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意識と無意識
 沖縄で機動隊員による差別的発言が相次いだ。少なくとも片方は20代であると報道されたことから、「んっ!」と考えさせられるところがあった。

 長男次男は25歳と23歳になるが、彼らのボキャブラリーにそれら二つの言葉があるとは考えにくい。少なくとも家庭における彼らとの会話の中で使った記憶はない。自分で何かで読むか何かで聞くかという経験があるのかないのかまでは与り知らないが。

 私たちが子供の頃必ず読んだ「ちびくろサンボ」は、その後の一斉絶版騒動など紆余曲折を経ているので今の20代の若者が読んだ確率は限りなく小さいと考えられるし、復刊版に差別的用語が使われている可能性はゼロである。シナチク(支那竹)ですら戦後になってメンマと呼ぶようになり、支那そばは店舗名称やメニューとして現存するものの、一部のラーメンマニアの語彙で、今となっては一般的に使われる機会はほどんどない。いずれも昭和世代のレガシーボキャブラリーの筈である。

 あのような激昂した場面で思わず表出する言動はシステム1の仕業である。私たちの脳はシステム1とシステム2に分かれて仕事をする。右脳と左脳のような部位的役割分担ではないことに注意して欲しい。システム1は直感や肌感を用いて瞬時に意思決定や反応をするときに用いられる省エネ型の回路で、対してシステム2はありとあらゆる知覚とロジックを総動員して脳みそが大汗をかいて成し遂げるエネルギー消費型の仕事だ。

 前者は平均は得意だが合計は苦手などの特徴があり、後者は相当の覚悟とパワーと配慮がなければ発動することはない。覚悟とは時間と場を確保することで、パワーとはサボろうとする脳を必死で活性化させることで、配慮とは認知バイアスに抗することを指す。

 いま認知心理学がマイブームだ。先週の私塾でムロディナウの「たまたま」を扱ったことから同氏の「しらずしらず」に走り、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」へと。加えてチャプリス/シモンズの「錯覚の科学」、ダン・アイエリーの「予想通りに不合理」と「不合理だからうまくいく」、仕上げはダンカン・ワッツの「偶然の科学」だ。

 和書にも良書がある。下条信輔の「サブリミナルマインド」と「意識とはなんだろうか」、そして丸山圭三郎の「言葉と無意識」にたどり着けばロゴスとパトスの世界の入口だ。

 話しを元に戻そう。スピーディかつ直感的なシステム1による暴言であるが、事前にインプット、それも刷り込みに近い強烈なメモリーが形成されていなければ口を衝いて出ることはない。

 その世代の若者が果たして私的に読み聞きしたのか組織において見聞きしてきたことなのかは不明であるが、後者ではないことを期待するとともにシステム2の訓練も望むところだ。それらの相応しくないボキャブラリーが引き出しに入っているのは、現在組織や人材を指導する立場にある昭和の残骸世代の私たちに他ならない。

 同じ組織が街頭の群衆に向かって気の利いた見事な誘導スピーチを披露することもできるが、これはまさにシステム2の仕事なのだ。

 ロジカルシンキングも問題解決もシステム2の領域のアプローチである。これらが多くの企業において特別な訓練メニューになる所以は、放っておくと私たちはシステム1で業務上の判断や意思決定をしてしまう危険と常に背中合わせだからである。

 共時的にはそうではないエリアも少なくないというのが地球の現状ではあるが、経時的に人類が喰うに困らなくなったのはほんのここ数百年の出来事に過ぎない。だから生きるために、餓死しないために脳が省エネルギー型に進化し、システム1で暮らすことは生物学的には正しい生き方である。

 そこで、生物学的には正解なんだけどビジネスパーソンとしてはどうなんだろうか?と厳しく問いを立て続けながら日々の業務に勤しまなければならない。それでも十中八九は上手くいくので、懲りない人々はいつまでたっても懲りないのである。
 2016/10/20 09:13  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)

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プロフィール

北村 禎宏(きたむら さだひろ)
ファッションビジネスコンサルタント
アパレル企業での実務経験とMBAの経営理論を融合させ、クライアントの問題解決やアドバイザリー機能を提供。
「アナログ」と「デジタル」、「実践」と「理論」のハイブリッド型コンサルティング活動を実践するとともに、教育・研修事業も鋭意展開中。

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