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足りてないもの二つ
 とある週刊誌でアパレル苦戦の実態を報じる記事が掲載される予定だ。

 アパレル業界が元気になるには、足りてないものが二つあることが伊藤元重教授の議論から読み解ける。インカムとアウトカムの両面からの議論だ。前者は消費者側の事情で後者はアパレル側の問題だ。

 7月17日付のMJでは「消費低迷 本当の理由」と題して、労働者の取り分が減る一方であることが紹介された。高齢化が進行する我が国では貯蓄性向は下がり続け消費性向は上がり続けている。にもかかわらず消費が振るわないのは可処分所得が伸びてないことが原因で、その背景は労働分配率が下がり続けていることにあるそうだ。

 過去30年近くでもっとも低い労働分配率水準にあるのが今であるという。(驚!)その一方で資本分配率は上昇を続けている。つまり、資本による労働者からの搾取がより進行し続けているここ30年ということになる。ああ、マルクスよ!、ピケティよ!

 日本の家計の貯蓄投資バランスはGDP比0.9で、2.5%の米や5.0%の独と比較して低水準にある。その一方で、企業の貯蓄投資バランスは米で0.8%、独で2.7%であるのにたいし、日本は5.1%(15年数値)という高い水準にあるという。消費者がお金を貯め込むための原資であるところの賃金が増えない代わりに、労働者に適正な配分を施すべき企業側がガッツリお金を貯め込んでいるという実態だ。

 このように頭を打って伸びる兆候が見えないインカムの状況下、通信費という毎月の支出が固定電話オンリーの時代とは一桁違う額で強いられ、一人あたりのアプリ関連支出が中国に僅差で二位を誇る我が国の消費者は小さくなりつづけるお財布の出口を一所懸命工夫しているのだ。当然、ECでのアパレル売上も一部恩恵は受けているがそれば微々たるものに過ぎない。

 8月14日のMJには「効率的すぎるアパレル流通」と題して、カゴの中を走り回るハツカネズミのように思えたと揶揄している。対して、ゼニアの商品は確かに値段が高いが、品質の高い商品をじっくりと作る姿勢には共感を持てたという。スロウライフと言うと憧れる生き方になり得るが、スロウビジネスが競争力の源泉になるとは直感的には考えにくい。ここ20年ほど、タイムベーストマネジメントを土台にスピードの経済を追求し続けてきたからだ。

 伊藤氏は、効率的すぎる売場を作ることに汲々とするのではなく、お客から信頼を得られる持続性のある売場を目指すべきだと締めくくる。サステナビリティの条件にスロウがなり得るとしたら、スピードの経済はある切り取られた短い時間を前提とした局所的理論に過ぎず、時間軸を伸ばして生き続けることを前提にした場合には、スロウでサステナブルなビジネスモデルに軍配が上がる可能性がある。

 これこそがアパレルがアウトカムとして目指すべき成果・効果ではないだろうか。インカムとアウトカムの板挟みに遭ってしまってはにっちもさっちもいかないのは当然だ。前者は国レベルのマクロな施策に大きく依存するが、後者は各企業がミクロレベルでチャレンジすることが可能だ。

 潤沢な内部留保を抱えるアパレル企業はほとんど見受けられないが、新しいビジネスモデルに挑戦するために思い切ってカネを使う必要がある。さらに、自社の労働分配率の30年を振り返ってインカムの改善に取り組むこともむろん可能だ。経営者の奮起を期待する。
 2017/08/15 10:03  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)

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プロフィール

北村 禎宏(きたむら さだひろ)
ファッションビジネスコンサルタント
アパレル企業での実務経験とMBAの経営理論を融合させ、クライアントの問題解決やアドバイザリー機能を提供。
「アナログ」と「デジタル」、「実践」と「理論」のハイブリッド型コンサルティング活動を実践するとともに、教育・研修事業も鋭意展開中。

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