オーナーシップとビジネスマンシップ
サントリーとキリンの経営統合が成立しませんでした。

 週刊誌ではいろんな記事が飛び交い、先週サントリーの社員の方から一筋縄では…というコメントをいただいていたので、すんなりとは進まないと予感していましたが、案の定です。

 形式的には統合比率で折り合いがつかなかったということになりますが、実質的にはオーナーシップとビジネスマンシップが折り合わなかったのではと考えられます。

 独立後、創業オーナー社長と仕事をご一緒する機会が多々ありましたが、私たちのようなサラリーマン出身の人材とは骨の性質が異なることを痛切に感じさせられてきました。

 そもそも、前の会社への入社の決め手のひとつは、47歳の若い創業オーナー社長が仕切っている会社だということでした。やはり、創業、オーナーというキーワードには言葉では表せない迫力と魅力があります。

 トヨタも世間を騒がせていますが、創業家ではあるけれども創業から数代を経た形式的オーナーとそれをとりまくビジネスマン達が織り成すねじれがその根幹にあると考えることもできます。

 ポスト55年体制の創業オーナーである政治家は、世論調査の数字はどこ吹く風で参議院選挙に臨む気配です。

 かくも「創業者×オーナー」には、とてつもないパワーが宿るものですが、それを引き継ぐ創業家とビジネスマンがそれをどう踏襲して永続する組織と仕組みとして育んでいくか。

 あまりにも大胆でデリケートなので、示唆することもはばかられますが、アパレル業界においてもとんでもない経営統合の気配を感じます。

 現実になった暁には、実は…と言及したいと思います。



 2010/02/08 21:57  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)


所得弾力性
アパレル業界で「所得弾力性」という言葉を聞くことは、日常的にはあまりありません。

 鈴木貴博氏が、その著書「会社のデスノート」で所得弾力性と価格弾力性に触れておられます。デフレスパイラルから脱却するのは並大抵ではないだの、ユニクロはデフレの元凶であるのか、ないのかなどの議論が盛んに飛び交っていますので、それらの事柄を冷静に考える良い機会になりました。

 ちょっと古い70年の研究によれば、外食の短期所得弾力性は1.6なので、所得が1%減れば外食支出は1.6%減ることになるそうです。実質GDPが6%減少すると外食は9.6%減るという計算になります。

 片や自動車の短期所得弾力性は5.5にもなることから、GDPの6%減は短期需要の33%減を引き起こし、一昨年来の北米市場における自動車販売の落ち込みとほぼ同じ数字になる、すなわち経済理論通りのことが起こったに過ぎないというのです。

 さらに車の長期所得弾力性は1.1に過ぎないという研究結果から、一年〜二年を超える長期スパンの中では、短期で買い控えた人々の需要と長期ではそこまで落ち込まない需要とのギャップがリバウンドとして一気に発生する計算になるというわけです。

 さて、これをアパレル商材に当てはめるとどうなるでしょうか?必需品の所得弾力性は1よりも小さく、贅沢品のそれは1よりも大きいのですが、何が必需品で何が贅沢品なのかと、それぞれが短期と長期でどう影響を受けるのかを見極めなければなりません。

 加えて「価格弾力性」についても考慮する必要があります。価格弾力性は代替材の有無とそれに到達する時間が関係していると言われます。

 いま我々が考えるべきことは二つです。第一は、短期需要の激減を修復する形で長期で訪れるリバウンド需要の対象となる商品を品質と価格の両面でターゲティングして開発することです。第二は、ファストファッションやユニクロでは代替できない価値を定義し、それを商品に反映させることです。
 
 一言で言うと、やみくもに低価格化を追いかけるのではなく、適正価格を見極めて、それに見合う商品価値すなわち原価構造に改めていくことです。原価率を上げて、その上で適正上代を企画すること、これに尽きます。
 2010/02/04 20:15  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)


特注品だけでは儲からない
西山氏の議論の続編です。

 イタリアの産地では、地方レベルの生産集積が州単位での集積へと変貌を遂げているそうです。ドイツの中堅企業(部材メーカーが6割強)を調べたところ、中間業者を通さない直売に移行するとともに、それぞれの顧客の仕様に応えた特注品だけでは儲からないので標準化を図ることで収益性を確保しようとする動きが盛んなのだそうです。

 特注品を標準化するにあたっては、最終顧客に対する直売によるナレッジの蓄積がイノベーションの源泉であり、そこで前回の議論の“発明を発見する”の出番が訪れるのです。

 アパレル業界では、多品種小ロット化の嵐が吹き荒れました。多品種小ロットにも、売れ筋が出たらそれをそのまま追いかける追加生産型のモデルと、売切り御免で追加企画の連射で対応するモデルとに分かれました。

 ユニクロがやったことは、少品種大ロットモデルです。彼らが言う“インダストリー“というキーワードには、儲かる要素として不可欠の“標準化”という概念を含みつつ、どこでどのような差別化を図るか、究極のトレードオフが両刃の剣として内在していると考えられます。多品種大ロットという掛け声を発しておられるOEM商社もあります。

 どうやら我々はロットという概念の分解能を高める必要がありそうです。素材や部材の共通化が図られていれば品番は細分化されていてもロットは大きいということができるかもしれませんし、長期にわたり売り続けていけば結果的に大ロットになる場合もあります。

 砂時計型産業モデルの上辺は「グローバル顧客」で、下辺は「グローバル技術/素材」と表現されています。それらの上下をどのような概念と価値連鎖で結びつけていくのか、バリューチェーンの根本的見直しを示唆する西山氏の議論でした。
 2010/01/28 20:18  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)


発明を発見する
前回引用させていただいた西山氏の議論にはいたく感銘するところがありましたので、もう少し続けます。

 砂時計型産業モデルのサブシステムがいくつかあるのですが、そのひとつは「発明を発見する」というものです。前職で人事制度改革のプロジェクトに携わる機会があり、アパレルでは早かった執行役員制度とブロードバンド制の導入を推進しました。

 その際に、お世話になった米国系の人事に強いコンサルタント会社との議論のなかで社長がドはまりしたのが、「人材は育成するものではなく発掘するものである」という考え方でした。それ以外にも、様々な契機はあったと考えられますが、企業のプラットフォーム化構想に大きな影響を与えた議論であったことは容易に想像されます。
 
 プロパーの社員を長年かけて大事に育成するのではなく、内外(むしろ外)に在する旬もしくは特異な人材を見つけて登用する方が、よっぽど手っ取り早いのは、一面ではその通りです。ただし、それらの花や果実があまりにも早く散りゆき落下していく姿に直面すると、そのパラダイムは技術に対しては当てはまるけれども、技術やノウハウの産み手である人材にかぶせてしまうのは間違いだと思わざるを得ません。

 特許法上の発明の定義には“新規性”と“自然法則”というキーワードが含まれますが、“知識組み換え”という概念は、自然法則たる物理的、化学的ナレッジの新たな組み合わせと定義すると、まさに発明であり、その発明をどう発見してどう応用するのかが砂時計型モデルの必要条件のひとつということになります。

 人間の行動原理や心理的メカニズムも広義には自然法則に相当しますが、発明や発見の主体者である人間は狭義には組み換えの対象にするべきではないというのが私の考えです。以前ご紹介したマックスウェーバーの、人間が人間を管理する限りキリがないので神様を持ち込んだスキームに近いものがありますが、オーナーと所有物はどこかで切り分けないと、際限のないメビウスの輪に落ち込んでしまいます。

 現実の世界にある人間と、その操作対象である技術や知識と、形而上の神様という概念の三層構造のなかで、新たなビジネスモデルの変革が起ころうとしています。
 2010/01/27 20:44  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)


砂時計型産業モデル
アパレルウェブさんの10thアニバーサリーのレセプションに出席させていただきました。

 記念講演第一部では、「アパレル業界これからの10年」と題して、何年かぶりに尾原容子さんのお話を聞くことができ、相変わらずの情報感度には感激させられました。

 第二部では、経済産業省の前産業構造課長で今は株式会社産業革新機構で執行役員を務めておられる西山圭太氏の「現代の産業構造変化の本質」という講演でした。

 その趣旨は、“知識組み換え”が進行しており、それが企業にオープン化を促し、その結果として産業構造が“砂時計型”になるというものです。その結果、「ものづくり」と「サービス」の接近と融合が起こるという論旨でした。

 アパレル業界で起こったこれまでの十数年のSPA化の動きも、知識の組み換えであり、砂時計型のビジネスモデルであり、ものづくりと店頭は一気通貫で結ばれたと言えばその通りかもしれません。

 しかしながら、クイックに期中追加と期中企画を行うことはスピードの経済を追いかけただけであり、西山氏の言う知識の組み換えが起こったとは言い難いとしたら、本当の意味でのイノベーションは未だ起こっていなかったのかもしれません。

 また、人的販売を生業とする店頭と接近融合しただけで、はたして顧客に対するサービスと接近融合したということができるでしょうか?ということは、SPA化は単なる序章に過ぎず、これから本格的な業界イノベーションが巻き起こると私は確信しました。

 今後のアパレル業界のビジネスモデルのあるべき姿を示唆する、プリミディブな講演に感動の週末でした。この砂時計モデルは今後しっかりと練りこんで自分のものにしていきたいと思います。
 2010/01/25 08:17  この記事のURL  /  コメント(0)  / トラックバック(0)

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プロフィール

北村 禎宏(きたむら さだひろ)
ファッションビジネスコンサルタント
アパレル企業での実務経験とMBAの経営理論を融合させ、クライアントの問題解決やアドバイザリー機能を提供。
「アナログ」と「デジタル」、「実践」と「理論」のハイブリッド型コンサルティング活動を実践するとともに、教育・研修事業も鋭意展開中。

北村禎宏 プロフィール
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