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業界の変遷と職種の盛衰
 業界の体質は時代とともに大きく変遷し、職種人気も様々に移ろって来た。70年代までの発展期では糸から製品までの垂直分業体制が国内で完結しており、アパレル企業の開発組織もデザイナー、パターンナー、生産管理のチームをマーチャンダイザーを兼ねたブランド長や経営者が統率するという古典的なチームワークが一般的だった。特殊な技術を持ったパターンナーは外注される事もあったが、他の開発業務はほとんど組織内で完結していたのだ。
 国内産地の開発力と市場の活力がピークにさしかかった80年代初期、DCブームが巻き起こり、行政が後押しした「東京クリエイション」の掛け声とともにデザイナーが突出して職業ギルドまで結成され、古典的なチームワークは混乱に陥った。クリエイション至上の旋風が吹き荒れ、リテイリングやマーケティングはクリエイションに従属すべきという風潮がまかり通った。そんな中で一部のDCアパレルがクリエイション信仰に押し流される事なく冷静な経営戦略を見極め、直営店を拡大してリテイリング組織を確立しSPAへと発展する礎を築いたのは賢明であった。
 90年代以降、生産が中国などの海外へ移転して国内の垂直分業体制が崩れて行く中、アパレル企業は商社などに生産管理や物流を委託するようになり(本来のOEM)、マーチャンダイザーが主導権を取ってデザイナーは従属するようになる。00年代に入って国内の生産チェーンが途切れ始めると生産の海外移転は一段と加速し、企画・開発業務までもアウトソーシングされるようになる(ODM)。それとともにアパレル企業は開発組織を圧縮し、生産管理はおろかパターンナーやデザイナーまで外へ出すという開発の空洞化が加速。パターンナーやデザイナーはOEM/ODM業者に職を求めるようになり、待遇も劣化して行った。
 OEM/ODMの一般化と若者の感性退化を背景に「誰でもSPA時代」が到来して開発よりもリテイリングやマーケティングが重視されるようになり、マーチャンダイザーに権限が集中してQRが蔓延し、店頭のブランディングを担うビジュアルマーチャンダイザーや配分・移動の精度を担うディストリビューターが注目されるようになった。その頂点を極めたのがファストファッションだったのではないか。
 そんな時代が続くかと思われたのも束の間、中国の経済成長による産地から消費地への変貌によってアパレル生産はコスト急騰とキャパ逼迫に直面し、業界はOEM/ODM依存のもたらすデフレを断ち切るべく開発業務の内製化(垂直統合志向)へと舵を切り始めている。OEM/ODM業者にしか職が無いという状況が一気に解消される訳ではないが、パターンナーやデザイナーが再評価されブランドの開発組織に帰り始めたのは間違いない。「誰でもSPA時代」の終焉とともに過度なリテイリング重視が是正され、マーチャンダイザーを筆頭に開発側のデザイナー/パターンナー/生産管理、リテイリング側のビジュアルマーチャンダイザーやディストリビューターがバランスの取れたチームワークを確立する事が期待される。
 80年代の過度なクリエイション信仰、00年代の過度なリテイリング依存という蛇行を経て、アパレル企業の組織は新たなチームワークへ到達するのだろうか。国内の生産チェーンが寸断され果てた今日、70年代までの古典的なチームワークの再現を期待するのは無理があるが、中価格帯以上のファクトリーダイレクトSPAなら理想に近い姿が期待出来るかも知れない。大ロット低価格なSPAには生産の南アジアシフトという選択も在るだろうが、開発側とリテイリング側のバランスの取れたチームワークを志向するなら、中小ロットのブランドは韓台回帰、中価格以上のブランドは国内回帰が現実的と思われる。
 それにしても、業界がクリエイション信仰からリテイリング主導へと大きく変遷した20年間も、専門学校教育は80年代のクリエイション至上主義から一歩も進化しなかった。相変わらずリテイリングやマーケティングは軽視され、クリエイション至上の教育が続けられたのだ。デザイナー神話に憧れる生徒達を獲得するにはやむを得なかったのだろうが、卒業後の生徒達は業界の現実とのギャップに苦しむ事になったと推察される。
 慶応義塾という四年制私大を出たに過ぎない私にはクリエイションもマーケティングもマーチャンダイジングも同等の価値を持つ分野に思えるし、創始者たる福沢諭吉先生の『天は人の上に人を創らず』という言葉も染み付いている。今時、士農工商でもあるまい。グローバル時代の今日においてさえクリエイションが至上であるかのごとき教育を続ける服飾専門学校に、業界人生40年の怨恨を込めて抗議したい。貴方達の間違った教育が若者の人生も業界の発展も妨げていると!
 2010/12/27 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)

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小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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