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H&Mの果たした三つ?の革命
 H&Mが上陸(08年9月)して5年が過ぎ、玄人には大味なスタイリングやミニマルな品質が訝られても幅広い客層に受け入れられ、日本のマーケットとビジネスは一変してしまった。グローバルなロットでトレンド商品の価格を破壊してデフレを加速し、手厚い開発陣容(自社開発外注生産でODMではない)による2Wサイクルの多頻度企画投入で店頭展開のスピードを一変させる一方、ロットと開発陣容が桁違いに劣るローカルブランドはODM依存の52週単品継ぎ接ぎMDに流れて同質化と値崩れで疲弊して行った。
 H&Mはいったい何を変革したのか、その本質は何か、5年間を総括すれば三つ?の革命が見えて来る。
 第一はモードの階級性を否定してモードの民主化を果たした事だ。ユニクロはコモディティ(生活必需品)としてのカジュアルを民主化したが、H&Mは本来、階級的なモードを民主化したのだからインパクトはさらに大きい。その背景は北欧の社会民主主義思想に求められる。
 貴族文明を産業革命以降のブルジョワジーが継承した西欧の階級文明と戦前から社会民主主義の実験を積み重ねて来たスウェーデンの非階級文明は本質的に対極的なものだ。スウェーデンドラマに見るモードの民主性(社会的地位が必ずしも服装に反映されない)にはしばしば驚かされるが、それは住宅やインテリアでも大同小異のようだ。IKEAもH&Mも同じ社会民主主義文明から生まれたものなのだろう。25%という付加価値税(食品や交通費は12%、書籍や新聞は6%)と極端に累進的な所得税/相続税で『貧富差が一代で解消される』とまで言われた高負担・高福祉のスウェーデンも富裕層の国外脱出に歯止めをかけざるを得ず(IKEAの創業家はスイスに、持ち株会社はオランダに、その株式を支配する財団はルクセンブルグにというのは有名な話)、04年に相続税と贈与税を廃止し07年には富裕税も廃止して少しは変ったのかも知れないが、社会民主主義の文明思想は脈々と引き継がれている。
 第二はモードとビジネスのスピードをシーズンから週に一変させた事だ。欧米ブランドのコレクションはAWとSSに近年はプレ・フォールとクルーズが拡大して4シーズンが定着し、多くのコンセプチュアルなSPAは6シーズン+期中補正/スポット投入がスタンダードとなっているが、H&Mは2Wサイクルのコンパクトなコレクションを端境期まで展開して顧客を飽きさせない。と言ってもODM依存の単品継ぎ接ぎMDに流れている訳ではなく、ミニコレクションと言えどもスタイリング/素材/カラーの設計から外注生産の管理まで自社で行い、スウェーデンの労務常識に鑑みれば複数の社内開発チームが織田鉄砲隊方式で商品開発を担っていると推察される。
 開発陣容もロットも伴わないローカルブランドがH&Mのスピードを表面的に真似ればOEM/ODMに流れてバリューが伴わずMDも継ぎ接ぎになり、在庫運用を担うディストリビューターや売場編集陳列を担うVMDスタッフも疲弊してしまう。52週MDは本来、計画的なコレクション展開を進行補正する補充企画や在庫運用、プライシング・プロモーションであり、コレクションの完成度とバリューを損なってはくたびれ儲けに終わりかねない。
 本家本元のH&M社にしてもスピードMDの成果は年間3.72回転とファストとは到底言えず(日本ではもう少しましだと思うが)、61.1%という高粗利益率が収益を生み出しているのが現実だ(13年3〜5月四半期)。H&Mの稼ぎはMDのスピードよりミニコレクションの開発力と膨大なロットがもたらす調達コストの低さが担っているのではないか。
 第三は立地の革命だが、これはH&Mジャパンへの警鐘と受け取ってもらいたい。H&Mの集客力は評価するが(当社の商業施設企画には駅ビル以外、ほとんど入れている)、売れないSCでも売れると考えるのは過信だと思う。商圏/立地/器のポテンシャルと競合を科学的統計的に検証して推計される商業施設の売上をH&Mひとりの集客力で劇的に押し上げられるとすれば、これは科学でなくマジックになってしまう。H&M処女商圏ではモールの衣料服飾売上を最大5%程度押し上げる効果が得られるかも知れないが、平均月坪10万円の商業施設が12万円になったりはしない(目玉外資SPAが勢揃いすれば可能)。H&Mジャパンにとっても消化回転の足を引っ張る店を増やしてしまう事になる。出店判断にあたってはマジックより科学を重視すべきであろう。
 2013/09/20 09:13  この記事のURL  /  コメント(0)

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小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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