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地上の星とリストラ
 車通勤の途中で日々立ち寄る大手クリーニング店で、いつも気になるパートのオバさん(失礼)がいる。控え目ながら他のスタッフの動きにも気を配り、この著名クリーニング企業の接客と加工の品質をきめ細かく維持しているマネジメント能力には頭が下がる。長くお務めで、代々の男性店長も一目も二目も置いて来たと察せられるが、聞けばただのパートさんだそうだ。もしかして現場に隠れている執行役員なのかもと思った事もあるが、明治創業の保守的な東証一部上場著名企業にそんな洒落た真似は出来そうもない。‘ガラスの天井’以前の門前払い状態なのだろう。
 そんな‘地上の星’は私が付き合っているアパレル業界にも少なからず見られる。全社の業績を大きく嵩上げして来たにしては執行役員でもない人や部長にもなっていない人もいる。その要因は組織の縦軸と横軸の交錯(特にブランド事業軸に対するEC部門やDB部門)や世代構成の片寄りに在ると推察されるが、前者は早晩評価されるにしても後者は解決が難しい。上がつかえて第一線の若手世代が前に出られない、あるいは中間世代がリストラなどで飛んで若手世代に繋げられないケースが多々見られる。
 長期にわたって業績が萎縮して世代構成が高齢化した企業、急成長とリストラが交錯して世代構成が分断された企業、実務経験を積んだ世代が抜け落ちて未熟な若手世代に技術を承継出来ないでいる企業と事情は様々だが、採用と人材育成は十年単位の積み重ねなのだと痛感させられる。経営のスピード感ばかりが強調される昨今だが、企業統治の要は‘歴史観’なのだと認識を改めてもらいたい。
 人材を切り捨てるのがリストラではない。存在領域(ドメイン)を再構築してコスト構造とキャッシュフローを一変させ、企業とステークホルダー(従業員や取引先)の明日を切り開くのが本当のリストラなのではないか。米国のリミテッドブランズやVFコーポレーション、我が国でもルックやデサントなど、立派にリストラして未来を切り開いたケースは決して少なくない。企業統治は十年単位の先を見据える‘歴史観’に立って人を育て人を見出すものだと思う。人の切り捨てに走る前に貴重な‘地上の星’を見出して改革の先頭に立たせてはどうか。
 2015/07/23 10:46  この記事のURL  /  コメント(0)

店が顧客を選ぶ!
 週末の午後に新宿某百貨店メンズ館のバーゲンを覗いてみたが、既に6日目という事もあってか目星いものは見当たらず、次第に激しくなる混雑を疎んで早々に脱出した。
 それにしても、今シーズンのインポートビジネス(4〜5F)はプロパー段階から品揃えが偏って買うものが乏しかったからバーゲンで目星いものが在るはずもないが、インポーターから再集荷した目玉が在るかもと一応、覗いてみたのだ。そんな物色の中でようやく見つけたのがイタリア物のジャケットだったが、ひとつは何と20%オフ!で馬鹿らしくなって猫跨し(プロパーでも10%オフで買える)、ひとつは30%オフになっても十万円超で手が出なかった。50%オフになったら何とか買えそうだが、強気の店だから再マークダウンはないのかも・・・・
 今シーズンは総じて為替インフレでイタリア物は値上がりが激しく、円高時代の感覚では法外価格に思えて手が出ず、直買い付け品などマークアップし過ぎでは?と思ったほどだから、30%オフ程度では到底買う気になれない。20%というチョー強気の値引き率と言い、直買い付け品のマークアップ乗せ過ぎと言い、来春からは顧客カードの値引きもなくなって他店同様のポイント制になるなど、なんかお客を舐めてんのかなと思えて来る。
 元より『店が顧客を選ぶ』という戦略が当たって来た店だから、勢いに乗って顧客が見えなくなっているのでは?との外野の声など大きなお世話なのだろう。アベクロミクスのインフレ政策で潤う?富裕層や爆買いの中国人客が押し寄せる中、ビンボーな還暦親爺など切り捨てる顧客なのだと察して他の店を探す事にした。
 2015/07/21 10:16  この記事のURL  /  コメント(0)

失われた20年の茹で蛙
 アベクロミクスの強引なインフレ政策(国家債務の国民転嫁というのが本音だが)でバブル崩壊以来の「失われた20年」もようやく脱しつつあるように見えるが、我らファッションギョーカイは「失われた20年」の果てにカタルシスを迎えている。
 ワールドやTSIに続いて大手から中小まで戦線整理と人員削減、果ては身売りや破綻までカタルシスが広がりつつあるが、その元凶は90年代半ばからのアパレル生産の空洞化を受けてのOEM/ODMの拡大、デフレ下の単価ダウンと開発組織の削減という「小売SPA化」に在った。それを加速したのが00年3月1日の「定期借家契約導入」による出店の安易化、同年6月1日の「大店立地法施行」による営業時間延長がもたらした店舗販売の劣化である事は言うまでも在るまい。
 この二段階の構造変化に08年9月のリーマンショックとH&M上陸を契機とするファストファッションブーム(低価格低品質使い捨て志向)が加わって価格も品質もギョーカイの収益性もさらに底割れした後、アベクロミクスによる円安インフレに直撃されて調達コストを売価に転嫁出来ない‘逆ざや’状況に追い込まれ、雪崩打つようなカタルシスが始まったと総括されよう。
 この四段階の生存環境変化は実に20年にも渡る緩慢な変化であったため、『乗り切れる』あるいは『いずれどうにかなる』と高を括る経営者が大半であったし、抜本的な体質改善のないまま『千載一遇のチャンス』と錯覚して勝算のない拡張に走る経営者も少なくなかった。20年を振り返ってみれば、緩慢でも確実に沸騰に至るぬるま湯に浸かり続けて来た「茹で蛙」の悲劇と言うべきであろう。
 多少なりとも解悟する気持ちがギョーカイに在るのなら、9月上旬に開催する「第二回FB70年ビジネスモデル変遷史ゼミ」を是非、聴講してもらいたいし、頼まれれば何処へでも行って出前講演もしましょう(ダイジェストしても3時間の長丁場になりますが)。
 2015/07/16 10:11  この記事のURL  /  コメント(0)

コンペのプロセスに問題が!
 と言ってもUFO紛いの新国立競技場のお話ではない。同じく東京五輪で訪日外国人を案内するボランティアの‘おもてなし制服’がダサい!とネットで叩かれているというお話だ。
 ネットで見る限り、確かにゆるキャラアニメ風というか幼稚園児のお絵描き風というか、平板で幼稚なデザインである事は否めず(だったらコスプレに徹底すれば!)、豊葦原瑞穂の国の伝統意匠やおもてなしの風雅など微塵も感じられない駄作だと断定するが、いったいどんな募集の仕方をしてどう選定したのだろうか。
 報道に拠るとアレクサンダー・マックイーンで修行した若手デザイナーの‘作品’だそうだが、何せコンペを勝ち抜いたといってもたった十人の応募者からの選出であり、こんなレヴェルになったのもま〜しょうがないでしょう。もっと広範に告知募集してプロの方々にも参加してもらい、うるさ方の審査員を並べて数百数千の応募の中から選べば、もっとましなデザインになったと後悔される。新国立競技場のコンペ過程に批判的な舛添知事だが、自分の肝いりで導入したボランティア制服のコンペはもっとお粗末だったという事だ。
 それにしても、あんな幼稚で稚拙なデザインの制服でボランティアさんたちが訪日外国人に接すると思うと、恥ずかしさと屈辱感で身震いがしてしまう。今からでも遅くはない。我らギョーカイの総力を挙げて伝統文化の香りも漂うかっこいい新デザインを提案し、ビンボーなギョーカイですけど、お金持ちの柳井さんなんかの助力も得て、ボランティアで寄付してしまいましょう。
 追伸〜!すぴこさんのツイートによれば『ドラえもんそっくり!』だって。なるほどそ〜だ。だったら大きなポケットも付けようね。きっと何でも出て来るよ!
 2015/07/14 09:55  この記事のURL  /  コメント(0)

ビジネスの‘ノームコア’
 日曜の日経一面コラム「春秋」はアップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏の簡素なTシャツ姿が再注目されているという書き出しで、‘ノームコア’(究極の普通)が世界のファッション産業を変えていると警鐘を鳴らしていた。成功したIT企業経営者の多くはノームコア派だが、『服選びに頭も時間も割きません』という哲学の表明なのだそうだ。そう言えば最近は『フランス人は・・・・』など、トレンドに振り回されるファッション消費を醒めた目で見てノームコアなファッション哲学を提唱する声が高まっている。
 日経のコラムは続いて「無印」「ユニクロ」をノームコアブランドの代表として取り上げ、ジョブズ氏の黒いTシャツは「イッセイミヤケ」だと紹介し(滝沢直己氏の「一億人の服のデザイン」に詳しい)、毎シーズンのトレンド発信に苦闘する欧米ファッションギョーカイとは一線を画して我が道を行く?日本のファッションギョーカイを持ち上げていたが、苦笑を超えて腹が痛くなった。
 それはともかく、「失われた20年」を経てすっかり成熟したはずの我が国民が発展途上国でもあるまいに、「H&M」上陸以来のファストファッションに未だ振り回されている惨状は笑止と言うしか無い。世には「ユニクロ」をファストファッションの仲間のように丼勘定する人もいるようだが、元より柳井さんの哲学はスティーブ・ジョブズ的‘ノームコア’だから(時々、その道を踏み外して火傷もするが)、むしろファストファッションの対極に位置付けられるべきだ。
 未だギョーカイは欧米ギョーカイの発信する‘使い捨て’トレンドを向いて勘違いの玄人風を吹かせているが、我が国のマーケットは‘ノームコア’以前から等身大を志向して多様な客層それぞれが特有の着こなしを確立している。その客層毎の着こなしが毎シーズンのトレンドでビミョーに変化し、使い古したディティールを捨てて新鮮なディティールを取り入れて行く。その客層別‘着こなしトレンド’を掴まないで使い捨てのディティールトレンドに流されては同質化と供給過剰の赤い海に溺れるしかない。
 各客層の‘着こなしトレンド’をスタイリングマップ化して愛顧ブランドの好不調と照合すればマーケットの動きはほぼ掴める。データ量の膨大さと作業プロセスの複雑さは否めないが、視界はすっきりと晴れて来る。25年(50シーズン)も続けて来たこのプロセスが今シーズンも『16年春夏MDディレクション』としてようやく完成した。各スタイリングテーマもともかく、その元となった巨大な客層マップ(四分の一に縮尺してもA全2枚分)も必見で、自分が何処に居るか一覧して俯瞰出来る。
 文明の成熟(退化かも)とともにファッションに求められるものも挑戦から安心へ、使い捨てから継ぎ足しへ、モードからライフスタイルへと変化して行く。欧米ギョーカイ発の使い捨てトレンドに右往左往する前に、まず顧客と自分の立ち位置をきちんと掴むのがビジネスの‘ノームコア’ではないのか。

 2015/07/13 09:24  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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