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消費者庁か公取委か
 経産省生活製品課が昨年のサプライチェーン研究会の報告を受けて7月に公表した「取組方針」では「当課の視点」として「消費者本位のものづくり」「適正な価格」が謳われ、値引き販売を前提とした割高な価格設定に警鐘を鳴らしていた。ほとんど消費者庁か公取委かと見紛う警鐘で、それだけアパレル業界が悪しき慣習に染まって「消費者」から見放されたという事なのだろう。
 実際、この四半世紀で衣料品の最終消化率は半減し(需要の倍も供給しているのだから当然か)、当初価格対比の調達原価率は百貨店流通では13ポイントも切り下げられて20%前後、SPA流通でも10ポイントほど切り下げられて27〜30%程度になったが、中には元よりタイムセールで値引き販売する事を前提に16%で調達する大手チェーンもあると聞く。
 端から売れ残り品の値引き分を上乗せして原価率を切り下げれば割高な価格設定になって「定価」で購入する顧客が限られ、却って売れ残りを助長して自分の首を絞めるだけだが、タイムセールで値引き販売する事を前提に極端な低原価率で調達するのは顧客の「有利誤認」を誘う「偽装二重価格商法」として消費者庁が摘発すべきだし、無理な低原価率での納入を強いるのは「下請け収奪」として公取委が摘発すべきだ。
 縦割り行政で無駄なマッチポンプも少なくない中、消費者庁か公取委かと見紛う警鐘を鳴らした経産省生活製品課の真摯な姿勢は高く評価されるべきで、「クリエイション神話」「ものづくり神話」に終始して「消費者本意のものづくり」「お値打ちな価格設定」を忘れがちなアパレルギョーカイは心して耳を傾けるべきだと思う。

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 2017/10/18 09:06  この記事のURL  /  コメント(0)

焼却は最良の処分方法だ!
 H&Mがデンマークで毎年、12トンほど売れ残り衣類を焼却処分している事がTV報道されて『サスティナブルなブランドという謳い文句と違うじゃないか』と非難されているそうだが、なんで非難されるのか理解に苦しむ。焼却は一番、誰にも迷惑をかけない処分方法だからだ。
 グローバルなアパレルチェーンの中でもH&MはGAPに次いで値引きロスが大きく、総投入額対比のロス率は多頻度小ロットの一蒔きに徹するZARAの倍以上に及ぶと推計されるが、値引き販売しても売れ残った商品がどう処分されているかは不透明だった。それが焼却処分されているとしたら、顧客にとっても業界にとっても良報だ。
 年間12トン?という数字は我が国の売れ残り衣料品の年間輸出量24万トンと較べるとあまりに少なくてデンマーク国内分(H&M社売上の2.46%)だけだと思うが、それでもオフプライス店などへ横流しされたりリユースへ回ればプロパー販売を圧迫し真っ当に買った顧客を多少なりとも裏切る事になる。焼却は全額減損に焼却費までかかるが誰にも迷惑をかけずブランド価値を傷つけない最良の処分方法で、かつての高級ブランドではジョーシキだった(今日では多くのブランドが公然とアウトレットで処分している)。それでも『サスティナブルじゃない!』と言って非難するのは‘不寛容’に過ぎるのではないか。
 80年代と較べれば新品市場が15%にまで萎縮した呉服業界など『流通在庫11年分、箪笥在庫100年分』とまで揶揄され、現実に小売販売額の11.5%(矢野経済)をリユース品が占めて新品販売を圧迫しているが、メルカリなどの急拡大でリユース品が購入点数の18.4%(2.4億点/日本リユース業協会)を占めるまで来たアパレル業界も遠からず大差ない情況に追い込まれるやも知れない。これ以上、流通在庫や箪笥在庫が積み上がってリユース流通が肥大すれば新品を定価で購入する方がマイナーになり、ギョーカイが悔い改めて廉価良品を提供するようになったとしても(そんな事は望み難いが)、もはや正価販売の復興は望めなくなる。
 と言う訳で、アパレル流通正常化のため、呉服業界のように手遅れにならないよう、流通在庫の焼却処分に助成金を支給しては如何だろうか。「ものづくり」という供給面ばかり支援・助成して流通在庫を増やすより合理的だと思うが・・・・・

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 2017/10/17 09:14  この記事のURL  /  コメント(0)

分権と集権の匙加減
 多数のブランドを展開している大手アパレルやSPAチェーンでは分権と集権の匙加減が大きく業績を左右する事がある。それはMDやDBはもちろんブランド戦略やカバナンスまで波及する。
 調達の集約を図ればコストが下がり付加価値も高まるが、ブランド間で同質化する弊害が発生する。商社を集約すれば素材やパターンが同質化しがちで、素材を集約すればもろに同質化してしまう。シーズンのトレンド素材などを統一してキャンペーンすれば確かにインパクトはあるが、各ブランドで余程デザインやパターン、カラーを差別化しないと思わぬカニバリが発生しかねない。
 DB(ディストリビューション)でもCMIに徹すればSKU単位の消化効率は上がるが店舗の品揃えバランスが崩れて格差が開きがちで、全社の消化効率が高まるとは限らない。部分的にでもSMIを取り入れれば店舗の活力は高まるが、蒔き切れないSKUや消化効率が落ちるSKUも出て来る。SMIに徹して損益管理や人事管理まで店長に一任する「疑似支配人制」まで行けば店舗の活力は最大化するが、不振在庫が積み上がったりカバナンスの問題が生じたりするリスクも否めない。
 ブランド戦略では分権と集権は複雑に交錯する。各ブランドが自由に好調商品を追いかけると何時の間にか皆が近似してしまい、手酷いカニバリに陥らないとも限らない。トップが旗を振って方向を指し示したり取引先や素材を集約すれば一時は効果があるにせよ、いずれ同質化の罠に嵌ってしまう。分権しても集権しても、誰かが客観的に交通整理しない限り、同質化とカニバリのリスクは避けられない。
 それにはマーケットを世代やテイスト、カテゴリーはもちろん、MD手法や調達手法、販売チャネルや提供方法まで多次元のマトリックスに分類して位置付け数字で検証する仕組みが不可欠だが、自らの感性が突出していると信じて勘と思い込みで突っ走るこのギョーカイでは顧みられる事は極めて稀だ。ゆえに類似した商品やブランドが集中して過剰供給となる一方、『欲しい商品がない』と彷徨う買物難民も大量に発生してしまう。
 当社が毎シーズン、作製している4000ブランドを多重マトリックスで位置付けた「ブランドツリー」、トゥイーンズからシニアまでローカルストリートからグローバルモードまでビジュアルに位置付けた「客層マップ」、両者をクロスしてタイプ/ブランド別の販売成績で位置付けた「マーケット天気図」に多少なりとも関心を持って頂ければ幸いだ。

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 2017/10/16 09:20  この記事のURL  /  コメント(0)

トヨタと日産の埋めがたい格差
 無資格従業員による出荷前検査が組織ぐるみで常態化していた事が発覚して大量リコールに追い込まれた日産自動車だが、それは半世紀以上も前から続いていたのかも知れない。「技術の日産」と謳いながらトヨタ車と比べれば品質感に劣り耐久性にも格差があると言われてきたが、やっぱりね〜と思ってしまう。94才になる親父が半世紀以上も前に乗っていたセドリックとクラウンの差を子供心に実感した記憶が蘇るのだ。タクシーの運転手もみんな耐久性の格差を言うよね。
 私の業務上の実感も両社の埋めがたい格差を裏付ける。幾多の商業施設の開発やリモデルに関わり、数百の商圏分析や売上予測を行って来たが、トヨタの工場がある商圏と日産の工場がある(在った)商圏とでは商業施設のポテンシャルがまったく違うのだ。所得水準にも消費支出にも明らかな格差があり、そこに開業した大型商業施設の売上にも少なからず影響している。
 ひとつは立川郊外の日産自動車村山工場跡地に06年11月に開業したイオンモールむさし村山(開業時はダイヤモンドシティ・ミュー)で、想定した客層と実際の来店客にギャップがあって低価格品しか売れず核店舗の武蔵村山三越が09年3月に撤退し、2010年4月までにH&Mなど低価格テナントに入れ替えて売上が急浮上した経緯がある。もうひとつは日産車体跡地に16年10月に開業した三井不動産のららぽーと湘南平塚で、辻堂駅北口のテラスモール湘南とは客層が大きく異なり、やはり高単価テナントは厳しいと聞く。
 その一方、名古屋東部のトヨタのお膝元の新興住宅地に16年12月、開業したイオンモール長久手は絶好調と伝え聞く。長久手市は平均年齢が全国一若く人口増加率も県内一(自然増に限れば日本一)、所得指数も県内一高く急上昇が続き、東洋経済の「住みよさランキング2015」で県内一位、全国二位にランクインするという絵に描いたような“幸せなサバービア”で、街並や住民の暮らし振りはバブル期の「たまプラーザ」やCMの「トヨタウン」を想起させる。
 トヨタと日産は業績以上に下請けや孫請けまで裾野の豊かさが違い、工場が立地する地域の潤いにも大差があると言わざるを得ない。製品も見た目や性能には大差がなくても、下請けや孫請けまでの経営の安定度や部品の摺り合わせ精度の格差が完成度や耐久性に響くであろう事は想像に難くない。トヨタと日産の埋めがたい格差は企業の真の力量は下請けや孫請けまで潤す裾野の豊かさなのだと痛感させる。
 我らギョーカイでも、納入業者を絞り上げて利益を収奪する絶壁型の企業と納入業者もそれなりに潤う富士山型の企業の差は露骨だ。売上が苦しくても取引する企業は選別したいものだ。

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 2017/10/13 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

EC偏重とAI依存に潜む罠
 過剰供給と同質化、ECへの売上流出で低迷するアパレルの店舗販売だが、在庫のECシフトと店舗運営の劣化がそれに輪をかけている。在庫のECシフトが進む理由は以下の二点だ。
1)全国を一ヶ所〜数カ所のDCでカバー出来るECと多店舗に在庫が分散して偏在が避けられない店舗販売では消化効率に大差があり、在庫消化の全体最適を求めれば店舗よりECに在庫が向けられてしまう。
2)低迷する店舗販売より伸びるECに商品供給を優先するのは当然で、EC向け在庫と店舗向け在庫を一元的に管理・運用すればするほど店舗に売れ筋が回らなくなって店舗販売の低迷が深まってしまう。
 店舗運営を劣化させているのはAIに依存して売場を見失っていくセントラルDB(CMI)、品揃えへの関与を断たれて在庫運用のスキルを失っていく店舗の両面ではないか。
 CMIではPOSデータに基づいてコンピュータがアルゴリズムで配分や補給、値引きや店間移動を自動指示するAIが加速度的に進化しており、高精度化・効率化の半面で売場の実態や商品の特性を見ない弊害も指摘される。とりわけ顕著なのが売価変更のタイミングで、消化進行から自動判断してしまうと売場での賞味期限と乖離しかねないし、陳列位置の変更や出前組み替えなどの再編集でプロパー消化する機会も損なってしまう。実際、コーディネイトや編集訴求次第でまだまだプロパーで売れる商品が機械的に値引きされているのを目にする事が多くなった。
 本部がCMIのAI依存を深めるほど店舗は品揃えへの関与を断たれてフェイシング管理や再編集など在庫運用のスキルを失っていく。POSデータはあくまで結果に過ぎず、出前再編など現場の再編集スキルで稼げる余地が見えるはずもなく、結果の数値だけ追えば縮小スパイラルに陥りかねない。何より恐いのは現場の運用スキルが退化して店舗運営の基礎体力が損なわれる事だ。それがまたECシフトを加速すれば店舗販売は崩壊してしまう。
 このギョーカイは時々のブームに右往左往して長期的な戦略を見失い収益構造を損なうという‘水商売体質’を否めないが、EC偏重とAI依存もその例に漏れないのかも知れない。ECとAIにばかり注力して売場を見なくなれば現場の運用スキルと達成意欲を損ない、店舗販売の衰退を加速して収益構造を一段と毀損してしまう。手遅れになる前に、店舗運営とりわけ在庫運用の手順と再編集スキルの確立を急ぐべきだ。幼稚園のお遊戯みたいなVMDでお茶を濁している場合ではないだろう。

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 2017/10/12 09:09  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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