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モードシフトをどう見るか
 消費文明の衰退とともに勢力を拡大して来た「ナチュ可愛系」や「スウィート系」などのガラな等身大ファッションが昨秋頃から陰りだし、それに替わって「アラモ系」や「ストモ系」などのモードコンシャスなファッションが台頭し、一時勢いを失っていたファストファッションも息を吹き返した感があるが、この現象をどう見るべきだろうか。
 ガラケータイがスマホに取って代わられたのと同様、ネットによる情報のグローバル化でファッションも等身大なガラ系からモードなグローバル系に移行していると見るのが妥当だろうが、日本ブランドが中国などのアジアに進出して「ナチュ可愛」の限界を知り、韓流アパレルサイトの人気沸騰も加わって日本市場がアジアングローバル化へ向かっているという見方も出来よう。
 ミッシー層以上ではナチュラルレイヤードやトラッドミックスからフェミニンミックス、フェミニンモード、エレガンスモード、スタイリッシュモード、ユーロモード、クリエイティブモードまで、ガラ系とグローバル系のバランスはさほど変化したようには見えないが、百貨店のアラ40〜アラ50ではモードシフトが顕著で、トラッドミックス系のシルエットもモードに振れて来た。
 欧米市場でもアジア市場でも、クリエイティブ系やファストファッション系を除けば、低所得層ほどナチュラルでフィットが緩く、高所得層ほどモードでフィットがスタイリッシュという傾向が見られるとは言え、経済の低迷と所得の減少で等身大ゆるナチュラル化して来た日本市場のモード回帰が経済の回復を予感させるとも思えない。来春夏コレクション傾向、当社の来秋冬予測とも柄物/色物が氾濫する元気いっぱいのスタイリング傾向でモードシフトも顕著だから、ファッションと経済の関係性は希薄になって来たのかも知れない。
 2012/12/12 09:52  この記事のURL  /  コメント(0)

百貨店SPA商法の損益分岐点
 三越伊勢丹のSPA戦略発動が話題になっているが、果たして成算はあるのだろうか。消化仕入れと買取仕入れ、SPA的開発調達の収益性を比較してみよう。
 都市百貨店の消化仕入れにおける納入掛け率はバブル崩壊以降の売上減少局面で急ピッチで切り下げられ、今日では大手アパレルの婦人服NBで60%台半ば(紳士服NBはもっと低い)まで低下した一方、買取の納入掛け率も今日では50%弱まで低下したと見られる。消化仕入れと買取仕入れの差は15ポイント程度しかなく、消化仕入れでアパレル側が負担しているマークダウンロス(最低でも15%以上)と販売人件費(最低でも12%以上)を差し引けば12ポイント以上高くつくから収益の目処が立たず、買取仕入れが広がる訳もなかった。
 この壁を超えるのが海外ブランドの直接買い付けで、かつては30%以下で仕入れて70%以上も利幅があったから余程、ロスを出さない限り収益性があった。しかし、有力ブランドの多くがジャパン社を設立して直販に移行したり代理店を定めて流通を管理するようになり、セレクトショップの直買い付け品と競合して利幅も取れなくなった今日では旨味がすっかり薄れてしまった。
 アパレルの企画した商品を買い取るだけでは収益性がないが、アパレルに別注したり独自企画を商品化させてロット買取すれば、納入掛け率は数ポイント下がって55%前後の利幅が確保出来る。それでも値下げロスと販売人件費を負担すると消化仕入れの方が格段に収益性が高く、これも試行錯誤に留まる事が多かった。
 その壁を超えんとするのが今回、三越伊勢丹が打ち出した工場と直取引するダイレクトSPA型の開発調達だが、これにも幾つかのハードルがある。工場直取引ではデザイナーやパターンナー、生産管理など開発スタッフの固定費(社内に抱えても外注しても)が重く、ロットが小さいとかなり割高についてしまう。ODM調達ならバイヤーだけで済むから固定費負担は軽いが、商品の完成度は百貨店商材のボーダーラインに届かないしオリジナリティも疑わしい。多少なりとも百貨店NBより割安な売価を設定するとして、店舗数が限られる百貨店のロットで開発固定費を負担すれば実質利幅は60%が上限と思われる。百貨店アパレルとは20ポイントも差があるから、よほど値引きロスを抑えないと利益は残らない。
 大手SPAでは二桁営業利益率を確保出来る歩留まり率の目安は75%(プロパー消化率50%)と見られるが、それば多店舗展開ロットを前提とした水準で、ロットが格段に小さく利幅が10ポイントも薄い百貨店の開発調達では歩留り率80%(プロパー消化率60%)以上を確保しないと利益は出ない。プライシング・テクもディストリビューション・ノウハウも再編集運用技術もない百貨店がロスを20%以下に抑えるのは至難の業で、業態化して自店外の商業施設にチェーン展開しない限り(それが突破口になる)採算の目処がつかないのではないか。
※歩留まり率とは、値引きロスや最終残品の廃棄ロスを差し引いた結果売上総額を初期設定売価総額で除した比率。
 2012/12/11 09:18  この記事のURL  /  コメント(0)

スマイルカーブを見直そう
 「スマイルカーブ」とは、川上(製品企画・開発)から川下(流通・販売)までの事業プロセスを横に並べた時、両端だけに利益が集中して中間の生産段階が薄利を強いられる構図を笑った時の口元に例えて言うもので、IT業界から始まって広く家電や自動車などの産業でも使われるようになった。ファッション業界でも川上から川下まで一貫するSPA事業分野では同様な見方が出来ると思う。
 かつては極端に両端が吊り上がったカーブが志向されたが、シャープがアップルなどの受託生産で巨大化したOEM企業の鴻海精密工業に出資を仰ぎ、インテルやシマノが寡占企業として高収益を謳歌する現状は、中間の素材/部品やファブリケーション段階の地位が向上してスマイルカーブが平準化しつつあるように見える。それに較べれば、我らファッション業界では「ファーストリテイリングと東レ/カイハラ」といった例外はあるものの、おしなべて素材やファブリケーション(縫製/編み立てなど)への利益配分は圧迫され、OEM/ODM業者の納入原価が年々切り詰められ、原価の開示まで要求する下請け虐めが横行している。
 彼等に付加価値の創造を期待しないならギリギリまでコストを切り詰めるのもやむを得ないが、大半のSPA事業者の場合、社内に多少の企画スタッフやデザイナーを抱えても、デザインやパターン、素材や生産仕様の開発、素資材や生産ラインのソーシングは多くを業者に依存しているのが実情で、付加価値の大半は業者が創造している。そんな実情下で原価の開示まで強いてコストを切り詰めれば業者の開発力が損なわれ、バリュー競争力は低下してしまう。サプライチェーンの何処が付加価値を創造しているか見極め、そこに開発投資余力(利潤)を与えないとサプライチェーン総体の競争力は損なわれてしまうのだ。
 SPA事業者は発想を切り替え、アップルと鴻海精密工業、ファーストリテイリングと東レ/カイハラ、身近な例ではトリニティアーツとナチュラルナインのように、対等のパートナーシップでバリュー創造力を発揮すべきではないか。スマイルカーブ戦略を転換してサプライチェーン総体のバリュー創造力を高め、中長期のブランディングと高収益体質の確立を目指すべきだと思う。
 2012/12/10 09:07  この記事のURL  /  コメント(0)

在庫コントロールに苦闘
 バーゲン時期の混乱に始まったシーズン在庫の将棋倒しで、未だ在庫コントロールに四苦八苦するアパレルやチェーン店が多い。11月以降の寒気で一息つけたと思うが、12月の高い予算を達成して1月のバーゲンで在庫を売り切るのは毎年、神経を磨り減らすプロセスだから、今年は一段とピリピリしているに違いない。この混乱を教訓に、業界は「在庫コントロール」という小売の原点的技術体系を再構築すべきではないか。
 在庫コントロールは消化仕入れや委託仕入れと買取では根本から異なるから、ここでは返品の効かない完全買取を前提としたい。在庫コントロールの基本体系は以下の五項だと思う。
1)月度の販売予算と値引きロスから逆算して設定する月末在庫の進行シナリオ
2)シーズンに先行する計画調達と期中調達の構成比変化シナリオ
3)初期売価設定と売価変更シナリオによる歩留まり率の着地想定
4)初期配分の精度と補給/店間移動の機動力
5)週サイクル単品単位の消化進行管理と在庫運用/売価変更/販促キャンペーン
 1)〜3)のシナリオ(計画)をベースに4)5)で状況対応して行くのが基本で、「シナリオの精度×状況対応力」が在庫コントロールを左右する事になる。状況対応の機動力も重要だが、基本シナリオで大勢を固めておかないと運用の手間とコスト、値引きロスはどんどん肥大してしまうから、まずは1)〜3)のシナリオ精度を高める事に注力すべきだ。
 売上/在庫の予算、計画調達と期中調達のバランス、売価と歩留まり率の設定は営業政策と調達政策の基幹を成すものだから、来期へ向けて根本的な議論を尽くしてシミュレーションを行い、新たなシナリオを構築して在庫消化体制を一新すべきではないか。来春に向け、「在庫コントロール」の体系的な再構築を提ずるセミナーを準備したい。

 2012/12/07 09:27  この記事のURL  /  コメント(0)

ガバナンスを問う
 近年の業界では、トップが現場の実情から乖離した無理な戦術に走ったり、寡占的地位を嵩に着て取引先に無理を強いたり、勤務体制を極端に変えて社員や取引先を混乱させたり、果ては不用意に顧客を恫喝したり、特定取引先と癒着して利益背反が疑われたりと、ガバナンスの混乱が指摘される。
 その主要因は、権力を握ったトップが周囲の享けを狙って不要なパフォーマンスを志向する事にあるのではないか。その有様は流通各社が挙ってユニクロのMDやVMDを真似した一時の風潮を想起させるから、新手の「ユニクロ症候群」なのだろう。ファーストリテイリングの柳井正氏は業界の常識を超える戦術を次々に打ち出して成功して来たが、それらは緻密な戦略展開の一翼であって「不用意なパフォーマンス」ではなかった。しかし、柳井氏に触発された業界のトップ達が度肝を抜くパフォーマンスを競う中、現場の実情を無視した奇策や社員や取引先を振り回す暴策に逸脱するケースも出て来たのであろう。
 トップは顧客と取引先、社員と株主など、様々なステークホルダーの利益を代表して企業を導くべく権力を委託された為政者であり、その地位はステークホルダーの総意に基づくものであって企業目的を超絶する専制君主ではない。にも拘らず、権力を不用意に行使して多くのステークホルダーを振り回し利益を損なうパフォーマンスに誘惑され、あまつさえ個人的な利益や好悪に走るトップさえいる現状が憂われる。
 今一度、トップは現場と取引先の実務を掌握してリアリティを取り戻し、不用意なパフォーマンスを戒めて実直な経営に努めるべきではないか。また、トップが逸脱したパフォーマンスに走るなら、組織(取締役会)はトップを諌めてステークホルダーの利益を守る義務を行使すべきではないか。企業のガバナンスと組織の浄化機能を問いたい。
 2012/12/06 10:17  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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