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最適フェイシング量と陳列の美学
 VMDは顧客の購買利便と店舗運営の効率を両立させる物流工学である一方、商品の企画意図やブランドイメージを美的に陳列表現する商業美術でもあり、そのどちらに偏るかでVMDの‘正解’は大きく変わる。その典型的な例が最適フェイシング量と陳列美学の衝突だ。
 店舗運営の基本中の基本が見易く買い易い陳列と欠品のないフェイシング量維持で、接客中に在庫探しにストック室に走る事が無いよう、朝夕定時に売場のフェイシング量を点検し、次回補充までの販売量を見込んで補充するのが売場要員の日課となる。チェーンストアの世界では‘常識’だが、ことファッション業界となるとイメージが先行してか基本が無視される事が多い。ゆえに、販売員が接客中にストック室に消えて顧客が長々と待たされるという事態が頻発する。
 そんな事態が頻発するのは‘適正フェイシング量維持’という業務慣習がなく、替わりに『ワンラックあたり○○枚まで、一山○○枚まで』といった‘美的基準’が定められているからだ。それが顧客の利便と販売員の生産性を損なっているとは言え、逆に‘適正フェイシング量維持’が物流センター紛いの苛重労働を強いているケースもある。
 単価が低く日々の販売点数が膨大な店では‘適正フェイシング量’も嵩み、標準店の棚割とフェイシング量では収まり切れず、二倍三倍のフェイシング量を詰め込む棚割を工夫しても朝夕の定時補充では追い着かず、ピーク時間帯に度々ストック室に走って補充する事になる。横田増生さんの「ビックロ潜入ルポ」などを拝見すると、そんな物流労働が推察される。
 どっちもどっちだが、それぞれに解決する工夫は幾つもある。問題は、そんな情況を『解決しよう』という意志が疑わしい事ではないか。投資を要するとか業務体系の刷新が煩わしいとか理由はあるだろうが、売場要員を安くこき使える間はそれで済ませたいと決め込んでいるとしたら未必の故意との批判は免れまい。

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 2017/02/28 09:22  この記事のURL  /  コメント(0)

絶好調のバッタ屋さん
 先週末は大阪まで足を伸ばし、「ガイアの夜明け」など経済番組でも度々取り上げられている絶好調のバッタ屋さん、株式会社Shoichiの山本昌一社長のお話(第20回繊維・未来塾)を聞きに行ってきた。講演というより‘放談’に近い断片的な話ではあったが、それだけ絶好調で勢いがあるという事なのだろう。アパレル特化(アパレル・服飾で90%)のバッタ屋さんがこれだけ引く手数多なのはアパレル流通が供給過剰で破綻しているからに尽きる。
 さて山本社長のお話によれば、Shoichiは2005年設立で商いは11億円ほど。『商品は選ばず、販路の規制要望を守り、買取の意思決定も支払いも速く、買いでも売りでも頭を下げる』というバッタ屋さんの鏡みたいなポリシーが評価されてお客さんが増えているそうだ。買った後の仕分けと販路確保にノウハウがないと厳しい商売だが、Shoichiではオンライン社内競りシステムが要と見た。
 次々と持ち込まれる放出品をLAN上のフォーマットに挙げていくと卸しや直営EC、直営店などの営業責任者が単価と点数を入れて競り落としていく、オンワードの支店営業をLAN上で生鮮市場化したような仕組みなんだと推察される。仕分けノウハウについては詳しく聞けなかったが、仕入れ価格の低さと在庫マネジメントの粗っぽさから見てOPS的‘付加価値編集’のレヴェルには遠いと見た。とは言え11億円を50〜60人で回していると一人当たり年間売上は2000万円前後とアパレル卸しとしては限界的に低いから、相当きめ細かいイレギュラーワークをこなしているのだろう。15年7月決算期の売上は10億9400万円、当期純利益は172万円だから、効率的な商売とは言えないかも知れない。
 ‘付加価値編集’に至らないまま『選ばず買い取る』となると相当低い買値でないと採算は採れないが、Shoichiの買値は在庫の揃い方やコンディションにも依るが当初小売価格の3〜8%!と伺った。‘ヨコヨコ’はしないと聞いたが、それで決算原価率55%とは売値も相当に安くロスも大きいと推察される。そこを突っ込んで伺うと、『卸し中心に自社ECと直営店で20〜30%を捌いて年に10回転近く回し、持ち越し在庫は5%までに抑えている』と答えていただいた。
 商品財務やアウトレット商品の‘付加価値編集’に関わっている方なら??と思うこともあり、仕組みやスキルをカイゼンすれば買取価格ももっと高く出来るんじゃないの?と思われるかも知れないが、これが‘バッタ屋さん’のビジネスモデルなのだろう。米国のOPS(オフプライスストア)と比較すれば、もっと効率的で桁違いのビジネスに化けられるのではとも思ってしまう。ほんの小一時間ほどのお話と20分ほどの質問で会得したエントリー情報だから、次は本人と一対一で突っ込んでみたい。

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 2017/02/27 09:28  この記事のURL  /  コメント(0)

開けられた‘パンドラの箱’
 と言っても排他と憎悪の‘ナショナリズムの箱’の話ではない。17AWのコレクション、とりわけ一昨日の深夜、配信された「グッチ」のコレクションを見た感想だ。
 20世紀初頭のアール・ヌーボー、20年代のアール・デコ、第二次大戦期のマスキュリン、50年代のスコティッシュ・グラニー、60年代のモッズルックやコスモルックなど、60〜70年代初期の‘スウィンギング・ロンドン’で一度、開けられた‘パンドラの箱’が再び開けられたような盛り沢山のコレクションだった。「マーク・ジェイコブス」のコレクションでも類似したディティールやテクが盛り沢山だったが上手にまとめられた感があり、「グッチ」のような時代のイメージカルチャーが妖精か怨霊のごとく交錯する‘パンドラの箱’感はなかった。
 ミラー張りのピラミッド(なぜか頂点には風見鶏が?)を囲むように設えられたガラスのカプセル通路のようなランウェイを、紫から赤までサイケに変調する照明に乱されながら歩くモデルたちのコスチュームは色彩も物性も定かには見取れなかったから、カメラマン用には別の撮影席が設けられていたのだろう。
 会場設営に言及したのは、それが60年代ブリットSFへのオマージュと見えたからだ。キラキラとテカるコスチュームはもちろん、ピラミッドやカプセル、変調する照明など、「プリズナーNo.6」「謎の円盤UFO」「ドクター・フー」「サンダーバード」など、‘スウィンギング・ロンドン’の渦中で夢見られたレトロフューチャーな未来像が想起される。「プリズナーNo.6」はサイコサスペンスなスパイSF、「謎の円盤UFO」は「エヴァンゲリオン」に通ずるお色気サービス付きハイテクモードSFだったと記憶している。
 ‘パンドラの箱’と言ったのは、人類文明が破滅に瀕する時、時空の扉が開いて時々の文明の妖精や怨霊が一斉にフラッシュバックするからだ。そんな予兆でない事を祈りたいが・・・・・・


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 2017/02/24 09:28  この記事のURL  /  コメント(0)

百貨店からOPSへ
 我が国の百貨店は衣料品販売の衰退で崩れ落ちるようにシェアを失って来たが、それは米国のデパートメントストアとて同様だ。
 衣料品・身の回り品・化粧品を主体とする米国デパートメントストアと比較すべく我が国百貨店の売上も衣料品・身の回り品・化粧品の合計で見れば、92年から16年の四半世紀で我が国百貨店の三部門合計売上が62.4%(物価修正後で59.3%)に縮小した一方、同期間に米国デパート/PDSの売上は名目こそ12%の減少に収まったが物価修正した実質は51.4%とほぼ半減しており、百貨店の凋落は我が国より激しかった。
 問題は減少した売上が何処に流れたかだが、EC衣料品売上は日米とも遡れる統計が存在せず、衣料品専門店の売上にもEC売上が含まれるため、店舗小売業間の移動に留めて08年〜16年の変化を見た。
 それに拠れば、我が国では百貨店と量販店でほぼ1兆2000億円減少して衣料品専門店(チェーン店も専門店のECも含む)が3240億円増えたが、これらの合計売上は8749億円減少している。対して米国ではデパート/PDSの売上が462億ドル減少してアパレルSSトップ27社売上が153.4億ドル、OPSトップ4社売上が279億ドル増え、これらの合計は29.6億ドルの微減に収まっている。
 我が国では衣料品専門店とそのECに全体の2.6%が流れたが全体売上は7.0%減少し、米国ではアパレルSSに5.3%、OPSに9.6%が流れ、合計売上は1%強の微減に留まっている。OPS(オフプライスストアは他社ブランド仕入れの値引き処分店で、自社ブランドを値引き処分するアウトレットストアと区別される)は米国に在って我が国に存在しない巨大カテゴリーで、値引き販売を求めてデパートから流出する消費の受け皿となっている。逆に言えば、我が国には受け皿の役割を果たすOPSが存在しないから、プロパー店頭が価格崩壊に瀕し、衣料品市場が萎縮しているとも取れる。
 分母が違うから粗い計算になるが、7%と1%の差だけ我が国にOPS市場が潜在しているとすれば、その規模は7000億円強と推計される。それはセレクトSPA市場の1.5倍にも及ぶ。プロパー店舗が価格崩壊に瀕する今日、OPSがメジャーな販路となってガス抜きを担うべきかも知れない。

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 2017/02/23 09:25  この記事のURL  /  コメント(0)

‘クリエイション’の三位一体
 長いギョーカイ人生の中でマーケティングやマネジメント、MDやDB、VMDや店舗運営に関わる事が多かったが、‘クリエイション’と無縁だった訳でもない。DCブランドブーム期にはコレクションの構成やサンプルチェックに関わった事もあるし、誰もが知る世界的著名デザイナーのスタイル画からMDを組む仕事を手伝った事もある。実家は何人かのデザイナー先生方と数十人の縫い子さんを抱えた洋装店だったから、クチュール的な洋服作りのプロセスを知らない訳でもない。そんなキャリアを経て、‘クリエイション’とはデザイン・素材・パターンの三位一体だと思うようになった。
 そんなのは当たり前で、わざわざ強調するほどの事でもないが、‘クリエイション’がデザインに偏って素材と噛み合っていないケース、素材開発に拘ってもデザインに上手く繋がっていないケースがあまりに多い。コンサバな商品ではデザイン・素材・パターンのマッチングは洗練度の差はあっても破綻はあまり見かけないが、デザイン性が強くなると素材の物性がデザインと噛み合わず、よほど巧緻なパターンに仕上げないと着こなしが難しくなったり見た目の完成度も低くなってしまう。
 デザインから入るか素材から入るかはともかく、デザインと素材の物性をデリケートに噛み合わせるのがパターンだが、このギョーカイではあまりに軽視されている。商社OEMなどでは同じデザインなら素材が変わってもパターンを使い回す事が常套化しているようだが、厚みや打ち込み、張り感や落ち感、伸縮性や捻れ特性が異なればパターンを修正する必要がある。それは裏地の選択も同様だ。
 長く安定した人気を保っているブランドほどデザイナーとパタンナーの結びつきが強く、デザイン・素材・パターン三位一体の完成度が顧客の信頼を勝ち得ている。‘クリエイション’がデザインや素材に偏って軽視されがちなパターンだが、三位一体の完成度を左右するキーテクノロジーとして適正に評価されるべきだ。
 パタンナーはアパレル業界で販売員に次いで年収が低く、キャリアを積んでも年収が伸びず、しかも年々、給与水準が低下している。建前でも助成金欲しさでもなく‘クリエイション’が本当に重要だと思うなら、三位一体の完成度を左右するパタンナーにもっと報いるべきではないか。

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 2017/02/22 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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