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ようやく正常化したバーゲン日程
 主要商業施設の今冬バーゲン日程が出揃ったが、ルミネも含め大半が年明け早々に集中して一部は年末に前倒され、一月中旬からの後倒し派は三越伊勢丹の一部店舗だけになる。13年以来の不毛なバーゲン時期論争も深刻な販売不振の前に‘需給の論理’に帰着する結果となった。‘販売正常化’という御旗を立て、果ては‘衣料産地擁護’などと的外れな屁理屈まで持ち出してバーゲン時期後倒しを主張した消費者不在の論争も、ようやく‘正常化’したと総括されよう。
 バーゲン時期は売る側の都合で操作するものでなく、あくまで需要と供給のバランスで決まるのが摂理で、ギョーカイが需要量の倍も供給する狂気の情況では後倒しどころか「ブラックフライデー」まで前倒されても致し方ない。市場原理に逆らうバーゲン時期後倒しの強行が却って山猫なフライングセールを頻発させ、EC先行セールという“パンドラの箱”を開けてしまった責任は誰に問えばよいのだろうか。
 プロパーで買うかバーゲンまで待つかは商品の価格とお値打ちのバランスを消費者が判断するもので、定価に対する調達原価率が百貨店NBで20%、SPAで27%近くまで切り下げられ、70年代に較べればお値打ち感が半分以下まで切り下げられた(倍以上も割高になった)今日では、『定価で買え』と求める方が無理というものだ。
 今や定価で買われる方がマイナーになり、大半は期中のキックオフや期末のバーゲン、シークレットセールやファミリーセールに流れ、アウトレットには期中から処分品が並んだ挙げ句、総供給量の半分は売れ残って‘中古衣料’として東南アジアなどに輸出されて行く。そんな‘流通崩壊’‘価格崩壊’をもたらしたのは消費者不在のギョーカイ論理に他ならない。
 多くの消費者が法外に切り下げられた原価率と品質の劣化、‘正価’流通の崩壊を認識すれば(今や誰もが認識出来てしまう状況だ)、バーゲン後倒しどころかプロパー価格に手を出す奇特な消費者などレアな存在になってしまう。衣料品の販売を‘正常化’させるにはまず原価率を70年代の水準まで戻して消費者が納得する‘お値打ち感’を回復させ、供給量を需要量まで絞るしかない
 アパレル流通の革命は必然でオムニチャネル化とファクトリーダイレクトを軸にカタルシスと世代交代が避けられないが、今のようなパニック的情況下では行政主導で不況カルテルを結成して供給量を規制し、公取委が納入原価率など調達取引を厳密に監視すべきかも知れない。

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 2016/12/20 09:25  この記事のURL  /  コメント(0)

差別されちゃいました
 しばらく買いそびれていたお店を覗いてみたが、今週末から顧客向けのセールが始まっていると聞いて物色しようと思ったら、『お客様は来週末からです』と宣告されてガッカリ!そういえば今シーズンはここでは買ってなかったなと思い当たるが、先シーズンはプロパーで結構買ったのに・・・などとご機嫌を損ね、他店を買い回る意欲も無くなって早々に帰宅した。
 顧客管理が厳密に行われる事は良い事なのだろうが、何枚も顧客カードを持ち歩く訳にもいかないから余程、高頻度に購入する店以外は顧客登録をしないし、凡用ポイントカードと提携している場合など購買履歴を覗かれるのが嫌で顧客登録しないで買う人もいる。それはECでも同様で、顧客登録しないと買えないサイトからは余程、他に代え難い場合以外は離脱してしまう。贔屓にしている店でも毎シーズン購入する訳ではないから、今シーズンの購入が少ないからと格下げされるのは相当な抵抗がある。店側の品揃えが蛇行したり劣化して買えない場合も多いから、それを顧客の責にしては‘絆’を切りかねない。
 長い買い物人生を振り返ってみると、贔屓の百貨店を替える契機となったのは何時も顧客ランク格下げへの‘遺恨’だった。ポイント制をベースとした顧客管理システムが定着して久しく、好みのブランドが出て行って購入額が減ったりすれば覿面に格下げされてしまうが、それまでの何年もの愛顧を顧みず機械的に処理されてしまう事への‘遺恨’は大きく、一瞬にして気持ちが離れてしまった。そんな中でも長く続いているのは外商との‘顔が見える’関係が確立されている百貨店で、年度によって購入額が落ちても機械的に格下げされることはない。
 少子高齢化と経済活力の衰退などで消費が萎縮する今日、新たな顧客を獲得する労力とコストは既存顧客を維持する労力とコストより桁違いに高い。売る側の論理を押し付けたり、新たな顧客を獲得しようとして品揃えが蛇行すれば、長年の顧客を失うリスクが大きい。変化へのチャレンジは必要だが、獲得するものと失うもののバランスは冷静に計算すべきだ。
 消費の拡大が望めない今日、品揃えから顧客管理まで‘顧客エンゲージメント’こそ最大の経営課題ではないか。来春2月3日に開催するSPACニューイヤーコンベンションは顧客のみならず取引先や従業員まで四方のステークホルダーとの『絆の再生を求めて』をテーマに、化粧品業界との比較も加えて真摯な提言を投げ掛けたい。

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 2016/12/19 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)

単品ブランドしか買っていない
 madameHさんや輪湖もなみさんなど、アパレル業界でのキャリアを活かして消費者向けにスタイリングやワードローブ構成のアドバイスをしておられる方のご本やブログを拝見していると、玄人感覚で見逃していたり軽んじていた‘真理’にはっと気付かされる事が多い。このお二人の良いところはインフルエンサーなどと気取らずブランドの広告塔紛いの文章を書かないことで、『買ってはいけない』的な指摘も厭わない明朗な姿勢に好感が持てる。
 「成熟した大人のスタイリング」を提唱するmadameHさんからは『自分に合った上質な定番単品を長く使い、業界が毎シーズン打ち上げるトレンド商品には極力、手を出さないように』、体型や軸色に基づく合理的なワードローブ構成を提唱する輪湖もなみさんからは『軸色と合わない色は結局、箪笥の肥やしにしかならない』・・・・など消費者向けのアドバイスからMD政策の要となるヒントが得られる。そんな視点で私のワードローブを再点検してみたら、ギョーカイの今後を占う‘真理’が幾つも見えて来た。
 ビジネス向けはイタリアのファクトリーブランドか同じ拘りの国内生産シングルライナーブランド、オフ向けは手頃なカジュアルSPAブランドがほとんどで、トレンドを追うブランドやライセンスブランドは一点も無かった。伊ファクトリーブランドも皆、ジャケットやパンツ、ニットの単品専業ブランドばかりで、他に拡げたアイテムに手を出す事はない。
 これらの単品ブランドはファクトリー直結で仕様も品質も安定しており、長年の‘定番’に今風のフィットやディティールを控え目に加える事はあっても、顧客の期待を裏切るような蛇行も季節の買い替えアイテムを欠くような失策も少なく、‘エンゲージメントMD’を崩さないから信用出来る。それに対してコーディネイトブランドというやつは単品毎の仕様と品質が安定せず、フィットもデザインもシーズン毎のトレンドで結構振れるし、定番アイテムの季節的継続性も配慮しないから、顧客になりようがない。一度は気に入って買っても縁が切れがちで、続いているのは鉄板の定番単品を持っているブランドに限られるし、そのアイテムしか買わない。
 顧客視点から見れば『コーディネイトブランドなんて不要』という事になってしまうが、値引きと売れ残りのロスに苦しむギョーカイとしても『コーディネイトブランドは止めよう』と結論しても良いのではないか。テイスト別?の似たようなブランドが氾濫する百貨店や駅ビル/SCもアイテム別に売場を再構築すれば格段に買い易く(逆に見れば売り易く)なると思うのだが、何でそうしないのだろうか。

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 2016/12/15 09:24  この記事のURL  /  コメント(0)

ローカル市場の壁は厚かった
 「チャールズ&キース」が年内で日本国内の全店を閉める。既に原宿の旗艦店以外は閉めており、原宿店も12月31日で閉店する。ECも26日で一旦終了し、来春に再スタートするとしているが、事実上の撤退と見られる。シンガポール発のシューズ&バッグブランド「チャールズ&キース」がオンワードホールディングスと合弁で設立したチャールズ&キースジャパンが一号店を原宿に開業したのが13年4月だから、わずか三年半で撤退する事になった。
 ピークは14店舗まで拡げていたが、ハイファッション感覚のエレガントなデザインをお手頃価格の合皮で提供するというビジネスモデルが本革志向の顧客層と噛み合ず、短期での撤退となったと推察される。上陸時点から指摘されていた事だが、ファストファッション志向のOL相手ならともかく、エレガンス&上質志向の大人相手に合皮での訴求は難しかったのだろう。本革での提供も一部で試みられたが、関税割当制度(クオータ)による高関税で競争力のない価格となって広がらなかった。
 アウェイの海外市場では関税のみならず様々な障壁があって市場に浸透出来ず、短期で撤退するチェーンが少なくない。06年進出のトップショップは15年、12年進出のオールドネイビーは17年、13年進出のイーランドとウィークデイは15年、モンキは16年に撤退しており、今も撤退が噂される外資チェーンは片手に余る。5年以内の撤退率はほぼ半分、十年後には三分の一しか残らないのが現実だ。
 テイストの好みや生活文化、四季の移り変わりや季節行事、売上月指数やサイズバランスの相違はもちろん、労働慣行や税制の違いも足を引っ張る。日米の売上月指数(図参照)を見ても、小手先のMD運用だけでは克服し難い相違が認められる。米国や中国は国土が広く、国内でも地域による相違が大きい。それゆえ商物分離の流通ブローカー制や地域代理商制が定着しているのだ。
 生活文化や気候に左右されるファッションは極めてローカルなもので、アウェイな海外市場への参入は障壁が高い。‘クール・ジャパン’の掛け声に乗って海外進出を夢見るブランドやチェーンが少なくないが、海外での悪戦苦闘が戦力を分散させ全社のコストを肥大させる弊害も忘れてはなるまい。

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 2016/12/14 09:16  この記事のURL  /  コメント(0)

集団自殺の狂気は止まらない?
 一年振りに商社筋からの聞き取りをして納入原価率の急激な切り下げに今更ながら衝撃を隠せなかった。実にこの一年で百貨店アパレルは20%に、セレクトチェーンやカジュアルチェーンは27%に、量販店は35%に、それぞれ5%前後も切り下げられたと言うのだ。
 この話には実績と先物商談の位相差があって、一年で二年分の変化が現れている。当社が今年5月のメンバーアンケートで掌握していた調達原価率は15SS〜AWの実績ベース、商社筋が話題にしているのは現在、商談中の17SS〜AWなので、わずかな期間で大きな変化になったのだろう。
 業界の調達原価率推移を振り返ると、発注時期が円安だった14〜15年では3ポイント前後も押し上げられ、発注時期が円高に転じた16AW以降はその分が切り下げられ、店頭消化率の急激な悪化を受けての17SS〜AW発注分は15SS〜AWに対して5ポイント前後の切り下げになっている。為替だけ見ればトランプ勝利以降の急激な円安進行が反映される17AWの結果は再び切り上げに転ずるはずだが、消化歩留まりの急激な悪化を調達原価率の切り下げで吸収せんとする業界の悪癖が押し下げてしまう勢いなのだろう。
 ギョーカイの論理はそうでも、ここまで原価率を切り下げては素人目にも解るほど品質感が低下してしまうから(素材は触れば誰でも解る)、お値打ち感が限界を割って猫跨ぎ的販売不振を招くのは必定だ。今でも正価で買う者は騙された感を否めない‘価格崩壊’状態なのに、これ以上お値打ち感を切り下げられては誰もがバーゲンハンターと化すしかあるまい。
 振り返れば、業界の最終消化率がほぼ100%だった70年代の調達原価率は45%前後だった。当時は生産も消費も国内で完結し、川上から川下まで各段階が自己リスクで見込み生産する‘垂直分業’に近かったとは言え、今日とは雲泥の差がある。衣料品流通のロスとコストは半世紀を経てほぼ倍に悪化し、業界の最終消化率は半分を切るという断末魔に追い詰められているが、消費者にとっては倍も割高になったのだから正価で買えという方に無理がある
 再び消費者の支持を得て業界が活力を取り戻すには70年代当時の原価率とお値打ち感に回帰するしかないのは自明で、ギョーカイの論理を押し付けては集団自殺に終わるしかない。堕落した店舗流通に比べればロスとコストの合計が半分に収まるEC事業者が割高な店舗ブランドからお値打ち感ある独自ブランドに切り替える動きが広がれば、長年の茹で蛙もついに沸騰して死刑が執行される。ここまで命運が見えて来ても、ギョーカイは集団自殺の狂気から覚めないのだろうか。

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 2016/12/13 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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