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ノードストローム・ウェイ
 ちょっと確認したい事があって「ノードストローム・ウェイ」(2001年刊の新版)を久しぶりに読み返してみた。ノードストロムと言えばリッツ・カールトンホテルと並んで接客神話で高名な百貨店(正確にはセレクトショップ複合専門大店)だが、新版では絶頂期の80年代から一転しての90年代の不況期(バブルとその崩壊は日本と同じでした)における同社の苦闘や労組オルグとの戦いにも多くの紙面を割いており、旧版よりリアリティがある。
 販売員にリッツ・カールトンホテル並みの裁量権があるノードストロムでは必然的に時間給+インセンティブの給与体系になっており、よほどポジティブな性格でないと挫折してしまうし、勤務時間外や店外での自主的なサービスや営業活動が不可欠だ。それに時間給が支払われていないなど、労組オルグやマスコミに叩かれて同社が延々と苦闘し、少なからぬ対価を支払って企業文化を守り抜いたという話にはなるほどと思わされる。ノードストロムの接客神話に安易に追従する企業も少なくないが、給与体系の整備や脱落する販売員のサポート、サービス水準の平準化など、相応の体制を整えて企業文化の域まで高めないと定着は難しいだろう。ちなみに、接客神話で高名な企業ほど接客水準の個人格差が激しく、私がかつてNYやワシントンDCで定宿にしていたリッツ・カールトンホテルでは失望させられる事も多かった。
 私は80〜90年代、毎年のようにノードストロムの新店をリサーチして、その部門構成・配置と各部門のMD編成を棚卸ししたものだが(膨大な品揃え編成表とスライドが残っている)、調べれば調べるほどノードストロムは百貨店ではなくセレクトショップ(発祥は靴のセレクトショップだった)だという思いを強くした。‘高級百貨店’と言われるが、シャネルやアルマーニ、ダナカランなどラグジュアリーブランドをラック編集する「コレクター」(大型店ではブティック展開されるケースも稀にあるが、すべて買い取り)から低所得なワーキングガールに向けた単品構成の「ポイント・オブ・ビュー」まで様々なセレクト売場を揃え、カフェやスパまで加えて実に巾広い顧客をカバーしている(私の旧著「見えるマーチャンダイジング」に詳しい)。出店する商圏の規模と客層に応じて各セレクト売場の規模と組み合わせを替え、1万2000平米級から2万5000平米級までを主力に117のフルライン店を展開している(12年1月末、他にオフプライスの「ラック」108店などがある)。また、セントラルバイイングに偏りがちな米国デパートメントストアの中、セントラルバイイングに地域バイヤーと店舗販売員の発注権を組み合わせて個店対応に努めているが、バイイングコストとロスに挟まれて試行錯誤を続けている事も知って欲しい。
 ノードストロムの神話は信念を持った同族経営陣の何世代にも渡る試行錯誤が築き上げた‘傷だらけの栄光’であって、今日もなお様々なリスクと困難を抱えて苦闘している。神話とは「揺るぎなきプリンシプルを傷だらけになって守り抜く継続的意志によって現場から積み上げられるもの」であり、MBAが机上で描くビジネスモデルとは対極に立つものだ。「ノードストローム・ウェイ」はそんな真実をリアルに教えてくれる業界人必読の良書だと思う。
 2012/09/24 09:21  この記事のURL  /  コメント(0)

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小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。
2016年 経済産業省アパレル・サプライチェーン研究会委員。

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