前へ | Main | 次へ
チェーンストアの呪縛
 セブン&アイの政変劇は世の注目を浴びたが、権力の座に在る者の引き際の難しさに加え、チェーンストアという縦型組織の権力闘争の構図が透けて見えた。組織が巨大化するに連れ、権力の恩恵に預かる上層部はトップを向いてヒラメになり、下層部は現場を見ないトップダウンに翻弄されて消耗戦に明け暮れる。まさにH.G.ウェルズの描いた「タイム・マシン」のエロイとモーロックの世界だ。
 戦前の大恐慌期に確立された ‘チェーンストア’という大量流通の仕組みは戦後に米軍式のロジスティクスで武装し‘商物一体’の流通システムとして大衆消費時代を席巻したが、販売する商品を悉く多数の店舗に運んで積み上げる ‘商物一体’の流通システムゆえ販売現場に物流センター紛いの労働を強いる生産性の低さが付きまとっていた。低賃金労働者が潤沢に供給され大衆消費が盛り上がった経済成長期には収益が成り立ったが、グローバル水平分業が進んだ90年代以降はデフレの波に飲み込まれ、少子高齢化で低賃金若年労働者の供給が細り‘商物分離’のオムニチャネル流通が拡大する今日、もはや収益性も成長性も望めない過去の流通システムとなりつつある。
 チェーンストアはその成り立ちと‘商物一体’のロジスティクスゆえ、戦略や作戦を指揮する‘スーツ’階級、現場を指揮する‘オフィサー’階級、現場の労働を分担する‘ワーカー’階級からなる縦割り組織と下達命令の軍隊的体質がつきまとい、ゆとり教育とデモクラティックな社会環境で育った今日の若者には堪え難い環境と言わざるを得ない。
 チェーンストアが若者の参加を得て発展して行くには、これら軍隊的組織体質を脱却してリベラルで生産性の高いオープン・ネットワーク体質に転換して行く必要が在る。軍隊的組織体質と低生産性の元凶は‘商物一体’の流通システムであり、EC軸のオムニチャネル化で‘商物分離’を押し進め販売と在庫・物流を分離しない限り脱却は適わない。それが後手に回ったファーストリテイリング社が壁に当たり、持ち帰りに固執して来たIKEAが世界一斉にEC拡大を急ぐという現実を直視するべきだ。
 チェーンストアの未来を開くため今、何を決断しどんな施策を進めるべきか、5月12日に開催する『チェーンストア経営革新ゼミ』では最新のデータを揃えて情況を認識して頂き、改革への現実的具体的手順を詳説したいと思う。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/04/15 09:16  この記事のURL  /  コメント(0)

ユニクロが商業施設デベに踏み絵
 ユニクロが出店しているデベに送りつけたという「EC売上の取り扱いに関するお願い」なる主旨の文書が波紋を呼んでいるそうだ。今のところ「東洋経済オンライン」しか報じてないが、商業施設デベ関係者に聞いたところ、確かにそのような文書が来ているそうだ。
 今春から大型店など118店舗で展開を本格化している「セミオーダージャケット」は店舗でサンプル試着や採寸を行って「ユニクロオンラインストア」で注文し自宅に届ける販売方法だが、『顧客がその支払いをウェブ上のカード決済や代引きなどでなく「店頭レジ」で決済する場合、店頭売上に計上する』という主旨の文書だ。これだけだと「セミオーダージャケット」(「セミオーダーシャツ」は店頭でのサンプル試着や採寸のないEC完結型販売)という商品に特定した‘通告’に過ぎないが、ようやく5.58%に達したばかりのEC売上比率を将来は30〜50%に拡大するというユニクロの方針を考えるとデベ側は警戒心を強めざるを得ない。
 O2Oがオムニチャネルに発展して店舗販売とECの際が曖昧になり、ECから取り置いた商品を店舗で試着したり、ECで注文した商品を店舗で受け取ったり返品したり、米国のようにEC注文品を店舗から出荷したり、店舗での欠品をECに誘導して注文して頂いたりと、ウェブルーミングとショールーミングが交錯する情況が日々、拡大している。ウェブルーミングによる売上流入とショールーミングによる売上流出の大小もともかく、売上歩合による課金が絡む出店契約では何処までを課金対象とするか、あるいは該当行為そのものを拒否するかといった議論は避け難く、ユニクロに限らず有力テナントと商業施設デベの交渉が水面下で広がっている。
 デベの対応は初期の全面拒否から該当行為によって容認と課金を使い分ける方向に軟化しているが、自社のECプラットフォームを確立出来ないデベや百貨店は強硬な姿勢を崩していない。そんな情況下、強大テナントのユニクロや外資SPAがオムニチャネル販売を拡大すれば、テナントのオムニチャネル販売がなし崩しに広がって課金対象が掌握出来なくなる。ユニクロの‘通告’はデベにそんなリスクを予感させる‘踏み絵’だったのではないか。
 テナントのオムニチャネル販売を規制したり課金対象を拡げたりすれば、容認あるいは積極的に支援する商業施設や路面店舗にテナントが流れかねないし、かといって課金対象売上の流出を容認すれば経営に響いてしまう。難しい選択だが、ECモールからメジャーSNSまで様々な流通プラットフォームが顧客利便と流通効率を競う今後、高コストな旧式流通プラットフォームたる商業施設や百貨店が一方的に利権を主張するのは難しくなる。固定家賃制に割り切るか、自らオムニチャネルな流通プラットフォームに変貌して合理的な課金体制を確立するか、難しい選択が迫っている。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/04/14 09:07  この記事のURL  /  コメント(0)

業界の思い込みはもう限界
 当社では毎シーズン、ショップを構えているブランド/業態を都心の百貨店や駅ビルから郊外のSCまで悉く網羅して位置付ける「ブランドツリー」を改訂・作成しているが、16SS版の作業が佳境を迎える中、新業態や派生業態の氾濫に頭を抱えている。15AW版ではレディス2059ブランドを24ゾーン/340タイプ、メンズ1113ブランドを19ゾーン/204タイプに分類したが、マーケットが冷え込む中も今春は新業態や派生業態が少なからず登場して分類・位置付けが困難を極めているからだ。
 英語、フランス語、イタリア語など名詞や形容詞に冠詞や接続詞まで複雑に絡めた読む事も覚える事も難しい横文字の氾濫もともかく、既存業態に服飾雑貨や生活雑貨を加えたり飲食を絡めたり、既存ブランドを複合したり編集したりセレクト商材を加えたりした‘派生業態’には手を焼いてしまう。商業施設に差別化を求められてお化粧した付け焼き刃で多店化の目処が無かったり、作る側売る側の思い込みが先行して顧客の理解が及ばない難物に仕上がったりで、30年近くに渡ってブランドツリーを作成して来た‘プロ’でも位置付けに苦慮するブランドが少なくない。3月末に開業したNEWoManに出揃った新業態など、分類・位置付けを投げ出したくなるものがあった。
 オムニチャネルなショッピングが定着しプロアマ混在してネットに情報が氾濫する今日、店舗にネットでは得られない体験的情緒的特徴を持たせようと創意しているのだろうが、玄人が捏ねくり回すほど一般顧客には解り難く役割がはっきりしない店になっている。はっきり言えば、業界側の思い込みがマーケットと乖離しているのだ。
 どんなに鋭意に編集しても様々に複合しても、物理的な制約のある店舗は即時パーソナルにリコメンドするネットには遠く及ばない。ならば単純明快に売る物を絞って調達も販売も効率化し、オムニチャネルな利便と快適なショッピング環境を提供する事に割り切るべきだ。ややこしく編集したり複合して読む事も難しい名前を付けた解り難い店より、シンプルに割り切った買い易く快適な店が求められているのではないか。売る側にしても、カテゴリーや業態が分散するほど調達効率も運営効率も悪化する。マーケットが冷え込む中、むしろ戦線の整理統合が急がれるのではないか。
※当社の「ブランドツリー」は店舗を実見してカテゴリー構成やターゲット、価格やクオリティ、展開チャネルやMD手法を子細に評価し、識者の意見も聞いて位置付けている。16SS版は5月中にβ版を仕上げ、完成版を6月29日開催のSPAC研究会で解説して配布する。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/04/13 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

ユニクロ失速の根は深い
 「ユニクロ」を展開するカジュアル衣料の寡占企業ファーストリテイリングが発表した2016年8月期の上期決算は売上が伸び悩んで前年同期より営業利益が34%減少、税引き前利益が半減するという、大方の予想を下回る‘サプライズ’となって株価も急落した。
 店舗数が国内を超えた海外ユニクロ事業の減益や為替差損もともかく、稼ぎ頭の国内ユニクロ事業の売上不振による減益が響いた。ECこそ28.4%伸ばして売上構成比を5.6%に高めたが、既存店売上は客数が6.3%減って1.9%減少し、売上総額も▼0.2%とわずかながら減少。値引き販売の増大で売上総利益率も3.5ポイント低下した。前年同期と調達原価率が同じだったとすれば、値引きロス率は4.5ポイントも悪化した計算になる。
 客数減の元凶は三期連続した値上げで20%近く上昇した客単価で(この間に客数は11.2%減少)、調達コスト上昇や円安によるコストアップを吸収出来なくなった経営効率の劣化が指摘される。その構図は既に半年以上前に販売革新15年9月号に私が寄稿した『ユニクロ一極集中が終わる?』で明らかにしたが、要はコストバランスを無視した超楽観的な戦略ポートフォリオが壁に当たったという事に他ならない。
 SPAビジネスでは国内EC事業が最も収益性が高く(経費率が低い)、海外店舗事業が最も収益性が低い(経費率が高い)。ファーストリテイリング社もその例に漏れず、海外店舗事業の営業利益率(前期比▼4.8Pの7.6%)は国内店舗事業(前期比▼5.6Pの14.1%)の半分ほどに留まる一方、国内EC事業の収益率は国内店舗事業の倍近いと推察される。なのにファーストリテイリング社は店舗事業の世界展開を急いで国内EC事業の拡大が遅れ、海外事業の収益が低迷する一方で国内事業の経営効率も悪化し、調達コストの上昇や為替差損を吸収出来なくなって値上げを繰り返し、顧客の離反という最悪の事態を招いた。結果、2016年8月期の業績予想を営業利益で▼600億円、当期利益で▼500億円と再度、下方修正するに至り、成長神話の翳りを露呈した。
 この事態は06年以降、全方位な海外店舗事業に資本と人材を集中して来た必然の結果であり、高経費体質からの脱却は容易ではない。海外店舗事業の拡大に固執してEC軸オムニチャネル・ロジスティクスによる高顧客利便・低運営コストな流通プラットフォームの確立が遅れるほど、ファーストリテイリング社は業績回復が難しい困難な情況に陥るのではないか。海外店舗事業のドラスティックな集約とEC軸オムニチャネル流通事業のグローバル展開という戦略転換が急がれる。


◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/04/12 09:22  この記事のURL  /  コメント(0)

セブン&アイに吹いた春風
 セブン&アイHD鈴木敏文会長によるセブンイレブン井阪隆一社長の更迭提案を契機に、鈴木会長の次男康弘氏への世襲批判や創業家との確執が表面化し、取締役会での人事案否決から鈴木敏文会長の退任表明に至る劇場的過程は業界のみならず国民の注目を浴びたが、一連の‘政変劇’の構図をどう捉え、今後の変化をどう見るべきだろうか。
 政変劇の表向きの主役は鈴木敏文HD会長と井阪隆一セブンイレブン社長だが、鈴木会長に引導を渡した本当の主役は創業オーナーの伊藤雅俊名誉会長であり、社外取締役の伊藤邦雄・一橋大大学院特任教授と米村敏朗・元警視総監、物言う外資投資ファンドたるサード・ポイントという名傍役が揃って大向こうを唸らせる大芝居となった。会見で鈴木敏文会長は次男への世襲路線は根も葉もない事と切り捨てたが社内では既定路線となりつつあったと聞くから、中興の家老も専制が過ぎて世襲を図るに及び主家のご老公が馬謖を斬った御家騒動と見る事も出来よう。そんな野次馬話はともかく、鈴木体制の崩壊で何が変わるのだろうか。
 セブンイレブンを驚異の成功に導いた鈴木敏文氏のリーダーシップは議論するまでもないが、強力なリーダーシップは強権政治と表裏一体で、誰も諌められない独裁状態が続いていた事は否めない。数字至上で現場を見ない経営手法は稼ぎ頭だったイトーヨーカ堂の衣料部門をPOS依存の縮小スパイラルに追い遣ってお荷物部門に転落させ、果ては伊勢丹出身の故藤巻氏を招聘しての高級化で庶民的な顧客の離反を招き、とうとう母屋を傾かせてしまった。
 独裁状態が極まるにつれ批判封じは社内・グループ内に留まらず取引先やメディアにまで及び、巨大上場企業グループでありながら情報開示を疎み意に添わねば取材拒否を乱発し、セブンイレブンとトーハンの寡占力の前にメディア側も擦り寄るしか無く、ここは中国か北朝鮮かという様相を呈していた。そんな専制的経営感覚ゆえ社運を賭けたオムニチャネル戦略さえ時代ズレしたクローズ路線に固執し、ネット事業は5期連続の赤字を脱却出来ず流通プラットフォームとしてのパワーが疑問視されていた。傘下に入れたそごう・西武や専門店なども、計数統制に偏って創造的な経営やコンテンツの活用が停滞しているという批判も多かった。
 そんなセブン&アイ・グループが鈴木敏文会長の独裁体制から解放されて生き生きと蘇るという楽観は早計で、リーダーシップの喪失による混乱などマイナス面も出て来るだろうが、グループ社員や取引先など多くの関係者は春風が吹いたような開放感を味わっているに違いない。一つの時代が終わって混乱も在るだろうが、関係者が自分の創意で働ける新たな時代を期待しているのは間違いない。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2016/04/11 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)

前へ | Main | 次へ


ブログ内検索
Web 検索
プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

リンク集
更新順ブログ一覧
最新記事

http://apalog.com/kojima/index1_0.rdf
QRコード
アパレル業界の情報満載の「アパレル携帯版」
右のQRコードで読み取ってアクセスしてください。こちらからも自分の携帯URLを送れます。 QRコード
月別アーカイブ