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ファストSPAの非効率性
 東レ経営研究所が発行する「繊維トレンド」(12年5・6月号)に掲載された大谷毅 信州大学名誉教授の論文『イタリアのプロントモーダとファストファッションの製品設計』に拠れば、H&Mなど欧州のファストファッションSPAはイタリアのファストファッション製造卸業たる「pronto moda」を製造小売業(SPA)に発展させたもので、有力pronto modaの中にはSPAチェーンを並行展開する事業者もあるそうだ。
 極めて示唆に富む指摘だが、PARISにはサンチェ、SEOULには東大門、TOKYOには横山町があるから、ファストファッション製造卸業(以下FFA)は世界のアパレル業界で普遍的なビジネスモデルと言えよう。pronto modaは必ずしもキャッシュ&キャリーではないようだが、FFAは現金問屋とニアイコールと見るべきだ。
 短サイクルに市場対応する製造卸の普遍的ビジネスモデルたるFFAから今日のファストファッションSPA(以下FFR)に発展したのは自然な成り行きであり、渋谷109の黎明期には東大門で素材を選んでビル中の縫製業者に生産委託し一泊か二泊で持ち帰る「キャリー型FFR」が主流だった事が思い出される。当時の109のキャリー型FFRは週サイクルで企画・開発と販売消化を繰り返し、文字通りの52週MDで年間24回転前後を叩き出すという生鮮商売だった。今日でも韓国のローカル専門店は東大門軸で52週MDを実践するキャリー型FFRが少なからず、著名ブランドのFCと勢力を二分しているようだ。
 いまさら古典的なキャリー型FFRを持ち出すのは、巨大産業化したグローバルFFRの非効率性を指摘したいからだ。H&Mは巨大ロットによる低コスト調達が膨大なマークダウンロス(推定歩留まり率66%)をカバーして59.1%の粗利益率と17.2%もの営業利益率を確保しているが、毎週のように新規投入しても3.29回転に留まる非効率性はキャリー型FFRとは比較すべくもない(13年11月期)。今日の巨大産業化したグローバルFFRは派手な大仕掛けにも拘らずマス・デメリットがマス・メリットの大半を相殺しており、ファストファッションの原点的形態たるキャリー型FFRに較べればロスとコストが肥大化した非効率なビジネスモデルと言わざるを得ない。
 効率的な(≒小規模な)FFRが成立するには感度とスピード、コストパフォーマンスを備えたFFAか、意匠素材を短サイクルで現物供給するFFT(現金生地問屋)と小ロット対応の都市型縫製業者の存在が不可欠だが、韓国はともかく今日の日本では後者は求めるべくもない。しかし、今日の日本でも東大門を軸に小規模なFFRを回す事は十分に可能だし、力量のあるFFAも何社か存在する。とは言え、現状を見る限りどちらにも注目される成功が見られないのは‘志’か戦略が欠けているからと推察される。
 適正規模のFFRやFFAは消化回転の速やかな極めて効率的なビジネスモデルたり得る。過大な規模を追わなければロスやコストが肥大する事もなく、極めて収益性の高い生鮮商売を継続出来るはずで、明確な‘志’と戦略を持った新世代のFFRやFFAの台頭が待たれる。
 2014/08/21 09:47  この記事のURL  /  コメント(0)

価格転嫁よりバリュー向上
 夏休み前に「スマイルカーブの変化」と題して『市場のトレンドが製品のクリエイションから消費者のユーティリティに移る今の局面では、価値は製品から素材と消費者の着回し着崩しや提供方法に流れざるを得ない』と指摘したが、8月12日の日経夕刊は衣料品業界大手が素材軸の商品開発を強化している事を報じていた。
 記事は『デザインでの差別化が難しくなったので素材で違いを打ち出したい』『円安と現地生産費高騰によるコスト上昇を素材の差別化で価格に転嫁したい』と業界事情を解説していたが、適確なまとめ方だと思う。ファストファッションが世界に蔓延し途上国の経済成長で衣料品生産コストが高騰する中、切り詰めた品質をデザインの鮮度やプロモーションでカバーするのも限界に来ており、素材開発かライフスタイル提案で価格転嫁を図るしかなくなった、というのが業界の実情なのだ。
 業界では「ノームコア」とか「ニューベーシック」とか言われているもので、デザイン鮮度で低品質を化粧する商法が生産コストの上昇で壁に当たり、機能性や素材価値、ライフスタイル提案でコストに見合った価値を訴求する方向に業界が転じつつある現象を端的に現している。それは同時にスマイルカーブ(価値の配分)の製品から素材と使用価値への両極移動でもあり、今世紀に入って以降、際限なく切り下げられて来た調達原価率(小売価格対比調達原価率は10ポイント以上も切り下げられた)も反転上昇に転じている。
 製品デザインで低品質をカバーして来たファストなSPA事業者など消化率の悪化に直面し、調達コスト上昇を価格に転嫁する方向に転じているが、価値配分の素材と使用側への両極移動という本質を考えれば、価格転嫁より調達原価率アップ(値入れ率圧縮)によるバリュー向上がもたらす消化回転改善に活路を見出すべきではないか。
 2014/08/20 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

金満化するアップル
 アップルが昨年のサンローランCEOポール・ドヌーブ氏、バーバリーグループCEOアンジェラ・アーレンツ氏に続いて今度はサンローラン・ヨーロッパCEOカトリーヌ・モニエール氏と、ラグジュアリービジネスから次々と経営幹部を引き抜いている事がIT/ファッション両業界の注目を集めているが、いったいアップルは何を考えているのだろうか。
 業界では、中国製や台湾製の低価格スマホ/タブレットに圧されて高価格なアップル製品の世界(とりわけアジア)シェアが低迷している事に対するアップルの戦略と推察されており、機能と価格の競争から一歩、距離を置いてラグジュアリービジネスの高付加価値戦略を志向するのではないかと見る向きが多い。もしそうなら、ラグジュアリービジネスから著名デザイナーを招いてウェアラブルCP軸のコレクションを毎シーズン発表し、派手なパーティーを繰り返す事になるのだろうか。すくなくともデザイナーコラボのシーズンコレクションが登場するのは間違い在るまい。となれば、現在でもウインドウズ系より割高なMac製品がさらに割高になりかねないが、果たして顧客はついて来るのだろうか。
 問題はもう一つある。バーバリーグループの株主総会でクリストファー・ベイリー新CEOの法外な報酬(長年の貢献に対する2000万ポンドの株式支給+最高1000万ポンドの成果報酬)に株主の批判が集中したが、高額報酬の背景にアップルによる経営幹部引き抜きが在ったと見られている。相次ぐアップルによる経営幹部引き抜きにラグジュアリー業界が防衛に走る中、株式支給などで役員報酬が高額化しているという事のようだ。
 13年度のアップル社の役員報酬はティムクックCEOで425万2727ドル(約4億4000万円)、他の役員も皆、260万ドルちょっとだから株式35億円+最高報酬17.5億円と言われるバーバリー社CEOに較べると可愛いものに見えるが、ティムクックCEOは11年度に3億7618万ドル、ピーター・オッペンハイマーCFOは12年度に6617万ドル、エドワード・キューSVPは11〜12年度に9983万ドル、ジェフリー・ウィリアムスSVPは12年度に6627万ドルもの株式を支給されているからバーバリー社より桁違いに高額だ。ラグジュアリービジネスから引き抜かれた経営幹部達はいったいどれほど法外な報酬を約束されているのだろうか!
 自宅のガレージで創業し、一旦は追放されたアップル社に暫定CEOとして復帰して以来、年間報酬1ドルを通して「世界一低報酬のCEO」と言われ、イッセイミヤケの黒のタートルネックで通したスティーブ・ジョブズがこんなにも金満化したアップル社を見たら草葉の陰で激怒するに違いない。
 70年代初期の西海岸ヒッピー文明下で禅に瞑想しフリーダムな社会を夢見たジョブズ青年はアップル社創業後もOSのフリーダム思想を抱いてビル・ゲイツとは別の生き方を選び、フリーダムが通底するインターネット世界の一方の覇者となった。そんなジョブズのフリーダム思想とラグジュアリー化や金満化は根本から相容れないものだと思う。現経営陣が創業者の抱いた理念に逆行する戦略を志向するなら、顧客の離反はもちろん(一部は楽しく騙されてくれるかも知れないが)、社内の混乱も避けられないのではないか。
 そんな指摘は米国でもあるようで、ケイン岩谷ゆかり氏は「沈みゆく帝国」(日経BP社刊 原題「Haunted Empire」)でジョブズ亡き後のアップル社の没落を予見している。ちなみに私は最初のIBM5550を除きMac一本で通して来たジョブズ信奉者だが、金満化するアップルに失望を隠せないでいる。
 2014/08/19 09:26  この記事のURL  /  コメント(0)

マッチ&ポンプに大差はない
 数日前の日経のコラム「成長の誤算 人手不足3」は岡山での時ならぬ小売/飲食業の賃上げラッシュを取り上げていた。この賃上げラッシュは11月に開業するイオンモール岡山の従業員採用がもたらしたもので、三千人以上という新規雇用が岡山の労働需給を一気に逼迫させたという事のようだ。
 イオンモール岡山は駅前至近の開発だが、コンパクトシティを標榜した07年の改正都市計画法施行以来、郊外の大型SC開発は都市計画で抑制され、誘致の可否は地方行政の政治的判断に委ねられた。その政治的判断の要となるのが「雇用の創造」で、多少の公共投資が伴っても地元の商店街が圧迫されても、千人単位の雇用を生み出し税収も潤うとなれば、諸手を挙げて誘致する地方行政が続出するのも不思議は無い。それが郊外でなく中心市街地ならコンパクトシティ構想とも相容れるから、なおさら歓迎される事になる。そんな潮流を見たイオンモールは岡山に続いて旭川や高崎でも駅前再開発に乗り出している。
 高崎などロードサイド商業に続いた郊外SCの包囲網で中心商業がシャッター街化した最たる例で、今や駅ビルのモントレーと駅前の高島屋ぐらいしか見当たらないが、そんな高崎駅前も旧ビブレが立て替え再開発で都市型イオンモールに変身すれば一気に浮上すると期待され、行政も駅からイオンモールと高島屋まで繋がるペデストリアンデッキをイオンモール開業までに整備する計画だとか。
 地方都市中心商業衰退の主犯格たるイオンモールが今度は中心商業復活の主役を演ずるのは複雑な思いを否めないが、規制と振興の両極を揺れ動く行政の時流などゆく河の流れでしかないのだから、どっちもマッチ&ポンプに大差はないのかも知れませんね。
 2014/08/18 10:52  この記事のURL  /  コメント(0)

スマイルカーブの変化
 この業界では‘価値の創造’が第一義のように言われるが、価値はデザイナーの机上やランウェイで生まれるわけではない。製品の企画以前に素材段階でも価値は創造されるし、生産過程はもちろん、流通・販売過程やプロモーションでも価値は創造される。そんな価値の創造から実現のプロセスにおける‘価値の配分’を現すのがスマイルカーブだが、そのバランスは微妙に変化している。
 戦後、50年代は綿紡績、60年代は合繊メーカーに価値が集中していたが、70年代のマンションメーカーブーム、80年代前半のDCブランドブーム、後半のインポートブランドブームを経てアパレルメーカーに価値が移行し、90年代以降、アパレル生産の空洞化が進む中でSPAやセレクトショップなどリテイラーに価値が移行して行ったのが大まかな歴史的変化だ。
 近年は企画も生産も流通もブランディングもグローバル化があたりまえになる中、この流れが逆流し始めた感がある。グローバル化への対応は、一部有力企業の例外はあってもリテイラーが最も難しく、次いでブランドメーカー、テキスタイラー、産業資材もカバーする合繊メーカーの順に強い。加えて、市場のトレンドが製品の完成度(クリエイション)から消費者の着回し着こなし(ユーティリティ)に移る今の局面では、価値は製品から素材と消費者のユーティリティや提供方法に流れざるを得ない。
 スマイルカーブのバランスが製品から分散する以上、調達原価率の上昇は避けられず、顧客のユーティリティを掴んだ提供方法の革新を主軸に消化回転の向上が急がれる。
 2014/08/07 09:40  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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