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“しゃべる”の功罪
「この品番、シーズントータルでなんぼしゃべったの?」
ファッションの生産現場でよく耳にする表現です。

 以前、店頭における販売行為をプロセスで分解して、それぞれが法律上のどのような契約のステップに相当するのかをお話したことがありました。今回は同様の趣旨のお話の生産編が入り口の議論です。

 前の会社で、上場準備の一環として職務権限規程の整備に携わる機会がありました。上場レベルの会社でなくても、いわゆる社内稟議に関する簡単なルールはあったりするのですが、ファッション業界に決定的に事前稟議が欠けているジャンルがありました。生産現場における原材料と本生産の発注です。
 
 職務権限規程や稟議規程では、たいてい経費に関する支出に関しては細かく項目が明記されていて、それが、20万円、100万円、1000万円、5000万円、一億超などと金額も定義されています。それぞれ、課長、部長、事業部長、本部長、社長、取締役会というように各階層にもきっちりと対応しています。

 初めて課長という職責を拝命したときに、自分のハンコで支出できる経費の上限が20万円であることに唖然とした記憶があります。

 その一方で、各ブランドの生産現場では、何反もの生地が、何千枚もの製品発注がTEL一本、もしくはFAX一枚(今だと、メール一通)で担当者レベルで“しゃべられ”ていた(る?)のです。

 片方で経費に関しては完璧なルールとその運用が行われていながら、千万単位の在庫に対する投資は結構ラフに行われているアンバランスさがとても印象的でした。

 さて、“しゃべる”というのは契約のステップで言うと、契約の誘引、申し込みに相当します。印紙税を節約するために請書は発行しないケースが多いので、その“しゃべり”を相手方が同意したのか、聞いただけなのか曖昧なまま、モノ作りは進行していきます。すなわち契約が成立したかどうかよくわからないまま現実のプロセスは動いていくのです。
 
 後になって、相手方が「独り言だと思ったので、聞き流した。」と言ってしまえば、契約は成立していなかったことになります。合意を称する言葉のやりとりとそのエビデンスがないと後々ややこしいことになりかねません。

 生産の現場では歩積みをして原料リスクをヘッジしたり、それぞれ決算期の異なる会社間の取引の場合は利益の状況を睨みながら「今回はちょっとウチで仕切っておくから、来期返して。」などの浅知恵が横行していました。

 どうしても、曖昧なままとりあえず前に進んで、状況に応じてその場で対応しようと考えがちなわが国のビジネスマインド(特にアパレルには強烈に存在する)ですが、曖昧さと例外を許さず決める、断言するというリスクを張り、ポリシーを貫くというのはグローバルなビジネスマインドとして極めて現代的なセンスです。

 自社のブランドを大切に育てようとしておられるバングラデシュ人の社長さんが、「ウチの商品は店頭で絶対にマークダウンして売ってもらいたくないし、取引先や販売時期によって掛け率を変えることもしない。

 たとえそれが原因で新規の口座が増えるスピードが落ちても、既存の大口の取引先でドロップする相手が出てきても、それは甘んじて受け入れる。」と言い切られました。

 諸先輩が築き上げたブランドや仕組みの上に乗っかってSPAを日々一所懸命回しておられる同輩の諸氏の方々。ブランドビジネスに携わっているという気概とプライドがいかほどお持ちですか?
 2008/07/30 22:13  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)

プロフィール

北村 禎宏(きたむら さだひろ)
ファッションビジネスコンサルタント
アパレル企業での実務経験とMBAの経営理論を融合させ、クライアントの問題解決やアドバイザリー機能を提供。
「アナログ」と「デジタル」、「実践」と「理論」のハイブリッド型コンサルティング活動を実践するとともに、教育・研修事業も鋭意展開中。

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