独断的革新か優越的地位の濫用か
 今朝の日経に拠ればイオンが6月1日から三ヶ月間、総合スーパーの「イオン」や食品スーパーの「マックスバリュ」など全国1100店舗で開店時間を二時間早めて午前7時から営業するそうだ。閉店時間は変えないから、営業時間は長くなる。ちなみに、総合スーパーの早朝営業は食品フロアだけで、衣料品フロアなどは対象外。モールの専門店に早朝営業を強いる事もなさそうだ。今夏はすべての原発が停止して電力不足が避けられず、来店客を分散させてピークとなる日中の電力使用量を抑制するためとしている。
 イオンは高齢者対応でも早朝営業しているが、夏場の三ヶ月だけとは言え、二時間も早めての全国規模での早朝営業は関係者への負担が危惧される。まず自社の従業員に早出してもらわないといけないし、納品も二時間早める必要がある。となれば物流センターからのトラック便のスケジュールもピッキングなどの出荷作業も前倒されるから、運転手も物流スタッフも早出しなければならない。もちろん、物流センターへの納品も前倒す事になり、食品問屋や食品メーカーは生産から配送まで全国規模で業務行程を組み直して対応し、従業員の勤務時間も大きくシフトせざるを得ない。
 従業員から取引先まで巻き込んで少なからぬ負担を強いる事になるが、イオンは自社の労組や取引先に事前に適切な根回しをしたのだろうか。従業員はともかく、納品業者からは相当のブーイングがあってもおかしくないが、力関係から受容せざるを得なかったと推察される。イオンはかつてモールの専門店にまで夜間営業を強い、営業時間延長への対応で何年にも渡って全国的に販売員が不足する事態を招いた事は記憶に新しいが、今度の早朝営業はモール専門店には及ばないとの事で、関係者は胸を撫で下ろしているのではないか。
 営業時間の延長にせよ早朝営業にせよ、バーゲン時期の意図的な前倒しや後倒しにせよ、占拠率の高い特定の大企業が仕掛けると関係者に様々な負担を強いる事になる。リーダーシップを発揮しての独断的革新と言えなくもないが、振り回される側からは「優越的地位の濫用」という恨み節も聞こえて来る。
 2012/05/17 11:55  この記事のURL  /  コメント(0)


内需大復活時代が来た!
 倍、3倍、6倍、17倍、22倍。何の数字かと言えば、今春に決算を迎えたファッション企業の増益率のお話だ。倍はAOKI、3倍は青山商事、6倍はコナカと紳士服チェーンの復調が目立つが、17倍はワールド、22倍は三越伊勢丹HD、ワコールHDも2.5倍となった。これは税引後純利益の話で、紳士服チェーンの場合は昨年の震災に伴う特別損失の反動が大きいし、ワールドも震災関連の特別損失と固定資産の除却損による反動、三越伊勢丹は税制改正による380億円もの法人税の戻りが極端な純利益増をもたらした。営業利益で見るとAOKIは26%増、青山商事は35%増、コナカは44%増、ワールドは32%増、三越伊勢丹HDは2.2倍だったから、純利益は様々な会計マジックで誇張されているとは言え、販売の急ピッチな回復を象徴している。
 今春開業の注目商業施設は何処も予算を大きく上回る好調が伝えられているし、長年低迷して来た百貨店さえ紳士服に続いて婦人服も4月以降は浮上している。地デジ切り替えによる薄型TV特需が終わって衣料品に支出が回って来たとか、長年の支出抑制の反動が出たとか、あまり説得力のない理由付けが言われているが、本質はデフレの終焉と米国型消費主導経済への変質にあると思われる。
 20年も続いた衣料品のデフレも昨年一月にインフレに転じて以降、購入単価は5%前後の伸びを続けているし、産業の空洞化と少子高齢化が進む中で収入は伸びないのに支出が増加し、製造業が低迷しても消費が経済成長を主導するという米国型の経済に転換し始めたのではないかと推察される。OECDの統計に拠れば、90年代までは倍から三倍も差のあった日米の貯蓄率が今世紀に入って急速に縮まり、08年以降は日本が逆転して低くなり、11年度では米国の3.6%に対して日本は3.2%となっている。もはや日本人の勤勉貯蓄体質は過去の神話となったのだ。
 個人消費が経済成長を支えて来た米国より日本の方が貯蓄率が低くなった事は、老齢化が進んで貯蓄が取り崩されるようなった事に加え、将来不安から支出を抑制するより消費して今を楽しむ米国的享楽志向の人々が増えて来たのかも知れない。もしそうだとすれば内需が本格的に回復し、衰退業種と烙印を押された百貨店も増収増益を享受するバブリーな時代が始まる事になる。遠からず家計も国家も借金が嵩んで欧州的な緊縮に追い詰められるにしても、それまでの何年間か、最後のあだ花が咲くのではなかろうか。その確率は少なくとも51%以上だと思われる。
 2012/05/16 10:05  この記事のURL  /  コメント(0)


学者のアプローチ
 ちょっと用事があって、青山学院大学の経営学部で准教授をやっておられる東伸一先生の研究室にお邪魔しました。いかにも学園といった蔦の絡まる洋館を横目で見ながら銀杏並木を抜けて研究室の建物に入り、エレベーターで三階まで行って東先生の研究室に行くと、そこは狭いながらも本の山でした。用事を済ませて帰り際、お土産代わりに何冊か研究書籍を頂いて来ました。その中で面白かったのが龍谷大学経営学部教授の川端基夫さんが書いた「立地ウォーズ」という本で、小売業から製造業、物流業、はては自治体まで、立地戦略のケーススタディを軸に論理展開しておられました。
 この本はケーススタディを紹介するのが中心で、過去の学者の研究論文と比較する退屈な論理展開をミニマムに抑えており、学者の書いた本としては例外的に読み易かったと思います。学者の研究書は過去の学者の研究成果や論理展開を紹介して比較するのがお約束で、それらを読んでいないと理解出来なかったり退屈したりで、一般のビジネスマンが読んでも実用性は期待薄でしょう。
 それに対して、業界の第一線でクライアントのニーズに応える市井の研究者は、最新のリアルなケーススタディを統計的に処理して帰納したり、そこから創造的に演繹したりと、実務に活用出来る具体的な提案が要求されますが、過去の研究と比較検証する事は求められません。そんな事をやっても、『能書きはいいから、具体的な提案を』と急かされるのが落ちでしょう。学者のアプローチと市井の研究者のアプローチには結構、ギャップがあるのだなと思いながら、今月のSPAC研究会のテーマ「最新ロジスティクス技法研究」に取りかかっています。
 2012/05/15 09:19  この記事のURL  /  コメント(0)


衣料消費は紳士服主導で本格浮上
 大手紳士服チェーンの三月決算が発表されたが、夏のクールビズに通年の機能性スーツも加わって売上を押し上げ、青山商事の純利益は3倍、アオキは同2倍となり、コナカも12年9月期の純利益が6倍強になると決算予想を上方修正している。景気低迷が信じられないような活況だが、百貨店紳士服も昨秋から上向き、東京地区の春商戦では婦人服を5ポイント以上引き離す好調ぶりを見せている。その要因として元より百貨店では買わない20〜30代のドレス回帰が挙げられるが、百貨店世代の消費も少なからず復活しているようだ。
 紳士服のリードが目立つ衣料消費だが、百貨店婦人服も紳士服を追って回復しており、昨年の震災の反動が部分的に残るとは言え、4月の都内百貨店婦人服は軒並み、前年をクリアしたようだ。5月以降はセール時期やその前の買い控えで振れる事はあっても、夏期三ヶ月でならせば前年クリアは間違いないだろう。景気はともかく、衣料消費は20年も続いた下り坂をようやく脱したと言えよう。
 衣料消費の浮上をもたらしたのは昨年一月から続く購入単価の上昇で、今春に入っても104%台を継続している。加えて、低迷していた客数も今春以降は復活しつつあり、夏商戦では客数増も期待される。産業の空洞化が進行して景気が回復しないまま消費だけが上向いて行く米国型の個人消費依存型経済構造に日本市場が転換しつつあるとすれば、日銀が打ち上げるまでもなくインフレ基調が明確になっていくのではないか。少なくとも衣料品はそのシナリオに乗って回復が加速しているのだ。
 2012/05/14 11:02  この記事のURL  /  コメント(0)


等身大文明の経営バランス
 近年、急成長しているブランドやストアを見ていると、ある経営バランスが共通している事が見て取れる。それは60点主義とも言うべき等身大なほどほど感覚で、商品もVMDも接客も、どれも突出した魅力がないのにバランスが取れており、やや粗っぽい感じはあるものの急成長している。顧客が等身大を志向して突出した感性や洗練を求めなくなったのだから、それに見合ったほどほどの商品やオペレーションに割り切って運営コストを抑え、人材育成の質もほどほどにして成長スピードを優先する経営バランスが時代に合っているのかも知れない。
 玄人が評価するようなこだわった商品は等身大な市場に浸透せず、洗練された店舗運営でも粗っぽい店舗運営でも顧客には解らないし業績にも大差ない。そんな等身大時代の実情に対応した経営バランスが自然と見いだされていったのだろうが、それを超えようとする試みもないではない。ワールドの「ラギッドファクトリー」やライトオンの「ソルト&ペッパー」は等身大を超えたこだわりを志向しているが、ほどほどでない分、市場への浸透力や成長性が制約されるとしたら残念だ。
 2012/05/11 09:11  この記事のURL  /  コメント(0)

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プロフィール

小島健輔(こじまけんすけ)
小島ファッションマーケティング代表
感性に依存しがちなファッション業界にあって、客観的なデータに基づくマネジメントを提唱し、現場の技術革新を起点とした経営戦略を訴え続けてきたビジネス・エンジニアである。ファッションビジネス、流通業から外資SPAまで及ぶ多彩なコンサルティング、ブランド/小売業態から商業施設までのプロデュース活動の一方、経済紙誌、業界紙誌にも寄稿。

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