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「女の勲章」と服飾専門学校の闇 
 先週末、山崎豊子原作「女の勲章」のスペシャルドラマが松嶋菜々子主演で二夜連続放送されたが、視聴率は15日が8.1%、16日は6.2%に留まったとか。朝ドラの「べっぴんさん」も今ひとつ人気が盛り上がらなかったから、ファッションギョーカイものは視聴者の共感が限られるようだ。
 それはともかく、「女の勲章」に描かれた52年頃には6748校もあって生徒数も50万人を数えた服飾専門学校(当時は‘洋裁・家政’専門学校)も近年は1万5000人を切っているとか。50年代までは型紙と生地を購入して自分で縫ったり洋装店で仕立てるのが一般的だったし、女性が手に職をつけるにも洋裁が手っ取り早かったが、60年代に入ると既製服化が急速に進んで洋裁は人気を失って行った。DCブランド黎明期の77〜78年には生徒数が一時9万人近くに回復したものの、80年代に入ると釣瓶落としに減少して今日に至っている。
 それだけファッション業界が凋落して若者に夢を見せるパワーを失ったという事なのだろうが、近年はECやITとクロスする‘ファッションテック’を掲げて生徒数の減少に歯止めを掛けようと試みられているから、次は「ファッションテックの勲章」がTVに登場するのかも知れない。
 かつての洋裁・家政専門学校は‘洋裁’というスキルを教えていたが、80年代以降の服飾専門学校は‘クリエイション’、近年は‘ファッションビジネス’そして‘ファッションテック’というイリュージョンを振り撒いて若者を集めようとするばかりで、実務に耐えるスキルを教えているか極めて疑問だ。
 かつての‘洋裁’は確かに‘身に付くスキル’だったが、今日の服飾専門学校が振り撒いている‘クリエイション’や‘ファッションビジネス’‘ファッションテック’は果たして実務に耐える‘身に付くスキル’なのだろうか。若者の関心を惹くイリュージョンを振り撒いて生徒を集めるばかりで‘身に付くスキル’が希薄だとすれば、『いつかは企画に』『いつかはプレスに』というイリュージョンを振り撒いて若者を使い捨てて来た‘産学共同’の手口は何も変わらないのではないか。
 服飾専門学校の闇は深いが、イリュージョンばかり追ってソリューションや実務スキルを軽視するギョーカイの体質も大差ないから、こちらの闇も限りなく深いのだろう。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2017/04/21 10:00  この記事のURL  /  コメント(0)

ユニクロはなぜ米国で売れないのか
 ファーストリテイリングは毎シーズン、東京で行っていたユニクロの新作発表会を3月29日、ニューヨークのソーホーで開催したが、『グローバルに浸透させるにはNYでアピールする事が大事』と言う柳井社長の発言とは裏腹に、進出から10年過ぎても黒字転換出来ない米国市場開拓への焦りが伺われる。
 これに関してNHK米国総局は『ユニクロがアメリカで売れない訳』を現地取材して、1)機能性先行でファッショナブルでない、2)移民国家米国の多様な好みに対応していない、3)大量生産で投入まで時間を要し鮮度感がない、などと米国民の声を取り上げ、ZARAやH&Mの成功と比較して『アジアでは成功しているのに欧米ではなぜ苦戦?』と問いかけていた。
 この指摘は本質を突いていると思う。苦戦の要因はかつて米国進出を図って挫折したエスプリとも通ずる‘アジア的画一性’に在るからだ。コンパクトなキャラクターSPAならともかく、大型店では千坪を超えるユニクロが画一性のまま米国市場に受け入れられるはずもない。
 稲作文化を原点とするアジアは中央集権的画一性が強いが、狩猟文化に発して多民族が交錯して来た欧米、とりわけ移民国家である米国は分権的多様性が極めて色濃く、州によって生活文化はもちろん法律さえ異なる。アジア市場にはMD運用やサイズスペックで対応出来ても、米国市場には根本的な多様性が求められるのではないか。
 そんな米国でも、かつてはT型フォードに代表される画一的大量生産商品やサバービア文明下の画一的チェーンストアが受け入れられた時代もあったが、前者はGMの多様なラインナップに駆逐され、後者もネットで個に応えるECに駆逐されつつある。そんな歴史観から見れば、ユニクロは『T型フォード的画一大量生産商品を画一的チェーンストアで販売する前世紀の流通システム』と言わざるを得ない。
 ユニクロもそんな時代の変化を見て、『メイド・フォー・オールからメイド・フォー・ユーへ』と謳って、大量生産した在庫を売り減らす水平分業型SPAからパーソナルにオンライン生産する垂直協業型の「情報製造小売業」への変身を急いでいるが、システムは変えてもアジア的中央集権体質のガバナンスは変えられず、様々な対応がちぐはぐになり後手に回っている。それが‘個人’の責任と権限に立脚する分権ガバナンスを確立した欧州ライバル企業に対する弱点となってユニクロを落伍させるとしたら、ユニクロに必要な‘変革’は何なのだろうか。
 それはともかく、根本的に多様性対応するにはマーケティングと商品開発の拠点を多様化し、個店に品揃えの権限を移譲するしかない。アジアの開発拠点を東京と上海、米国の開発拠点をNYとSF、欧州の開発拠点をパリとストックホルムに置き、個店が自らの意志でそれらから選択し数入れして品揃えを構成するならユニクロのアジア的画一性も解消され、米国市場でも離陸出来るのではないか。

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 2017/04/20 09:14  この記事のURL  /  コメント(0)

退化する店舗販売
 名駅前に開業する「タカシマヤゲートタワーモール」内覧会を取材して痛感させられたのが店舗販売の悲しいほどの退化だった。各テナントとも、それなりに力入れて店を作りVMDにも注力しているのだが、運営システムは一歩も進化しておらず、VMDスキルは退化が目立った。進歩的な一部のテナントがタブレットを並べてオムニチャネルなエンゲージメントやAI仮想試着システムを訴求する中、百年一日の店舗販売は古い写真の面影のように見えた。
 そう見えてしまう最大の要因は、1)テイストには拘ってもMDのスキルを欠いている、2)MDは組めてもルック訴求/アイテム訴求/カラー訴求などの陳列スキルが稚拙、3)配色スキルや建築的/生花的フォルム構成の美術的素養を欠いている、の三点に尽きると思う。
 見た目の洗練やインパクトだけでなく現実に販売消化を促進するには、これらに加えてMD展開や在庫内容の変化に即した様々な再編集スキルが不可欠だが、DB運用との連携や天候変化対応など経験則の承継も必要で簡単には習得できない。しかし、前述した三点はパターンやスキルが確立されており、ビジュアル資料を使った研修や売場での実習を繰り返せば現場を担う人は容易にマスター出来る(デスクで数字で考える人は難しい)。
 なのに店頭が退化していくのはどうしてなのだろうか。それには二つの要因が推察される。ひとつは、低報酬やキャリアアップの制約が解決されないまま人材が流出して現場のスキルが承継されなくなった事、もうひとつは、経営陣が勢いのあるECやITばかりを向いて店舗販売への関心が薄くなっている事だ。投資や昇進機会はもちろんだが、EC/IT分野と店舗現場とでは眼を剥くほど給与格差がある事も店舗現場の劣化を加速していると危惧される。
 オムニチャネルで先行する米国ではECの拡大が店舗販売を圧迫して雪崩的な閉店ラッシュを招いているが、それをもたらしたのは消費の移動だけではないかもしれない。EC/IT分野と店舗分野の給与格差は我が国の比ではなく、店舗販売を支える人々の疲弊と絶望、人材の流出が店舗運営の劣化を加速して雪崩的衰退をもたらしていると推察される。
 ファッション関連のEC比率が16年で11%に迫り米国並みの19%へと拡大していく中、運営効率も在庫効率もECより格段に劣る店舗販売は、経営陣がECに注力すればするほど疲弊・退化し雪崩的に衰退していかざるを得ない。ECを幾ら拡大しても店舗販売を衰えるままに放置すれば、顧客との体験的接点を失ったブランドは遠からず縮小スパイラルに転じてしまう。
 店舗販売を捨てるつもりでないのなら、店舗運営の退化を放置すべきではない。それは店舗運営のスキルやシステムに留まらず、組織内の待遇と機会という根本的ガバナンスに関わる問題なのだ。

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 2017/04/18 09:05  この記事のURL  /  コメント(0)

GINZA SIXは意外に楽しめそう
 20日に開業する「GINZA SIX」の内覧会にお邪魔したが、意外と結構、面白かった。インバウンドを意識しながらも富裕層に的を絞って詰め込まずゆったりと構成しているので、いまどき雲の上の“高天原”と言うしかないが、団体客が押し寄せる銀座の他商業施設と比べると、とりあえずはオアシスのようだ(三原通り側には観光バス乗降レーンを備えるので、やはり押し寄せるのだろう)。
 中央通りに面した高級ブランドの豪華絢爛なメゾネット旗艦店群は足を踏み入れるには多少の勇気を要するが、富裕層ならずとも楽しめそうなのが、ゆったりとイートインを備えたB2Fのフードフロア、着席コンサルティング接客に注力したB1Fのビューティフロア、ゆっくり時間を潰せる6Fの蔦屋書店&カフェ/レストランだ。お買い物はともかく、銀座で最も楽しめる観光スポットとなる事は間違いないだろう。
 百貨店では品揃えが限られるブランド、ゆったり接客スペースが取れないブランド、百貨店からほとんど消えていたブランドも揃い、混雑する百貨店のように急かされる事もなくご愛顧ブランドを吟味できる。効率を追って都心の百貨店が失った‘おもてなし’や建前だけになった‘顧客ファースト’が期待できそうだから、金も時間もある内外の富裕層は百貨店よりこっちがお気に召すと思う。
 銀座の頂点を極めた「GINZA SIX」はインバウンド客のみならず国内富裕層も近隣百貨店から引き寄せ、銀座のブランド消費の勢力図を変えるかも知れない。Jフロントリテイリングが百貨店を捨てて不動産業に徹した「GINZA SIX」は、期せずして百貨店の失った魅力で百貨店から顧客を奪うアイロニーを演ずる事になりそうだ。




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 2017/04/17 10:02  この記事のURL  /  コメント(1)

クーデターの構図
 昨春のセブン&アイといい今春の三越伊勢丹といい、春はクーデターの季節のようだが、クーデターが起こるには‘矛盾の臨界的肥大’という必然がある。春にクーデターが起こるのは決算や人事異動の季節でもあるからで、この2社以外にも昨春、今春と幾つかクーデターがあった。各社で‘臨界化した矛盾’の事情は同じではないが、共通するのは経営トップと現場の乖離に他ならない。
 三越伊勢丹の社長辞任が表面化する直前、『地上の星が見えていない』と当ブログで指摘したが、戦略を構想して指揮する経営トップが必ずしも現場の実態を掌握しているとは限らない。数字や個人的な感触で現場を掌握していると思っていても、構想が先走ったり一方通行のトップダウンが続けば、現場は『無視されている』『振り回されている』と感じるようになる。
 ましてや、収益に貢献していない時めいた‘天空の星’ばかり持ち上げて、縁の下で頑張って稼いでいる‘地上の星’を冷遇するようなガバナンスが続けば、現場の気持ちは確実に離れて行く。それが予算や人事、賞与など現実的な待遇にまで及んで行けば、会社を去る人が増え、残る人も不満が溜まり、矛盾が臨界点に達すればクーデターに至る。
 クーデターの形態は経営トップの交代に間髪入れず主要人事も全面刷新するという‘革命’、経営トップは変らないが執行役員陣が入れ替わるという‘政変’の他、資本と経営を分離する‘独立’というケースもあった。どこがどれとは申し上げないが、どれも近年に起こった実例だ。
 私の知る限り、クーデターに至った会社はその後に業績が好転したケースが多いから、結果オーライだったのだろう。トップの指導力がイリュージョンに留まって矛盾が肥大すれば、組織がソリューションを求めて地殻変動を起こすのは健全な証拠かも知れない。臨界化した矛盾の解消は必然で、クーデターに至った会社はまだ自己革新する活力があったが、クーデターに至る活力さえ失った会社は萎縮の一途を辿るしかない、という事なのだろう。
 
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 2017/04/14 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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