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‘白い箱’‘ロフト’‘茶色い箱’
 館の新規開業やリモデルで訪れるストアやブランドショップの第一印象は‘光’と‘アーキテクチャー’だ。
 内装も建築も構造(アーキテクチャー)と装飾(デコレーション)のバランスだが、構造が強いほど賞味期間が長く、装飾が強いほど飽きが早くなる。数十年も使用する建築に対して定期借家制度下の内装は賞味期間が格段に短く、装飾で誤摩化してアーキテクチャーを欠く‘バラック’に流れ易い。SCや駅ビルに並ぶ店舗の大半は什器を並べただけの‘バラック’か、デベから渡された空間を白ペンキとモルタルで下地仕上げしただけの‘ロフト’で、アーキテクチャーが目を惹く店舗は滅多に見られない。
 ‘アーキテクチャー’は玄人目でないと解らないかも知れないが、‘光’の方は誰にもすぐ解る印象を与えてくれる。モードに流れた近年は白ペンキ塗りの‘白い箱’かモルタルを打った‘ロフト’ばかりになっていたが、これをクールに見せるか温かく見せるかの分かれ目が照明と内装反射の微妙なバランスだ。
 ‘ロフト’の場合は幾ら温かい照明にしてもモルタルの反射で光はクールに振れてしまい、5000Kかと思って照明を見上げると3000Kだったりして反射の魔術に驚かされる。ましてや壁や天井をグレーやブルーに塗ったりしては超クールな光になり、空気も冷え冷えとフリーズしてしまう。‘白い箱’の場合は照明を素直に反射するから、温かくしたければ3000Kベースにすればよいし、クールにしたければ4000Kベースにすればよい。‘白い’と言ってもわずかに黄みや赤みを入れたり青みや緑みを入れれば光も微妙に振れるから、意図して仕組む事も多い。
 トレンドがローカル&ナチュラルに転じた今、‘白い箱’も‘ロフト’もクールに見え過ぎるが、‘茶色い箱’もやりすぎると照明効率が落ちて空気がよどんでしまう。‘茶色い箱’とは床や什器、果ては壁まで木(多くは木地に見える合板やプリントシールだが)を使って渋くあるいはナチュラルに仕上げた空間で、温かく落ち着いた光と空気になるが、木地が濃すぎると照明が吸収されて効率が落ちるし、3000Kが2000Kに見えるほど黄色く振れてしまうと空気がよどんで仕舞た屋っぽく見えてしまう。
 店舗設計では‘時代の空気と光’が要になるが、短サイクルなファッショントレンドに流されず時代の文脈を読んで賞味期間を伸ばし、照明と内装反射のテクニカルなバランスも考慮して‘時代の空気と光’を表現して欲しい。
※‘K’(ケルビン)は光の色味を現す単位で、値が小さいほど赤み寄り(暖かく和む)、値が大きいほど青み寄り(クールで緊張)になる。



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 2016/01/21 09:49  この記事のURL  /  コメント(0)

順張りと逆張り
 と言っても株やFXのお話ではなく、我らギョーカイの商品開発のお話だ。‘順張り’とは皆と同じ方向へ動く事で、‘売れ筋追い’と言い換えても大きな違いは無いだろう。‘逆張り’とは皆とは逆の方向へ動く事で、‘需給の先読み’と言い換えても良いだろう。ギョーカイのほとんどは‘順張り’で‘逆張り’は最大でも5%ぐらいかと見えるが、どっちが報われるかと言えば、‘順張り’は初めは良いが後が恐いし、‘逆張り’は初めは我慢だが後が美味しい。‘順張り’では見切り時が肝要だが、‘逆張り’では風向きが変わるまでの我慢が必要だ。
 見切るにしても風向きが変わるのを待つにしても、そのタイミングの読みが問われる。ファドな売れ筋は皆が手当てして需給が逆転するまで2〜3ヶ月(ファスト系はこの倍速)という感じだが、昨春来の裾リブパンツやガウチョほどの広がりになると四季を一周してタンスが満杯になるまで止まらない。‘定番’ともなれば四季を二周も三周もするから、終わりが読めなくなる。潮流の反転はファクターにもよるが、グローバル&モードからローカル&ナチュラルへの反転には7年を要した。
 様々なデータや気配を検証して風向きを読み、素材開発の動向も参考に、来シーズンのマーケットを予測する作業は‘科学’とも‘勘’とも言えようが、ファッション市場は川上から川下までのギョーカイにメディアやSNSも絡んでボールが何処へ向かうか読み難い巨大な‘コックリさん’ゲームだから、データに基づく‘科学’と動物的嗅覚に基づく‘勘’(恐らくは経験則によるアルゴリズム)の両面から先を読むしかない。
 そんな不安定な予測作業も30年(60シーズン)以上も続ければ経験則が積み上がり変化の兆しを読む勘も研ぎ澄まされるから精度は確実に高まって行くが、経験則を超えた‘異変’までは読みようがない。限界はあるが、予測の技術的精度と素材の裏付け、MDのトレンドを押さえたビジュアルな提案にはそれなりの自信がある。16AWを予測した『MDディレクション』もクライアントへの解説が一巡した後、当社ミーティングルームでささやかなダイジェストセミナーを開催したい。

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 2016/01/20 09:17  この記事のURL  /  コメント(0)

‘館’から‘路面’へ
 ‘館’と言えば駅ビル/ファッションビルやSCから百貨店まで統一的な運営管理が行われている商業施設を指すが、近年は運営管理が硬直化したり時流に合わなくなって、テナントにとって経済的負担が重く営業が様々に規制されるという負の面が大きくなって来た。その一方、一時はSCに押されて消えて行くとさえ言われた郊外のロードサイド店や駅ビルへの集中で衰退傾向だったダウンタウンの路面店が再評価されつつある。
 ‘館’への集中要因は何より集客力と立地であり、営業支援は営業規制と裏腹で路面店より突出したメリットとは言えず、定期借家契約と最低保証付き売上歩率課金が定着した今日では営業継続の保証も無く、なんだかんだと課金されて売上対比の不動産費率も20%を超え(家賃のみだと15〜6%)、販売人件費や光熱費、包装費やカード手数料などを加えた店舗営業経費は売上の40%前後にもなってしまう。売上が低迷すれば最低保証に抵触して家賃負担は跳ね上がってしまうし、定借期間が終われば追い出されてしまう。
 入居する段階でも、かつてのような巨額の保証金は不要になったが(基準家賃の10ヶ月分の敷金が一般的)、共通内装工事費や現場協力金?、内装監理費の負担は結構重いし、インフレする内装費は定借期間で償却出来るか疑わしい。退店する時も、原状回復工事を指定業者に任せれば負担が重いし、契約期間内の退店には敷金没収などのペナルティを課すデベも少なくない。
 加えてオムニチャネル化が急進する今日、タブレット接客によるECへの誘導はもちろんEC受注品の店出荷や店受け取りなどを規制されては時代に取り残されてしまう。課金の手法や負担は議論されてもよいが、自由な営業が制約される現状は‘館’の限界を痛感させる。商業施設デベが時流に対応してテナントという‘お客様’へのサービスを向上しようと努力しているか、現状では極めて疑わしい。
 という訳で、オムニチャネル化とインフレが進む今日、営業の自由とコスト負担軽減を求めて‘館’から‘路面’へと出店立地が逆流し始めた事に業界は注目すべきだ。それはテナント側はもちろん、デベにも抜本的な革新を迫るものとなろう。

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 2016/01/19 09:23  この記事のURL  /  コメント(0)

労働の相場
 リクルートジョブズ・リサーチセンターが毎月発表しているアルバイト・パート募集時給調査によれば、15年11月の三大都市圏平均時給は981円と前年同月から2.0%伸びて6ヶ月連続して過去最高を更新したそうだ。そのうち「アパレル販売」は前年同月から2.3%伸びて943円になったとは言え、「化粧品販売」の1128円はおろか「物流作業」の967円にも及ばない。それが世間相場というものなのだろう。
 一方でソフトバンクグループの孫正義CEOが後継者に指名したニケシュ・アローラ氏の年俸は165億円と報じられて世間の度肝を抜いたが、欧米でもファッション業界とIT業界の年俸相場は三倍も違うそうだ。バーバリー社のクリストファー・ベイリー新CEOの報酬が高すぎるとして株主総会で拒絶されたのはもう一昨年の話だが、就任時に2000万ポンド(33億4000万円)の同社株式を受け取って15年度は1230万ドル(14億5000万円)の年俸を得ている。それでも米アップル社に年俸8260万ドル(98億円)で引き抜かれた前CEOのアンジェラ・アーレンツ女史に較べれば可愛いものだ。アンジェラ女史の前にはサンローランCEOのポール・ドヌーヴ氏、後にはサンローラン欧州社長のカトリーヌ・モニエール氏やタグ・ホイヤーの幹部など、アップル社のラグジュアリー戦略によるファッション業界幹部の引き抜きが相次ぎ、欧米ファッション業界幹部の年俸相場は高騰してしまった。
 少子高齢化と景気回復?で逼迫していると言ってもアルバイト・パートの時給など天と地ほどケタが違うが、これがギリシャ・ローマ時代から近世の黒人奴隷制を経て今日まで続く欧米の「奴隷制資本主義」の現実なのだろう。『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』と福澤先生はおっしゃったが、労働の相場ってこんなに違ってよいのだろうか。
 販売員の地位向上は免罪符的な啓蒙イベントで果たせるはずもなく、物流作業から解放する業務革新に拠るしかない。B2Bでは常識となった商物分離をB2Cで実現してこそ実質を伴う地位向上が果たせるのではないか。


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 2016/01/18 10:52  この記事のURL  /  コメント(0)

交流への転換が加速!
 昨日の繊研新聞は一面トップで岐阜地区の物流業者を取り上げ、国内物流加工による機動的対応が広がっていると報じていたが、これが『直流から交流への転換』なのだ。
 アパレル物流分野で‘直流’とは、中国などの生産地基地で物流加工(検品/タグ付け/店別仕分けなど)を済ませてコンテナで国内の陸揚げ港に輸送し、パッキンを開ける事無く各店舗へ配送する手法を指す。物流コストは低いが、国内消費地に在庫を置いたピッキング拠点を持たないため、販売動向に即した機動的な補給が適わず、複数ECチャネルに一元対応する出荷も適わないから、在庫効率はどうしても低くなる。
 対して‘交流’とは、国内消費地の出荷拠点(消費地DC)に在庫を置いて各店舗の販売動向やECの受注に機動的に対応するもので、物流費は直流より嵩むが在庫効率は格段に高くなり、店舗在庫の圧縮やEC売上の加速度的拡大が可能となる。全国翌日配送(島嶼部を除く)を期すれば8ヶ所を要するが、翌々日配送なら全国3〜4ヶ所でカバー出来る。DC在庫は数カ所に分散しても在庫の位置と発送先からコンピュータのアルゴリズムで出荷拠点が割り振られるから店舗在庫のような偏在リスクは発生せず、顧客便宜や機動性とコストのバランスでDCを配置する事になる。
 そんな交流転換が加速している背景は、1)生産地のコストインフレと円安インフレ、2)国内店舗従業員の逼迫と経費上昇、3)店舗販売の低迷とECの拡大、4)在庫効率の悪化とロスの肥大、だと推察されるが、繊研新聞の記事では5)物流加工に不慣れな南アジアへの生産地移転、を挙げていた。取材は岐阜地区の業者に集中して『機能の集中と立地メリット、低コスト』を謳っていたが、なるほどと思わせる。アパレル生産基地としてはとっくに衰退してしまったが、オムニチャネル化が急進する中、交流型アパレル物流基地として再評価されているようだ。

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 2016/01/15 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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