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きもの業界の衰退に何を学ぶか 
 欧米のクリエーターがノームコアだジャポネスクだとデザイン至上からユーティリティ重視へシフトする中、きもののスタイリングと流通に興味を持つようになったが、調べれば調べるほどきものの魅力に取り憑かれる一方、その狂気の流通と業界自爆の経緯を知るに連れ、我らアパレル業界にとっても対岸の火事とは言い切れないものを感じるようになった。
 業界データに拠れば、きもの市場は81年の1兆7700億円をピークにつるべ落としに縮小し(家計調査でも82年がピーク)、近年はほぼ6分の1の3000億円前後で推移しているが、きもの市場は何故つるべ落としに縮小して行ったのかを考察すれば、けっして対岸の火事でなかった事が解る。
 72年頃まではきものはまだ一般の日常生活に根付いていたが、洋装が拡大して需要数量が減少するにつれ、業界は作家(テキスタイルデザイナー)軸の高付加価値戦略を加速し、晴れの場の高価なフォーマルウェアという性格が極まって行った。そんな高付加価値きもの市場を支えて来た着道楽ファンを取り込んだのが80年代前半のDCブランドブームで、80年代後半にはインポートブランドに流れ、90年代以降はラグジュアリーブランドに流れて行ったと推察される。91年以降のきもの市場の縮小分の大半はラグジュアリー市場に流れたのではないか。
 顧客が急減する中、きもの業界は一人の顧客に過大な購入を迫る強引な商法に流れ、払い切れないほどの長期ローンを組ませる「過量販売」や根負けして買うまで帰さない「監禁商法」、美男販売員が迫る「ホスト商法」や「デート商法」、無理なローンを虚偽申告で通す「不正信販」、果ては売る側さえもノルマ未達で「自爆買い」に至るなど無法の限りを尽くし、女性客が怖くてきもの店に近寄れないという所まで行き着いた。それを象徴するのが2006年8月31日の大手きものチェーンたけうちグループの破産申請で、500店舗500億円の企業が一瞬で消滅し、きもの業界は壊滅的な打撃を受けた。前後してマスメディアに大量に流れたきもの販売の怖い話は消費者のきもの離れを一段と加速し、05年からの5年間できもの市場は3000億円強へと半減してしまった。
 さすがに今日では怖いきもの販売は影を潜めたと思っていたが、今もネットには被害者の怨嗟の声が渦巻いているのには驚く(www.somesho.com/ankeito/ikari.cgiなど)。そんなきもの店恐怖症がもたらしたのか、今やリサイクルきものは市場の1割に、メーカー直販やECは18%近くに達しているという(矢野経済研究所)。
 われらアパレル業界ではさすがに怖い販売の噂は聞かないが、80年代半ばを過ぎてDCブランドブームが陰り始めた時、業界はデザイナー軸で高付加価値戦略を志向するクリエイション派と効率的な直販流通を志向するSPA派に別れ、私はSPAC研究会を立ち上げて後者を支援したが、行政とデザイナーブランド業界はクリエイション戦略を強行して急激な市場の縮小を招いた。歴史の結末はSPAが主役となって巨大なバリュー市場を形成するに至った一方、クリエイション信仰を脱してグローバル直営店展開に動いた欧米高級ブランドも相応に巨大なラグジュアリーSPA市場を築くに至ったが、80年代に栄華を極めた欧米のクリエイション派メゾンは今や見る影も無い。
 低価格なバリューSPAが席巻する今日のアパレル市場は感性の退化を否めないが、きもの業界のように高付加価値化一辺倒に流れていたら、アパレル市場も6分の1になったきもの市場ほどではないにしてもピークの3分の2では済まず、もっと酷い縮小に直面したに違いない。対岸の火事ではないと肝に銘ずる所以はそこに在る。
 高付加価値を志向するならグローバルなラグジュアリーSPAビジネスを志向すべきで、きものデザイナーもジャポニスムの波に乗ってマーケットを世界に広げて欲しいし、国内では若い人たちにもファンが増える中、お手頃に日常のきものライフを楽しめる(錦紗・友禅ではなく銘仙・江戸小紋)ファクトリーダイレクトなバリューSPAが待たれる。
 2014/10/20 11:49  この記事のURL  /  コメント(0)

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小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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