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ヤマトの‘社徳’と‘仁政’
 ヤマトHDは宅配インフラと労働環境の維持のためには宅配総量の抑制、宅配料金の値上げやサービスの制約もやむを得ないとし、加えて過去二年間に遡って未払い残業代を社員に支払うと発表したが、一般顧客も大口荷主も概ね好意的な反応を示している。そんな反応を「ヤマトの社徳」と評した新聞もあったように思う。
 経営は従業員だけでなく顧客、取引先、株主など多くのステークホルダーの利害のバランスに立って治められるもので従業員への‘仁政’が必ずしも是とされる訳ではないが、ECの急拡大、とりわけアマゾンの引き受けでヤマトの宅配業務がパンク寸前に追い込まれていた事が広く理解され、日頃のサービス姿勢が多くの顧客に評価されていた事が好意的な反応に繋がったのだろう。それをもって「ヤマトの社徳」と評したのは、日頃の「不徳」ゆえに業績悪化や不祥事が散々に叩かれ炎上する企業もあるからだと思われる。
 横田増生氏の潜入取材による「ユニクロ帝国の光と影」に対するファーストリテイリング社柳井正氏の対応と「仁義なき宅配」に対するヤマトHD山内雅喜氏の対応は極めて対照的で、同じ労働環境問題を指摘されながら、一方は名誉毀損として最高裁まで争い、一方は会社の利益を犠牲にしても労働環境の抜本是正に動いた。これを‘社徳’の違いとするのは表面的に過ぎると思うが、会社の将来に渡る発展に繋がるのはどちらかと考えればヤマトHDの方が経営的にも‘正解’と見える。
 目を我らギョーカイに転ずれば、顧客や取引先に犠牲を強いても従業員の面子と雇用を優先する優越的地位感覚を捨て切れない名門企業もある。従業員には‘仁政’かも知れないが、業界も社会も‘社徳’を評価する事はないだろう。一時は‘仁政’を演じても、先はお取り潰しが必定なのではないか。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2017/03/24 09:22  この記事のURL  /  コメント(0)

「ユニクロ潜入一年」に見る課題
 週刊文春の連載をまとめた横田増生さんの「ユニクロ潜入一年」が発売されたので早速、購入して一読してみた。連載をまとめただけで加筆は見当たらなかったが、まとまった書籍として読めたのは便利だった。
 世間では‘労務問題’と捉えているのだろうが、アパレルチェーンの店舗運営に通じた専門家としては‘店舗運営問題’と捉えている。‘ブラック’と指摘されてしまう店舗運営の無理と矛盾が「ユニクロ」とファーストリテイリング社の足を引っ張って経営効率を劣化させ、グローバルSPAのトップレースから脱落する一因となったと認識しているからだ。一読して店舗運営の問題点を並べると、ざっと以下のようになろう。
1)繁忙期の社員/準社員の勤務シフトに無理が在る
 『午前9時から午後11時半(拘束14時間半)という勤務が5日連続、7日連続という人も少なくなかった』と指摘しているが、食事と休憩を差し引いても13時間という長時間労働が何日も続けば疲労困憊してしまう。バイトも含めた勤務シフト組みもグループウエアを活用しておらず、管理職の負担も大きいと推察される。
2)商品の送り込みと販売進行のラグが大きい
 『バックルームの通常在庫は段ボール50箱だが、売上目標を下回る日が続くと300箱を超えていた』と振り返っているが、50箱がキャパのバックルームに300箱を積み上げるのはどんな棚管理なのだろうか。探すのも大変だが、圧し潰された商品も可哀想だと思う。
 新規投入やEOS補充の指示が出てDCでピッキングしてから店入荷まで国内なら2日ほどだが、これほど積み上がるという事は未だ生産地DCからの‘直流’なのだろうか。オムニチャネル対応も睨んだ‘直流’‘交流’並走体制が軌道に乗るのは何時の事なのだろうか。
3)荷受け〜仕分け〜品出し加工〜品出しのプロセスが未整備で極めて非効率
 入荷商品の段ボールが大量に積み上げられたままで品出し前の仕分けが速やかに行われておらず(仕分け用のシステムラックも並んでないようだ)、‘袋むき’もともかく‘サイズチップ付け’や‘防犯タグ付け’もバックルームで人海戦術で行われている事には唖然とさせられた。
 『一台の台車に四、五個の段ボールを載せて運ぶ』とは荷受け段階か品出し段階かは解らないが、段ボールをそんなに重ねて運べば危険を否めず‘畳み皺’の要因ともなる。労災防止のためにも即刻、『二個まで』とマニュアルに記載し現場に徹底すべきだろう。それにしても、品出し段階も段ボールで運んでいるのだろうか。食品スーパーでは常識の「品出しカート」は使われていないのだろうか。
4)陳列整理に異様な人時を費やして勤務シフトの無理を招いている
 「陳列整理」はお客様が崩したり移動したり試着した商品を整理分類して正しく陳列棚に戻す作業で、‘畳み’が多く単価の低い「ユニクロ」では繁忙時には必死になっても追い着かない。『閉店から1時間半かけても売場は荒れたままだった』と書かれているが、人時量が肥大して勤務シフトの無理を生じる要因だけに抜本的な解決が望まれる。
5)在庫探しを非効率な人海戦術に依存している
 支給される「iPad」でバーコードをスキャンすれば在庫の有無は解るが(タイムラグの事は触れていない)、RFIDタグではないので何処にあるかは解らず、バックルームの棚管理が蔑ろにされているから探すのも大変なようだ。売場案内も高頻度に求められており、お客様に解り易い売場案内と在庫案内の仕組みが出来ていない。
6)レジ作業に膨大な人時を費やし人員逼迫の要因になっている
 単価が低く売上点数が膨大な「ユニクロ」では忙しくなるとレジに列が途切れず、単純な作業の繰り返しで疲労するレジ業務に大量の人時が費やされているが、これはまったく利益の生産のない経費食い作業でもある。「ジーユー」では無人レジの実証も始まっているが、もっと抜本的な‘革命’が急がれる。
        ※        ※        ※        ※
 こんな旧式運用を続けていては人手不足は解消しないし、労働苛重と後ろ指を指され、収益性も劣化が避けられない。オムニチャネルな‘直流’‘交流’並走物流体制とRFIDタグの全店導入は即刻の至上命題で、大型店のバックルーム運用は専門物流業者に任せるべきだ。商品整理とレジ処理についてはRFIDタグ導入に加えてEC比率向上と部分的ショールーム陳列の導入が要だが、‘券売機’的AIサイネージも効果が期待される。
 外部の指摘や非難に刺を逆立てても抜本改革が遅れるだけで何も解決しない。素直に受け止めて真摯かつ素早い改革が急がれよう。グローバルSPA日本代表の脱落は許されないのだから。

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 2017/03/23 09:15  この記事のURL  /  コメント(0)

公的支援は‘両刃の剣’?
 産地擁護のキャンペーンや助成金が氾濫する中も『‘伝統工芸’特有の工賃切り下げが後継者どころか第一線職人まで離職に追いやっている』という記事を見て愕然とさせられた。『「半年給与なし。仕事保証なし」 京都・西陣織職人の「弟子募集」はブラックと言えるのか』と見出されたニュースだが、『西陣織職人の平均年齢は75歳ほどで年金受給者ばかり。なので年金支給額に見合って工賃が決まる。よって工賃水準が低下し、第一線の職人が食えなくなって離職が進み壊滅状態に陥っている』と報じられていた。まるで主婦パートの配偶者控除みたいな事が伝統工芸の存続を脅かしているというのだ。
 こんな事が起こっているとは私も初めて知ったが、自分にも同じようなジレンマがある事に思い当たる。これまで四百数十ヶ月、天引きされて来たのに未だ些細な老齢年金しか支給されない。厚生年金の報酬比例部分は全額‘支給停止’されたままだ。支給してもらうには月給を28万円まで下げねばならないが、そこまで下げて貰えるのが月々13万8000円ほどだから ‘支給停止’に甘んじている。
 職人の世界では月額28万円に収める年金世代が溢れれば、賃金水準が下がって現役世代の所得が圧迫される。‘月額28万円’では現役世代は生活設計が成り立たない。「高年齢雇用継続給付制度」(60歳時点より75%未満に賃金が下がれば最大15%まで給付する)も賃金水準を切り下げて現役世代の所得を圧迫しているのかも知れない。年金世代が頑張るのは良いけれど、それが現役世代を圧迫して後継世代が細るとなれば問題だ。
 技能労働者間でも企業間でも行政の給付金や助成金が公正な競争と世代交代を阻害し、却って業界の衰退を加速している一面は否めない。我らギョーカイでも助成金が却って進化と世代交代を妨げているという指摘もある。公的支援は‘両刃の剣’なのだ。

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 2017/03/22 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

ファーストリテイリングの脱落
 H&Mの16年11月決算に続いてINDITEXの17年1月期決算が発表され、日経は3月16日の記事でこの二強とファーストリテイリングの格差が開いて来たと報じているが、実態はどうなのだろうか。
 まず日経の記事に載った三社の売上を見て『えっ!H&Mが売上首位に立ったの?』とびっくりした方も居られるだろうが、これは‘嘘ニュース’に近い誤解を招く表現だ。グローバルSPAの売上首位は依然としてINDITEXであり、H&Mが抜き去ったという事実はない。
 始めは為替レートの取り方のズレかと思ったが、ユーロ/スウェーデンクローナ(SEK)とも前年からの為替レート変化は大差ないから逆転が起こるはずがない。そこで気が付いたのが、H&MだけがVAT込みでINDITEXもファーストリテイリングもVAT抜きだという不整合だった。念のためINDITEXのアニュアルレポートで会計基準を確認しても売上は‘net of VAT’(税別)と記載されていた。H&Mだけほぼ16.4%も売上が上乗せされていたのだから、「首位逆転」という誤解を生じさせた訳だ。
 さてVAT抜きで三社を揃えればINDITEXが233.1億ユーロ、H&Mが1922.7億SEKとなり、それぞれ決算期間中の平均レート(ユーロは119.8円/SEKは12.9円)で換算すればINDITEXが2兆7925億円、H&Mが2兆4802億円(INDITEXの9掛け弱)、ファーストリテイリングが1兆7864億円(INDITEXの64.0%/H&Mの72.0%)となって順位は変らない。
 さて日経の記事が言うようにファーストリテイリングが二強に引き離されたかどうかだが、同様な計算で前期のファーストリテイリングの売上はINDITEXの60.2%、H&Mの64.1%だったから、むしろ差を詰めたように見える。残念ながらそれは為替のマジックで、この間のユーロに対する円高進行が11.15%、SEKに対する円高進行が12.4%だったから、為替レートが変化しなかったとすればファーストリテイリングの売上はINDITEXの57.4%と引き離された一方、H&Mに対しては64.1%と前年から変らないというのが現実だ。
 現地通貨ベースの売上伸び率もINDITEXの11.5%に較べてH&Mは6.3%、ファーストリテイリングも6.2%と伸び悩み、既存店売上もINDITEXが10%伸ばしたのに対してH&Mは推計4%減、国内ユニクロは0.9%増と格差が開いた。営業利益率に至ってはINDITEXが17.25%(−0.36)とほぼ前期水準を維持したのに対し、H&Mは12.4%と2.6ポイント、ファーストリテイリングも7.1%と2.65ポイント落とし、INDITEXとの利益率格差は2.4倍にも開いてしまった。
 二強と格差が開いたと言うより、一強INDITEXが独走態勢に入る一方、H&Mは効率が低下して成長力が鈍り、ファーストリテイリングは壁に当たってトップグループから脱落したと総括されよう。ファーストリテイリングは17年8月期第一四半期も連結売上が1.6%増に留まり、成長を支えて来た海外売上も−0.2%ながら減少に転じており、17年8月期は計画通りに推移しても3.6%増に留まる。
 格差が開いた要因は1)オムニチャネル戦略と物流改革の遅れ、2)古典的な労働集約的チェーンストア運営、3)アジア的ローカルカジュアルの限界、と思われる。有明プロジェクトの方向は正しいが遅きに失した感は否めず、労働集約的な店舗運営も横田増生氏に「ユニクロ帝国の光と影」で指摘された時点で謙虚に抜本改革すべきだった。ヤマト運輸が横田氏の「仁義なき宅配」で指摘された過酷労働を逸早く抜本是正に動いた事と比較しても、ファーストリテイリングの経営体質はグローバルに通用する柔軟さを欠いているように思う。

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 2017/03/21 09:13  この記事のURL  /  コメント(0)

クリエイターの系譜
 リテイリングの技術革新と科学的なマーケティングを追求して‘クリエイション’には距離を置くかに見える私だが、ファッションビジネスに関わる以上は店頭やストリートのスタイリング変化はもちろん、コレクションシーズンには毎日のようにネットに載せられるランウェイをチェックしている。
 トレンドを上手く取り込んで売れるスタイリングに表現する凄腕のディレクターもいれば、スキルを駆使してオリジナルなスタイリングを切り開く職人的なクリエイターもいるが、70年代のDCブランド黎明期からクリエイターの変貌を垣間見て来た業界人としては、クリエイターは以下の4系統のオリジンから発しているように見える。
1)オートクチュール系
  立体的な人体を平面的な素材で三位一体に纏うトワルの美学に立脚する王道的クリエイター。
2)アーキテクト系
  立体的な人体をコンポーネンツ化した機能素材でモジュール的に纏う建築的クリエイター。
3)リ・コンストラクト系
  立体的な人体を平面的な素材をキモノ的に再構築して纏うリメイク的クリエイター。
4)ハンドクラフト系
  織りや染め、製品加工で手作りの風合いや着心地を追求する職人的クリエイターで、造形的にはリ・コンストラクト系に近い。

 誰がどの系統かなど、うっかり言っては‘不敬罪’に問われて炎上させられかねないから、皆さんのご想像にお任せする。ちなみに、私のギョーカイでのキャリアは42年前にリ・コンストラクト派を代表する某著名ブランドも担当するアシスタントバイヤーからスタートしたが、その頃の某ブランドはデザイナー自らの手による手染め作品をデザイナー自らが行李で運んで営業していた。そこから出た「S」など、リ・コンストラクトなアイデアをオートクチュール的トワルで洗練させたクリエイションが欧米で評価されたのだろう。
 マーケティングとマーチャンダイジングだけでなく‘クリエイション’もちゃんと見てますが、‘クリエイション’と商業的成功との乖離はあまりに大きく、プロとして投資効率を予測しかねます。‘クリエイション’を過信してはビジネスがギャンブルになってしまうので、ほどほどに距離を置いているのです。

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 2017/03/17 09:16  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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