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「誰でもSPA時代」が終わる
 これまでは誰もがODM業者やOEM業者を使って手軽にオリジナルの衣料品を作れたものだが、この夏を境に事情は一変した感が在る。低価格衣料品の生産を一手に引き受けて来た中国の労働需給逼迫による賃金高騰と内需拡大による素材と生産キャパの逼迫で、納期が短く品質にうるさい割りにロットが小さく利幅も薄い日本向け生産はコスト急騰と納期遅れ、素材の入手難が際立って来たからだ。中国の衣料品生産は成長が著しく日本向けより価格が通る内需を優先し、メリットの薄い日本向け生産は急速に細って行くと覚悟すべきであろう。もはや中国は都合の良い低コスト生産地ではなくなったのだ。
 低コスト調達を維持するにはベトナムやバングラデシュなどの南アジアに生産を移行するしかないが、生産ロットは桁違いに大きく納期も長いし品質もまだ安定していない。なにより日本向けに適する高品質素材の生産背景が育っていないから、品質を落として現地素材を使うか高騰する中国素材を使うか難しい選択を迫られる。ユニクロのような納期の長い大ロット生産ベーシックSPAなら南アジアシフトも可能だが、ODM業者を使って短納期で市場対応して来たカジュアルチェーンなどシフトは不可能だ。そうかと言って、ロットが小さく短納期が可能な国内生産へ回帰しようとしてもコストは跳ね上がるし、何より生産チェーンが途切れて開発力を失った国内テキスタイル業界はもはや素材を供給する事が困難になっている。高級なニットや毛織物、デニムを除けば、国内生産でも素材は中国から輸入せざるを得ない。ジャージや綿織物は中国から輸入するしかないところまで来ているのだ。
 そんな事情を知ってか知らずか、これまでODM業者やOEM業者に依存して来たカジュアルチェーンやカジュアルブランドの多くは業者がなんとかしてくれるとまだ錯覚している。多少はコストが上がって納期も長くなるぐらいに高を括っているのかも知れないが、その錯覚が重大な事態を招くのも時間の問題だ。春節が明けた来春夏物の供給は劇的に減少し、納期は月単位で遅れるに違いない。それは生産キャパ以前に素材の確保が困難になるからだ。綿糸が高騰し内需が逼迫する中国素材の調達は業者任せで価格交渉しては時間切れになってしまう。ましてや、これまでのように8週とか10週のリードタイムで製品が調達出来ると思ったら大間違いで、ODM業者やOEM業者は素材リスクを負えなくなっている。恐らく来春夏物は商品不足の大パニックになるだろう。コスト上昇に品不足も加わり、衣料品価格は20年ぶりというインフレに転ずるに違いない。
 中国産地の一変を予見し、ODM/OEM商品の氾濫が招く止め処ない値崩れに見切りをつけた聡明な経営者達は今、果敢に垂直統合生産への大転換を押し進めつつある。苦難を乗り越えてその転換を果たした一握りの勝者の一方、ODM/OEM依存を脱却出来ない大多数の企業は値崩れに品不足と納期遅れが加わって壊滅的な打撃を受けるに違いない。それは素材調達を業者に依存した表面だけの垂直統合も大差ないだろう。こうして20年近く続いた「誰でもSPA時代」は終わるのだ。
 
 2010/11/25 09:02  この記事のURL  /  コメント(1)

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コメント

岡山のSPAアパレルで働いているんですが、11月に岡山マラソンのスポンサーをすることになりました。グッズを作るにあたり、サプライヤーには無理を言って作らせるのはあたりまえですが、社員もマラソンに強制参加でしかも自費で岡山に来いです。本の時は会社が払ってamazonの点数稼いで誰かに批判されて、今だにやっていることがブラックだということをわからない経営者は、東証の鐘を来年響かせることができるのでしょうか?
Posted by:フェデラー  at 2015年08月10日(月) 00:47


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プロフィール
小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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