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「風立ちぬ」のカラー構成
 先週末、宮崎駿監督の五年振りの作品という「風立ちぬ」を子息とルン妻と家族一緒に見て来ました。『堀越二郎と堀辰雄に敬意を表して』と付記するだけあって、零戦の設計者たる堀越二郎と「風立ちぬ」の作者たる堀辰雄を重ね、震災後モダンから軍国主義へと暗転する戦前昭和を生きた若者像を宮崎流にロマンティックに描いていました。
 ストーリーは航空機設計者、堀越二郎と作家、堀辰雄という同時代を生きた二人の人物を交錯し、「美しい村」「風立ちぬ」そして若い女性の自我の目覚めと夭折した詩人であり建築家であった愛弟子、立原道造への哀悼を絡めた「菜穂子」という三作品から、かなり自由にエピソードを継ぎ接いだもので、堀辰雄の愛読者や研究者からは???という声が上がりそうですが、爽やかな若者像と美しい画像に惹き込まれてしまいました。
 画像の主役は‘美しい飛行機’とは言え、鈍い光沢を放つジュラルミンを手作業で叩き出したアナログな機体に騒々しいレシプロエンジンを積む‘飛行機’はいつもの宮崎駿世界で、最先端のデジタル技術で作られたステルス機とは対極の温もりを感じます。菜穂子(小説「風立ちぬ」では節子、堀辰雄の亡くなった婚約者は矢野綾子)とのロマンスが始まる軽井沢の水車の道周辺も富士見高原のサナトリウム周辺も当時に忠実に描かれていて(今は森になっているが当時は草原だった)、緻密な検証が伺えます。
 そんな画像構成で印象的だったのが空色から緑色まで寒色系に集中していた事です。飛行機が主役みたいなものですから空を描いたシーンが多いのは解りますが(夕刻の空の描き方はターナーの影響が大きく、草原で菜穂子が絵を描くシーンはモネの「日傘をさす女」へのオマージュ)、他も緑の草原や村落風景が多く、ビンクや赤はアクセント的な使い方(菜穂子の花嫁衣装など)に抑制されていました。赤の多用は震災や戦災を描いたシーンに限定しており、平和な空と緑の対極に位置づけているのでしょう。
 なんでそんな事が印象に残るのかと言うと、来春夏「MDディレクション」のカラーパレットも圧倒的にブルー〜グリーン系が大勢でベージュ〜茶系が急減し、ピンク〜赤系はアクセント的役割に留まるからです。過去の経験則から言えば寒色系の強まりは景気の後退と平穏を意味する確立が高く、リーマンショック後の不景気と等身大の世相とも昨年末以降のアベノミクス下の高揚とも異なる時代の訪れが予感されます。景気もともかく物騒な世相にだけはならない事を祈りましょう。
 2013/07/22 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)

時代の光と空気
 来春夏の「MDディレクション」が完成して個別クライアント向けのディレクション作成を始めているが、スタイリング写真が足らなくて去年のファッション誌までひっくり返していると、フィットもカラーもディティールも隔世の感があって、とても去年の商品とは思えない。時は確実に移ろっているのだ。
 トレンドは繰り返すと言うが、たまさか10年20年前のコレクションブックを漁っていると似たようなルックが時代がかったフィットやディティールで出ていて目を剥く事がある。歴史もトレンドも似た繰り返しはあっても決して同じ物は還って来ない。再映画化された「グレート・ギャッビー」などその典型で、74年のロバート・レッドフォードとミア・ファーローの同名作とは似て非なるものだ。業界人としては当時のラルフローレンと今回のブルックスブラザーズの違いを見るべきかも知れないが、映像技術と時代の光と空気はまったくの別物を感じさせる。
 話はファッション誌のルック写真に戻るが、似たようなルックでも時代の光と空気が微妙に違うし、素材の物性感やクリエーターのテンションも時代を感じさせる。加えて、カメラマンの撮影手法や機材の性能、印刷技術も少なからず影響しているのだろう。個人的には50年代アメリカンヴォーグのモード写真が一番好きで、大見得を切る時代かがったポーズの美しさは今時の読者モデルの素人臭く媚びたポーズとは雲泥の差がある。レディ・ガガが登場した時、そのコスチュームと大見得を切るポーズにアメリカンヴォーグの世界を想起したのは私だけではあるまい。
 来春夏のビッグトレンドはミッドセンチュリーアメリカンで、50年代のアメリカンヴォーグやハリウッドスターが注目される。そんな訳で、完成した「14年春夏MDディレクション」には「レトロ・ヴォーグ」「ハリウッド・グラマー」「ミッドセンチュリー・ハリウッドエレガンス」と三つも50年代テーマを設定してしまった。
 2013/07/19 18:18  この記事のURL  /  コメント(0)

来春夏の有望テーマとMDの組み方
 今年の春夏は世界的な景気の回復もあってモード回帰とフィットのスリム化、柄/色の氾濫、異素材/バイカラー切り替えデザインの台頭が目立ったが、来春夏では再び不安と変動の後退期に入る事もあってレトロ/装飾回帰とナチュラルライフスタイル志向が強まるようだ。レトロでは20’Sや50’S、とりわけVOGUEスタイルやハリウッドスタイルが台頭する一方、ストリートでは90’Sが継続し70’Sも強まる。素材はソリッド/ライト/シアー/シャイニー/エアリーな複合意匠性を強め、キレイ目ナチュラルからモードな面に集中する。
 そんなトレンドに対するMDのポイントは素材軸の柄/ディティール展開で、カラーは一気に絞り込まれる。色相を絞ってトーンや柄、アイテムやディティールを展開してフェイスを構築したい。
 というのは先週完成した当社の「14年春夏MDディレクション」(レディス版)のさわりだが、同時に完成したメンズ版ではピッティの傾向を完璧に予測出来ていた。どちらもオリジナル企画に即、活用出来るよう、シーズンに対応する有望スタイリングテーマを設定して素材構成からMDを組み立てたものだ。トレンド情報に留まらず企画に直結する「MDディレクション」というビジュアルな提案は国内では恐らく当社ぐらいしか行っていないと思う。有力テキスタイラーの協力を得て「素材軸のMD」という構成を一段と強化したから、素材ボードの鮮度とリアリティには自信がある。
 クライアントへのディレクションは昨日から始まっているが、ダイジェストした解説セミナーを8月7日に当社で開催するので、御興味ある方は下記へアクセスして下さい。
※レディス版の御案内はこちら
※メンズ版の御案内はこちら
 2013/07/19 10:55  この記事のURL  /  コメント(0)

セレクトショップは何処へ行く
 低価格のSPAやファストファッションが氾濫し、トレンドをリードするはずのブランドショップもOEM/ODM依存の52週継ぎ接ぎMDに流れる中、きちんと開発されたブランド商品はセレクトショップが担うかに見えたが、今日の大手セレクトはOEM的なオリジナル商品が大半を占める「セレクトSPA」、さらにはセレクト商品が一割を切る「セレクトスパイスSPA」というのが実情で、昨秋以降はお値頃価格「ファミリーカジュアルSPA」の多店化を各社が競っている。まさにセレクトショップの幻影を売ってマス市場を奪い合う構図が伺える。そんな中、かつてはセレクトショップの売り物だった欧米ファクトリーブランドやトーキョーセレクトブランドは何処で売られているのだろうか。
 資金力あるブランドがブランディングして直営店や百貨店のコーナーを拡げる一方、それが適わぬブランドは中小のセレクトショップのラックに細々と並ぶだけかと思っていたが、三月にリモデルした伊勢丹本店婦人服ではグローバルなクリエーターブランドやトーキョーセレクトブランドをラック単位で多数、取り込んでいた。元よりメンズ館では欧州ファクトリーブランドやトーキョーセレクトブランドを多数、取り込んでいたから、それが婦人服にも及んだという事なのだろう。
 こんな百貨店が増えたらマスマーケット獲得に流れる大手セレクトは元々のポジションを脅かされる事になるが、そんな百貨店は日本広しと言えども伊勢丹本店だけだから(三越銀座店も先々は期待される)当分は安泰を決め込めるのかも知れないが、これでよいのかと考えてしまう。
 大手セレクトはビッグになって儲かっているのだから、マス業態の多店化に注力するばかりでなく、世界のファクトリーブランドやクリエーターブランド、トーキョーブランドを大挙編集構成する本物のセレクトショップを面子にかけて立ち上げてもよいのにと思うのだが、優秀な人材は多店化出来る事業に投入せざるを得ないのかも知れない。
 伊勢丹本店が見せつけた「巨大セレクトショップ」の衝撃を大手セレクト業界はもっと真摯に受け止めるべきだと思う。8月29日開催のSPACビッグコンベンションでは三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長執行役員 大西洋様をお招きしてセレクト業界にも喝を入れてもらいましょう。
 2013/07/18 09:09  この記事のURL  /  コメント(0)

ブラックリストその2
 以前にデベから見た問題テナントを「ブラックリストその1」として挙げたが、テナントから見た問題デベも取り上げないと片手落ちだから、早々にリストしてみた。前回同様、業界の一研究者としての私見であり特定企業を誹謗する意志はないが、過去の開発における失敗例の反映は避けられない。テナント企業にとっては要注意デベの要件であり、デベにとってはテナント企業に嫌われないためのチェックリストと受け取ってもらいたい。
1)テナント募集時点で公表した売上目標を開業後の実績が大きく下回るケースが続くデベ。
2)テナントミックスやレイアウトに合理性を欠いて区画に拠る効率の高低が激しいデベ。
3)定借契約期間内退店に極端なペナルティを課すデベ。
4)テナントの営業管理にルーズで規律が保てないデベ。
5)合理性を欠く過度な規制でテナントの営業活動を損なうデベ。
6)火災や事故など来店客の安全、消費者保護に対する配慮に欠けるデベ。
 4)5)は裏腹なケースがあるから商法や独占禁止法を遵守する姿勢を見るべきで、これからはテナントのO2O活動に対する規制の有無もチェックする必要がある。
 ブラックかどうかとは別の次元だが、定借契約定着以降、退店や移動に関して一方的に要求するデベとテナントの立場も細かく配慮するデベの差が開いているようだ。前者の方が館全体の繁栄に繋がるのだろうが、退店や移動を迫られるテナント企業にとっては厳しいものがある。巨額の投資を伴い短からぬ付き合いになるのだから、テナント企業は自社の経営体質も考えてデベを選択すべきかも知れない。
 2013/07/16 09:59  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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