前へ | Main | 次へ
郊外百貨店が無くなる訳
 西武百貨店は今年2月末の春日部店に続いて来年2月末には筑波店と八尾店を閉店するし、今年9月末にはそごう柏店も閉店する。阪急阪神百貨店も来年7月末で堺北花田阪急(イオンモール堺北花田の核)を閉店する。いずれも販売不振で赤字が続いていた店舗で業績改善の見込みが無く、止血には閉店しか無いという結論のようだ。
 既にイオンモールむさし村山、イオンモール名取から三越が撤退し、04年10月開業のイオンモール堺北花田から阪急百貨店が退店するとなると、残る郊外SC核百貨店は60〜70年代の郊外SC黎明期からバブル期までに開業した数店しか残らない。90年開業のそごう西神店など、幾度も閉店の噂が出ては持ち堪えている郊外店もある。地方店の閉店も続いており、地方都市では百貨店で買えるブランド商材が狭まってECへの依存が高まっている。郊外店や地方店のみならず、JR大阪三越伊勢丹のように都心の巨艦店さえ販売不振で撤退に追い込まれるケースも見られる。その訳は我が国百貨店の異様な後進性に在るといったらストレート過ぎるだろうか。
 このブログでも幾度か触れたが、百貨店の商品取引は大きく「委託」「消化」「個店買取」「独占買取」に分類出来る。販売力の弱い郊外店や地方店、都心でもアウェイの後発店に魅力的なブランド商材を供給するにはセントラルバイイングによる「独占買取」が不可欠だが、我が国の百貨店は大手と言えども「消化」中心で、限られた自主MDも大半が「個店買取」で、セントラルバイイングの「独占買取」はSPA的オリジナル商品に限られるのが実情だ。
 ブランド商材の「独占買取」は60〜80年代の独占契約ライセンスブランドまで遡るしかなく(実態はアパレル依存だったが)、今日のグローバル化したブランド商材については、コンセの箱商材はもちろん買取であっても百貨店側にはディストリビューション権も価格決定権も無い。ゆえに、本店が如何に販売力があってもアウェイな大都市支店、郊外店や地方店には商材を回せず、また支店の在庫を本店に回して消化する事も難しい。だから、地方店や郊外店は販売不振が加速して閉めるしか無くなるのだ。これを無為無策と言うか積年の課題を放置した付けと言うか、どちらにしてももはや手遅れだろう。
 グローバルブランドのエクスクルーシヴなセントラルバイイング体制(同時にディストリビューション体制でもある)を確立したノードストロムやニーマンマーカスが我が国に上陸すれば、大手百貨店はもちろん大手セレクトチェーンもグローバルブランドの調達が困難になってローカルプレイヤーに脱落してしまう。不採算店を閉め続けるだけで無為無策の百貨店業界とブランド流通の異様な後進性を外資デパートチェーンが見抜けば、捨て値の百貨店を買収して上陸する可能性は極めて高い。我が国の大手百貨店はそれでも茹で蛙を決め込むのだろうか。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/08/17 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

EC/店頭の同一価格は続かない
 8月12日の日経MJのコラム「危機のアパレル」では百貨店アパレルの原価率を20%、SPAの原価率を40〜50%と乱暴にまとめていたが、業界の実態を知る者から見ればその認識は相当にズレている。
 百貨店アパレルの原価率は90年代初期までは33%が標準とされたが、バブル崩壊で売上が急落するのを利幅でカバーせんとした百貨店が毎年のように歩率を嵩上げしたため、アパレル側としても利幅を確保すべく同率に原価率を切り下げ、90年代末には25%程度まで切り詰められてしまった。この原価率切り詰めのせいでアパレル生産地の中国シフトが急進したのは紛れも無い事実であり、百貨店が国内産地崩壊の引金を引いた元凶であった事は疑う余地もない。
 SPAの原価率も90年代末までは確かに38〜48%と高かったが、00年の定期借家契約導入と大店立地法施行以来、多店化とともに運営コストと値引きロスが肥大し、今日の標準は自社開発で28〜33%、商社OEMで30〜35%、ODMでも33〜38%と格段に切り詰められてしまった。中には商社OEMで20%を切るSPAチェーンもあって、タイムセールを乱発して周囲に値崩れを拡げている。
 何せ今世紀に入って15年でほぼ10ポイントも原価率が切り下げられたのだから消費者が受ける‘お値打ち感’も応分に貧相になり、それがまた値崩れを招いて、利益確保のためにさらに原価率を切り下げるという悪循環に陥っている。かつてない‘衣冷え’の要因はそんなギョーカイの自業自得に在る事は疑う余地もなく、運営経費率も値引きロス率も格段に低いECにギョーカイが流れるのも必然であろう。
 とは言え、消費者はECによる利便は得ても‘お値打ち感’は店頭と同じままで、ECの低コストという恩恵には未だ浴していない。
ここが怖いところで、ギョーカイにとっては救世主のECも店頭との一物一価にこだわり続ければ店頭同様の‘衣冷え’に陥るのは時間の問題ではないか。高コスト高ロスな店頭販売を前提とせず、EC軸のファクトリーダイレクトで原価率45〜55%という‘お値打ち価格’を訴求するFDORの台頭を直視するなら、もはや店頭とECが同一商品・同一価格というギョーカイ都合のロジック崩壊は時間の問題だと思う。消費者にもECの低コスト低ロスの恩恵に浴する権利は当然に在る。それがオムニチャネル戦争の次なる局面ではないか。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/08/16 09:23  この記事のURL  /  コメント(0)

米国TVドラマのファッション
 休日に出掛けないで自宅でのんびりしていると海外TVドラマのアンコール集中放送に嵌る事があるが、私の好みは「BLACKLIST」「SUITS」「WHITE COLLAR」だ。この3シリーズに共通しているのはシナリオの巧妙さやカットのテンポに加えて登場人物のコスチュームが洗練されている事だが、カジュアル大国たる米国社会で高価なスーツやドレスしか着ない登場人物達はかなり特異だ。
 男達は仕立ての良いスリムなスーツにまったく皺の無い白いドレスシャツとネクタイを纏い、間違ってもノーネクタイでノームコアに緩く着崩したりはしない。エグゼクティブウーマンは肩と腰を強調した如何にも上質なデザイナースーツで周囲を威圧するかと思えば、アフター5では大胆に肩や背中を露出する薄物のドレスで女を主張する。若いセクレタリーは今時、目を背けたくなるようなボディコンドレスでオフィスを闊歩する。有り体に言えば金力とナイスバディを競い合う‘大人の動物園’にしか見えないが、それがまた視聴者の興味をそそるのだろう。
 米国のビジネス社会はSUITS、OFFICER、WORKERの3クラスに階級が分かれ、服装もSUITSはスリムフィットのタイドアップ(セールスマンのスーツはイージーフィットだ)、OFFICERはジャケット軸のビジカジ、WORKERはカジュアルウェアと一見して解る。そんな枠に囚われないのはアントレプレナーやITプロフェッショナルぐらいなもので、故スティーブ・ジョブズ氏がイッセイミヤケのブラックタートル一辺倒で通した逸話はあまりにも有名だ。
 米国社会では服装とそのプライスに加え、TPOにどれほどこだわるかがクラスを規定する。『一日に何回着替えるか』が所属するクラスを如実に現すと言ってよいだろう。それはウォークイン・クローゼットの広さと同義に近い。そんな米国で「アスレジャー」が意味するものが何なのか、よく考えた方が良い。ましてや「ビジカジ」の意味も我が国とはまったく違う。
 米国には米国流、日本には日本流の階級意識やTPOが在り、着物文化が今も何処かに通底する我が国では‘クリエイション’より‘ユーティリティ’が意気や粋を現す。何もかもグローバル化が進む中、『ファッションはローカルなもの』という本質を忘れてはなるまい。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/08/15 10:24  この記事のURL  /  コメント(0)

需給バランスと生活者視点 
 ここ数日、来春夏期「MDディレクション」のクライアントへの解説が続き、一日に5時間ぐらい語りっ放しなので喉がしんどくなってますが、各社で解説していて実感するのは『好不調は需給バランスが決める』『時代の空気は3年毎に反転する』という公理?でしょうか。3年反転論はさておき、『好不調は需給バランスが決める』は異論の無いところでしょう。
 「MDディレクション」の解説では最初に今シーズンのタイプ/ブランド別の好不調を色分けたブランドツリーで有望ポジションの変化、次いでタイプ別の春〜初夏〜盛夏のスタイリング変化を検証してから、来シーズンの有望MDテーマを客層別に春〜初夏〜盛夏と提案していますが、有望ポジションは需給のギャップに在る事を痛感します。
 衣料品は生鮮食品に特性が似ており、需要が供給を上回れば速やかに消化し価格も通りますが、供給が過剰になると消化が滞り値崩れしてしまいます。ですから、農家は毎日の市場への入荷量と競り値をネットで見ながら育成を操作して出荷調整します(廃棄も厭わない)。衣料品でも業界で「売れ筋」と言われるようになると後追いする会社と追加を打ち切る会社があって明暗が分かれるようですが、その決断は‘週’サイクルです。これがブランドのマーケットポジションとなると‘シーズン’や‘年度’というロングレンジになりますが、ブランドツリーを50シーズンも作り続けているとブランドがポジションを動かすのはほぼ6年サイクルだと解ります。開発間もないブランドが壁に当たって路線転換するのは6〜7シーズン目ですからほぼ倍速ですが、一度、巡航軌道に乗ったブランドがポジションを調整するのは、ほぼ6年サイクルのようです。
 一度、軌道に乗ったブランドを動かすのは相当にリスクがあるようで、萎縮気味のマーケットでは一段と動きが鈍くなります。百貨店の各ゾーンなど新規ブランドが極めて稀で前世紀から替わらぬ顔ぶればかりで鮮度など期待すべくもありませんが、それだけにブランドの供給不足が明らかなゾーンも少なくありません。それは新業態開発が一巡したSCや駅ビルとて大差なく、供給不足が明らかなポジションが幾つも見られます。
 それらは客層別のライフスタイルやTPOスタイリングの変化を見れば明白なのですが、ギョーカイの方々はファッション的な優越意識からかトレンド視点で考えてしまい、リアルな需要とズレた提案になりがちです。「スポーツファッション」や「アスレジャー」、「エグゼクティブウーマン」や「ビジカジ」など、いったい何処を見ているのかと思うほど市場のニーズと乖離しています。
 『需給バランス』に加え、『ギョーカイ人視点ではなく生活者視点』という発想転換が必要でしょう。夏休みには‘生活者’に戻って視点を変えてみては如何ですか。
※当社は明日6日から14日まで夏休みを頂きます。このブログもお休みして15日から再開します。


◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/08/05 10:12  この記事のURL  /  コメント(0)

そごう・西武の再興を願う
 セブン&アイHDは傘下のそごう・西武の西武筑波店と西武八尾店を来年(17年)2月末に閉めて350人の希望退職を募ると発表した。
 西武筑波店は85年3月開業でピークの92年2月期には248億円を売り上げたが、08年以降、周辺に大型商業施設の開業が相次いで売上が減少し、直近の16年2月期は128億円とほぼピークの半分まで落ち込んでいた。西武八尾店は81年5月開業でピークの92年2月期は383億円を売り上げ、06年12月には隣接してアリオ八尾が開業して相乗効果が期待されたが、やはり周辺の競合が激化して直近の16年2月期は155億円まで落ち込んでいた。
 06年にミレニアムリテイリングがセブン&アイHD傘下となって以降(09年8月にそごう・西武となった)、そごうは12年に八王子店、13年には呉店を閉店し、今年9月末には柏店も閉店する。西武百貨店は10年12月の有楽町、13年1月の沼津に続いて今年2月末には春日部店を閉店し(匠大塚となった)、小田原店を減床し、9月末には旭川店も閉店するから、いったいどこまで閉店するのかと社員や取引先ならずとも疑心暗鬼になる。如何に営業不振とて閉めるしか対策がないとは無策に過ぎるとの指摘は免れまい。
 そごうは破綻前は百貨店で日本一の売上を誇り、西武もバブル期までは伊勢丹を凌駕する勢いがあった。時代の変化があったとは言え、打つ手も無く撤退して行くだけというセブン&アイHDの無策振りにそごう・西武の社員達は納得しかねるものがあるに違いない。同じセゾングループだったパルコがJフロントリテイリング傘下となって勢いを盛り返したのと比較すれば忸怩たる想いがあるだろう。
 エクスクルーシブなセントラルバイイング(平場のSPA化とグローバルブランドへのシフト)とオムニチャネル戦略は百貨店の未来を開く決定打で、それが実現されれば一連の閉店店舗も浮上するチャンスがあるはずだが、閉店が続くと言う事はセブン&アイHDのオムニチャネル戦略はEC&店舗の一体運営という本質を捉え切れていないのか、あるいは膨大なシステム投資の回収に目処が立たないのかと疑念を投げ掛けざるを得ない。
 建て直すノウハウがないのなら潔く売却するのが賢明だが、その相手が万一、外資(米国デパート?)となればアパレル業界からセレクト業界まで巻き込んだ終末的革命劇となりかねない。理想は旧セゾングループ企業などが支援してのそごう・西武経営陣によるMBOだが、果たしてその気概は残っているのだろうか。グローバル&オムニチャネル化が進む今日、‘セゾン文明’が今様に復興されるなら往時に優る繁栄も夢ではないだろう。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/08/04 09:22  この記事のURL  /  コメント(0)

前へ | Main | 次へ


ブログ内検索
Web 検索
プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

リンク集
更新順ブログ一覧
最新記事

http://apalog.com/kojima/index1_0.rdf
QRコード
アパレル業界の情報満載の「アパレル携帯版」
右のQRコードで読み取ってアクセスしてください。こちらからも自分の携帯URLを送れます。 QRコード
月別アーカイブ