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ピーチジョンの変身
 「PEACH JOHN」が東京ファッションウィークで10年振りというランウェイショーを開催したが、それは野口美佳氏が築き上げた『ちょっと挑発的なギャルランジェリーというローカルブランド』の残滓を一掃し、『世界のワコールが手掛ける機能性とファッション性を両立させた完成度の高い若向けナショナルブランド』に再生させた宣言であった。
 野口美佳氏が「Victoria’s Secret」へのオマージュを原点に仙台発のセレクトランジェリー通販からギャル向け人気ブランドに育て上げた「PEACH JOHN」はワコールの傘下に入っても、その発祥ゆえの危なげな挑発性をどこかに潜めながらコンサバなOL層までカバーするよう大人しくなっていったが、その過程で失う顧客と新たに拡げる顧客のバランスに苦慮して業績が迷走した事は否めない。その試行錯誤の過程を経て、ワコールが下した結論が今回の新生「PEACH JOHN」だったと思われる。
 新生「PEACH JOHN」は野口美佳氏の‘毒’が抜けてコンサバになったが、ワコールの商品開発力を結集して機能性とファッション性を両立させた完成度の高いナショナルブランド商品になり、一部はグローバルに通用する洗練も見せている。ランウェイやカタログもギャルエロさやカワエロさを避け、クールだが無機質ではないコーカソイドモデルを選んでフィット感のリアリティを表現する一方、意表を突く演出でインパクトを狙っている。
 ギャル感覚を一掃して若々しいドームタイプから大人なエレガンスタイプやソフトガードルまで揃えたカタログのラインナップは、むしろ「Victoria’s Secret」に近付いたのではないか。ギャルなローカルブランドの枠を出られなかった「PEACH JOHN」も「Victoria’s Secret」に張って闘えるグローバルブランドに化けるかも知れない。両者の創業期からマークして来た研究者にとって、そんな期待を抱かせる変身だった。


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 2016/03/23 09:07  この記事のURL  /  コメント(0)

店内撮影OK!!
 先週金曜の日経MJ一面は『店内撮影OK!!』と見出し、家電量販店などが顧客のSNSアクションを盛り上げるべく店内撮影を解禁した事を特集していた。かつてはライバルに価格が漏れるのを警戒していた家電量販店は『ネットと店頭の価格を合わせたので隠す意味が無くなった』『隠すというのは店側の論理。撮影させないデメリットの方が大きい』と言い、家具量販店は『客がしたいことをさせないのは小売のエゴ。SNS時代は客が客を呼んでくれる』と言い切っていた。それにしても、日経MJの最近の一面特集は目の付け所がユニークというかSNS感覚というか、目から鱗の記事に注目させられる事が多い。
 アパレル店はもちろん百貨店や量販店も未だ‘店内撮影厳禁’で、イトーヨーカドーなどメモにさえ目くじらを立てる店長がいるそうだが、誰もがスマホ片手に店内で情報を検索したりECにアクセスしたりFaceBookやインスタグラムを投稿する今日、‘店内撮影厳禁’は非現実的だし、顧客のSNS拡散アクションを妨げては集客効果に水を差してしまう。オムニチャネル商戦に遅れをとらない為には価格どころか在庫情報までネットで開示するのが必須となり、ランウェイシーンがライブ公開されたり直後にネットに溢れる昨今、店内撮影を妨げる意味はもはやなくなったのではないか。
 そんな中、ギョーカイの総合展示会などが未だ‘撮影禁止’なのは自ら情報拡散を妨げるラッダイト感覚を否めないし(そこまでクリエイティブでもないでしょ!)、オムニチャネル戦略を掲げる大手流通グループが‘撮影禁止’に固執するのはSNS時代の消費者感覚やオープン・ネットワーク感覚を欠く時代錯誤にしか思えない。ギョーカイ経営層の意識改革が問われよう。

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 2016/03/22 09:17  この記事のURL  /  コメント(0)

なぜ若者はファッション業界を目指さなくなったのか?
 というfashionsnapの連載企画がネット上で論議を呼んでいるそうだ。生まれた時からこの業界に居て(実家はデザイナーと多数のお針子を抱えた洋装店だった)、若者だった時から老いた今日まで業界の移ろいを見て来た私としては好んで火中の栗は拾いたくないが、私が業界の若者だった頃と何が変わってしまったかは話してもよいと思う。
 まず業界の給与水準は当時も産業界の底辺に近い事は変わりなかったが、大学を出て入った会社(鈴屋)が良かったのか、次々に向学や外遊の機会を与えられ、先輩や同輩も皆、目を輝かせて仕事を楽しんでいた。会社にも勢いがあり時代が熱気に満ちていた事もあったのだろうが、彼等彼女らの多くがその後、この業界のみならず様々な分野で名を成したところを見ると、希有な逸材が集まっていたのだろう(3月26日に銀座ライオンビアホールで鈴屋同窓会が開かれます)。
 入ったばかりの頃は毎日、配置された銀座のお店のパンツ売場に立ってデザイン/カラー/サイズの棚割りやルックを組み替えて売れ方を試し(VMDやってたんです!)、フィッティングでどんな言葉をかけたら買上率が上がるのか工夫するのが楽しく、川久保さんが行李にサンプルを入れて商談に来るのに同席したり、一生さんのパーティーにボスの名代で出席したり、毎シーズンのパリコレ詣でのついでにまだ無名で「サマンサ」ぐらいの値頃感だったLVを爆買いしたり、サタデイナイトはビブロスやキャステールで業界のセレブ達に接してパリピしたり(帝王は菊池武夫さんとショーケン、壮介と小夜子も素敵でした)、ともかく毎日がキラキラしてました。
 今と較べると女性幹部が断然多く、業界のパーティーなんか勢いのある女性幹部やキレイなデザイナーのお姐さん達(当時のデザイナーはなぜか美しい人ばかりだった)が最新のモードを競い合い、超華やかでしたね。今の業界のお集りなんてラグジュアリー系を除けば冴えないダークスーツのおじさんばかりで、隔世の感があります。女性社長やM(ジュディ・デンチが演じた007のボス)みたいな女傑もいて、随分と可愛がってもらいました。夜の六本木なんか彷徨いていると、取り巻きを引き連れたアパレルの社長さんに引きずり込まれ、大人数での散財に明け方までつき合う事もしばしばでしたから、業界の金回りも今とは桁違いだったのでしょう。
 それはともかく、海の者とも山の者ともつかない若者に、諭したり教えたりチャンスをくれる上司や先輩に恵まれた事はホントに幸せでした。本音で叱ったり心配してくれる先輩に恵まれたからこそ頑張れたのだと思います。その分、私も今のひたむきな若者に諭したり教えたりチャンスを与えたりしなければと思うのですが、素直に受け入れてくれるでしょうか?
 そんな当時と較べると業界にもゆとりが無くなり、大枚投じて育てるより扱き使い収奪する奴隷制資本主義の会社が多くなり、ヒラメな上司は部下を守らず先輩も頼りにならず、若者は若者で目先しか見えず、大望を抱く人物はITベンチャーなどに流れてしまう。服飾専門学校も実現性の薄い夢を煽って学生を金蔓にする構図が見え隠れして、第一線で本当に役立つ技と知恵を身につけさせてはくれないし、学生の方でも多くを期待しなくなっている。
 華やかなイベントやメディア操作で夢をバラまいても、世知辛い収奪構造や使い捨ての現実を繕う‘騙しの構図’が透けて見えるから、志ある若者はこの業界に寄って来ない。少なくとも、私が若者だった時の会社や上司や先輩たちの温かい眼差しは今の業界には稀のように見える。だからこそ、ひとりひとりの経営者や業界人が後進を育てる志を熱く抱いて欲しいと願うのだ。そんな経営者や先輩の暖かい眼差しを実感すれば、このどうしようもなく愚かで楽しいギョーカイに身を投じようという若者達も増えて行くのではないか。

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 2016/03/18 09:09  この記事のURL  /  コメント(0)

お針子販売員へのオマージュ
 アパレル業界と服飾専門学校が結託して企画職やプレス職を夢見る若者をキャリアアップの限られる販売員に送り込み、その仕掛けが見透かされないよう商業施設などと結託してロールプレイイングコンテストなどのイベントを盛り上げる様は如何なものかと思う。販売職を志向する若者を増やすには、働き易い環境や多様な勤務体系を整えることに加え、販売労働の付加価値を高めて生産性を向上させる事が不可欠だ。それなくしては勤務体系の改善も報酬の向上も適わない。
 販売労働の生産性を高める突破口は物流作業からの解放だ。販売する商品を悉く店舗に運んで積み上げる販物非分離(販売と物流が一体)の小売業では‘販売職’と言っても業務の過半は品出しや品戻し、商品整理や在庫管理といった物流作業であり、接客に割ける時間は限られる。高級プレタ店ならともかく、駅ビルやSCの一般的なアパレル店で1割強、ファストファッション店や倉庫型量販店などでは数%にも満たないのが現実だ。
 物流センターと変らぬ労働だから生産性も大差なく、物流作業員と大差ないどころか現実にはそれをも下回る報酬に留まる事が多い。販売職と近似して見える営業職が一回り報酬水準が高いのは、B2BはもちろんB2Cでも販物分離が進んで、物流作業に労する事なく営業に集中出来るからだ。販売職でも接客集中度の高いブランド化粧品分野やショールーム陳列主体で物流作業が限られる高級雑貨分野の報酬水準がアパレル分野より高いのも頷けよう。
 販売労働の付加価値を高めるには接客段階で商品価値が完成するオーダーあるいはパターンオーダーのような販売方式が好ましい。オーダーではないが、高級プレタ分野では昔から「お針子販売」という販売方式があって、報酬も一般の販売員より格段に高かった。顧客の体型や好みを掴んでデリケートにフィッティングし、完成商品を部分的に解いて自ら仕上げるもので、その技術とセンスを顧客が頼り、販売員が店を移れば顧客もついていくという世界だった。
 「お針子販売」は本来、縫い代に余裕をもたせて仕立てたクチュール系高級プレタに特有の販売手法で一般の量産プレタに対応するものではないが、今日でも欧州製高級ブランド紳士服の販売では近似した手法(実際のお直しは専門業者に回すが)が見られる。
 女性幹部の進出が目覚ましい今日、彼女達に応えるビジネスプレタも、そんな作り方と売り方が求められているのではないか。今日的「お針子販売」が広がり、経験の積み重ねが活きる高付加価値で高報酬な販売職として、販売専門職を目指す方々のひとつの目標となれば幸いだ。

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 2016/03/17 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

逆説のマーケティング
 マーケティングにおいて‘逆説’と言えば売れ筋から手を引く‘逆張り’がすぐに思い浮かぶが、衰退市場を死守してライバルの撤退を待つ‘残存者利益’も結構、成果を挙げている。郊外商業施設に圧されて空洞化する地方都市ダウンタウンの百貨店など好例で、ライバルが音を上げて撤退すれば顧客がまるまる流れ込んで来る。旭川の西武百貨店など丸井今井の閉店で息を吹き返した残存勝者だったはずなのだが・・・・・もっとも、八王子のように都市間競争に破れた場合は残存者利益さえ残らないケースもある。
 ピークの81年の1兆8000億円から3000億円を割るまで衰退した呉服市場でもリサイクル系のみならず意外に健闘する業者が見られるし、百貨店の紳士服や婦人服でもライセンスブランドが次々と消えて行くベターゾーンなど濡れ手で泡の‘残存者利益’が約束されているのだが、どうして誰も手を出さないのだろうか。恐らくは商品開発や販売手法(「お針子販売」って知ってますか?)のハードルが高いのだろう。
 そんな不思議はさておき、供給過剰に苦しむ我らギョーカイの周囲にも慢性的‘供給不足’の分野があると言ったら信じてもらえるだろうか。ごく少数だが、職人が減少して生産量が細り供給が需要を満たせないカテゴリーが存在するのだ。そんな分野は市場規模も限られるから、一時は‘怪しい’と言われても広告や営業に注力してシェアを高め他社より高い加工賃で職人を囲い込めば、遠からず独占的地位を確立出来る。さすれば供給不足を背景に高付加価値戦略も思いのままになる。クラフトマンシップの高級ブランドなんて、そんな‘逆説’のマーケティングから生まれたのかも知れない。
 ‘ジャパン・メイド’も職人技を訴求するだけでは優位に立てない。需要と供給の逆説ギャップを戦略的に仕掛けてこそ、望外な付加価値を実現して‘神話ブランド’に化けられるのではないか。

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 2016/03/16 09:55  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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