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小売の輪ふたたび
 マルコム・P・マクネアによる「小売の輪」理論(1957年)は、グランドセオリーとして引用される機会は多くはないが、ときおり私の頭をかすめる重要なフレームワークだ。

 追随業者が次々に参入し、価格競争がより激しくなる。

 価格だけでは武器にならなくなり、価格以外の付加価値(品揃え、設備やサービス)を増した競争が展開される。時間とともに人件費増加、規模の拡大によって本部費などの経費が増加、結果的に薄利多売から高粗利路線へと転換せざるを得なくなる。

 革新的な小売業者が既存のマーケットにローコスト、ローマージンの価格競争で市場参入しシェアを奪う。(価格が上がってきたところで、別の新しい革新的小売業者が誕生し、価格競争で市場参入してシェアを奪う。)

 以上のサイクルが、どこを始点にするわけでもなく終点にするわけでもなく、延々と回り続けるというのが小売の輪だ。つまり、価格分の価値(費用対効果)の分母分子において軸足が振り子運動を繰り返す歴史が常ということだ。

 RIZAPは「寄り添い」という分子側のヴァリューで複数のファッション企業を含むM&A先の再生に取り組む。もはや打つ手なしのGMSはドンキホーテとの資本提携に活路を探る。ドンキは分母軸で参入し、「バラエティ」という分子に軸足を移して変態した事例といえよう。CCCには「文化」という分子価値がある。

 ユニクロはジグループの中にジーユーというミニ小売の輪を相似形で内在している。マッシュやTOKYO BASEは業界で見失われてしまった価値を取り戻すべく輪っかに参入してきた。やがては追随業者による価格破壊にさらされる可能性は否定できないが、分子価値を創造し続ける限りは存命可能だ。

 60年も前の議論であるが、見事にビジネスモデルの輪廻転生を看破している。



 2017/08/29 06:15  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)
暇と退屈の倫理学
 塾で政治哲学を扱ったことから、國分功一郎氏の他の著作(標題)にあたってみることにした。

 暇や退屈は私たちがごく普通に日常的に感じるし使う概念だが、哲学的にちゃんと議論するともの凄いことになる。

 パスカルは、人間の不幸は部屋にじっとしていられないがために起こるという。私たちは部屋でじっとしていることができないが故にわざわざ自分で不幸を招いていると。

 ラッセルによれば、退屈とは事件が起こることを望む気持ちがくじかれたものだ。事件とは今日を昨日までと区別してくれるもののことだ。そして退屈の反対は快楽ではなく興奮だという。そこから楽しみや快楽を単に得ることではなく、それらを求めることができることが重要となる。

 スヴェンセンは退屈から逃れるにはロマン主義を捨て去ることだと処方する。ロマン主義とは他人と違っていたいという気持ちの起原だ。ラッセルは積極策をスヴェンセンは消極策を提示しているが、いずれにもまったく納得できないとして、國分氏はハイデッガーの議論を下敷きに自身の考えを展開していく。

 私たち人類が暇や退屈を回避せざるを得なかった背景として「定住革命」の議論も目から鱗ものだ。“遊動生活(狩猟採集)”⇒“食料生産の開始”⇒“定住生活の開始”と捉えるのがこれまでの普通の考え方だが、“遊動生活”⇒“定住生活の開始”⇒“食料生産の開始”が正であるという。

 大雑把に言うと気候変動から中緯度地帯において大型有蹄類の狩猟が叶わなくなり、小さな獣を貯蔵して食いつなぐ必要が生じ、貯蔵は移動を妨げ、やむなく定住生活を強いられ、定住したから食料生産を開始せざるを得なくなったというメカニズムだ。

 定住によって何が起こったかというと、有り余る大脳の能力を発揮する機会が激減したことから、その後のあらゆる技術的イノベーションや社会の進歩につながるとともに、私たちは暇と退屈に苛まれるようになったのだ。

 ハイデッガーは退屈を二つに分けて考える。第一は何かによって退屈させられること(第一形式)で、第二は何かに際して退屈すること(第二形式)だ。そして、ハイデッガーの論旨は、
人間は自由だから退屈するが、動物は退屈しない。なぜなら動物は“とらわれ”の状態にあって自由ではないからというものだ。

 ここでユクスキュルの言う「環世界」という概念が登場する。すべての生物が同じ時間と同じ空間を生きていると考えるのではなく、すべての生物は別々の時間と空間を生きている。ダニの話しに始まり、ベタの時間・カタツムリの時間で環世界とは何かが説明される。ダニは酪酸の臭いと37度の温度と体毛の少ない皮膚組織の三つのシグナルしか感知しない世界に生きている。

 ベタという魚の知覚時間は30分の1秒でカタツムリは3分の1秒、そして人間は18分の1秒である。それはそれぞれの生物にとって最小時間の器を形成し、それらの連なりとして時間が流れている。ちなみに18分の1秒というのは昔の映画の一コマの映写間隔だったそうだ。(今の映画は1秒に24コマとのこと)

 國分氏の新しい定義は、あらゆる生物が環世界の間を移動する能力があるが多くの生物にとってそれは容易なことではなく、人間だけがきわめて高い環世界間移動能力をもっているというものだ。そこから、ひとつの環世界にひたっていることができない人間像が導かれ、極度に退屈に悩まされる理由が解かれる。

 ハイデッガーは退屈の第三形式を「なんとなく退屈だ」として、そこには人間が自由であることの可能性が示されていて、決断することによって自由を実現することができるとする。それに対し國分氏は、第一形式と第三形式はそれぞれが一つの同じ運動の一部と捉えるべきで最終的には区別できないとする。そして、人間は普段、第二形式がもたらす安定と均整の中に生きている。しかしながら、何かが原因で「何となく退屈だ」の声が大きくなったとき、人間は第三形式=第二形式に逃げ込むのだという。

 さあ、國分氏の結論はこうだ。第一に、こうしなければ、ああしなければと思い煩う必要はない。正解としての処方を公式的に丸呑みするのではなく、自分なりの解を追い求めることの意味が分かったら、既に実践が始まっていると氏は言う。

 第二に、贅沢を取り戻すこと。観念消費の終わりなきゲームを続けるのではなく物を受け取ることができるようになって、その物を楽しむことを覚える必要がある。楽しむ能力を訓練することが必要とされる。

 第三に、動物がひとつの環世界にひたっている高い能力をもち何らかの対象にとりさらわれていることがしばしばであるならば、“動物になること”だ。つまり、人間であることを楽しむことで、動物になることを待ち構えることができるようになるという結論だ。

 こうしてみると、ファッションも終わりなき消費ゲームに陥って、贅沢な物ではなくなり顧客から楽しむということを奪い去ってしまったのだとつくづく考えさせられる。通読するにはかなりのエネルギーを要するが、次代を担う哲学者の息吹に触れながら自分のことは業界のことにあれこれ思いを馳せるにはもってこいの良書であった。

 サピエンス全史と併せると、ホモサピエンスなるものがかなり立体的に見えてくる。
 2017/08/21 18:33  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)
足りてないもの二つ
 とある週刊誌でアパレル苦戦の実態を報じる記事が掲載される予定だ。

 アパレル業界が元気になるには、足りてないものが二つあることが伊藤元重教授の議論から読み解ける。インカムとアウトカムの両面からの議論だ。前者は消費者側の事情で後者はアパレル側の問題だ。

 7月17日付のMJでは「消費低迷 本当の理由」と題して、労働者の取り分が減る一方であることが紹介された。高齢化が進行する我が国では貯蓄性向は下がり続け消費性向は上がり続けている。にもかかわらず消費が振るわないのは可処分所得が伸びてないことが原因で、その背景は労働分配率が下がり続けていることにあるそうだ。

 過去30年近くでもっとも低い労働分配率水準にあるのが今であるという。(驚!)その一方で資本分配率は上昇を続けている。つまり、資本による労働者からの搾取がより進行し続けているここ30年ということになる。ああ、マルクスよ!、ピケティよ!

 日本の家計の貯蓄投資バランスはGDP比0.9で、2.5%の米や5.0%の独と比較して低水準にある。その一方で、企業の貯蓄投資バランスは米で0.8%、独で2.7%であるのにたいし、日本は5.1%(15年数値)という高い水準にあるという。消費者がお金を貯め込むための原資であるところの賃金が増えない代わりに、労働者に適正な配分を施すべき企業側がガッツリお金を貯め込んでいるという実態だ。

 このように頭を打って伸びる兆候が見えないインカムの状況下、通信費という毎月の支出が固定電話オンリーの時代とは一桁違う額で強いられ、一人あたりのアプリ関連支出が中国に僅差で二位を誇る我が国の消費者は小さくなりつづけるお財布の出口を一所懸命工夫しているのだ。当然、ECでのアパレル売上も一部恩恵は受けているがそれば微々たるものに過ぎない。

 8月14日のMJには「効率的すぎるアパレル流通」と題して、カゴの中を走り回るハツカネズミのように思えたと揶揄している。対して、ゼニアの商品は確かに値段が高いが、品質の高い商品をじっくりと作る姿勢には共感を持てたという。スロウライフと言うと憧れる生き方になり得るが、スロウビジネスが競争力の源泉になるとは直感的には考えにくい。ここ20年ほど、タイムベーストマネジメントを土台にスピードの経済を追求し続けてきたからだ。

 伊藤氏は、効率的すぎる売場を作ることに汲々とするのではなく、お客から信頼を得られる持続性のある売場を目指すべきだと締めくくる。サステナビリティの条件にスロウがなり得るとしたら、スピードの経済はある切り取られた短い時間を前提とした局所的理論に過ぎず、時間軸を伸ばして生き続けることを前提にした場合には、スロウでサステナブルなビジネスモデルに軍配が上がる可能性がある。

 これこそがアパレルがアウトカムとして目指すべき成果・効果ではないだろうか。インカムとアウトカムの板挟みに遭ってしまってはにっちもさっちもいかないのは当然だ。前者は国レベルのマクロな施策に大きく依存するが、後者は各企業がミクロレベルでチャレンジすることが可能だ。

 潤沢な内部留保を抱えるアパレル企業はほとんど見受けられないが、新しいビジネスモデルに挑戦するために思い切ってカネを使う必要がある。さらに、自社の労働分配率の30年を振り返ってインカムの改善に取り組むこともむろん可能だ。経営者の奮起を期待する。
 2017/08/15 10:03  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)
今こそ合従連衡
トヨタとマツダが資本提携だ。

 2009年の7月に「キリン、サントリー経営統合へ」という見出しが躍った紙面が思い起こされる。結果としては成就することはなかったが、その後サントリーは米国のビームを手に入れ、ウィスキー路線を突っ走ることになる。そのあたりの経緯は、永井隆氏の“サントリー対キリン”(日経ビジネス人文庫)を参照されたい。最近の人気本“キリンビール高知支店の奇跡”も悪くはないのでお薦めしておく。

 全くの余談になるが、サントリーの山崎が店頭のフェイスから消えた。手に入るのはCVSで売っているスモールボトルか車内販売で手に入るミニボトルだけだ。どうやら中国の業者が買い占めているらしい。とんでもないプレミアムが乗せられて売られているのだろう。さらに空き瓶を利用したパチモンも数多く出回っていることと想像される。

 ところで、欧州では2030年までには内燃機関を搭載したクルマの販売が禁止される。2050年頃には欧州には電気自動車しか走っていないことになる。欧州における電気自動車のデファクトはVWが握ったので、今回の提携からは、世界と対するには国内で競争している場合ではないという力学を読み取ることができる。米国は暫くはガソリンをがぶ飲みする文化から脱することはないだろうが、AIの頭を誰がとるのかもさることながら、電気自動車の覇権を握ることも産業にとっては死活問題だ。

 翻ってファッション業界に目を向けると…。

 海外も併せると1兆円を超えるファーストリテーリングという別格は存在するが、2000億やそこら以下の規模でドメスティックな競争を繰り返している場合ではないことは明らかだ。建築屋や音楽家のDNAに旬のブランドやビジネスモデルをさらわれているようでは情けない。

 FRとワールドが統合したら面白いことになるだろうなと思考実験を行ったことは、一度や二度ではない。どちらが頭をとるのか、人事はどうするのかという政治的要因は揉めること必携だが、ビジネスとしてはとても面白い未来の到来が期待される。FRもキャビンやビューカンパニーのM&Aでは忸怩たる思いが残っている筈だ。リンクセオリーが上手く収まっているのは代表のH氏のキャラに負うところが大きい。

 世界に打って出るどころか、世界レベルの戦いにおいて生き残るべく合掌連合を模索する必要がある。さらに退屈から逃れる大いなる気晴らしとしてのファッションの地位を低下させてしまった歴史のツケを支払うことは容易ではない。アッとさせられ、ウーンと唸らされるような技を披露してくれる経営者はいないものか。これまでのパラダイムをゼロセットしたウルトラF難度の技を期待する。
 2017/08/05 16:26  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)
プロフィール

北村 禎宏(きたむら さだひろ)
ファッションビジネスコンサルタント
アパレル企業での実務経験とMBAの経営理論を融合させ、クライアントの問題解決やアドバイザリー機能を提供。
「アナログ」と「デジタル」、「実践」と「理論」のハイブリッド型コンサルティング活動を実践するとともに、教育・研修事業も鋭意展開中。

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