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保証金暴落がもたらした世代交代
 バブル崩壊以降、株も不動産も暴落していったが、何が一番暴落したかと言えば、デナント出店における差し入れ保証金に勝るものはない。その暴落率たるや、何と十分の一だったのだ。
 駅ビルを例にとって新規出店における平均契約坪当たり差し入れ保証金額の推移を見ると、80年代からバブル崩壊の92年まではほぼ400万円(600万円という例もあった)で推移していたが、バブル崩壊が波及した94年には200万円と半減。以降は97年までその水準を維持したが、98年〜00年は110〜150万円と再び低下し、01年は一気に55万円まで急落。以降はジリジリと低下し、直近の11年ではほぼ40万円まで低下している。まさに十分の一の大暴落だった(以上、当社主催SPAC研究会メンバー企業の90年〜2011年の出店条件アンケートより)。
 基準家賃(最低保証売上家賃)の倍率で見れば、ほぼ100ヶ月分だったのが10ヶ月分になった訳だ。「定期借家契約」施行と前後して通商産業省が行ったアンケート調査でも、既存テナント店舗の平均差し入れ保証金はほぼ40ヶ月(敷金を合わせれば60ヶ月)だったから、SPAC研究会メンバーの差し入れ保証金推移は業界の趨勢と大差ないと思われる。
 差し入れ保証金の低下要因は、最初はバブル崩壊、98年は金融危機とSC乱開発だったが、01年の急落は00年3月1日施行の「定期借家契約」(借地借家法38条2項)が直撃したものだ。
 それまでのテナント契約はテナント側に退店意志がない限り契約を継続出来る「普通借家契約」で、デベ側が退店を強要するには巨額の営業権保証が必要だった。が、新たに施行された「定期借家契約」では契約の期限が来ればテナント側の意志に関わらずデベは無償で退店を強要出来る。その差が保証金の暴落に繋がったのだ。最盛期からは十分の一だが、「定期借家契約」による暴落は3〜4分の一と見るべきだろう。
 「定期借家契約」の施行による差し入れ保証金の暴落と営業権の滅失により、それ以前の出店と以降の出店で極端な明暗が生じ、テナントチェーンの世代交代を加速する結果となった。高額な差し入れ保証金を寝かせて財務が悪化した旧世代のナショナルチェーンは商品開発に資本を回せずに抜本的なSPA化を果たせず、採算の厳しい高コスト店舗を抱えて経営が悪化する一方、低コストな出店で身軽に売上を稼ぐ新世代のカジュアルチェーンやセレクトSPAは商品開発に潤沢な資金を投入して成長を加速し、世代交代が急進する結果となったのだ。
 法律の改正や行政規制の変化による経営環境の一変は企業経営を大きく左右してしまう。都市計画法改正による商業施設開発規制強化への一変(09年以降、新設SCテナント数は四掛けに激減)、消費者庁によるソーシャルゲームのコンプガチャ規制(風営法による警察規制までエスカレートするかも)など、経営環境一変の好例と言えよう。ディケード単位の環境変化とは言え、経営者はポリティカルマーケティングを軽視してはなるまい。
 2012/07/20 09:14  この記事のURL  /  コメント(0)

本物のVMDに目覚めて欲しい
 最近の店頭は何処もマーケットインのQRでMDが崩れ、それをお化粧して誤摩化すようなディスプレイをVMDと称するのが業界の主流となった感がある。MDが崩れている以上、カラーストーリーも素材のコントラストも決まらず、ほとんど混ぜご飯のような陳列になっているのは醜いと言うしかないが、顧客の側も退化して気にしなくなったのかも知れない。
 「ユニクロ」や「ギャップ」は計画MDを棚割り陳列する数少ない正統派のVMDを見せているが、この夏の「ユニクロ」は主軸となる大型企画を欠いて小作りな企画の羅列に終止し、VMDもインパクトを欠いていた(ゆえに苦戦している)。カラー展開やサイズ展開の見せ方は心得ていても(洗練されているとは言えないが)、デザイン展開や柄展開の見せ方は未だ確立していないようだ。はっきり言わせてもらうが、「ユニクロ」のVMDは棚もの単品の単純なリピテーション量販訴求型で美術的洗練には遠く、ハンガー陳列のノウハウがまったく欠けており(ゆえに「+J」を表現出来なかった)、ベーシックな棚ものを量販するお店以外は参考にならないと思う。
 本当のVMDは提案するスタイリングやMD展開を建築的美術的かつ購買階梯誘導的に陳列して販売に繋げるもので、スタイリングやMD展開が曖昧だとVMDも崩れ、インパクトも洗練も買い易さも欠いたものになってしまう。VMDを追求するには、まずスタイリングやMD展開を明確にし、それを最適に表現する棚割りとカラー配列や陳列フォルムをデザインし、インパクトあるIPやLPを添えたり、カラーグループ別にルックを出前して売場のストーリーを組み上げる。「ZARA」のカラーグループ別ルック陳列、「MAXMARA」のサイズ回転ルック陳列など、スタイリングとMDを適確に表現して販売に繋げる巧妙な陳列と評価したい。
 服飾雑貨、とりわけ靴やバッグでは衣料品のような大型のMD展開は限られるが、カラーや素材をまとめてストーリーを組み、生け花的韻律を表現するのが定石だ。私が今まで見た中で最も洗練されていたのはマンハッタンのバーグドルフ・グッドマンとロンドンのセルフリッジだった。それに較べると、日本の百貨店の靴売場やバッグ売場はバーゲン会場のように見える。低価格帯でも(ユニクロより安いかも)、シンガポールの「エンフォシス」の靴の陳列は単純だが極めて洗練されている。
 このような建築的VMDや美術的VMDは、日本では外資系ブランドを除いて、ほとんど見る事が出来ない。業界がグローバルに通用する本物のVMDに目覚め、混迷を脱する事を祈るばかりだ。それにはまず、場当たりの継ぎ接ぎMDを脱し、MDに建築的計画性を取り戻すのが先決なのではないか。
 2012/07/18 09:25  この記事のURL  /  コメント(0)

台車が怖いよ〜!
 もう二ヶ月近く前の話だが、夕刻に帰宅しようとして会社の駐車場を出ようとした時、何かが運転席のドア付近に衝突した。運転席からは何も見えなかったし、物音ひとつ聞こえなかったが、ドアを開けて様子を見ようとしても何かが当たっていてドアが開かない。いったい何が起きたのかとウインドウガラスを下げて首を出してみると、なっ何と荷物運搬用の台車が衝突しているではないか。
 這々の体でドアを開けて状況を確認すると、某S急便の運ちゃんが使っている台車が会社の前の坂道をすべり落ちて衝突したのだと解った。誰がこんな坂道に台車を置いたのかのと怒っていると、いつも会社に出入りしているS急便のお兄さんが現れ、彼も状況を理解して頭をかきかき会社の事故係に連絡をとった。
 結局、S急便の負担で車は元通りに治ったが、その後もS急便はブレーキの付かない同じ台車で周囲を走り回っている。それを事故係の責任者に指摘した所、『ブレーキを付けても効かない事があり、付けると運転手が注意しなくなるのでブレーキ付きの台車は採用していない』との事。『それではまた事故が起きてしまうのでは』と突っ込むと、『当営業所だけでも台車事故は何件も起きており、ショーウインドウの破損や人身事故もあった』と言っていた。
 考えてみれば、何処の商店街でも商業施設でも、S急便に限らず配送業者の台車がお客さんの間を走り回っている。S急便に限らず台車事故は結構、多発しているのだろうが、欧米の商業施設ではお客様が通るモールを運送業者の台車が走るのを見た事がない。台車とお客様の接触事故を避けるべく、以下のような規制を行っているからだ。
 1)運送業者の出入りは館の荷受け口までとし、館内店舗への搬入を認めていない。
 2)店舗側スタッフによる店舗への搬入も営業時間外に限っている。
 3)店舗へ搬入するための裏通路を設けており、台車がお客様の通るモールを走る事は無い。
 訴訟社会の欧米ではトラブルを避けるため顧客導線と物流導線をはっきり区分する事が定着しており、ショッピングセンターの設計でも顧客導線(車/自転車/歩行者)と物流導線(トラック/台車)がクロスしないよう最新の注意が払われている。
 残念ながら、日本の商業施設では物流導線の設計が軽視される事が多く、顧客の間を台車が走り回ったり、物流トラックが顧客用出入り口を通るケースが多々見られる。ましてや、モールの裏側に物流用通路を通すケースなど見た事もない(新設の百貨店では後方物流通路が設けられている事が多い)。私の数少ない経験でも、ゾーニングやテナントミックスを相談される段階では建築設計は終わって工事が始まっている状況で、物流導線を指摘しても時既に遅しという事が多かった。
 何かと『お客様第一』と打ち上げる日本の小売業だが、お客様の安全を軽視しては『お客様第一』もないのではないか。顧客通路を台車が走っては事故は必ず起きる。商業施設で顧客通路を運送業者の台車が走るのを見る度、『お客様第一』は建前でしかないのだと痛感させられる。
 2012/07/17 09:16  この記事のURL  /  コメント(0)

AKB48に学んで実店舗の魅力を見直そう
 今朝の日経のコラム『新風・音楽産業』にはおやっ!と驚く動向が報告されていた。それは音楽ソフトのデジタル配信がメジャー化する中で音楽CDの店頭販売が急回復しているというものだ。
 日経の記事は『日本のCDシングル出荷額は02年から09年にかけてほぼ半分に落ち込んだが、10年は9%増、11年は16%増と回復が目立つ。直近の5年間に世界の音楽ソフト販売が半減したのとは対照的で、日本だけの現象のようだ。』と報告し、『反転の契機は「AKB48」の特典付きCDだった。』『「AKB48」に限らず、店でイベントを仕掛けてCDを売るという商法が広がり、それがCDの店頭販売回復をもたらしている。』と断じている。だとすれば、AKB現象は世界の潮流をひっくり返すスーパーガラパゴスな快挙だったという事になる。
 目を世界の音楽業界に拡げても、音楽ソフトのデジタル配信と違法コピーの氾濫でアーチスト達は収入が激減し、マドンナからレディ・ガガまで印税収入に頼らずフアンと直接触れ合うコンサートやイベントに収入を依存するよう戦略を転換しているではないか。そんな視点で見ると、秋元康さんはスティーブ・ジョブズに匹敵する偉大なマーケッターであり戦略家と評すべきであろう。
 我らファッション業界は近年、店頭の伸び悩みをウェブ販売の急成長で補って来たが、ウェブ販売の最大の効果は意外にO2Oによる顧客の実店舗誘導だったのかも知れない(ユニクロなど極めて顕著だ)。だとすれば、デザイナーやスタイリスト、ブロガーやカリスマ販売員をキーパースンに「AKB48」「レディ・ガガ」的触れ合いイベントを積極的に仕掛け、実店舗の魅力をあらためて訴求してもよいのではないか。急成長して来たウェブ販売に頭打ちの兆候が広がる中、実店舗の魅力を再認識する好機と思われる。
 2012/07/13 09:06  この記事のURL  /  コメント(0)

いまさら「Old Navy」ですか?
 今日、ダイバーシティ東京にギャップの低価格ファミリーカジュアル大型業態「Old Navy」日本一号店が開店した。930平米と米国での展開(平均1655平米)と較べるとコンパクトだが、内装やVMDは米国と大差ない。価格はTシャツが500円、ジーンズが2990円と、米国の二倍近い法外価格で値引き販売が常套化している「Gap」の3〜4掛けだが、「ジーユー」より高い割りに品質はチープで、日本で何処まで受け入れられるか疑問符が付く。
 「Old Navy」は93年に実験的に開発した「Gap Warehouse」(アウトレットストア)を94年に低価格ファミリーカジュアル大型SPA業態にリコンセプトしたのが起点で、90年代から00年代にかけて急成長して『20世紀最大のパワーコンセプト』とまで言われた。私も「Gap Warehouse」の段階から何度も視察しているが、90年代にはマイノリティ市場を捉えて急成長したものの00年代に入ると新機軸を打ち出せなくなり、近年はかつての勢いを失っていた。
 06年1月期に68.6億ドルに達したのが頂点で、店舗数も09年1月期末の1067店をピークに減少に転じ、直近の12年1月期では56.7億ドル/1016店まで減少。ギャップ社全売上に占める比率もピークの06〜07年は42.8%に達していたが、直近では39.0%まで低下している。米国市場では目新しさのないマイノリティ感覚のチープなファミリーアメカジというイメージが強く、ピークを過ぎたブランドと言わざるを得ない。
 そんな落ち目の「Old Navy」を今更、日本市場に投入するというギャップ社の日本市場認識はかなり疑わしいが、チープなファストファッションのブームや「ジーユー」の急成長を見てイケると判断したのだろう。95年に日本に進出して直近では推定年商850億円と国内14位に位置するギャップ社は外資SPAの中では突出しているが、米国の二倍近い「Gap」の価格設定や「Banana Republic」の中途半端なローカル化など、日本市場に対する認識には首を傾げる事が多い。どんどん貧乏になる日本だが、着こなしと品質に対するこだわりはまだ失われてはいない。少なくとも、そう信じたいものだ。
 2012/07/12 10:30  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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