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奇跡は起こらなかった
 米国の大衆百貨店JCペニーは4月8日、ロン・ジョンソンCEOを解任し、前任CEOのマイロン・ウルマン氏を復帰させる人事を発表した。11年11月1日にロン・ジョンソン氏を全米業界最高の年俸5300万ドルでCEOに招聘してから、わずか17ヶ月と一週間後の結末であった。
 前経営陣下で有力アパレルとコラボした独占PBによるブランドショップ複合化戦略が販売消化体制が伴わず行き詰まり、毎日バーゲン状態に陥っていたJCペニーがアップルストアを成功させた立役者たるロン・ジョンソン氏をCEOに招聘すると発表した日、同社の株価は17%上昇したが、同氏の‘革命’的戦略が成果を挙げず業績が一段と悪化した結果、株価はほぼ半額に落ち込んでしまった。‘革命’が始まって以来、JCペニーの既存店売上は12年第一四半期が▲18.9%、第二四半期が▲21.7%、第三四半期が▲26.1%、第四四半期が▲31.7%と加速度的に悪化し、13年1月期通期の売上は24.8%も減少して13億ドルの営業赤字を計上するに至った。
 ロン・ジョンソンの‘革命’は、スティーブ・ジョブズの「Simple is best」の理念をベースにIT&ウェブビジネスの発想とテクノロジーを導入して店舗小売業を一変させようという「ハイブリッド戦略」であった。独占PBを中核に「セフォラ」や「ジョー・フレッシュ」まで導入するメインストリート戦略やEDLP戦略の成否はともかく、ICタグを全面導入してのレジレス化やAR技術を駆使したプレゼンテーション、最新のオムニチャネル戦術だけでも十分に注目に値するものだった。しかし、「セフォラ」や「ジョー・フレッシュ」など魅力的なコンテンツが加わると言ってもメインストリート戦略はストアをイン・モール化する複合専門店化戦略に変わりなく、前経営陣が行き詰まったと同じ隘路に嵌ってしまった。それはキーテナント内インショップの客数と販売効率はモール面とは格段に落ちる事、在庫が存在しないデジタルコンテンツで成り立ったアップルの在庫レスなベンダーマネジメントが買取制度のアパレル分野では成り立たず、売場で陳列訴求し再編集して売り切って行く在庫運用技術の壁が前経営陣同様に立ちはだかったのだ。
 ITテクノロジーを駆使しオムニチャネル戦略をリードしたところで、魅力的な商品を魅力的な価格と魅力的な陳列・接客で訴求し、在庫を編集運用して消化して行くという小売の基本は変えられない。それはECとて同様で、JCペニーのEC売上はロン・ジョンソン‘革命’下で33%も減少してしまった。マーチャンダイジングとビジュアルマーチャンダイジング、プライシングとインベントリイ・コントロールという現場の力量を欠いてはどんな戦略も水泡に帰してしまう。ロン・ジョンソンの蹉跌はそんな真理を証明したのではないか。
 2013/04/10 09:13  この記事のURL  /  コメント(0)

ジーンズブランドは再生出来るの?
 ビッグジョンの経営が行き詰まって創業家社長が退任し、地元の官民一体中小企業再生ファンドたる「おかやま企業再生ファンド」が債権を引き取って立て直しを図るそうだ。ファンドは引き取った債権の大半を放棄し、中国銀行が新たに約三億円を融資し、40億円にも膨らんだ借入金の圧縮を図ると報道されているが、地元財界による救済劇の色彩が濃い。
 09年11月に行き詰まった旧「ボブソン」の事業を民間ファンドが引き継いだ新生「ボブソン」もわずか一年半で11年5月に民事再生を申請し、12年6月には破産に至っているから、落ち目のジーンズブランドを立て直すのは至難の業のようだ。事業再生のプロでさえ失敗したジーンズブランドの再生を地元官民ファンドが手がける事に危なっかしさを感じるし、新生「ボブソン」破産時の負債が11億円弱だった事と比較すれば40億円というビッグジョンの負債は格段に重い。「地元官民ファンド」に疑問符を付けるのは、地元ジーンズ業界の成功体験と生産背景を引き摺った再生策しか出て来ないと危惧されるからだ。
 「Levi’s」以来のワークパンツに50年代の「反抗する若者」のイメージが重なり、60年代のモッズや70年代初期まで続いたヒッピーなど若者のカウンターカルチャーで世界的なブームとなったジーニングだが、80年代のデザイナージーンズを継承した90年代末期からのプレミアムジーンズ(セレブジーンズ)がリーマンショックで冷却して以降、低価格SPAやカジュアルブランドのジーンズに消費者の嗜好は加速度的に移行して行った。
 売上の縮小が続いて専業ジーンズブランドが息も絶え絶えになった所に、世界的なモード回帰とアベノミクス景気で「等身大」ゆるナチュラルが主流だった国内カジュアル市場が「背伸び」キレイ目モードに一変したのだから、もう弱り目に祟り目と言うしか無い。これまで地元産地が得意として来たラフな洗い加工が「付加価値」になり難くなったのだ。グローバルなモード変化に敏感ではないだろう地元の業界や財界が、「反抗する若者」「カウンターカルチャー」「マイナーなこだわり」といったこれまでのジーンズのイメージを捨てて「キレイでスリム」「メジャーなモードトレンド」という今日的価値観に果たしてシフト出来るものだろうか。
 私だったらシンガポールか香港のファンドも引っぱりこんでグローバルなマーケティング戦略を仕掛け、「アレキサンダー・ワン」や「クリス・ヴァン・アッシュ」クラスのモードクリエーターに大枚を払っても世界を注目させるコレクションを打ち上げるが、岡山の官民ファンドはどう動くのだろうか。
 2013/04/09 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

チャールズ&キースは好調に離陸
 先週末、シンガポール発のシューズ&バッグSPA「チャールズ&キース」の旗艦店が原宿交差点近くの明治通り(H&Mのはす向かい)に開店した。上陸一号店は3月20日のららぽーと横浜だが、ここがブランディングを担う初の都心路面店となる。ハイファッショントレンドのシューズ&バッグをお手頃価格で提供する「チャールズ&キース」にとってカジュアルな明治通りはミスマッチかもという危惧も撥ね除け、初日から小綺麗なOLやキャリアで混雑していた。
 もうひとつ危惧されたのがエレガンスモード志向のOL〜キャリア層が低価格ケミカルシューズを受け入れるかという点だが、既に駅ビルでは「オリエンタルトラフィック」などのOL向け低価格ケミカルシューズが受け入れられており、ケミカルとは思えないほど洗練された「チャールズ&キース」は抵抗無く受け入れられたようだ。
 肝心のバリュー感だが、現地価格の1.4倍までに抑えたという価格設定は絶妙で、ベーシックなパンプスやエレガントなサンダルで4500円、4900円、装飾が施されたデザイン物でも5500円、5900円という価格は駅ビルの類似商品より2ラインは割安だ。ハイファッション感覚の洗練されたデザイン、ラグジュアリー系かと見紛う店舗環境とVMDからすれば圧倒的バーゲンプライスと言って良い。これならOLのみならずミッシーやキャリアまで幅広い支持を得られるに違いない。出店立地さえ誤らなければ3年で40店という目標も楽勝なのではないか。
 商品企画段階からカラー構成が組まれたVMDは売れ筋追いの単品継ぎ接ぎVMD?とは次元を画しており、カラー配置や陳列フォルムのセンスはラグジュアリー系に近い。これで「IKEBANA」「BONSAI」のセンスが加われば「バーグドルフ・グッドマン」の域に近づくのかも。強いて難癖をつけるなら、ラグジュアリーブランドに比してやや色調が軽く高級感が今ひとつという点だろうか。価格が一桁違うのだから無理難題なのかも知れないが、型押し加工などの表面感とも絡んでAWではもっと問題になる。常夏のシンガポール発祥(33ヶ国に330店と言っても熱帯〜亜熱帯が大半)という枠を超えられるか、今年の秋冬企画が正念場になるのだろう。
 さらに課題を指摘するなら、1)駅ビルや百貨店でラグジュアリーな店舗環境を維持し、隣接した十分なストックスペースを確保出来るか、2)多店化しても陳列演出や接客の水準を保てるか、の二点であろう。これを貫徹するには日本的馴れ合いでは困難で、外資ラグジュアリーブランド流の高飛車な出店交渉と徹底した運営マネジメントに徹するしかない。出資比率はオンワードホールディングスが51%でも、出店交渉とブランディングは外資100%のつもりで突っ走って欲しい。



 2013/04/08 09:42  この記事のURL  /  コメント(1)

上げ潮に乗れるの乗れないの?
 百貨店や大手チェーンの一部はバブルの上げ潮に乗って売上を伸ばしているが、取り残されそうなチェーンや逆風に真っ青なブランドもあるようだ。アベノミクス景気と世界的なモード回帰が取沙汰され、リーマンショック以来の「等身大」から「背伸び」へと消費の一変が予見され始めた昨年末以降、各社はマーチャンダイジングとブランディングの急旋回を急いだが、見事に変身して上げ潮に乗れたブランド、なんとか滑り込みセーフとなったブランド、時流から外れて逆風に苦しむブランドと明暗が際立って来た。
 各社の変身競争が一覧出来るのが三月以降に開業した大型SCで、イオンモールのつくばと春日部を見れば一目瞭然だ。これに四月末に開業するグランフロント大阪が加われば、何処が変身に成功して何処が中途半端で何処が変身し損なったか、はっきり答が出るだろう。
 イオンモールの両SCを見た段階では、危ぶまれていたポイント系ブランドがナチュラル感を残しながらキレイでカラフルに変身。消費者の評価は三月売上にストレートに現れた。トリニティアーツ急成長の原動力となったODM企画会社ナチュラルナインの買収も加わり、ポイントの再飛躍は確実となった。クロスカンパニー系でも「イェッカ・ベッカ」はキレイにモードミックスを取り込んでいるが、「セブンデイズ・サンデイ」は目立った進化が見られない。パル系のナイスクラップが手掛ける「リヴィ・イット」は出色の変身と評価される。
 変身はマーチャンダイジングのみならず店舗環境、とりわけモールから視覚効果の高いファサードデザインが競われており、旧態依然なブランドと見比べれば圧倒的なブランディング効果が実感される。多少はコスト高につくにしても、消費浮揚の上げ潮に乗るにはケチってはいられない。『今でしょ!』と背中を圧したくなる。
 20年振りという大転換に変身出来たブランドと変身出来なかったブランドの明暗は3月に続いて4月の数字に露骨に現れるに違いない。変化に尻込みしたり投資を惜しんだ企業は地団駄を踏む事になるのではないか。



 2013/04/05 09:17  この記事のURL  /  コメント(0)

衣料消費にバブル到来!!
 三月の百貨店/専門店の売上が次々と発表されているが皆、目を剥くほどの伸びで、巷の景気の実感を掛け離れた数字に腰が抜けてしまった。リモデルに東横線の直通乗り入れが重なった伊勢丹本店の116.3はさもありなんと思うが、三越銀座店が110.1、三越伊勢丹計で109.4という伸びはサプライズだ。あのユニクロ様は123.1とビックリ!で、ユナイテッドアローズも112.7、ポイントも111.1と並べば、もう「春風」どころの騒ぎではない。
 三月の衣料品の驚異的な伸びには平均気温が2.7度(東京)も高かったという陽気のせいもあったが、やはり景気回復期待が大きかったのではないか。先行して高騰した株価は一息ついているようだが、消費がここまで跳ねてはバブル本番が始まったと認識せざるを得ない。「失われた20年」が終わって「繁栄の20年」が来ると打ち上げた私さえ、バブルに乗り遅れたかもと焦ってしまうほどだ。なんとも言い難いザワザワ感が桜が散ってもジワジワと巷に広がりつつある。
 業界もようやく勢いづいて来たが、売れない時は『学ぶ予算が無い』、売れて来ると『学ぶ暇がない』と、結局は何時も不勉強な業界だから、バブルが来たとて当社に札束が舞うとも思えない。ファッションショー業界や広告業界が潤うだけだろう。少しは日当りもよくなるという程度に期待しておこう。
 2013/04/03 09:14  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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