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綺麗事では救われない
 転職支援サービスの「クリーデンス」が毎年、この時期に発表する「ファッション業界 職種別平均年収」の2016年版では職種による年収格差が露呈していた。
 25〜29才の高年収職は「店舗管理」「OEM営業」、低年収職は「パタンナー」「販売」、30〜34才の高年収職は「店舗管理」「プレス・販促」、低年収職は「販売」「パタンナー」、35〜39才の高年収職は「OEM営業」「MD・バイヤー」、低年収職は「販売」「パタンナー」で、いずれの世代でも「販売」「パタンナー」が最下位だった。
 25〜29才では職種によって上下106万円、30〜34才では126万円、35〜39才では217万円と、キャリアを積むごとに職種で年収の格差が開いて行く実態が見える。三世代間の昇給巾を比較しても、最も高年収の「OEM営業」は187万円も昇給しているのに、最も低年収の「販売」は62万円しか昇給していない。職種に貴賤は無いとは言え、生産性の格差が反映しているのだろう。
 さらに2012年版と比較してみると、三世代平均で「OEM営業」の74万円増を筆頭にたいがいの職種が水準を上げたのに対し、「パタンナー」は25万円、「デザイナー」は20万円も年収が下がっている。世代別に見ると35〜39才で「パタンナー」は47万円、「デザイナー」も36万円、水準を下げており、両職種は全世代で年収が下がっている。他職種でも世代によっては下がったものもあるが、全世代で水準を下げたのは「パタンナー」「デザイナー」だけで、とりわけ「パタンナー」の落ち込みが大きい。
 ‘クリエイション’だ‘ものづくり’だと持ち上げても「パタンナー」「デザイナー」の年収は低く、12年からの落ち込みも大きい。‘ロープレ・コンテスト’‘神ってる’と持ち上げても「販売」の年収は全職種中最下位で、キャリアを積んでの昇給も最も小さい。
 業界の矛盾が押し付けられ低報酬を余儀なくされる職種はなり手が限られるゆえ、様々なキャンペーンで持ち上げるしかないのだろうが、そんな‘免罪符’的綺麗事で済まされては当人達は救われない。本当に‘ものづくり’を大切にしたいなら「パタンナー」や「デザイナー」はもっと厚遇されるべきだし、「販売」が重要だと認識しているなら使い捨て同然の待遇は店舗運営の仕組みを変えて改善すべきだ。
 ファッション消費が翳って行く中、綺麗事で済ませて働く者に犠牲を強いては優れた人材が集まらず、業界が行き詰まってしまう。顧客はもちろん、働く者たちとの‘絆’を再生すべく真摯なアクションが急がれよう。

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 2017/02/21 09:16  この記事のURL  /  コメント(0)

百貨店の五つの選択?
 衣料品の低迷で地方店や郊外店、都心でも負け組店舗の撤退が続く百貨店だが、長い目で見れば変質が著しいから、ひょっとするとまったく異次元の姿に変貌するやも知れない。
 百貨店売上がピークだった91年には40.6%を占めていた衣料品は16年には31.7%にシェアを落とし、替わって身の回り品が9.2%から13.0%、化粧品が推定2.9%(百貨店協会の統計は2006年以降)から7.3%、食料品が21.6%から28.1%に増え、売上構成は大きく変わった。郊外SCや駅ビルでも衣料・服飾関連店舗が減って食物販・飲食サービス店舗に逆転され、化粧品・理美容サービス店が増えているから必然の変化だったのだろう。
 百貨店協会の統計を遡れる最古の1965年の売上シェアを見ると、衣料品が42.9%、身の回り品が8.1%、食料品が17.5%だったから、身の回り品と食料品は一貫して増えて来たのだ。その替わり減って行ったのが衣料品と家具/家電/生活雑貨などの家庭用品で、家庭用品は65年の14.6%が91年には10.1%に減り、16年には4.5%まで落ち込んでいる。今日では衣料品・身の回り品・化粧品・理美容サービスに特化してギフト雑貨やチョコ/キャンディぐらいしか残っていない米国のデパートメントストアでも、70年代までは家電売場もインテリア売場も相当の面積を占めていた。
 そんな変貌を振り返るなら、食品売上が衣料品売上を抜き、食品・飲食サービスを主役に衣料品・身の回り品や化粧品・理美容サービスが脇役を固める姿になっても驚きはしない。昨年度に開設された駅ビルの大半は食品・飲食サービスが主役で、ファッション関連は‘おまけ’でしかなかったからだ。
 近未来の百貨店は1)食品・飲食サービスを主役に衣料品・身の回り品や化粧品・理美容サービスが脇役を固める洒落た「ライフスタイル勧工場」となるか、2)売場貸に徹してテナントビル化するか、3)オムニチャネルなプラットフォームを確立してブランドを網羅した巨大ショールームストアに変貌するか、4)セントラルバイイング&ディストリビューション体制を確立して巨大セレクトショップチェーンに変貌するか、5)セントラルバイイング&ディストリビューション体制をベースにOPS(オフプライスストア)に主力を移すか、のいずれかだと思うが、3)はアマゾンやZOZOに張れるフルフィルメント体制が前提となるし、4)は単純な買取さえ今までまともに出来なかったのだから今更、Nordstromに化けられる訳もなく、『ご無理でしょう』と申し上げるしかない。5)は4)を前提としての派生戦略だから、これも『ご無理でしょう』。となれば現実的な帰結は1)か2)になってしまうが、それではあまりに不甲斐ないのではないか。
 これまで幾度も危機を指摘されながら、既得利権と面子に固執し納入業界にツケを回して共倒れを強い、ミニバブルだインバウンドだと棚ぼたの神風を期待して抜本的な改革を先送りし、とうとう後がないところまで来てしまった百貨店業界だが、まだ何とかなると思っている節がある。このままでは良くて1)か2)、悪くすれば不採算店を切り捨て社員を振り落とした果てに地域の商業遺跡として本店を残すだけになりかねない。
 まだ面子があるなら3)か4)を目指して死に物狂いで全社員が特攻すべきだと思うが、花鳥風月な歌舞音曲を演じて時を過ごすなら、新手の武士達に全てを奪われてしまうだろう。

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 2017/02/20 09:57  この記事のURL  /  コメント(0)

青い鳥は何処にいる
 「バーバリー」を失い、リリーフと期待した「マッキントッシュロンドン」「クレストブリッジ」も苦戦する三陽商会は駅ビルやSC、ECや異分野に活路を見出そうとしているが、果たしてそこに‘青い鳥’はいるのだろうか。
 駅ビルやSCとてファッション関連はオーバーストアが著しく、ブランドの廃止休止や店舗の撤退が広がり、新設/リモデル商業施設ではファッション関連店舗が潮が引くように減少し、替わって食物販や飲食サービス、化粧品や理美容サービスの店舗が急増している。急減するアパレル・服飾関連では限られた勝ち組とて業績が不安定になっており、駅ビルやSCで成功体験の無い三陽商会に今更、勝機があるとは到底思えない。
 三陽商会はものづくりのクオリティは高いが経営コストも高く、低価格が求められる駅ビルやSCでは不利を否めない。かつて駅ビルなどに展開した「スマッキーグラム」も低価格を強いられてODMに流れ、三陽商会らしい上質感を失って周囲のブランドと同質化し、14年春夏期を最後に廃止されている。
 お手頃な価格と機動的な市場対応が必須の駅ビルやSCは、ものづくりに拘って開発リードタイムが長くコストも高い三陽商会が持ち味を活かして闘える土俵ではなく、かと言って機動的なODMに流れれば周囲のライバルと同質化して埋没してしまうから、アパレル氷河期が極まった今日、勝機があるはずもない。
 『EC発若向けブランド』もアパレル系はもちろんIT系からも続々と斬新なビジネスモデルのベンチャーが参入しており、ノウハウの疑わしい大手アパレルの後発ブランドが離陸する確立は低い。『5年、10年先を見て異分野を含む様々な協業やM&Aも視野に入れる』との発言には当事者感覚を疑った。三陽商会の追い込まれた窮状では‘今’を乗り切って存続の足場を固めるのが唯一危急の課題であり、5年も10年も先を語る情況にはない。
 その一方、ブランドの廃止休止、売場撤収が広がってブランド不足に陥っている百貨店は残存者利益が期待出来る。とりわけ三陽商会が得意とする高品質やモード感が求められるベターゾーン、コンテンポラリーゾーンは20年30年と続く古手ブランドばかりで売場が陳腐化し切っており、単品感覚の新手ブランドが希求されている。
 ベターゾーンやコンテンポラリーゾーンを支える新たな客層は働き盛りの40代〜50代キャリア層(男女)で、機能性とモード感、きちんと感と品質感が揃った着回しの効く単品ブランドを希求している。それに応え得るのは欧州のファクトリーブランドだが、百貨店の衰退で販路が萎縮する中、バラエティも奥行きも限定され、日本市場のキレイ目シフトにも立ち後れ、需要に応えられなくなっている。
 三陽商会が残された戦力を集中すべきは、限られた国内生産ラインを週サイクルで売場と繋ぐファクトリーダイレクトな上質単品ブランドだと断じたい。EC一体のオムニチャネル展開ブランドとして顧客ダイレクトな販路を確立するのは必然で、百貨店インショップがその一翼を担う事になる。非効率なトータル・コーディネイトを避け、メンズではパンツとシャツ、レディスではパンツとワンピースを通年の軸とし、ニットやカット、ブルゾンやジャケット、コートを季節展開するマルチライナーMDとすべきだ。

 アパレル業界には‘クリエイション’や‘ものづくり’など一方的な付加価値創造を過信してマーケットのニーズや需給を顧みない悪癖があるが、アパレルビジネスの成否は需給関係で決まるのが現実だ。今回の三陽商会の挽回策も駅ビルやSC、20〜30代の若者を志向するなど、供給過剰の真っ赤な海に特攻するものと危惧される。
 「マッキントッシュロンドン」「クレストブリッジ」も決して魅力のないブランドではないが、「バーバリー」の巨大なマーケットを穴埋めせんとする需給のギャップがあまりに大きすぎた事が敗因だ。複数ブランドによる代替が現実的だったのではないか。リスクの高いアパレルビジネスは需給の利が要で、今回の挽回策を見る限り、三陽商会の経営陣はその教訓から何も学んでいない。
 これ以上、試行錯誤を繰り返しては資本を消耗して行き詰まってしまう。それでは志半ばで会社を去って行った仲間達に申し訳が立たないのではないか。三陽商会の‘青い鳥’はSCや駅ビルではなく古巣の百貨店に潜んでいるのだ。

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 2017/02/16 09:13  この記事のURL  /  コメント(0)

お洋服を買わない理由
 昨年はホントに洋服を買わなかった。思い返してみると、その理由は以下の3点だったように思う。
1)どこの店を覗いても一昨年と変わり映えしない似たような商品が、その割には法外な価格で並ぶばかりで、買い気が起こらなかった。
2)贔屓の店で買うものがないからと言って、普段は覗かない店に行っても買上実績がないからどんな差別待遇を食らうか不安で、足が向かなかった。
3)サイズ探しに手間取って待たされたり、スキルの怪しいフィッティングで失敗しないか、知らない販売員と接するのが躊躇され、クーポン値引きや修理品の配送料などECより不利になるのではないかと不安で、わざわざ知らない店まで出向く気力が無かった。

 1)については三年以上もトレンドが変わらず、クローゼットには似たような飽きた服が溢れていたのだから、『正価で買え』という方が無理があったと思う。正価で買わせたかったら、それなりに鮮度のある目新しい服を、価格に見合った品質で並べるしかあるまい。その点、新たなトレンドに切り替わる今秋冬は真っ当な価格と品質で並ぶようなら買いまくってもよいのだが・・・・
 2)については、コンピュータ任せの機械的顧客管理が業界に蔓延して、何処も顧客をクラス分けして差別する事に慣れてしまい、囲い込みの仕掛けが他からの流入も阻止する壁になってしまっている。‘管理された羊’ではあるまいに、そんな扱いは不愉快だから足が遠のいてしまうのも致し方あるまい。
 3)については、リズムが合ってスキルに納得する販売員に出会うのは昔から難しいものだし、在庫探しが速くフィッティングが上手くてセンスも良いなんてスーパーマン(ウーマン)がそうざらにいる訳もない。‘おもてなし’も‘お愛想’も不要で神懸かられても困るが、スキルとセンスは不可欠だ。会社の仕組みで誰もがスーパーマンを演じられるのが理想だが、販売員を取り巻く現実はほど遠い。
 先進企業のよく出来たECやオムニチャネル利便に慣れたせいか、在庫探しに手間取ったりECとの連携を欠く店からは足が遠のいてしまう。利便性や満足度は相対的なものとは言え、よく出来たECに慣れると店は面倒臭い存在になって行く。それがお洋服店の抱える本当の課題なのかも知れない。

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 2017/02/15 09:17  この記事のURL  /  コメント(0)

綺麗事で販売員不足は解消しない
 衣料販売の低迷が極まってブランドの廃止や大量閉店、希望退職などが広がっているが、なぜか店頭の販売員だけは‘人手不足’のようで、業界では相も変わらず「ロールプレイングコンテスト」など啓蒙活動が盛んだ。
 売上が減少してもブランドや店舗が減っても販売員不足が解消しないとは摩訶不思議だが、そこにこそ販売員を取り巻く問題の根がある。いったい販売員の‘職務’とは何なのだろうか。労働時間に占める比率の高い順に作業を並べてみると、「販売員」という名称に似つかわしくない実態が浮かび上がってくる。
 最も比率が高いのが「店内物流作業」で、量販型の衣料チェーンでは労働の大半を占める。具体的には品出しや試着品の棚戻し、陳列整理や補充、在庫探しや棚卸しで、物流センターのピッキングラインと大差ないが遥かに非効率だ。オムニチャネル化がショールーム方向へ向かえば在庫が減って作業量も減るが、米国のように店出荷に依存すると店が非効率な物流センターと化してしまい、余計に物流作業が肥大してしまう。
 次に多いのが「精算作業」で、量販衣料チェーンや雑貨店ではピーク時にはレジに待ち列が出来てかかりっ切りになる。いわゆるレジ打ちと包装で、スーパーならキャッシャー/サッカーの業務だ。「店内物流作業」も「精算作業」もショールーム化とRFIDタグ導入で画期的に圧縮できるから、現状は出来る改善をしないで放置している無策と責められても致し方あるまい。そんな投資をするより低賃金で「販売員」を使い続ける方が効率的だと判断しているのだろう。
 「精算作業」と大差ないのが「店番」で、客数の少ない店や営業時間が長い店では結構な比率を占める。具体的には「何もしていない待機時間」で、店内レイアウトに死角が在ったりストック室に入る頻度が高いと‘最低保守員数’が増えてしまい、結果として「待機時間」が肥大してしまう。「待機時間」の圧縮は営業時間の短縮と勤務コントロール精度の向上に加え、ストック室の廃止と店内死角の解消による‘最低保守員数’の圧縮が決定打となる。
 意外に多いのが「管理作業」で、販売員も兼ねる店長や副店長が社員やパート/バイトの勤務コントロールや報告書作成でサービス残業を強いられるのが常態化している。フォーマットを定めて各自が書き込むグループウエアやFACEBOOKのクローズドグループを活用すれば、随分と軽減されるのではないか。
        ※        ※        ※        ※
 と言う訳で、肝心の「接客販売」(在庫探しや売場案内は含まない)は駅ビルやSCのお手頃衣料店で10%未満、物流センター紛いの量販衣料チェーンでは5%にも届かず、高級ブランド店やデザイナーブランド店でようやく二割三割に達して‘主要作業’となる。「販売員」を「接客販売」に集中させない限り専門職化も報酬の向上も夢物語で、ロールプレイングコンテストや‘おもてなし’‘神懸かり’キャンペーンなど啓蒙活動以前に解決すべき課題が山積している。
 AIや販売員のパーソナリティー化で顧客コミュニケーションが進むECと利便が比較されざるを得ない店舗販売の劣勢を考えても、もはやEC一体のオムニチャネル利便は必須で、店舗運営のシステムと販売員の職能は抜本から変らざるを得ない。「販売員」不足の解消は綺麗事の啓蒙イベントやキャンペーンではなく、店舗運営と販売のシステムを根幹から改革して「販売」の生産性を向上させ、専門職化と報酬の向上を実現することで果たされるのではないか。
 ちなみに‘専門職化’とは必ずしも古典的な「販売専門職」を意味しない。「フィッター」や「オムニチャネル・パーソナリティー」、中大型店では「ストア(ビジュアル)マーチャンダイザー」や「ストア在庫コントローラー」なども効果の高い専門職になるのではないか。

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 2017/02/14 09:56  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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