享楽的消費回復のシナリオ
 三月の都内百貨店売上は前々年比で若干の未達、婦人服は98、紳士服は103ぐらいが実勢だったと推計されるが、四月はもう少し上向いているようだ。加えて3.11以降、客数はともかく客単価は安定した伸びを継続しており、年率5%強というインフレは衣料消費の20年振りの底打ちを明示している。
 振り返ってみれば3.11以降、ランジェリーショップの活況や紳士服の回復など説明のし難い消費の盛り上がりが断片的に見られたが、此処へ来てそれらの点がつながって面の広がりになろうとしている。経済は底這い状態で一段の空洞化と衰退が避けられないというのに、消費は何故、回復基調を強めているのだろうか。私は日本の経済と消費の関係が米国型に変質しつつあると予感している。
 米国は経済が衰退して行く中も三つ子の赤字を垂れ流して借金を重ね、消費だけは勢いを保って来た。すなわち、貿易赤字、財政赤字、家計赤字の三つ子、近年はこれに所得収支の赤字が加わって経常収支まで赤字転落して四つ子の赤字となり、巨大なギリシャと化している。日本は米国に較べるとまだ健全なバランスを保って来たが、2011年度は震災もあって31年振りの貿易赤字に転落し、震災以降の空洞化加速や原発停止による燃料輸入増大を考えると12年度以降も貿易赤字が定着する公算が高い。財政は既に大幅赤字であるから、これで家計赤字が揃うと米国型の三つ子の赤字構造に陥る。
 米国では家計がほとんど所得以上に消費し続けて経済のバランスを保って来たが、日本では年金などの将来不安から貯蓄性向が高止まりして消費が抑制され経済が停滞して来た。しかし、客観的に見れば社会保障の手薄な米国はもっと将来不安が大きく、裏付けの無い楽観が消費を拡大して来たと言うしかない。日本人がそんな楽観的な消費に走る事はないと思われて来たが、震災後の一部の突出した消費を見るにつけ、31年振りの貿易赤字転落という現実を見るにつけ、想像を超えたターニングポイントが来ているという予感がする。
 将来不安の果てに大震災に直面して人生観が一変し、家計収支がほとんど赤字になっても日々の消費を楽しみたいという人々が増えているとしたら、もしかして米国型の三つ子の赤字(当分は双子の赤字)を垂れ流しての消費拡大という享楽的なシナリオが見えて来るのかも。米国に較べればまだまだゆとりのある日本ですから、仕掛け方によってはすごい消費が盛り上がるのかも知れませんネ。
 2012/04/23 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)


無理は承知の夏バーゲン後倒し運動
 2月は寒さで春物が売れず、3月は寒さが和らいだ後半に春物が売れたものの在庫の多くは4月に持ち越され、4月に入ってようやく実需が盛り上がって春物消化が進み初夏物も動き出し、GWへ向けて盛夏物や晩夏物の提案も始まったが、春の寒冷な気候に災いされ総じて例年より2〜3週間、季節展開が後ズレしている。この先はGWで初夏物実需が盛り上がり、春物残品も処理され、いよいよ夏物の季節となるわけだが、例年、GW明けから夏バーゲンまでの期間は短くプロパーの山がない。ゆえにGW明けは夏物新規投入が細り、6月に入るとバーゲンを待てずGWで売れ残った初夏物と夏物をシークレットセールやプレセールで処理するお店が増えて来る。今年は春物実需がずれ込んだ分、初夏物の実需期が短くなり、押されて夏物のプロパー販売期間がさらに短くなるから、GW明けに敢えて夏物を投入するお店は極めて限られそうだ。そんな状況なのに、敢えてGW明けに夏物を投入しようと言う動きが一部の大手アパレルに見られる。
 それは三越伊勢丹が提案して業界に広めようとしている夏バーゲン後倒し運動に拠るもののようだ。毎年、夏物はプロパー販売期間が短いため品揃えが広がらず、夏バーゲンが前倒される傾向が強いが、この傾向に業界ぐるみで歯止めを掛けようというのが三越伊勢丹の提案で、ルミネなども賛同していると聞く。その計画に拠ると今年の夏バーゲンは7月13日スタートになるという。百貨店側はその間の売場を埋める夏物プロパー企画を各大手メーカーに要請しており、一部の大手アパレルが開発に動いているのだ。
 しかし、夏物のプロパー販売期間が短いのは春/初夏在庫消化の流れによる必然であり、今年はさらに短くなる事が避けられない。その分、シークレットセールやプレセールなどのバーゲン実質前倒しが一段と広がる事になる。そんな中で夏バーゲンを後倒して夏物プロパー販売期間を伸ばそうとするのは無理がありすぎる。世界のファッション都市は何処も6月最後の週末から夏バーゲンに入る(パリ市はそれを政令で定めている)が、それが北半球文明都市の季節進行と季節在庫消化の流れに合致しているからであろう。
 夏バーゲンが早い分、欧州では夏はバカンスをとって売場は開店休業を決め込んだり、プレフォール企画を展開したり、米国ではバックトゥスクール企画を展開しており、夏バーゲンを後倒す話はまったく聞かない。それは季節展開の必然に棹さす無理難題だからだ。
 私は、無理に夏バーゲンを後倒すより、自然な時期に夏バーゲンを行って在庫を消化し、その後にプレフォールや晩夏物の展開を盛り上げるべきだと考える。バーゲン明けの7月後半から秋物が本格的に立ち上がるお盆明けまでの間、夏のライフスタイル提案や実需対応を図る方が無理に夏バーゲンを後倒すより遥かに現実的だ。三越伊勢丹を初めとする業界の指導層に再考を促したい。
 2012/04/20 09:54  この記事のURL  /  コメント(0)


お台場の無国籍空間
 昨日は朝からダイバーシティ東京のプレス内覧会に行って来ました。ここは商業施設と言うより無国籍な遊園地。いきなり巨大ガンダムに迎えられ(7Fにはガンダムフロント東京が常設)、ボウリング、カラオケ、エンターテイメントはもちろん、トーキョーお土産物街まである。周辺居住者ではなく外国人観光客や地方からの観光客を主体とする無国籍エンターテイメント施設ゆえ、テナント構成にも常識を逸脱した面白さやいい加減さがあって、同床異夢な期待が行き違うサテライト空間のような目眩がする。
 ファッションテナントの目玉は東急プラザ表参道原宿とほぼ同時に開業する日本初上陸の「アメリカンイーグル」、夏以降に遅れるがギャップ社の低価格ファミリーカジュアル大型ストア「オールドネイビー」。あとはクロスカンパニーのファミリーカジュアル新業態「セブンデイズ・サンディ」やバロックジャパンがタレントの木下優樹奈プロデュースで開発した「アヴァンリリイ」の一号店ぐらい。グローバルSPA勢が勢揃いする一方、何故かマルキュー系や駅ビルOL系のブランドもチラホラ並び、クリエイター発掘を謳う「東京トレンドプロデュースゾーン」の職人芸、冗談丸出しのお土産物街など、噛み合いようのないテナント構成が無国籍感覚な目眩をもたらしている。
 生活圏に立脚して地域の消費に対応する一般の商業施設はともかく、観光客主体となるとテナント構成の常識はまったく通用しない。非常識な試みやいい加減な冗談も加わって熱気ある無国籍空間が出来て行くメカニズムは想像もつかないが、ダイバーシティ東京は無国籍エンターテイメント施設としてイケそうな予感がする。東京かシンガポールか錯覚してしまうような無国籍空間がお台場に出来るなんて、東京スカイツリーのソラマチと相まって東京が再び面白くなりそうだ。

 2012/04/18 09:12  この記事のURL  /  コメント(0)


等身大価格に好感のアメリカンイーグル
 東急プラザ表参道原宿のプレス内覧会で「アメリカンイーグル・アウトフィッフーズ」の日本展開モデルを実見したが、米国同様のVMD展開に加えて米国と大差ない等身大な価格設定に好意が持てた。元より米国ではお金のない学生さん相手に手頃なキャンパスカジュアルを900店余り展開するカジュアルチェーンで(他にエアリが158店、77キッズが21店)、上目線なブランディングは向かないと思うから、賢明な判断だと思う。
 米国のカジュアルチェーンでは、本来は大衆的な「GAP」が米国価格の倍近い価格設定が災いしてか今ひとつ伸び悩み、低価格な「GAPゼネレーション」を日本独自に開発して投入していたが、この夏には米国で千店以上も展開している低所得ファミリー向け大型カジュアルストア「オールドネイビー」を投入する。割高な価格設定ゆえの伸び悩みを誤解して低価格業態を投入する勘違いに悲しくなる。「GAP」の価格を米国価格の1.4倍くらいに設定し直せばお手頃感が出て人気が盛り返し、低価格業態など投入しなくても業績を伸ばせるだろうに。ギャップ社の日本戦略には首を傾げるしかない。
 もっと派手に空振ったのが、「アバークロンビー&フィッチ」であろう。米国価格の倍という法外な価格設定でプチ・ラグジュアリーカジュアルを狙い、半裸で踊る若者と鼻に突く香水の異様さで腰が引けた人々も多かったのでは。米国ではかっこいいWASP御用達のクールなキャンパスカジュアルとして大成功したブランドだが、プチ・ラグジュアリーとは勘違いも限界を超えている。これも価格戦略失策の好例と言えよう。
 上目線の日本市場戦略で伸び悩む先行組に較べれば、若者に無理の無い等身大な価格設定で参入した「アメリカンイーグル・アウトフィッターズ」は順調な多店化が予想される。このポジションなら立地の制約も緩く、3年で20店、100億円という計画の達成は容易ではないか。加えて、爽やかなカジュアルインナー&ドームウェアの「エアリ」は独自のマーケットを開拓するに違いないから、さらなる上乗せも期待される。
 2012/04/17 09:10  この記事のURL  /  コメント(0)


今回も空振りの渋谷109
 週末に渋谷109を一周してみたが、相変わらず売れ筋の追いかけっこで同質化した店頭が目立った。今、店頭に溢れているのは、ずっと継続しているルーズニットPOの綿麻レーシー版。あるいは、レースやデニムの超ミニスカート風ショートパンツ。次に溢れそうなのがトロピカルプリントやエスノプリントのOPやチュニックなのでしょう。
 そんな中、幾つか春のニューショップが導入されていましたが、その中でちょっと目を惹いたのが「バックス」ぽい乗りの「アゲインスト」(5F)。それもそのはずで、かつて「ギルフィー」や「バックス」を立ち上げた宮内敦さんが手掛けているそうだ。ファンドバブルに乗って二転三転した果ての再デビューだが、「バックス」などが残ったままでどう差別化するのだろうか。
 4Fの「レディメイド」はドロ味フェミニンなOLブランドだが、韓国テイストとは言え109にはお姉さん過ぎる。7F8Fの新店はテイストもMDも鮮度がなく、ほとんど気が付かないで通り過ぎてしまう。残念ながら、今回の新店導入も空振りに終わりそうだ。
 改装や新店導入の度に新宿OL方向や原宿ストリート方向が膨らんで109らしさが薄れ、売上もそれとともに萎んで来た渋谷109だが、今回の新店導入もそんな流れにブレーキをかけるインパクトはなかった。当分は連続前年割れ記録を更新し続けるのだろう。ホント誰か何とかして欲しいものだ。
 2012/04/16 09:46  この記事のURL  /  コメント(0)

前へ | 次へ
プロフィール

小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。

リンク集
更新順ブログ一覧
最新記事

http://apalog.com/kojima/index1_0.rdf
QRコード
アパレル業界の情報満載の「アパレル携帯版」
右のQRコードで読み取ってアクセスしてください。こちらからも自分の携帯URLを送れます。 QRコード
月別アーカイブ