの同名小説が原作で、松岡茉優扮する恋愛ド素人のOL、ヨシカが、突然告白され付き合うことになった会社の同期「ニ」(渡辺大知)とのリアルな恋愛と中学時代から片思いしている「イチ」(北村匠海)との妄想の恋の狭間で揺れ動く切ない様子がコミカルに描かれる。ヨシカは、絶滅した生物に想いを馳せ、普段すれ違う人々との妄想の会話を繋いでいくという脳内暴露型のリズミカルで可笑しげな会話が飛び交う演出で、観るものを引き込んでいく。ある種の女子目線の解釈が怒涛の如く、オジサンの脳内に飛び込んでくる感じがするのだ。2人の男とのラブストーリーは果たして?。それは観てのお楽しみ。12月23日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。


(c)2017 Dongchun Films Co., Ltd.

もう1本は中国映画の「老いた野獣(原題:Old Beast)」。内モンゴルのオルドスが舞台で、監督のいとこの家に起こった話から着想を得たそうだ。因みにオルドスは2005年から経済発展の波が押し寄せ、この10年間で農村から都会へと大きく変貌を遂げるが、周知の如く、不動産バブルの崩壊に借金漬けの人々など中国社会が抱える発展の歪の闇が垣間見える。ストーリーはというと、60代の荒くれ親父、ヤンが事業に手を出しては失敗し、ギャンブルを繰り返す懲りない日々を送っている。3人の息子は父に似ず堅気の生活だが、決して豊かではない。遊び歩いて愛人宅で戯れているヤンだが、そんな時に病弱な妻が倒れてしまう。携帯のバッテリー切れでヤンには連絡がつかない。子供たちは手術代を工面するも、なんとヤンは、それを持ち逃げしてしまう。必死に育ててきた子供たちとの心の葛藤、妻への懐かしい恋慕、そんな感情がない交ぜになったラストシーンも切な過ぎる。経済発展の歪の中に埋もれていく市井の人々の苦闘が描かれる本作は、台頭する内モンゴル映画界期待の新鋭チョウ・ズーヤンのデビュー作だ。



さて、全く繋がりようのないこの2つの映画たが、前者は現代女性の中に潜む心の声を拾い上げて、未知なる思考形態を提示してくれたという点で、新たな視点をもたらしてくれた。そして後者は言わずもがな、なかなか知る由もない内モンゴルのリアリティー溢れる生活を伝えてくれたという点で視界が広がった気分だった。新しい視点を持ち込むことと視野を広げて知見を増やすこと。映画というほんの短い時間のもたらす大きな魅力に改めて感謝する気持ちになった次第だ。



 2017/11/10 13:56  この記事のURL  / 


ビューティフルピープルからプレインピープルまでの縁(えにし)の話

東京のプレスデー/パリでのプレゼンテーション

「アマゾンファッションウイーク東京」の期間中、ショーの合間を縫って展示会も見て回る。とある昼下がり、空き時間を利用して、「ビューティフルピープル」プレスデーに出かけた。パリのプレゼンテーションは、クチュールブランドなどもショーを行うヴァンドーム広場に面したホテルエヴルー。モデルに対してスタッフが複雑なコーディネートを着付けていくというパフォーマンスも披露された。トレンチとドレスが一体化したかのようなアイテムや左右ジップで組み合わせるドレスなど、その複雑さ故、本番では嘸かし苦労したのではと思い、スタッフの方に尋ねたら「最初は大変で慌てましたが、2〜3回目には慣れてきてスムーズにできました」と微笑んだ。「慣れれば1人でも着られます。朝の忙しい時は大変かもしれませんが」としっかり笑いも取られていた。



その後ビューティフルピープルからほど近いフローリスト「スプーンビル」で開かれている写真展「Messages.U」に立ち寄った。会期中のショー会場で会ったPR女史から勧められたのだが、写真家・ 角田みどりさんのプロフィールには、2002年に宮原夢画氏に師事したと書かれている。99年2月の『senken h(アッシュ)』創刊号やその後複数回に渡って宮原さんにシャッターを押していただいていたので、きっとすれ違っていたのかもしれないと縁(えにし)を感じ、会ってみたくなった。そして、ついでだからと現在携わっている『ファッション力』の展覧会コーナーの情報提供をお願いしようとスタッフの方に尋ねると、企画を担当している方が今丁度打ち合わせに来ているので紹介するとの事。グッドタイミング!
向かうと、そこにはコンサル先企業に以前居た方が現れ、ビックリ。「ファッション以外のところでお会いするとは!」とこれまた何かの縁か?

帰り道の骨董通りで、「犬も歩けば棒に当たるだな」などと納得していると、「プレインピープル」の店が目に留まった。そういえば先日このコーナーで書いた「スズサン」がポップアップをやっていたなと思い出し、店内へ。ポップアップは既に終わっていたが、買取商品がまだ少し残っていた。そしてレジカウンターの背後に「PAIX」の文字が。そう、あのパリ同時多発テロ事件の直後、丸の内仲通りのプレインピープルのVMDを取り上げた事があったのだが、まだ複数言語で「平和」と書かれたA4の紙を置き続けているという。あれから2年が経とうとしているが、未だに続けているという点で、このブランドのストアロイヤリティー向上の確かさを感じた。とても安くて簡単な手法だが、簡単には続けられない事だから、なお一層感銘を受けた。店頭スタッフと、そんな話をして盛り上がり、ほっこりとした気分で、次のショー会場へと向かった。その足取りは幾分か軽かったかもしれない。人(ピープル)から人(ピープル)へと縁(えにし)は繋がっていく。ダジャレですんません(^-^;
 2017/10/29 11:00  この記事のURL  / 


振り幅広げる東京コレクション/AFWT

ハレ/グローバルワーク/ユナイテッドトウキョウ(AFWT2018SSサイトより)/バナナチップス

「アマゾンファッションウイーク東京(AFWT)2018SS」が終わった。デザイナーズコレクションとしての東京コレクションから性格付けを大きく変化させてきたことにより、ある種、ファッションのお祭りのような位置付けになってきたようだ。デザイナーの表現の場だけでなく、リアルショップブランド、子供服、海外国招致、海外進出組のPRなど、その利用価値は多様化しているといえる。そんな視点から今回のAFWTを見てみた。

アダストリアは今季、「ハレ」に加えて「グローバルワーク」も参加させた。更にトウキョウベースの「ユナイテッドトウキョウ」も加わって、リアルショップブランドが増えた。
子供服分野からの参加もあった。「ロニィ」などモデル・ストリートダンス系ブランドも別会社で運営するカンテサンスから「バナナチップス」が参加した。私の記憶にある限り、正式に東京コレクションに参加した子供服は初めてなのではなかろうか?
海外からの参加も喧しい。従来から企画されてきた「アジアンファッション・ミーツ・トーキョー」の括りでタイ、フィリピン、そして「ファッション香港」もジョイントショーを開いたが、更に「バンクーバーファッションウイーク」のオーガナイズで2本のジョイントショーも行われ、9ブランドがランウェイショーを飾った。


タイ/フィリピン/香港/バンクーバー

そして最も注目を浴びたのが「アットトーキョー」の企画だ。「トーガ」「サカイ/アンダーカバー」は、それぞれロンドン、パリコレクションに参加しており、東京でやる必然性は無いのだが、アマゾンという巨大なECプラットフォームの説得力もあったのか、画期的な試みとなった。もっともそれぞれ海外コレクションに参加している立場から「東京コレクションに参加したのではない」との話もあるらしい。やる側の立場は様々だが、盛り上がりに欠けると言われていた東京コレクションが俄かに活気付いたようにも思える。こうした形であれば海外コレクション組も参加する意味を感じるというなら、一層の事、「コムデギャルソン」「イッセイミヤケ」「ヨウジヤマモト」を招致してもらいたいものだ。無理か?(^^;)

但し気掛かりなのは、「ディスカバード」「ドレスドアンドレスド」「ミキオサカベ」など以外、中核を成してきたブランドの存在が無くなった。「ファセッタズム」「ビューティフルピープル」などは海外へと軸足を移し、「ヤストシエズミ」は時期を早めて8月にランウェイショーを行った。それはそれで良い事なのだが、次がなかなか見えてこない。

もちろん「アキコアオキ」「リョウタムラカミ」「ケイスケヨシダ」「ティボー」「ミューラル」「ヨウヘイオオノ」といった若手世代の成長も著しいが、商売ベースで安定感のある中堅が欲しいものだ。ランウェイをやるにはカネがかかる。それを踏まえても投資対効果が望めるなら、挑戦してほしい。もちろん、展示会ベースで着実に伸ばしているブランドもあるし、その方が向いているブランドもある。派手さは無いが、触ってじっくり見てもらった方が良いブランドもある。一方で分かりやすく、キャッチーなブランドなら一気にブレイクできるプラットフォームがランウェイなのかもしれない。

そんな事を思いながら、相変わらず「先生、ガールズコレクションなら知ってま〜す!」などとファッション系学生に言われて、「まだまだ拡散が足りんな」と気を引き締めるのであった。


上段・アキコアオキ/リョウタムラカミ/ケイスケヨシダ
下段・ティボー/ミューラル/ヨウヘイオオノ
 2017/10/22 16:19  この記事のURL  / 

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名前:久保 雅裕
Masahiro KUBO

アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアなども実施し、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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