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無人店舗の死角
 米国の「Amazon Go」、中国の「Bingo Box」などID決済や画像認識とICタグを組み合わせた‘無人店舗’が注目されているが、これらは‘精算’という店舗フロントの一角を無人化するに過ぎず、店舗運営コストの大半を占める‘店内物流’にはまったく手が付けられていない。
 ‘精算’だけならジーユーやユニクロのセルフレジから半歩進化しただけで、店頭の一等地をレジ列(セルフレジも同様)が占拠するという旧弊を脱する価値は評価されるものの、販売しただけ棚に商品を補充するという‘店内物流’さらには店舗に補充するという‘店舗物流’の労働とコストは放置されたままだ。その点では、西友が当時の最新技術を駆使して開発した83年の「メカトロスーパー」(能見台店)の方が遥かに進んでいたと指摘せざるを得ない。
 店舗にせよ物流センターにせよ、近年のAIやロボット頼りの‘実験’は実用性を疑うものが少なくない。四半世紀も前の自動機器を駆使したオート・マテハンシステムの方が遥かに実用的で革新性が高かったのではないか。人海戦術のピッキングに終始するECモール事業者のDCは問題外として、ロボットを駆使したAmazonのDCとて自動ソーターが工場のように商品を振り分けた当時の‘ハイテク’物流センターより効率的か疑ってみたくなる。
 ‘店内物流’や‘店舗物流’にロボットやAIを持ち込んでも、費用対効果はもちろん実用性も疑わしい。むしろ‘店内物流’や‘店舗物流’を極小化する流通システムを追求する方が遥かに現実的ではないか。青山商事の「デジタルラボ」に代表される「品揃え拡張ショールーム販売ストア」、丸井の「フィットスタジオ」やECブランドのショールームに代表される「サンプル陳列ショールームストア」、英国の「Argos」に代表される「デジタルカタログ・ショールームストア」が革新しているものは何か、ITやAIの視点からは見えて来ない。店舗運営における販売プロセスや物流プロセス、それに関わるランニングコストが見える者なら、世間の目を惹く‘無人店舗’を遥かに凌駕する‘革命’が急進している事に気付くのではないか。
 三段階の「ショールームストア」は店舗というリアル体験の場とECフロントやEC物流を組み合わせ、品揃えを最大化する一方で在庫と物流を最小化し、売上を最大化する一方で店舗運営の労働とコストを最少化する極めて明快な‘マジック’だと解ってもらえば幸いだ。11月29日のSPAC研究会では余す所無く、その実例と仕組みを紹介したい。

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 2017/11/20 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

よい会社とわるい会社
 横田増生さんの「ユニクロ潜入一年」で赤裸々に暴かれたようにユニクロの店舗運営とマネジメントには前世紀のチェーンストア神話が色濃く残り、今日のワーク&ライフバランス感覚とは隔世の感があって働く者にとって‘よい会社’かどうか疑わしいが、ここ四半世紀のアパレル業界の凋落の中にあって奇跡的急成長を遂げ世界第3位のSPA企業にまで昇り詰めたのだからファーストリテイリングが資本家投資家にとって‘よい会社’だった事は疑う余地もない。
 働く者にとって‘よい会社’が資本家投資家にとって‘よい会社’とは限らない。むしろ相反するのが資本主義の現実なのかも知れない。06年にファーストリテイリングに買収され10年に消滅したキャビンなど働く者に暖かい‘よい会社’だったが、旧キャビン社員の大半が柳井マネジメント下で疲弊し会社を去るに至った事はキャビンが‘働く者に緩い会社’だったというシビアな見方も出来よう。資本家と労働者の利害は相反し経営者は労働者にシビアな競争を強いて生産性を追求するのが資本主義の本質なのだろうが、そんな身も蓋もない利害関係を剥き出しにするマネジメントは‘仁政’とも好ましいガバナンスとも言い難い。今更ながら平明 暘氏の人柄が偲ばれる。
 ファーストリテイリングとは比較すべくもないが、今日もそんな成功を夢見て急成長しているアパレルチェーンがない訳ではない。様々な問題を指摘されながらも急成長しているS社やD社についても、はたして‘よい会社’なのだろうかと疑念を投げかけたくなる。
 両者に共通しているのはタイムセールの乱発や意図的で高頻度な売価変更から疑われる‘偽装二重価格商法’で、もとより値引きして販売する事を前提に極端な低原価率で調達している。それは顧客にとっては‘有利誤認’を誘う景品表示法違反、納入業社にとっては優越的地位を濫用して収奪する下請法違反が強く疑われるが、それでも顧客が購入し納入業社が取引して成長が続いているという現実には驚くほかはない。両社は法的には限りなくグレーな‘わるい会社’でも資本家投資家にとっては利回りの‘よい会社’であり、『騙した者が勝ち』というマネーゲームの暗黒面を実感させる。天網恢々とは言うが、消費者庁や公取委はいったい何をしているのだろうか。
 モルクリ(店舗とネット)入り乱れて生き馬の目を抜く今日のビジネス社会で‘公正’や‘仁政’を説くのもアナクロなのだろうが、働く者にも顧客にも公正で暖かい‘人徳’ある経営者に成功してもらいたいと願うのは半世紀以上もこの業界の栄枯盛衰を見てきた者の人情だ。

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 2017/11/17 09:14  この記事のURL  /  コメント(0)

エスニック・マーケティング!?
 「エスニック・マーケティング」と言われても日本ではピンと来ないだろうが、人種の坩堝と言われる米国ではマーケティングの大前提と言っても過言ではない。州や市・郡によって人種や言語、宗教などライフスタイルに直結する人口構成が大きく異なるため、商品構成はもちろん季節催事による販売予算も少なからず異なる。
 近年、米国ではヒスパニック系の人口が急増しており、購買規模は既にアフリカン系、アジアン系を超えているそうだ。アメカジ御三家が凋落しアメリカントラッドを代表するラルフローレンが失速する一方でヒスパニック好みの「フランチェスカ」が成長し、89年に進出しながら足踏んでいた「ZARA」が14年から拡大に転ずるなど、ヒスパニック人口の急増はアパレルビジネスにも大きく影響している。そんな「エスニック・マーケティング」は米国に限らない。99%がモンゴロイドの我が国でも少なからず考慮する必要があると言ったら驚かれるだろうか。
 H&MとZARA、どちらもユーロモードなファストファッションとして同一視されがちだが、H&Mは北欧アングロサクソン文化圏、ZARAは南欧ラテン文化圏を母圏としており、フィットやカラーはもちろんトレンドの好みも少なからず異なる。どちらも世界中に進出しているが地域で勢いが異なり、ZARAはラテンアメリカなど南半球でも人気がある。
 私たち日本人は亜熱帯モンスーン気候地域に住むモンゴロイドだから、寒冷な北ヨーロッパのアングロサクソンとも暖かく乾燥した地中海圏のラテンとも(どちらも人種的にはコーカソイド)体型はもちろん、気候や伝統的な装い気質から来るフィットや肌当りの好み、配色やコーディネイトの好みも相当に異なる。世界展開するブランドは多かれ少なかれ‘ローカルフィット’で各地域に対応しているし、ローカル・エージェントたるインポーターも‘ローカル仕様’で別注しているのが現実だ。
 欧米のトレンドや商品をそのまま取り込むのは無理が大きく、「亜熱帯モンスーン気候文化圏モンゴロイド」としての取捨選択やローカル対応が必要になる。加えて、同じ日本人と言っても北関東のローカルストリート系と南関東のプレップストリート系、関東圏のすっきり系と中京圏の白粉系や関西圏のコテコテ系など、ほとんど‘異民族’かと思うほど装い気質は異なるから、国内でも「エスニック・マーケティング」を考慮せざるを得ない。商業施設のテナントミックスもブランドの出店戦略ももっと「ローカル・エスニック」に配慮すべきだと思う。
 我が国アパレルギョーカイの方々はそんな「エスニック・マーケティング」をどれほど意識しておられるだろうか。まさかアングロサクソン向けの欧米トレンドを真に受けてはいないでしょうね。当社が毎シーズン製作している「MDディレクション」はそんな‘日本人’の世代やライフスタイル別(レディス34タイプ/メンズ26タイプ)のウエアリング変化を毎月追って、様々なトレンドから取捨選択して来シーズンのウエアリング・ストーリーを組み上げている。おそらく、わが国で唯一、「エスニック・マーケティング」の視点から組まれているシーズン・ディレクションではないだろうか。
 18AW版も「ブランドツリー」と「客層マップ」の作成を終えて「ディレクションテーマ設定」を進めており、「カラーパレット」と「素材ボード」を仕上げて年内の完成を予定している。商品政策やブランド戦略を構築する上で重要な役割を果たすマーケティング・ツールとして活用してもらいたい。

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 2017/11/16 09:45  この記事のURL  /  コメント(0)

ECの収斂と店舗販売の共生
 ECモールと一括りに言うが、そのプラットフォームは大きく3形態に分かれ、コストはもちろんメリットやデメリットも大きく異なる。もはや常識だとは思うが、ばっくり簡便にまとめておこう。
 一番、お手軽なのが「場所貸し型」の総合モールで、売上課金は数%ないしは名目無料だが、数千数万もの出店者が犇めく中を自社ページに誘導する様々なプロモーションが必須だし、ECフロント構築から出荷までほぼ自己責任だから手間もリスクも相応に覚悟する必要がある。売上を伸ばすには自助努力の積み重ねが不可欠で、内部の人件費や外注費用まで加えれば決してお手軽でも低コストでもないのが現実だが、決済関連を除けば顧客情報も入手出来る。
 在庫を預けてECフロントから出荷まで総てモール側にお任せするのが「フルフィル型」だが、人気のファッションモールは売上は取れるが売上課金手数料率も25〜40%と嵩み、複数モールに展開すると在庫の分散が避けられない。『在庫を預ける』と言っても売上課金制だから消化仕入れみたいなものでモールと言うより百貨店に近く、顧客データがまったく入って来ないのが癌だ。
 両者の中間に位置付けられるのが、ECフロントのシステムと受注はモール側で‘ささげ’と出荷はテナント側という「マーケットプレイス型」でAmazonが著名だが、モール側の‘ささげ’や在庫管理・出荷、宅配運賃の負担が無い分、売上課金手数料率は「フルフィル型」より10ポイントほど軽くなる。テナント側はそれらの負担が加わるから総コストはさほど低くはならないが、自社ECの‘ささげ’や出荷の体制が整った事業者なら低コストに回せるし、何より在庫を分散しないで済むのが有り難い。顧客情報は「出荷伝票データ」を入手出来るに留まり、決済関連や属性情報までは入って来ない。
 ECの手掛け始めは「場所貸し型」や「フルフィル型」の単店舗だったとしても、慣れて来て顧客を拡げるべく複数のモールに出店し「自社EC」も‘運営’するようになれば、コスト圧縮と在庫分散回避を図って在庫の物理的一元運用へと収斂して行く。ECフルフィルは取り扱い額の拡大とともに加速度的にコストが逓減するから、在庫と出荷を集約出来る「自社EC」と「マーケットプレイス型」に絞り、販売力とブランド力が突出した人気モールを例外として「フルフィル型」からは撤収して行くことになる。
 ECにせよ店舗販売にせよ商品販売の収益を決めるのは運営コストと歩留まり率だから、規模の拡大が在庫を分散させてロスが肥大しコストも下がらない店舗販売より、規模を拡大しても在庫が分散せず加速度的にコストが下がるECに在庫も投資も流れ、店舗販売が萎縮して行くのは避けられない理だ。「オムニチャネル化」が滅び行く店舗販売に対するモルヒネや免罪符に終わる事なく、本当の共生に至るには何を為すべきか、11月29日(水)のSPAC研究会で具体的回答と実行手順を提示したい。

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 2017/11/15 09:21  この記事のURL  /  コメント(0)

ファクトリエのショールームを拝見
 11月29日開催のSPAC研究会を控え、EC事業者から店舗事業者まで様々なショールームストアを拝見して歩く中、名高い「ファクトリエ」の銀座ショールームを覗かせてもらった。
 銀座とは言え新橋に近い八丁目の首都高速際の雑居ビルの三階で、開店前の取材だったのでビルのEVホールも暗く、ちょっと腰が引けたが、取材の終わり頃には営業時間となってちらほらお客様も入って来られた。ショールームはモルタル床に白塗装の壁と天井、4000K蛍光灯という事務所仕様に3000Kスポット照明のレールが走る中、ナチュラルなウッドテーブルや鉄パイプハンガーに淡々とサンプルが並ぶ‘ファクトリー・ショールーム’という印象で、ショップ並みにデザインされた「ザ・リラクス・フィッティングルーム」(原宿、明治通り沿いビルの一階)とは好対照。ナチュラルで何処かにトラッドな拘りが匂うサンプルはカテゴリー/ファクトリー別に陳列され、コーナー毎にトルソーでコーディネイト、テーブルで単品のバリエーションを訴求している。
 国内アパレル工場との共同企画による「ファクトリエby○○○」というダブルネーム商品で、製造原価率を50%と定めて価格も工場と協議して決め、在庫リスクを折半する初期生産ロットは工場側が決めて工場側在庫から受注に引き当てていくそうだ。ファクトリエは最終サンプル段階で‘ささげ’の上、サイトにアップして先行受注に務め、生産された商品はファクトリエの志木DCで一括管理して顧客に発送される。顧客からの返品は銀座の東京オフィスに送付してもらい、検品を経て交換や返金の手続きに移る。サイズや風合い、品質などを消費者に確かめて頂くべく、常設ショールーム(銀座、横浜元町、名古屋星ヶ丘、熊本)に加えてポップアップストアを頻繁に巡回している。
 取り組む国内50の工場はダブルネームでトレーサビリティを保証するのみならず、サイトで生産現場の環境やものづくりの拘り、関わる人々まで紹介して地道な‘ブランディング’に務め、顧客の希望者を募って工場の見学ツアーも実施している。
 商品企画は工場側とファクトリエ側の相互の提案で随時に進むため、期限を定めたシーズンコレクションという組み立ては行っていないが、基本的な季節感は意識しているそうだ。随時に進むと言っても資金繰りは必須だから、在庫のコントロールはファクトリエのMD責任者が担って発注数量を制御している。小ロットの売り切りで追加生産も控え目に抑え、期末も含めて値引き販売は行っておらず、残品の焼却処分もしていないそうだ。
 そんな仕組みが何処まで上手く回っているかは外野からは解らないが、MD計画がない以上は産直市場的な緩い枠組みで回すしか無いはずで、顧客と工場の嗜好が共通する規模に留まるのはやむを得ない。米「エバーレーン」「BONOBOS」をベースに作家もの工芸品通販の共感ロジックを加味したビジネスモデルに見えるが、工場に顧客の手応えを実感させて啓蒙し、自身の商品力で食って行ける‘ファクトリーブランド’に育てようというロマンも感じられる。ファクトリーブランドが離陸するには幾つものステップがあって中途で挫折するブランドも少なくないが、その初期段階をサポートする役割は評価に値するのではないか。

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 2017/11/14 09:18  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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