前へ | Main | 次へ
‘一物一価’は有名無実
 先週のギョーカイはジーユーのEC値引き誘導の荒技に生き馬の目を抜かれたが、最近のZOZOでは各社の‘EC限定商品’や‘EC限定値引き’が目立つし、『店舗とECで値引きのタイミングや値引き巾は必ずしも合わせなくて良い』と考えるSPACメンバーも増えて来た。
 今月のSPAC研究会はマーチャンダイジングと在庫運用をテーマに今週26日(木)に開催するが、それに先立ってのメンバーアンケートの一項でECでのマークダウンを聞いてみた所、『タイミングは必ずしも店舗と一致しない』が三分の一を超え、『値引き巾は必ずしも店舗と一致しない』も三割近くに及んだ。期中の勢いづけ期間限定値引きたる‘キックオフ’でもタイミングの不一致が四割に迫り、値引き巾の不一致も三割を超えていた。
 前年までは不一致は例外的だったから、1)オムニチャネル化が急進する中もEC独自の商品訴求や集客・販促手法が確立され店舗とは異なる営業運用が広がって来た(数値責任が異なる組織が運営しているのだから当然か)、2)店舗への誘導やECへの誘導を戦略的に仕掛けるケースが増えている、の二点が背景と考えられる。表立っては見えなくても、ネット会員限定値引きとかリターゲティング限定クーポンなど、ECマーケティングならではの値引き訴求も増えていると推察される。
 自社サイトやモールサイト、キュレーションサイトやアウトレットサイトなどECが多様化する中、卸流通商品では価格比較サイトで確認してからカートに入れる購買行動が定着しているが、直販型のブランド商品やチェーン店のオリジナル商品も店頭とサイトを比較して買う時代になって行くのだろうか。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/05/24 09:04  この記事のURL  /  コメント(0)

あまりに粗雑だったオールドネイビー
 米国ギャップ社は19日のリストラ方針発表の中、日本からオールドネイビー全53店を今年度会計末(17年1月末)までに撤退する事を表明したが、今春もイオンモール堺鉄砲町、あまがさきキューズモールと新店を開設したばかりの急報に唖然とせざるを得なかった。
 オールドネイビーの日本撤退は全社的事業再編の一環で、成熟市場で競争の厳しい日本に見切りを付けて成長市場のメキシコや中国で店舗網を拡大する方針だ。12年7月にお台場に一号店を出してからわずか4年での撤退となったのはユニクロやジーユーなど国内の低価格SPAとの競合で売上が伸びなかった事に加え、内装費や人件費の高騰、円安によるドル建て収益の減少も響いたようだ。
 実際、オールドネイビーの販売効率は同じSC内のユニクロと較べれば半分にも届かず、低空飛行で存続が危ぶまれる国内カジュアルチェーンのSC向けファミリー業態と較べても一回り低かった。加えて、在庫コントロールもびっくりするほど荒く、山積みして売上を追うかと思えば二重三重の値引きキャンペーンを繰り返して97%引き!などという投げ売りを演じ、顧客の価格不信感を招いて値引き期待を煽る悪循環に陥っていた。
 ネットには撤退の‘悲報’を聞いて『最強のコスパ服』『替わりがないキッズ服』などと惜しむ声が溢れているから、決して日本市場に受け入れられなかった訳ではない。アメリカン・マイノリティ風(日本的に言えば‘ヤンキー’です)なアメカジは激安価格も相まって子育て中のヤンなニューファミリーには親しまれていたが、シーズナルなMD展開ストーリー、52週の売上と在庫の流れが日本市場の現実と乖離し、その修正を二重三重の過激な値引きに頼るなどローカル対応と在庫コントロールがあまりにも粗雑だった事が敗因だったのではないか。
 順調に売上を伸ばしているように見える他の外資SPAも過激な値引き処理や在庫コントロールの粗さ、誰かに騙されたのではと訝られるほど外した出店判断など、日本での展開に慣れた大手国内チェーンに較べれば危なっかしさを否めない。外資SPAを殊更に優れているように持ち上げる方もいるが、ファッションは所詮ローカルなものだからアウェイの不利は極めて大きく日本での経営効率は決して高くない。さて、次に店舗整理や撤退に追い込まれるのは何処だろうか。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/05/23 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)

ガバナンスを勘違いしてませんか
 最近はこのギョーカイでも『ガバナンスを強化する』といった経営者の発言がしばしば伝えられるが、そんな企業のやっている事はほとんど情報統制の強化ばかりで、何だか安倍政権か習近平政権のようだ。
 ‘ガバナンス’とはそもそも「統治」を意味するもので、国家や領地、企業に関わるすべてのステークホルダーの繁栄と至福を図る行政行為であり、為政者や経営陣の都合の良いように情報を統制したり隠したりする事ではない。にも関わらず‘ガバナンス’という言葉を都合良く曲解して情報開示の制限や統制に突き進む現状は企業にとって好ましい結果は招かない。
 かつてはイオンもイトーヨーカ堂も主要店舗の売上を公表していたが、00年代に入って間もなく両社とも公表しなくなった。主要商業施設の館売上もパルコは月度に前年比を公表しているが、三井不動産(ららぽーと)は年度売上しか公表しないし、森ビルは年度の前年比は発表するが実額は隠し、イオンモールは売上も前年比も公表しない。テナントなど多くのステークホルダーが関わる商業施設では情報公開こそ‘ガバナンス’だと思うが、パルコを除けば情報統制が厳しくオープンとは言い難い。
 上場チェーンでも、ユニクロや良品計画からライトオンやしまむらまで月度の売上前年比は公表するが実額は公表していない。月度の売上と仕入れ、月末在庫を開示しないと営業の実態は掴めないからリップサービスを大きく出るものではないし、四半期毎の経営指標も以前ほどには細かくディスクロージャーしなくなって来た。ましてや、仕入れ先に対する不当な値引きや返品、顧客に対する誤った品質表示や違法な二重価格表示、従業員に対する労働基準法違反など、出来るだけ隠す事が‘ガバナンス’と考えられているとしたら本末転倒も甚だしいし、‘コンプライアンス’にも反する
 ‘ガバナンス’本来の意味に戻れば、従業者が公平に評価され衆議を尽くす気風があって風通しが良く(衆愚政治も困りものだが)、顧客第一が建前の標語でなく真摯に取り組まれ仮初めにも騙したり誤摩化したりする事が無く(全社員に「景品表示法」を研修すべきだ)、仕入れ先に対しても優越的地位を振りかざす事なく相手の立場に立って誠実に接し(全バイヤーに「下請法」を研修すべきだ)、株主に対しても経営の実態を粉飾する事無く(どこも多少なりとも粉飾しているのが実情)ありのままに開示し、もって‘四方良し’の善政を尽くすべきだ。
 真の‘カバナンス’とは四方のステークホルダーの繁栄と至福を図る‘善政’であり、為政者や経営者は名誉欲や私利私欲に走ってはならない。とまでは言わないが、北朝鮮のような専制政治からは誰もが逃げ出したくなるし、外面ばかり格好付けて内実が伴わなければ、いずれ内部から崩壊してしまう。もう一度‘ガバナンス’を考え直す契機として頂ければ幸いだ。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/05/19 09:33  この記事のURL  /  コメント(0)

宣戦布告!
 昨日の日経朝刊によればファーストリテイリング傘下のジーユーは17日〜22日の期間限定で、これまで‘禁じ手’とされて来たネット割引を断行するそうだ。日経によれば『来店した顧客にもネット割引を告知して店内から注文させる』と言うから、商業施設デベにとってはまさしく‘宣戦布告’に他ならない。
 これはジーユーのオンラインストア6周年記念としてネットだけの限定値引きを訴求するもので確かに店舗と同じ商品が値引きされているが、路面店はともかく商業施設内のテナント店では店内に『ネットで値引き中』などと表示している訳でも販売員が囁く訳でもない。むしろ店舗で購入した客が後でネット割引を知ってクレームになりそうで、日経の記事はちょっと煽り過ぎの感がある。とは言え、小売各社がオムニチャネル化を押し進める中も店舗とECは同一商品同一価格が暗黙の‘お約束’だったのに、運営コストも在庫効率も店舗より格段に有利なECへ顧客を積極的に誘導すべく‘禁じ手’に踏み切ったという、まさに‘号砲一発宣戦布告’と言うべき事件である事には変わりない。
 なぜ‘宣戦布告’なのか、それはテナントの自由なオムニチャネル販売を商業施設デベになし崩しに認めさせる‘強者の論理’の執行と受け止められるからだ。商業施設デベや百貨店など‘館’側はテナント店頭でのECへの誘導を課金システムが整わない限り頑に拒絶して来たが、ID決済の普及などでモバイルショッピングが急速に一般化する中、顧客が自らのスマホなどでECにアクセスする事を抑止するのは事実上不可能で、館側の防衛線は崩壊の瀬戸際に追い詰められていた。
 そんな情況下でも大多数の中小テナント企業は館側の顔色を伺って店頭でのECへの誘導、EC受注品の店頭受け渡しや店在庫出荷などオムニチャネルアクションを控えて来たが、館の圧力が及ばない‘外資系’から防衛線が崩れるのは時間の問題だった。ファーストリテイリング社は外資系ではないが、国内最大最強のグローバルSPAとして外資系に匹敵する‘腕力’を行使したわけだ。同社は二月末にもユニクロの「セミオーダージャケット」で館側の防衛線を綻びさせているから、今回のジーユーのネット割引という‘禁じ手’断行はファーストリテイリング社のEC拡大という戦略意志に基づく確信犯的行為と看做さざるを得ない。
 ファーストリテイリング社が‘腕力’で館側の防衛線を突き崩すならオムニチャネル化に焦る外資チェーンに波及するのは必定で、そこまで行けば中小テナントも一気に防衛線を踏み越える事になる。ECが我が国以上に普及した欧米の商業施設はテナントのオムニチャネル販売に課金も規制もしておらず、我が国だけの特異な情況を維持するのは無理が在るが、宣戦を布告された館側は果たしてどのような抵抗を図るのだろうか。願わくば、館自らがオムニチャネルな流通プラットフォームを確立して顧客利便とテナント企業の繁栄を図って欲しいものだ。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/05/18 09:07  この記事のURL  /  コメント(0)

脱‘編集’宣言
 オーバーストアに対する差別化か膨張するECへの対抗策か、近年はSCや駅ビル、ファッションビルでも百貨店でもアパレルに服飾雑貨やHBC、生活雑貨やフードサービスまで加えて‘ライフスタイル業態’‘キュレーションストア’などと謳う新業態や派生業態が氾濫しているが、どこも期待したほどの売上にはなっていないようだ。
 ギョーカイ側としては少しでも新味を出したいのだろうが、顧客にとっては編集した分、解り難く買い難くなっている嫌いがある。雑誌をめくるように宝探しして暇を潰す分には良かろうが、目的を持って買おうとするには不便極まりない。住宅地やリゾートのゆったりした環境ならともかく、時間を惜しんで生活するターミナルなどでは場違いな印象さえ受ける。
 年々二桁成長が続いて既に物品消費の5%を超え衣料・服飾では10%に迫るECの世界では、膨大な品揃えの中からブランドやアイテム、カラーや素材、ルックやシーン、人気や価格など様々な切り口で瞬時に検索出来るし、頼みもしないのにこちらの検索履歴からパーソナルにレコメンドして来る。各ブランドとも販売機会を広げるべく自社サイトのみならず様々なサイトに網を張り、SNSで情報を拡散し店舗から顧客を誘導し、リスティング広告やリターゲティング広告で見込み客にアプローチし、ブログやキュレーションサイトからアフィリエイトで顧客を誘導している。そんなEC世界の広告・集客手法の加速度的進化をみるにつけ、店舗小売業の立地と集客・販促の概念は化石化を否めない。
 ECビジネスと並べると実店舗は品揃えの物理的な限界に加えて検索編集や即時パーソナルなレコメンドも不可能で(超人的販売員が無数にいれば可能だが)、キュレーションサイト紛いの編集訴求が購買誘導効果を発揮するか極めて疑わしい。そんなAI的アプローチが非現実的ならば、むしろコンビニ的なカテゴリー分類か、いっそ単品特化のシングルライナーに割り切った方が顧客も買い易く、目的を持って来店してくれるのではないか。
 ECがこれほど伸びる分、店舗販売の総体は縮小して行かざるを得ず、編集訴求やパーソナル・レコメンドではECのAI機能に及ぶべくもないし、品揃えの物理的制約や在庫の偏在リスク(残品と欠品)は如何ともし難い。ならば下手に編集するより単品シングルライナーか定型ルックライナーに割り切れば、目的買いを捉えて顧客化し(売上の安定と平準化効果は絶大)、在庫効率も調達効率も格段に高まるまずだ。
 オムニチャネル時代の実店舗はオムニチャネルな顧客利便は当然として、物理的な制約が避けられない実店舗ならではの明確な役割に特化すべきだ。ショールームストアやシングル〜マルチライナー、定型ルックライナー(シーン特化店を含む)が主流になっていくとすれば、ギョーカイ側の編集志向は逆行しているのではないか。
※定型ルックライナーとは特定単品を軸にルックが年間ほぼ定型化している業態で、「パンツ+トップス」、「ワンピース+羽織」など好調業態が少なくない。「トッカ」など後者の好例だ。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/05/17 09:27  この記事のURL  /  コメント(0)

前へ | Main | 次へ


ブログ内検索
Web 検索
プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

リンク集
更新順ブログ一覧
最新記事

http://apalog.com/kojima/index1_0.rdf
QRコード
アパレル業界の情報満載の「アパレル携帯版」
右のQRコードで読み取ってアクセスしてください。こちらからも自分の携帯URLを送れます。 QRコード
月別アーカイブ