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コーポレート・ガバナンスは誰のため?
 業態開発にせよ海外出店にせよ買収案件にせよ、外野の誰もが『成功は難しい』と見る案件を強行し、結果、膨大な損失を計上するケースが少なからず見られるが、何故そんな愚行が繰り返されてしまうのだろうか。
 客観的には成功率が限りなく低い案件でも、経営トップが思い込んでしまえば社内は沈黙してしまうし、取引先や広告代理店、提灯メディアなど、そのプロジェクトでお金が回る関係者で周囲を固めてしまえば気分の良い評価しか聞こえなくなるから、目の前に実在するリスクも見えなくなってしまう。ギャンブルに挑戦するのがベンチャー精神だとしても、大損失を被る確率はラシアンルーレット(六発に一発のリスク)より桁違いに高い。
 未公開会社のお山の大将ならいざ知らず、株主の資産を預かっている上場企業でそんな暴走が許されて良いものかアナリストの視点からは訝られるが、現実はそんなものだ。取締役会、なかでも外部取締役は執行経営陣の暴走を抑止し株主の資産を守る責務があると思うが、そんな志の人物はけっして外部取締役には選任されないから実効性は極めて疑わしい。むしろ、執行経営者のご機嫌を取りインサイダー情報を個人利益に使いかねない狡猾な人物を選ぶ嫌いさえある。
 適正な決算報告が行われるよう監視すべき監査会計事務所にしても、会計処理の問題点を指摘すれば外されてしまうのが常だから、会計処理は大なり小なり恣意的にお化粧されてしまうのが現実だ。期末在庫の評価など厳正に減損処理する方がレアケースで、残品を仕入原価のまま評価して利益を嵩上げするのが当たり前になっている嫌いがあるし、投資の減価償却も恣意的に処理されている事が多い。ましてやIPO前の審査など投資家のリスクを担保するにはほど遠い。
 というわけで、よほどのインサイダーでもない限り企業の経営実態は掴み難いし、取締役会が執行経営陣を厳正に監視しているとも俄に信じ難い。この業界は経営もギャンブルなら株に投資するのも相当なギャンブルで、実態を知れば知るほど手が出せなくなる。‘コーポレート・ガバナンス’が声高に言われても、実態は執行経営陣の利害を守るための統制であって投資家や消費者を保護するための監視とは懸け離れている。ささいな利権に群がって口を噤むような生き方を恥じて根底から禊がない限り、この業界から資金も人材も離れてしまうのではないか。
 ※当社は明日27日から1月4日まで冬休みになりますので、その間はブログもお休みします。
 2014/12/26 09:23  この記事のURL  /  コメント(0)

ユニクロ様は偉い!!
 この月曜の朝日朝刊に『ユニクロの正社員になりませんか』という全面求人広告が掲載されていたが、イラストの可愛らしさといい求職者目線といい、キャッチコピーやひとつひとつの言葉づかいといい、各分野のプロが万全を尽くした最良の完成度に『ファーストリテイリングって一流企業なんだ!』と改めて認識させられた。
 ‘ブラック’と誹られる流通企業やサービス企業の対応は、如何にも臭い物に蓋をするといった稚拙な対応や利益提供を疑いたくなるメディアを使った提灯記事の乱打に加え、経営者の不用意な発言が火に油を注ぐ事も少なくない中、ファーストリテイリング社の非の打ち所がない真っ直ぐな対応は‘上手な対応’を超えて‘信念ある行動’とさえ見えて来る。それだけ一流のスタッフが揃っているのだろうが、柳井さんも慎重に言葉を選んでいる。スタッフの制止も無視して不用意な発言をしてしまう経営者も少なくない中、事業規模に相応しい器の経営者ということなのだろう。
 様々な危機を経て危うい均衡を保っている資本主義経済の先行きを巡って「21世紀の資本論」とか「資本主義の終焉と歴史の危機」とか喧しいが、資本の利潤と労働者の賃金の相克(成長論と分配論の相克と言ってもよい)はマルクス以来の永遠の課題だと思う。『資本の利潤は常に労働者の賃金を上回って増殖する』というトマ・ピケティの検証は百年単位の視野によるもので、今世紀に入って以降の四半世紀単位の視野では『資本利潤率の低下による資本主義の終焉』という水野和夫の主張の方が説得力がある。
 水野は『70年代に頭を打った資本主義経済が金融とITを融合しグローバル化して金融経済化し、東西冷戦終了後の社会主義圏を取り込む空間的拡大で延命して来たが、資本による労働の搾取構造が国内から域内、そしてグローバルと空間的に拡大しただけで資本の生産性は向上しておらず、無理な成長志向が貧富差と金融のギャンブル化という弊害をもたらしている』(私による要約と加意)と論展しているが、適確な認識と思われる。
 グローバルに事業を拡大する柳井さんが資本主義の活力に期待するなら、労働条件の改善には生産性の抜本的革新が不可欠と認識しているはずで、店舗労働者に物流倉庫まがいの労働を強いる「ユニクロ」のチェーンオペレーションが限界に近付いている事は十二分に理解していると思う。ファーストリテイリング社が欧米的階級搾取構造に堕落する事なく成長を継続し、店舗労働者が子弟を養育し家が買える賃金水準を実現する事を心から期待したい。
 2014/12/25 09:37  この記事のURL  /  コメント(0)

「品質」って何だろう
 世には「ユニクロ」が高級品に見えるぐらい超安あるいは劣悪な商品もある一方、泡銭でもなければ手が出ない法外価格のブランドも数多ある。そこで問われるのが「品質」なり「価格信頼感」だが、現実は極めて多様で定義が難しい。
 「品質」は耐久性なり堅牢度なりの一方で風合いや着心地も問うから一概に定義できないが、いくら風合いや着心地あるいは発色が良いと言っても極端に柔では困る。いち消費者としての経験を辿れば、新宿某百貨店で購入した十万円近いイタリア製のニットは三シーズン目で肘も袖先も抜け(穴が空いた)、某伊ファクトリーブランドのパンツは最初のクリーニングで脱色してしまった。某著名セレクトショップで買ったイタリア製の発色の美しいバッグは一夏で何枚ものシャツに色移りしてしまったし、フランス製やイタリア製の美しいシャツは日常的にボタンが飛ぶ。それに較べれば、「ユニクロ」のカットソーなど何年着ても揺るぎもしないし、メーカーズシャツ鎌倉のシャツなど三年目にしてやっとボタンがひとつだけ飛んだ。
 耐久性や堅牢度を問うならイタリア製の高級ブランドなど低品質もいいとこだし、安くても信頼度の高いブランドは少なからず存在する。個人的には堅牢度を必要とする日常着はお手頃な信頼ブランド、たまに着るお洒落着は危なっかしい仏伊ブランドと使い分けているつもりだが、大枚を溝に捨てるような欠陥にはさすがに怒髪天を突く。たいていは『こんなもんでしょうがない』と諦めるが、脱色や色移りだけは勘弁出来ない。そんな時、百貨店やセレクトショップは慇懃無礼に謝りはするが『責任は仕入れ先に在る』と矛先を振るのが常で、商品責任に対する姿勢やトレーサビリティの薄弱さには呆れるばかりだ。某新宿百貨店で買った毛を撒き散らすカーディガンなど、返品しただけで(返金もなかった)それっきりだった。
 それはともあれ、「品質」は価格相応?とするなら、「価格信頼感」ぐらいは守って欲しい。タイムセールで安くなって飛びついた商品が元より値下げして売るつもりで高く値付けされていたり(商社筋の噂によればタイムセールを乱発する某カジュアルチェーンへの納入原価率は売価の18%だとか)、毎週のように新規商品を投入するファストファッション店でプロパー買いする客は三割止まりとか、アパレルの価格については怪しい話が多すぎる。
 ラグジュアリーブランドなど法外な利幅を載せているのは自明だが、厳密に流通を管理して正価を維持しているなら顧客は公平に煙に巻かれているわけでブランド価値は崩れないし文句も出ない。流通管理が甘く卸先やFC店から横流しされ、期中からオフプライスサイトに流出するようでは「価格信頼感」もブランド価値も崩れてしまうが、一部のスーパーブランドを除けば未だに危うい話が多い。
 価値も価格も怪しいファッションなんかに汗水流して稼いだ金を注ぎ込むなど、まともな人間のする事ではないのかも知れない。消費増税以降、とりわけ輸入インフレが価格を押し上げた秋冬物以降の衣料消費の冷え込みは消費者のそんな白けを感じさせる。『良い品を安く』『正札掛け値無し』なんて二昔前の商業界精神に帰って出直さない限り、この業界はもうお終いなのかも知れない。『店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる』という倉本長治 商業界主幹の名言をもう一度、噛み締めるべきだと思う。
 2014/12/24 09:59  この記事のURL  /  コメント(0)

15年秋冬はかなりヤバそう
 今年の秋冬商戦もセールを残すだけとなったが、ブランド別の販売動向や売れ筋の消長を総括すれば、何が終わって何が始まろうとしているのか明瞭に見える。それに来春夏シーズンのコレクション動向や来秋冬のテキスタイル開発動向などを加味すれば、15年秋冬マーケットの景色も大凡は霧が晴れて見えて来る。一言で言えばそんなものだが、実際にはとんでもなく膨大なデータを手順を踏んで解析し、ローカルからグローバルまで業界とマーケットの壮大なこっくりさん(Table-turning)の行き着く先を描くという大変な作業だ。
 そんな大作業も一巡して当社の『15年秋冬MDディレクション』もようやくまとまり、後は素材ボードを仕上げるだけになったから、レディス版もメンズ版も年内いっぱいには完成させられそうだ。
 ローカルとグローバル、モードとライフスタイル、クリエイションとユーティリティ、モダンとレトロ、イリデッセントとヴィンテージ、スリムとユルい、カワイイとカッコイイなどなど、様々な対立要素の押し引きとリミックスのカオスから売れるMDに繋がるキースタイリングを切り出し、キー素材/キーカラー/キーアイテムからMD展開を設計する。そんな有望スタイリングをレディス9テーマ、メンズ6テーマにまとめ、ビジュアルなスタイリングボード/素材構成ボード/カラーパレットに組み上げた。
 ほぼ完成した『15年秋冬MDディレクション』を見る限り、来秋冬の景色はあまり幸せそうには見えない。斬新なモードや明るい未来より、良く言えば落ち着いたレトロや夢見るファンタジー、安心感あるベーシックや上質素材回帰、悪く言えばシリアスなシティ・サバイバルやリアルなストリート志向など、景気の後退と治安の悪化を想起させる要素が色濃い。丁度、満州事変と金兌換停止インフレ政策の高橋是清ミックスといった30年代初頭ぽい雰囲気と言えばよいのだろうか・・・・・
 2014/12/22 10:06  この記事のURL  /  コメント(0)

企業価値の評価
 当社の仕事のひとつにデューデリゼーション(企業やブランドの買収価値の評価)というのがあるが、PLに見る収益力やBSに見る資産価値やキャッシュフローはもちろんだが、それらは過去の通信簿であって将来を約束するものではない。今後の収益力を予見するには「価値の創造体制」と「価値の実現体制」を見抜く必要がある。
 「価値の創造体制」を評価する一番簡単な方法は商品開発スタッフ(デザイナー/パターンナー/生産管理)の陣容を見る事で、売上を商品開発人員数で除した数字が小さいほど将来のポテンシャルが大きいという事になる。デザイナーにはグラフィックデザイナーやテキスタイルデザイナーも含まれる。粗利益率はロットやロス率で大きく動くので、将来の収益力を担保する指標とはならない。
 「価値の実現体制」は歩留まり率と営業経費率で見る。「歩留まり率」とは実現売上を総投入定価総額で除したもので、プロパーで売れる比率が高いほど100%に近付く。業界の平均値はアパレルで75%前後、リテイラーで80%前後と推察されるが、70%を割ると収益が望めない。
 「営業経費率」は不動産費/人件費/物流費など売上対比の運営コストで、百貨店アパレルでは小売売上対比55%を超えるが、SC/駅ビルアパレルでは40%前後、カジュアルチェーンでは35%前後が一般的だ。EC(自社運営)では売上規模が5億円前後までは店舗販売と大差ないが、10億円を超えれば30%、100億円を超えれば25%、1000億円を超えれば20%を切る。取扱高が1150億円に達するスタートトゥデイ社など18.4%と驚異的な低運営コストを実現しているから、将来の収益力も高く評価される。
 「価値の実現体制」はプロが入って店舗網を再編しオムニチャネルにロジスティクスと在庫コントロール体制、提供方法を革新すれば容易に改善出来るが、「価値の創造体制」は企業/ブランド固有の属人性の高い基盤であり、プロが入っても容易には築けない。バイヤーだけでデザイナーもパターンナーも生産管理もいない小売SPAは「価値の創造体制」が疑わしく、普通借家契約だった前世紀まではともかく定期借家契約が大勢となった今日では店舗の営業権が評価出来ず、値段がつかないのが現実だ。
 企業買収や出資はギャンブルになりがちで、リミテッドが買収したアバクロ株を上場後に売却して40倍、ソフトバンクのアリババに対する出資がNY上場で4000倍になった一方、60億円で買収した109系アパレルが数年で1円になったケースもある。企業価値を算定するには将来の収益力を担保する「価値の創造体制」を正しく評価する事が肝要だ。
 2014/12/19 09:41  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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