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オムニチャネルへの三段階の関門
 ECの脅威に対抗すべく小売業が打ち上げたオムニチャネル戦略も心地の良い‘お伽噺’の段階はとっくに過ぎ、力技で顧客利便を競う白兵戦の段階にはいっているが、ECを際限なく拡大すればよいというものでもない。そこには各段階で幾つもの‘罠’が潜んでいるからだ。
 最初の関門はEC比率5%前後、つぎの関門は10%前後、そして胸突き八丁の分かれ目は20%前後にありそうだ。
 オムニチャネル戦略の最初の要は「顧客の受取利便」で、ECが当たり前になって欧米並みに‘返品自由’がジョーシキになれば「お試し利便」が加わるが、それにはEC専業者には適わぬ「店出荷」「店受け取り」が武器になる。EC比率が5%程度までは店舗運営の片手間でも対応出来るが、それを超えてしまえば店舗運営を妨げてしまうから専用の出荷作業所と出荷要員、売れ筋については別途の在庫も必要になる。イトーヨーカ堂がネットスーパーの利用拡大に伴って店舗の陳列棚からのピッキングが煩雑になり、EC専用にピッキングする‘ダークストア’を設置したのはその好例で、EC比率が15%を超えても体制を取り切れなかったメイシーズが行き詰まったのも必然だった。
 次の関門は10%前後にあり、店舗用在庫とEC用在庫のデータ一元化から物理的な一元化(DCの統一)へと進めば、売れ足の速いECへ在庫が流れて下位の店舗に売れ筋が回らなくなり、販売不振が加速して閉店が広がり始める。これを放置したままECを拡大すれば店舗網を毀損し、オムニチャネルな利便を提供する拠点が縮小して行く。AI仕掛けの傾斜配分に歯止めをかけて下位の店舗にも最低限、売れ筋を供給する下駄を履かせないと店舗網の萎縮が止まらなくなる。
 最後の関門は20%前後にあり、これを超えてECを拡大すればカニバリが深刻化して採算割れする店舗が急増し、ECと店舗販売をトータルした売上もやがて減少に転ずる。米国のデパート業界やSPA業界で現実になり、我が国でも幾つか実例が見られ始めているが、そのリスクを認識している経営者は限られるようで、『EC比率を30%、40%に拡大する!』といった勇ましい声も未だ聞かれる。
 この臨界点を超えるなら店舗をショールーム化していく決断が必要で、店舗への商品供給を絞ってテザリングとECを組み合わせ、店舗を「受取」と「お試し」の拠点に切り替えて行く事になる。そんな決意もないままECを増やすがままにすれば、店舗の品揃えと売上が萎縮して下位の店舗から閉店が広がり、オムニチャネル利便の拠点たる店舗網を毀損してEC専業者への優位を失ってしまう。EC拡大とオムニチャネル化には三段階の関門がある事を努々、忘れるべきではあるまい。

◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら
 2017/06/29 09:07  この記事のURL  /  コメント(0)

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小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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